さて、第七話となりますが今回はちょっと重要な回になるのかな?
◆◆◆
俺に与えられた勇者システムは
かつて四国で初めて神樹様に選ばれたとある勇者が使っていたものであり、とても重要な過去の遺物なのだと説明された。
なんだか少し恐れ多く感じてしまった────
俺みたいな■■に■■達が繋げてきた"■■■"を受け継ぐ資格が本当にあるのだろうか、と。
俺たちが人類を守る勇者として御役目を果たした半月後、二体目の敵がやってきた。
軽く20メートルはある巨大な敵。特徴的なのはその体の両端に垂れ下げてある複数の天秤と現在自分達が苦戦を強いられている原因であるバーテックスが自らの身体を回転させることで発生させている暴風だった。
「あのグルグル……上から攻撃すると、弱そうだけど〜!」
「どうしようもない……ハメはずるいよなぁっ…!」
「全くだ……! ゲームでも……基本ハメ技はダメ、絶対……なんだぞ……友達失くすぞこらぁー!」
「何の……話を……してるのよ!?」
現在園子が槍を前回と同じように傘の形状に変形させ、敵の攻撃を耐え凌いでいる。そのすぐ後ろに力自慢の銀と俺が園子を精一杯支え、須美は最後尾に回って俺の腰辺りに両手で掴まり強風に吹き飛ばされないようにしがみ付いている。
「とにも、かくにもこの風を──ッ!」
バーテックスの足下にある樹海の樹の根が徐々に色を失っっていくのが見えた。侵食……あれが広がるほど現実の世界にも被害が出てしまう。あまり猶予は残されていないようだ……けど、下手に動こうものならあのでかい天秤の錘がこちらを目掛けて飛んでくるだろう。
「くっそ、どうすれば────」
何か策はないかと頭の中で検討している時だった。
須美が飛ばされないようにと掴んでいた両手を突然離した。
「須美!?」
須美は空中で弓を構えると、そのままバーテックスへ向けて狙いを定める。だけど…この暴風の中じゃ……
「南無八幡、大菩薩ッ!」
掛け声と共に須美が矢を放つ。狙いは完璧だった。須美の矢はバーテックスの中心部へと勢いよく放たれたが、天秤から発生している暴風が矢の速度を落としていき、そのまま地上へと落下していった。
「そんな──ッ!? く──ッ!」
暴風によって須美はそのまま後方へと飛ばされていく。何とか体勢を整えて樹海の根へと着地できていたことを遠目で確認でき、安堵していると今度はこちら側へとバーテックスは矛先を向けてくる。
「ッ!? 危ない!」
「くそ──ッ!」
園子が槍の向きを変え、何とかバーテックスの天秤の錘を防ぐも回転しながらそのまま反対の天秤の錘をぶつけられた衝撃で槍の傘を持っている左手が勢い良く擦れ、血が噴き出す。
「園子!」
「…平気、平気。かすり傷だよ!」
今もなお天秤の錘から俺と銀を守ろうと園子は槍を強く握りしめ直している。あの重い一撃を受け止め続けるのは不可能だ。このまま行けばそう遠くないうちに園子に限界が来るだろう。
──どうすればいい、この戦況を変えるには、仲間を助けるために俺は何をすればいい。考えろ、考えろ、考えろ。こんな時にこそいつも使ってない頭を役に立てるところだろうが。
この暴風を何とかするには、ある程度の距離からでも力を加えられてヤツの頭部を叩けるような武器か何かが有れば……
「ッ────!?」
──姫百合の花びらが視界を舞い散った。
それと同時に目についたのは大きな楯……の形状をした
これは……記憶──?
■達の中では誰よりも小柄だったが、誰よりも元気でお調子者。些細なことでもよく笑い、よく怒るお転婆な少女────
後輩である■■■■の事が大好きで、まるで本物の姉妹のように接している二人の姿はとても微笑ましく尊いものだった。
わんぱくな性格で落ち着きがなかったこともあり、"あの子"とは反りが合わないのか最後までぎこちなさそうにしていたのを
「……あれ?」
("覚えている"って何だ……? 誰のことを……?)
全く自分の身に覚えがない記憶。不規則にノイズのようなものが走るため断片的にしか理解することができなかった。だけど、そこに入る言葉が誰かの名前だということだけは何となく分かっていた。
正直言ってしまうと気味が悪い。自分の中で何が起きているのか……それが分からず感情が不安定になりそうだ。
……だけど、何故だろう。不安に思うと同時にすごく悲しい気持ちが込み上げてくるのは────
何か大切なことを忘れているような気がして……
(──!? 駄目だ駄目だ、今は忘れろ……戦闘中なんだぞ!)
ただでさえ劣勢で苦しい状況であり、余計なことを考えている場合じゃないのだ。頭の中を切り替えるため一度、思考を停止しようと試みる。
「く──ッ!今度は何だよ……ッ!?」
しかし、そこへ更に追い討ちをかけるように頭に痛みが走る。頭が割れそうなくらいの鈍痛に思わず声が出そうになるのを必死に歯を食いしばって止める。
──旋刃盤が再び、視界を過ぎる。橙色の勇者装束を身に纏った少女は旋刃盤を巧みに扱い、白い化け物達を倒していた。
あぁ、そうか。そうすれば……いいのか────
「おい、優士──!?」
気づいた時には自然と身体が行動を開始していた。
須美のように手を放し、風に飛ばされ上空へと浮かび上がっていく。
──────────
「俺に
声に出して呟いたのはよく彼女が使っていた決まり文句。しかし自分にはやはり似合っていないなと、思わず失笑してしまう。結構内心余裕があるのだろうか。
「真面目にやらないと、何処ぞの"優等生様"に怒られちゃうな」
それは嫌だなと思いつつ、表情と気持ちを引き締める。風に飛ばされつつも気にする事なく目を瞑り、集中する。
姫百合の勇者がかつて使っていた武器を頭の中でイメージする。
使い方は先程"流れてきた"から知っている。左腕を空へと掲げると、手甲に結ばれた紐が輝き出し、橙色の光が樹海一帯を照らした。
「ゆーさんが、光ってる〜!?」
「一体何が起きてるんだ……!?」
徐々に光が弱まっていき目を向けると、それは形を成していた。左腕には先程イメージしたものと全く同じ旋刃盤が装着されている。
「あれは……楯?」
旋刃盤を構え暴風を防ぎつつ、空中から樹海の根へと上手い具合に着地する。なるほど、この武器は楯としても十分に使えるらしい。
だけど、この武器の本領は楯じゃないようだ────
「悪いが、お前たちには油断も手加減も無しだ。最初から全力で潰してやるよ、"化け物共"────」
全開の力は出せないが、"西暦時代"の勇者システムと比べて基本性能が格段に上がっているため十分通じると自分の中で予想を立てる。
「──ッ、来い"輪入道"──」
呼ぶは、この旋刃盤の使い手に宿っていた"精霊"。
旋刃盤に炎、いや"業火"が宿った。"■■■"の使用は今の勇者システムでは禁止されているようだが……今のように■■の■■の力を宿している状態だとそのブロックが緩和されるようだ。
「……づっッー!!」
業火の如き燃え続ける旋刃盤を左腕から取り外し右手に持ち替えて構える。旋刃盤の業火が右手を焼き、今まで感じたことの無い強烈な痛みが襲ってくる。正直、恥も外聞もなく泣き叫びたいくらいの痛みだが、それをなんとか歯を食いしばり気合いと根性で耐える。
「生憎と"耐えるのは得意"なんでね……!」
旋刃盤を五本の指でしっかりと支えつつ持ち上げる。狙いをバーテックスの頭部へと定めると旋刃盤を投げる角度を調節する。
ドクン、と心臓が大きく跳ね上がる音が聞こえた────
「いっけぇぇ!!」
力の限り、旋刃盤を思い切りバーテックスに向けて投擲した。
バーテックスの起こす強風が旋刃盤を遮り速度を落としていく。しかし想定内だ、強風により業火は消え去ってしまったが旋刃盤はバーテックスの頭部へと突き刺さった。
そう、突き刺さりはしたのだが、巨体ゆえ余りこたえていないのか特に大きな反応はなかった。
「優士の秘策でも駄目なのか!?」
銀は悔しそうにバーテックスを睨みつけていたが……
安心しろ銀、俺の攻撃はまだ終わっていない。
してやったり、と自然と自分の口元が横に開く。
突き刺さった旋刃盤はバーテックスの頭上で再び燃え始めると、火力が増していき再び業火へと変わると、次の瞬間、バーテックスの頭上で炎の爆発が発生した。
「ええ!? また炎が出たと思ったら今度は爆発した〜!?」
園子もこれにはビックリしたらしく、旋刃盤の爆発に目を向けていた。
精霊の力だけを限定的に武器へと組み込むことにより可能となった攻撃手段。先程投擲した旋刃盤には事前に輪入道が持つ火の力がストックしてあったため、ある程度なら自分の任意で溜めておいたエネルギーを拡散させることができるという訳だ。
何故そんな事ができるようになったのか……気づいたら使い方を知っていた、というよりは"身体が勝手に動いて行動に移していた"というのが正しいかもしれない。
旋刃盤はポロポロと細かい灰に変わると、役目を終えたかのようにその場から消滅していった。
「あ……れッ──? いっでッ──!?」
思い出したかのようにヒリヒリと継続する火傷の痛みが再び右腕を襲ってきた。自分の焼け焦げた右手に目を向けると、肘の少し手前辺りまで火の余熱が伝わってきたらしく、手のひらと指に比べればまだマシな方かもしれない。
一番重症な箇所は手のひらと五本のそれぞれの指。指に至っては焼損しなかったのが奇跡だろう。火傷の痛みから思わず泣き叫びそうになるのを何とか耐えようと無事な左手で口元を抑える。気持ちの悪い脂汗がぽたぽたと下に落ちる。
しかし、ここで泣き言を言っている訳にもいかない。何故ならまだ戦いは終わっていないのだから。
敵の動きが止まり、隙も作れた。俺は未だ目の前で起こった事態に呆然としているであろう彼女の名前を呼び、合図を出す。フィニッシュはお前に譲ってやるから決めてこい。
「銀! 今がチャンスだ、決めろぉぉー!!」
痛みに何とか耐えつつ、彼女の名前を呼ぶ、痛みで叫びたいのをグッとこらえ、八つ当たりのようにその大声を仲間への合図へと方向を変え、思い切り叫んだ。
「はっ、ミノさん!」
「ッ──おうよ! 任せろォー!」
俺の合図を聞いた銀が敵の方へと駆け出していく。先程の爆発の影響で風は弱まったため、この隙を逃がさないように責めに入る。
銀の両斧から繰り出される乱舞がバーテックスへと叩き込まれていく。そのまま回転を許す事なくバーテックスへと銀のラッシュが続いていき、とうとう侵略を諦めたのか進路を変えて橋を戻り始めた。
(終わったか……)
鎮火の儀が始まったことにより戦闘が終わったことを確認する。
包帯を使って負傷した右腕を素早くテーピングする。とりあえず、火傷した部分だけ隠しておけばいいと思い、すごく雑なものになっている。
「はぁ……」
大きめのため息をひとつ吐き、その場に座り込む。
あの力は……一体なんだったんだろうな。
「ゆーさん〜!!」
「おーい! 優士ー!」
園子と銀が名前を呼ぶ声に思考から現実の世界へと戻される。
こちらに近付いて来る二人に向けて左手を振る。見た感じ二人共大きな損傷は無さそうだし……とりあえずは安心だな。
「二人もお疲れ〜……!?」
「ゆーさん、すごい大活躍だったね〜!」
園子は嬉しそうに両手を前に広げると俺の方に飛んで抱きついてきた。
勇者の状態ということもありそれは結構な威力が乗っているのだ……つまり、苦しい助けて。
「ちょ、園子危ないから急に飛びつくのはやめな……てか、首絞まってる締まってる!?」
「あわわ! ゆーさんごめんね〜……ん?」
「どうした園子?」
「ゆーさん……何で右腕隠してるの?」
「!?」
やはり、こう言う時の園子は勘が鋭い。自然と右腕を後ろに隠していたことを指摘されてしまい、思わず反応を示してしまったことにより右腕に何かあったということを二人に確信させてしまった。
「しかも包帯まで巻いてあるし……優士、大丈夫なのか?」
銀が俺の右腕を掴もうとする手を思わず払ってしまった。火傷の痕がある右手を二人に見せたくなかった……正直自分でも引くくらいグ□イことになっている。
("また勇者の不思議な力"か何かで早くこの火傷も治ってくれないかなぁ……)
勇者である俺たちは常人と違い回復力も強化されている。バーテックスたちのような常識外れの瞬間治癒はできないが、傷を追うことがあっても掠り傷くらいなら数日で治ってしまうくらいには自然治癒力が向上している。この前受けた傷も治りがとても早く、心底驚いた。
時間経過と共にヒリヒリとした火傷による痛みは引いてきているのだが……まだまだ完治にはほど遠いだろう。
「いやいや、ほんと大丈夫だから。見た目ほど大した事ないし、ちょっと火傷……?しちゃっただけというか、わざわざ怪我なんて見せびらかすものでもないしさ!」
言い訳苦しいというか、これじゃ何の説明にもなっていない。頭悪いとこういった時に言い訳一つ上手くできないから駄目だよなぁ……
なかなか渋る俺に対して実力行使で右腕を確認しようと二人が動こうとした直前、俺の右腕が突然誰かに掴まれ引っ張られた。
「うぇ、須美!?」
「ごめんなさい高嶋君。私も心配だから、一度確認させて頂戴…」
その正体は、たった今合流してきた須美だった。須美が本人の許可もなく右腕に付けた包帯を勝手に取ろうとしたので止めようとしたのだが、それを園子に止められた。
「ちょ! 須美勝手に包帯とらないで───」
「ごめんゆーさん、少し静かにしてて?」
そう言ってきた園子からは異様な雰囲気が滲み出ていた。真剣な表情でこちらを見てくる園子の様子はいつものぼんやりとしている印象とはまるで違っており、俺はその謎の迫力に押されてしまい先の言葉を呑み込んでしまった。
須美は包帯を外すと俺の右手を掴んだまま向きを変えたりしてそのまま右手を数秒間ジッと観察していた。そんなじっくり見るものじゃないだろうに……三人に顔を合わせづらいため明後日の方向を向きながら必死に考えをまとめていると須美が沈黙を破る。
「腕に包帯なんて巻いているからどれほどの重症かと思えば……
「……え?」
須美はほっとした様子で一つ小さな息を吐いた。俺は須美の言葉を直ぐに理解することができなかった。そんな、馬鹿なことはありえないと目線を直ぐに包帯が取れた自分の右手へと視線を向ける。
(はは、まじかよ……)
目を向けた先にあったのはいつも通りの血色をした、至って普通の見慣れた自分の右腕だった。須美の言う通り手のひらが少し焼けており、発赤や腫脹が見られるものの、その程度で済んでいた。
「どうなってるか心配だったけれど……このくらいなら大丈夫そうね。……この程度の火傷で済んでいるのも勇者の恩恵のおかげということなのかしら……?」
「……はあ〜、取り越し苦労ってやつか。それならそうと勿体ぶらずに早く言えよ。無駄に心配させんな!」
「包帯の巻方も雑なものだったし、ただ巻けばいいって訳じゃないのよ? しかも大袈裟に関係ないところまで巻いて……」
須美からテーピングの仕方に駄目だしされ、やることが毎回大袈裟なのだと注意をされた。
「ミノさん、すごい真剣な顔してゆーさんに迫ってたもんね〜。…ミノさんがゆーさんのことを大切に想っているんだなっていうのが伝わったよ〜」
「ちょ!? 園子違うからな! 仲間としての心配であってそう言った感情は一切ないから!」
銀が何かを食い気味に言ってきた気がしたが正直今の俺の心境はそれどころではなかった。確かに勇者になっている時は回復力が強化されているとは聞いていたが……ここまで常人離れしたものだっただろうか?少なくとも初戦で受けた擦り傷は完全に治るまで数日かかっていた記憶があったが。
「ゆーさん大丈夫? まだ火傷、ヒリヒリする? 痛いの痛いの飛んでけ〜」
「人のことより自分の心配もしなって。園子だって敵の攻撃を受け止めた時に腕擦りむいてるんだからさ……優士なんて少し火傷したくらいで外傷はないんだからさ」
「えぇ〜、でもこの前は注射を痛がってたから案外ゆーさんって泣き虫さんなのかな〜って?」
「(乃木さんの中の高嶋君って頼りないイメージなのかしら。だとしたらちょっと不憫ね……)」
「仮にも男なんだからこの程度の傷、へのかっぱだろ?」
「……仮にもとは何だ!」
「ほら、手貸すよ」
銀が左手を俺の前に出してきたので俺も左手で掴みその場から立ち上がる。
「……ま、考えたって仕方ないか」
「ん、何か言ったか?」
「んにゃ、何も」
……今はとりあえず難しい事は置いておこう。バーテックスも撃退できたんだ、暗いムードは無しにして御役目の一つを果たせたことを喜ぶべきだろう。
今日起きた不可思議な現象の数々……それはきっと俺が一人でどれだけ考えたって分からないことなのだろう。それに、勇者なんだから普通じゃ考えられない事が起きたっておかしくはないだろうし。そもそも事前に説明されていたとはいえ、樹海化とかバーテックスとか勇者システムだとかに遭遇している時点で普通とはかけ離れた存在になってしまっている訳でして……
ものは考えようとも言うし、それに"重傷の傷が治った"という事実だけを見ればそれは別に悪い事ではないだろう。もしかしたら俺の勇者システムにはかなり強い自己回復能力、みたいなものが備わっていたりするのかもしれないしな。歴代で初めての男の勇者ということもあり何かしらの例外はあるのだろう。
俺も痛いのは嫌いだし。まだまだ御役目は始まったばかりなんだ……こんなところで立ち止まっている訳にもいかないのだから。
俺もみんなも無事で済んだのなら、それに越したことはないだろう。
確かに不可解な点はいくつもあるけれど……そういう専門的なことは俺よりも大赦の人達の方が知っているだろうし、きっと安芸先生経由で詳しい説明があるだろう。
だから大丈夫だ。何も心配することなんてないのだ────
柘榴の花言葉
「成熟した美しさ」「素直な美」「自尊心」
柘榴の果実の花言葉
「愚かしさ」「結合」「子孫の守護」
柘榴の木の花言葉
「互いに思う」
──────
無茶する主人公君、そして炎に躊躇いなく手を突っ込むとかやべーよこの子、というのがわかる回でしたね。(違う)
主人公君が今回使った力は一体……?
そしてチラついてくる不穏な展開(白目)