少年は勇者の味方である   作:ft.優士

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第五話 正直な気持ち

彼はいつも笑顔を浮かべながらぐいぐいと近づいてきた。

まるで距離感というものを知らないかのように。 

 

──鷲尾さん、昨日の宿題で分からなかったところがあったから教えてー!

 

──鷲尾さん、休み時間一緒にサッカーやろうぜ!

 

──次のテストで50点以下だと今月おやつ抜きにされちゃうから助けてください!

 

"友達になりたい"と一度決めたら諦めが悪く、しつこく付き纏ってきた彼の対応に私は幾度となく苦労した。

 

《何で私に構うのだろう?》

 

当初はそんな疑問でいっぱいだったのを覚えている。学校生活の休み時間などでは同じクラスの子はもちろん他クラスの子とも仲良く遊んでいる姿もよく見られたことから学年、性別などは彼にとって大した問題ではないらしく気にもしてないことがよく分かった。

 

誰に対しても壁を作らず、分け隔てなく接し、自分にできない何かを持っている相手をいつもすごいと誉めたたえていた。それはおだてたりとか相手を持ち上げようとしてる魂胆を持った言葉ではなく、素直で純粋な心からの称賛であることは彼の真っ直ぐな目や表情を見れば明らかであった。

 

思ったことをすぐ言ったり、『考えるより行動だ!』という考えによく苦労させられた。真面目なところも勿論ある、困っている友達の為なら自分のことを後回しにしてでも力になろうとしていたところを何度も目にしてきた。

 

けれど、お調子者で少し褒められただけで浮き足が立ってしまうような彼の様子を見ていると本当に御役目に選ばれた自覚はあるのだろうかと疑問に思った。

 

長く続く戦いの歴史の中でも歴代で初めて選ばれた男性の勇者。大赦は稀有な存在である彼の存在を担いでいるだけでは無いのか。無礼を承知で言わせてもらえるのなら、そもそも神樹様の神託そのものが間違っていたのでは無いだろうか……なんて罰当たりな考えが頭をよぎったこともあった。

 

 

──須美ー!明日の社会のテストで出やすい問題ってどれー?

 

──ふっふっふ、俺はいつも鍛えてるからな運動には自信があるぜ!さあ須美、かかってくるがいい!

 

──須美助けてー、この前の算数のテスト30点だった…絶対千紘さんや義父さんに怒られるうぅ……

 

 

六年生になっても特に彼の性格や人格に大きな変化はなく、更に三ノ輪さんや乃木さんも加わったことにより悩みの種が増した気がした。

 

《本当に大丈夫なのかな……?》

 

仲良く話している三人を遠目で見ながらそう思ったのはこれで何度目だろう。

 

大切な御役目なのだから自分だけでもしっかり気を引き締めておくことに決めた。

 

だけど、笑い合っている三人の姿は私の目にはとても輝いていているように見えて……

 

 

 

 

 

──人付き合いが得意で、人に頼ることも得意で、自分の気持ちを相手へと素直に伝えることができる。

 

 

そんな彼のことを…心のどこかで羨ましく思っていたのかもしれない。

 

 

 

■■■■

 

 

 

次の日、学校に来た俺……いや俺たちはクラスでちょっとした質問攻めにあっていた。

 

「昨日高嶋君達がいきなりいなくなったからびっくりしたよ」 

 

「一瞬のうちに人間が急に消えたもんだから夢でも見てるかと思った」

 

「身近で心霊現象が起きたのかと思ってちょっと怖かったなあ…」

 

人によって多少捉え方が違っているようだが、大体が身近で起きた不可解な現象に戸惑ってた様子だったらしい。

 

まあなんの前触れもなく人間が突然目の前から綺麗さっぱりいなくなっとらそりゃ驚くわな。俺でも怖いし不気味に感じるわ。

 

今回のようにクラスのみんなには安芸先生から俺達が大切な御役目で突然いなくなる事があるのだという説明はされたらしい。御役目についての情報は絶対に外部に漏らしてはならないということになっているのだ。そのことについては俺たちも気をつけるようにと散々言われて来た。

(特に優士は普段の態度から、須美達に比べ何度も大赦や家族、安芸先生からも念押しされていた)

 

「御役目って大変なの?」

 

「それが、話しちゃいけないらしくてさ……」

 

ごめんな、と一言謝る。友達とはいえ規則は規則であり口外する訳にはいかないため申し訳ないが諦めてもらうことにする。

 

銀達も似たようなことを聞かれていたが同じように答えられないと断っていた。しかしクラスのみんなも何となく答えてはもらえないことは分かっていたのかそれ以上追求してくることは無かった。

頑張れ、応援してるよなどの励ましの言葉をくれるクラスメイトもいたので嬉しかった。

 

その後の学校では、特に目立ったことはなく友達とだべったり給食を食べたり、いつも通り授業が進んでいった。帰りの会も終わりがやがやと賑やかしくなる放課後の時間。一緒に帰ったり、友達とあそんだりと人それぞれだろう。

 

もちろん俺達も例外ではなく────

 

「はい、というわけでやってきました。近場のフードコート!」

 

「「イェーイ!!」

 

「い、いえーい?」

 

珍しく今日は須美もノッてきた、声は小さいけれど。

祝勝会をしようと昨日()()()()()()()()時はとっても驚いた。

いつも遊びに誘ってるのはほぼ10割くらい俺からだったので須美から行動を起こしてくるというのは本当にすごいことなのだ。四年生から友達になって今日まで一度も遊びに誘われたことが無かった俺がいうのだから間違いない。3日前くらいの自分に伝えたとしても信じないだろう。

 

平日ということもあり比較的空いているように感じる。放課後の今はタイミング的にも丁度良く前に並んでいる人もいなくスムーズに注文をすることができた。

 

「こほん。ええ、今日という日を無事に迎えられましたこと大変うれしく────「堅っ苦しいし長いわ!」あ、ちょっと!?」

 

思わず須美の手から用紙をひったくる。

手書きで書かれたA4サイズくらいの用紙を取り出した辺りから嫌な予感はしていたが……会議でも始める気か? 3、4行読んだだけで頭痛くなりそうだ。しかも手書きという力の入れようがまた……

 

「うぅ……折角考えたのに…」

 

見るからに落ち込んでいた。流石にちょっとかわいそうか……こんなもの用意してきたくらいだしきっと須美も楽しみにしてきたってことだよな。無下にするのもなんかあれだし返してあげるか。

そう思い須美に紙を返そうとしたが────

 

「わっしーそんな難しい文章じゃ、ゆーさんには伝わらないよ?」

 

「そうだな30文字くらいにまとめないと無理だと思うゾ」

 

「おい、ちょっとひどくない? 確かに校長先生の話しとか長すぎて聞く耳持てないけどさ」

 

「いや、そこは聞いとけよ」

 

須美も小さく「…確かに」と同意していた。ちょっと、君もボケに参加するの? 返してあげないよコレ。

 

「ごめんなさい、高嶋君に対して配慮が欠けていたわね。次から気をつけるわ……」

 

哀れみのような目線を向けてくる須美。

 

「おーし、とりあえずおまえら全員表に出よっか。高嶋君久しぶりにむかむかっとしてきちゃった」

 

もちろん冗談だが、それは向こうもわかっているのでしてやったりと笑みを浮かべる前のからかい二人組。隣の方にチラッと目を向けると須美もいつもより表情が緩んでいた。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「ありがとねわっしー」

 

「え?」

 

少し落ち着いた後に話を切り出したのは園子だった。

 

「実は私もわっしーのことを誘うぞ誘うぞって思ってだんだけど……なかなか言い出せなかったから、祝勝会にわっしーが誘ってくれてすごく嬉しかったんだ」

 

えへへと気恥ずかしそうに須美に対して自分の思いを伝える園子。そんな園子に対してどう言葉を伝えるべきか戸惑う須美。

 

「ほんとにね。俺なんて4年生からの付き合いなのに一度たりとも須美から遊びにすら誘われたことなかったし、滅多にアクションもとってきてくれないし」

 

「それについては…本当にごめんなさい」

 

「あー、いや! そんな気にしないで。須美も御役目について色々考えたりで忙しかったんだろうなって今は分かってるからさ。別に嫌われてるとかそういうわけじゃなかったんだなって分かっただけで全然大丈夫というか、うん!」

 

身体を優士の方に向き直り、頭を下げる須美に今度は優士が慌ててフォローを返す。

 

「まあまあ二人とも過去のことより今は未来のことを考えようよ。今日こうやって集まれたんだし、アタシたちこれからはきっともっと仲良くなれるさ! 昨日の戦いだって最後は四人で力を合わせて何とかなった訳だし」

 

「ねー! 私も興奮しちゃってさあ、そのことについてガンガン語り尽くしたかったんだー」

 

「わ、私も!そのことについて今日は話したくて三人を誘ったの…」

 

須美の口から発せられたいつも聞いている落ち着いた声とは真逆の甲高い声を聞いた三人が一瞬だけ目を丸くしていた。その様子を見てやってしまったと後悔しつつもここを逃したら多分駄目なことがなんとなく須美の中で分かっていた。

 

園子、優士、銀が自分に対する思いを正直に伝えてくれたのに自分だけこのままでいいのだろうか。わだかまりを残したままで自分は御役目に集中することができるのか? 彼女達のことが知りたくて今日はわざわざ集まってもらったのだろう。ならばそろそろ自分も踏み出す覚悟を決めろ。

 

須美はゆっくりと三人に対して話し始めた。

 

「私、今まで乃木さんと三ノ輪さんのことをあまり信用していなかったと思う…それは決して二人のことが嫌いだったからとかじゃなくて…私が人に頼る事が苦手で……」

 

「わっしー…」

 

「高嶋君に対してもそう……今まで沢山話しかけに来てくれて、遊びにも何度も誘ってくれたのに、変に意地張ったりしちゃって全然素直になれなくて……」

 

嬉しかった。仲良くなろうと手を伸ばしてくれたこと、自分の事を知ろうと近づいてきてくれたこと、今まで何度も自分に対しての好意を無下にしてきたにも関わらず、今もなお自分を見限らないで友人だと言ってくれること。

 

「でもきっとそれじゃ駄目なんだよね。昨日の戦いだって、私一人じゃ何も出来なかった…だから、その…これから私と仲良くしてくれますか?」

 

どんな返答が返ってくるのか不安になる須美。優士たちは一瞬顔を合わせると、須美の方に笑顔で向き直した。

 

「なーに言ってんだ! もう仲良しでしょ」

 

「改めてよろしくねわっしー。私すっごくすーっごく嬉しいよ!」

 

「ほんと、ようやくって感じだね」

 

園子と銀と優士の反応に思わず胸をなで下ろす須美。そんな須美達の様子を見て良かったと安心する優士。優士からしてみれば元から友達みたいなものだったので特にこれといった言葉は出てこなかった。

 

「ようやく四人一緒に……あ、あぁー! 思い出した!」

 

これでとりあえず一件落着かと思った矢先、優士が突然席を立ち上がった。あわあわと何か大きな失敗をしでかした時のような様子である。

 

「ど、どうしたの?」

 

「ほら、昨日みんなで戦いが終わった後に写真撮ろうって!」

 

「…あぁ、そういえば戦い前にそんな約束してたな」

 

「すっかり忘れてたよー」

 

「気にする余裕もなかったわね……」

 

とは言っても、事前に撮っていた樹海化の写真を戻った後確認してみたが、面白いくらいに風景を収めた写真は全て化けており何を撮ったのかすらわからない状態になっていたためどちらにせよ樹海での記念写真は上手く撮れなかっただろう。

 

「ん〜…仕方ない! 初陣成功の写真は諦めて、四人が名実ともに改めて友達になった記念に今ここで撮ろうぜ!」

 

「お、それいいじゃん!」

 

「私もさんせーい!」

 

「今、ここで取らないと駄目なのかしら…?」

 

「あったり前田のクラッカーよ! 思い立ったが吉日っていうだろがい!」

 

前半の優士が言っていることの意味が分からなかった須美だが、先程仲良くすると言った手前ここで断るのは確実にこれからの関係に亀裂が走るだろう。

 

(…一応、終わった後に一緒に写真を撮るって約束はしていたものね…)

 

そもそも須美に断る明確な理由は無く、単純に友達同士で記念撮影を取るのが初めてで戸惑っているだけなのである。

須美が一言、「わかったわ」と返事をすると優士はやったぜ!と嬉しそうに喜びながら早速自分の端末のカメラ機能を開き準備を始める。その間に園子と銀が座っている須美の後ろに移動しそのまま立ち尽くしていると。

 

「オッケー! 準備できました、っと」

 

「!?」

 

椅子ごと須美の真横の位置に移動する。少しでも動けば肩と肩が密着するくらいの距離感に思わず戸惑う須美。

 

「ち、ちょっと近くないかしら?」

 

「ん〜、自撮りだと結構近づかないと上手く入らないんだよね……」

 

「ミノさんももう少しゆーさん側に寄った方がいいかも〜」

 

「ちょ、園子!? 急に押すな!」

 

「やっぱりちょっとギリギリになっちゃうね〜…」

 

「まあ、これはこれで味があっていいんじゃね?じゃあとりあえず一枚撮るぞー」

 

 

一言優士が合図を出し、カメラのボタンを押した。

 

 

 

 

後に初めて四人で撮った写真は、須美の表情が少し堅苦しく感じたとのことだった。

 

 

 

 

 




優士「てか園子はわっしー呼びで確定したの?」
園子「うん。一番しっくり来るかなって」
須美「そうね、私も不思議と気に入ってるわ」
銀 「ちなみに他にはどんなあだ名を考えてたんだ?」
園子「えっとね、シオスミでしょ、ワッシーナに──」
須美「乃木さんもういいわ大丈夫、ありがとう」
優士「あ、ちなみに俺も一個だけ考えてたのがあるんだけど〜…聞く?」
須美「…一応聞いとくわ」
優士「ワシ◯ン」
銀 「いやそれポケ◯ンじゃんか!?」

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