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今まで生きてきて、"分からない"ということが怖いと感じたのは初めてのことだった。
あの時、二体目のバーテックスと戦った時、頭によぎった身に覚えのない不思議な記憶。
……あれが初めてじゃない。初めて御役目に挑んだ時にも俺は似たような現象に遭遇していた────
でも何故だろう……
やはり、あの時のことを鮮明に思い出すことができない。まるで夢でも見ていたかのように記憶は曖昧で、名前も顔も思い出せない筈なのに……
悲しくて、寂しくて胸の奥がぎゅーっと締め付けられるように痛かった。
何かとても"大切な人達"のことを忘れてしまっているような気がした────
「ゴリ押しが過ぎるでしょう!」
「「「「はい……」」」」
「これじゃあ、貴方達の命が幾つあっても足りないわね……」
端末に記録された戦いの映像を見直した安芸先生が頭を抱えていた。
実際問題、園子以外の須美、俺、銀の三人は敵に対して特攻しかしてないのだから何も言い返せない。
「あなたたちの弱点は連携の演習不足ね。まずは、四人の中で指揮を執る隊長を決めましょう」
「!」
安芸先生から出された提案を聞き、隣に座っていた須美の表情が少しこわばるとその両手を強く握りしめた。トイレに行きたいのかな?
それにしても隊長か……俺としては園子か須美がやるのがベストだと思うのだが果たして……
「乃木さん。隊長を頼めるかしら?」
「えっ? わ、わたしですか〜?」
やはり園子に任せるのが無難だと先生も考えてたらしい。
園子は自分が選ばれるとは思っていなかったのか、驚いて確かめるように俺たちの顔を見渡してくる。
「アタシはそういうの柄じゃないし……アタシじゃなきゃ須美と園子のどっちでも」
銀の中では俺に任せるという選択肢は入ってないらしい。
日頃の行いのせい? うん……返す言葉もありません。
「俺も園子なら異議なーし!」
実際隊長なんて責任重大な役目、俺なんかにできる気がしないため銀に続いて俺も同意する。
「私も乃木さんが隊長で賛成よ」
「ミノさんにゆーさん、それにわっしーも……」
賛成はしつつも、須美が少し不満そうにしていたように見えたのは俺の見間違いだろうか……?
まあ、園子は学校で寝てたりボケーッとしてばかりだもんな……普段の様子だけを見て評価すれば不満が出るのは当たり前か。
園子は一度ぴかーんと閃いたらすっごいんだけどね……実際、二回の戦闘でもその応用力をしっかり活かし、状況によって武器である槍の形状を変形させ要所要所で敵に対応することができていた。
銀と俺は作戦とか考えたりしないで、特攻したりするからまず選択肢から除外されるとして。そんな俺たち二人に比べたら須美も隊長として候補に上がっていてもおかしくはないんだろうけど……咄嗟の状況判断が苦手そうな節があるから、そこがマイナス点だったのかな。
「隊長は決定ね」
全員の同意を得たことを確認し、隊長決めが終了する。
(園子、頑張れよ……はちょっと違うか。)
園子に一言声援を送ろうかと考えるが、この言い方だと逆にプレッシャーをかけてしまうかもしれない。
隊長だからといって全部任せきりにするというのは些か無責任な気もするから……
「頑張ろうな園子。俺もできることは何でも協力するからな!」
「ありがと〜ゆーさん」
ま、園子はしっかりしているから隊長としても充分にやっていけるだろうし……俺が園子にしてあげれることなんてあまりなさそうだ。なんなら俺よりも須美や銀の方が頼りになることだろう。
俺がそんなことを考えていると、安芸先生が再び話しを再開したのできちんと姿勢を直して椅子に座り直す。
「それともう一人、隊長である乃木さんをサポートする"副隊長"を決めておこうと思います。本当は隊長だけでも良かったのだけれど……大赦側から万が一の可能性に備えて、とのことらしいわ」
万が一、か。随分と大赦は慎重なんだな……まあ、あんな得体の知れない化け物と戦うんだからそうならざるを得ないのは当然のことか。
もしかしたらこの先状況によっては人数を分断して戦うこととかもあるかもしれないしな。RPGとかのゲームではよくある展開だ。
ま、そこら辺は須美に頑張ってもらうとしよう。
隊長の園子と副隊長の須美。隣合って武器を構える勇者の二人を想像してみる……
『行くよ〜わっしー! アーユーレディ?』
『とっくにできてるわ』
うん、とても様になってる気がする。俺の勝手な想像なので本人達はそんなこと言わないかもしれないが。そもそも横文字に対してシビアな須美が素直に頷くだろうか……無理か、無理だよな。
まあ、それは置いとくとして。
須美はこう……リーダーみたいな感じじゃなくて、誰かを陰から支えるような役の方が俺的には合っている気がした。
だから隊長を支えるという役目を担っている副隊長というポジションは須美にぴったりだと思ったのだが────
「副隊長は……高嶋君、貴方に任せるわ」
「……え、えぇぇー!?」
しかし、何故だろう。俺の予想とは全く別の、予想だにしていない人物名が安芸先生の口から出てきた。
何を考えたら俺なんかに副隊長を任せようという考えに至るのだろうか。普通なら優等生である須美一択になる筈だ。須美も納得が行かないのかこちらの方を凝視しているが……誰よりも一番腑に落ちないのは俺だ。
「先生、俺には副隊長なんて重要な役割を遂行することはできないと思います!」
挙手をして正直に無理だと言うことを安芸先生に伝える。
いや、冗談抜きで考え直した方が良いと思う。見当違いな指示しか出せないぞきっと。全員作戦【ガンガンいこうぜ!】になりますけど大丈夫ですか?
先生も大赦の人達も疲れてるんじゃなかろうか? しっかり寝れてるのかな……
ちなみに俺は9時間は寝ないと次の日の朝パッチリ起きれません。
……うん、この情報は今どうでもいいな。現実逃避からか余計なことが頭の中に浮かんで来てしまう。
助けてくれ、と目線を横にいる仲間達へと送り、救難信号を出す。
「アタシは意外と合ってるような気がするけどな。クラスでは学級委員の仕事とかも割と問題なくやれてる訳だし。大丈夫でしょ」
「私もゆーさんが副隊長なら安心できるな〜」
俺の予想していた応答とは裏腹に銀と園子からは賛成意見が出た。二人の言葉は素直に嬉しかったのだが、それは友達だからという理由から贔屓目に捉えて考えたものではないだろうか? 特に具体的な例がない園子よ。
これが運動会の応援団長とかのイベントごとの役割だったら喜んで受けていた。しかし俺が任命されようとしてるのは大切な御役目であり、遊び半分や何となくといった中途半端な気持ちで受け持っていいものじゃないことはバカの俺でも分かる。
そもそも学級委員はなりたくてなった訳じゃない。学級委員は他の係よりも重要な役割のため一番最初に決めなければいけないのだ。くじ引きやジャンケンなどで負けて残った人にやらせるというのは責任感が生じないからなのだと思われる。適当に決めた人だと最悪仕事をしないなんてことも有り得るかもしれないし……いや、しっかりと教育が行き届いている神樹館の子達に至ってはそんなことは無いと思うけれど。しかしみんなも自分が担当したい係を事前に決めており、自分の希望する係につきたい訳で……最後まで決まらなかったから多数決で票を取ることになり、何故かクラス過半数の票が俺へと集まり強制的に決まってしまったという訳だ。まあ、みんなやりたくなかったから適当な奴に入れとこうとでも思ったのだろう。俺もそうしようとしてたし。
一応、みんなから推薦されたこともあり決まったからにはきちんと最後までやり遂げるつもりだけど。
話が少しずれたが、まあそう言う訳で学級委員は半ば強制的にやらされているものであるため自信を持って誇示できるものではないのだ。学級委員の仕事だってもう一人の女子の学級委員の子に手助けしてもらってできているのであって俺一人じゃ絶対にこなして行くのは無理だっただろう。
(……やはりここは辞退するべきではないだろうか?)
自分に責任の持てないことはしない方が良いだろうと思う反面、自分に対して下された役目ならば頑張ってみようかなという気持ちもあり、優柔不断な自分に思わず頭を抱えたくなる。
「確かに、普段の学校における生活態度や問題点など不安要素を挙げればキリがありません」
「それなら──」
「けれど、それとは別に貴方がこれまで御役目に対してしっかりと向き合おうと努力し、訓練にもしっかりと取り組んできたことも報告されています。これまでの戦闘結果を省みた結果から見ても、無茶はありましたが他の三人の動きに気を配りつつ、行動していた点を踏まえて判断した結果です」
安芸先生からの急な賛辞に照れくさくなり、頭を掻いた。
自分に出来ることを精一杯頑張ってやってきただけなんだけどな……
「……須美はどう思う?」
最後に先程から静かにしていた須美に意見を伺う。二人に比べて須美は贔屓目に誰かを評価することはない。御役目に関連してくる重要なことなら尚更厳しく物事を判断することだろう。
少し間を置いてから、須美の口が開かれた。
「……そうね。確かに二回の戦闘でも一番戦果を上げていたことは紛れもない事実なわけだし。乃木さんとも仲が良いから意思の疎通も素早くできるかもしれないわね」
安芸先生の言葉に思うところがあったのか須美も賛成とのことだった。
(これで俺以外全員が賛成という訳ですか……)
みんながここまで言ってくれたのだ。ならば、その期待に応えられるように精一杯努力するのが筋というものではないだろうか。
「……わかりました。 俺、副隊長やってみます!」
実際、表立って指示を出すのは隊長である園子の筈だろうから俺の出番はない気がするけどね。
「ゆーさん副隊長〜、一緒に頑張ろうね〜!」
「こちらこそ改めてよろしく。園子隊長」
園子が呼称を付けて名前を呼んで来たので俺もそれに乗っかる。
やっぱ副隊長呼び苦手かも……この違和感がある内は快くはいけなさそうである。
「副隊長もこれで決まりね、神託によると次の襲来までは時間があるみたいだから、良い機会だし連携を深めるために合宿を行おうと思います」
「「「「合宿?」」」」
その後は安芸先生から合宿を行う日時の指定や集合場所、持って行く物などをしっかり説明された。
学校行事じゃないならゲーム機を持っていってもいいですかと質問したら須美に足を蹴られ、安芸先生の笑顔なのに笑ってない無言の圧力の前に冗談だと弁解するしかなかった。
合宿当日。
「……三ノ輪さん、遅い!」
「すぴー……すぴー……」
遂に須美の堪忍袋の緒が折れたらしい。今日も遅刻か銀のやつは……やっぱ一緒に来るべきだったかな、集合時間から十分が経過しようとしていた。俺と須美と園子は現在バスの中で銀の到着を待っていた。
「眠い……」
実を言うと昨日の夜はあまりグッスリ眠ることができなかった。
遠足とか運動会の前の日に緊張して眠れなくなる特有のアレにかかってしまったのだ。このままだと、今も須美の左肩に寄り掛かって眠っている園子の二の舞になってしまいそうである。
隣の方に目を向けると園子が須美の肩に寄り掛かって気持ちよさそうに寝ている。
須美に寄り掛かって眠ると寝心地良いのかな? 確かに須美がそばに居てくれると安心感があるしな。そう思うとちょっと気になって来るものがある。
「須美ー、俺もちょっと須美の肩借りて眠ってみていい?」
「……嫌よ。壁にでも寄り掛かってなさい」
「うわぁ〜、須美さん手厳しい」
ス◯ールかな? 冗談で言ったのに、マジな顔で否定されると辛いものがあるよね。銀が時間通りに来なくてカリカリしている真っ最中に頼んだのも失敗だったかもしれない。
「ふわぁぁ〜……」
二度目の欠伸をする。今俺達が乗っているバスは神樹館貸し切りということもあり、園子の寝息と須美が偶に愚痴る声しか聞こえないため、目を瞑ったらそのまま眠れそうなのだ。
……てか、貸し切りってすごいよな。大赦ってやっぱスゲェや、一般ぴーぽーの俺なんかとは物事に対する感覚が全然違うのだろう。
「悪い悪い……! 遅くなっちゃって……!」
「三ノ輪さん! 十分も遅刻よ」
「ちょっと色々あって……いや悪いのは自分だけど……とにかくごめんよ須美」
「この際だから注意させてもらうけど……三ノ輪さんは普段の生活が少しだらしないと思うわ!」
(あ、これ長くなるやつだ)
お疲れ銀。お前が悪くないのは分かってるし可能なら助けてあげたいんだけど……俺が援護しようものなら俺もまとめて須美のお小言を聞く羽目になると思われるのでここは一人で耐えてほしい。須美とは反対側に首を曲げて目を瞑り夢の世界へレッツゴ────
「高嶋君、何関係ない振りをしているのかしら? あなたにも関係がある話しなのだから自分のことだと思ってしっかり聞いていなさい」
「……うっす」
須美の声に凄みを感じると共に、眠気が一瞬で吹っ飛んだ。
須美さんによる、ありがたーいお説教コース参加確定ですね。本当にありがとうございます(白目)
(やっぱ須美さん怖いや……)
「あなた達も勇者として選ばれた自覚を──」
「あれ〜……お母さん? ここどこ〜?」
「…………」
起きた園子が須美の言葉に被せるようにそう言うと、須美が俺達への注意換気を止めると、難しそうな顔をして何かを考え始めたのでその隙に俺は指を前の方の席に向けて避難することを銀に伝える。俺の意図が伝わったのか銀は一度頷き近くの席に荷物を置き、前の席に座席したのを見た俺は須美にバレないよう見計らいつつ移動を終え無事に避難を成功する。
「逃げて来て良かったのかな?」
「面倒くさくなりそうだし良いよ別に。それはそうと今日も朝から大変だったみたいで」
「あはは……まあ、いつものことでして……」
俺の返しに苦笑いをして肯定する銀。もう自分のトラブル気質に慣れてきてるんじゃないだろうかと少し不安に思ってしまう。
「どうした? 困った様な顔してるけど」
「いや、どこかに頼り甲斐があってしっかりと銀のことを支えてくれる人はいないのかなぁ〜って思ってさ」
まあ、そんな理想的な人物は簡単には見つからない訳で。だけど銀の場合は結構真面目に必要だと思うんだよな。放っておいたらとんでもない無茶をしそうで怖い。
「ま、無いものねだりしてもしょうがないか……という訳でしばらくは俺で我慢してもらおう。団員を助けるのは副隊長の仕事だしね!」
「……どういう訳だよ? あと、決め顔しても全然かっこよく無いからやめておきな」
「うぐっ、やはりイケメンにしか許されない行為なのか……」
俺がショックで頭をがくりと落とし、落ち込んでいると隣に座っている銀は一連の流れが面白かったのか笑っている。チクショー、自分は顔が良いからって良い気になりおって……
「ありがとね。優士にはこれまでだって沢山助けてもらってるから感謝してるよ」
笑うのを辞めた銀は、穏やかな表情で素直に感謝を伝えてきた。
「気にすんなって。"親友"を助けるのは当たり前だろ」
「……そういうことをサラッと言えるところはプラス点かな」
「お、マジか!高得点!?」
「──というと、直ぐに調子に乗り始めるのでマイナス点が入って足し引きゼロだ」
「えぇー……採点厳しくない?」
「順当な採点結果だと思うけど?」
カッコよくなるのも中々大変ということか……何でカッコ良くなりたいのかなんてそんなことに理由はいらない。男に生まれたのなら誰だってカッコ良く生きていきたいのだ。
この調子じゃ先は長そうではあるけれど……
そんな雑談をしている最中も俺達四人を乗せたバスは合宿の目的地へと着々と進み出していくのだった。
◆◆◆◆
"西暦時代"の勇者の力。
自分の持つ力について知らされたのは二体目のバーテックスとの戦闘を終えた次の日のことだった。初陣を終えた辺りから事前に俺に起こった出来事を説明できる限りで安芸先生に伝えていた。俺に起こった現象についても何か分かるのではないかと思い調べてもらった。
大赦の上層部が調べた資料によると、もしかしたら西暦時代の勇者達が力を貸してくれたのかもしれないとのことらしい。
そういえば俺の端末は過去の勇者システムを改良してできたものだと以前大赦の人に説明されたのを思い出した。
何故そんな事が可能なのか? 安芸先生に質問をしてみたが明確な答えは返ってこなかった。それは大赦側にも分かっていないとのことらしい。端末の影響なのか、俺が歴代で初めて男でありながら勇者になれた事が関係しているのか……ただ、やはり他の勇者達の持つシステムとは事情が変わってくるらしい。
神樹様から分け与えられた力というのは未知数でありながらもとても強大なものであり、だからこそただの人間である自分達が勇者という超人的な存在へと変身することができる。
ならば、自分に起こる現象全てが神様の視点からすればありふれた当たり前のことなのかもしれない。
それにもしも、西暦時代の勇者達が力を貸してくれているのならばそれはとてもありがたいことの筈だ。何百年も前から世界を守り続けてくれた大先輩達からのバトンを引き継いだとでも捉えておけばいい。
一種の諦めの境地というやつだ。
そうやって少しでも前向きに考えてでもいないと、不安で押し潰されてしまいそうになる……ほんと情けない。
俺は一体何者なのだろう────
そんな疑問が俺の中でグルグルと渦を巻いていた。
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あの時、力に目覚めた時から確証は無かったけれど何となく自分の中で理解できていた。
俺が精■の力を扱えたことや逸脱した自己回■力を持つこと、過去の■■達に関する記憶を見ることができたこと、そして何より俺が勇者として変身することができたこと、それらが全て繋がっていることを。
──俺の"本当の役割"は■■と、■■を守ること。
──俺はきっと■■でもなくて、ただ■■■■■■として■■ことを望まれただけの存在であり……
■■が■■■■までの■■■■であるということを────
この時の俺はまだ知らない。
やっぱり感想や評価を貰えると嬉しいですね。増える度に小さくガッツポーズをしています。
最近は凄く暑い日が続いてますね……皆さんも熱中症には気をつけてください。水分補給を忘れずに!