鷲尾須美にとって高嶋優士は特別仲が良いわけでも、友達という訳でもない。しかし、他のクラスメートよりは頻繁に喋る仲といったところだろう。
……こちらから話しをしたことはほとんどないが。
学校生活などで用があれば必要最低限な交流はしているし、別にそれで特に問題はない筈、だった。
彼に重要な御役目が存在していなければ────
────
勇者や巫女は高い地位を持つ家から輩出されてきた。しかし、選ばれる子供が必ずしもその例に沿っているとは限らなかった。勇者に選ばれる子供は年々減っていっているのが現状であり、そのため大赦は神樹様に選ばれた子供を養子として名家に迎え入れることでその伝統を守ってきた。
"鷲尾須美"もその決まりに乗っ取り、別の家から養子として出された。
養子と言っても元の家の時と同じく両親からも大切にされていると思うし……その、愛されていると思う。
そんな風に自分で思うのは気恥ずかしいと感じてしまい、頭を横に数回振る。
……元の話に戻ろう。
私と同じく他の家から養子として出された子がいると聞いていた。その子は神樹様に勇者として選ばれた歴代唯一の男の子。
お役目も養子であることも一緒という共通点から、少しの期待を持ちながら。
──────
「こんにちは、君が鷲尾さんだよね?」
「俺は高嶋優士、よろしく!」
「同じ転校生同士仲良くしようね!」
初めて話した時から友好的な人というのはなんとなく分かった。だってそうじゃなかったら別のクラスまで普通話しに来ないだろう。
「────あ、やべッ!そういや今日クラスの子とサッカーする約束してたんだった……ごめん鷲尾さん、また今度話そうね!」
「え、ちょっと──」
「わり! 前から約束してたことだから───!」
右手を私に振りながらそう言い放つと、彼はクラスをすぐに出ていってしまった。
……え、それだけ? ほんとに挨拶するためだけに来たの? とその時の私は呆気にとられてしまった。
それからすぐに、廊下を走るなと言う大人の人の声が聞こえたような気がしたのだが……多分気のせいだと思いたかった。
それからも高嶋君は何かと理由をつけては私のところへやってきた。
「鷲尾さん、鬼ごっこやるんだけど一緒にやらない?」
「今日の算数の授業難しくなかった?」
それはもう、数えるのが面倒に思えるほどだった。
他の男子は一度話をすると、馬が合わないのかそれ以降交流することが減っていったのだが……
「鷲尾さーん、この宿題の答えってこれで合ってる?」
彼は他とは違うようだった。
5年生のクラス替えで一緒のクラスになった。
高嶋君は一緒のクラスになったのが嬉しいらしく、いぇーいとハイタッチ?を求めてきたので、戸惑いながらもそれに応じた。
ただ、一緒のクラスになってからは高嶋君の学校での生活態度が垣間見えることになり彼の悪いところもいくつか見かけられるようになった。
例を挙げるとすれば、授業中ボーッとしては先生に叱られてたり。宿題を忘れたり。分からないことやできないことでも、見栄を張ったあげく失敗したりなど。
最近は遅刻も増えてきているし……
悪い人ではないと思う。それは今まで彼と関わってきた日々が物語っている。
だけど────
どこかお気楽というか……普段の様子を見ている限りでは、御役目を持っているにも関わらず、こんな調子で良いのかと不安になってしまう。もしその時が来てしまっても彼は自分の御役目に対して真摯に向き合うことができるのかと。
「見て見て鷲尾さん! 今回のテスト、鷲尾さんと一緒の100点だよ!!」
しかしそれとは逆にそんな高嶋君を見てると、自分が気負い過ぎなのだろうかと考えてしまう時がある。
「鷲尾さんまた難しい顔してるよ?」
「そんなんじゃ鷲尾さんがおこりんぼみたいだって、またみんなに誤解されちゃうよ!」
「ほら、笑顔笑顔!」
学校にいる時、友達といる時、食事の時、放課後一緒に帰る時、いつだって楽しそうにしている。
そんな彼には、きっと悩みなんてないんだろうなと少し羨ましく感じてしまう自分もいたのは事実だ。
きっと私は高嶋君のことが嫌いではないのだと思う。しかし、私が彼に対して少なからず苦手意識のようなものを持ってしまっているというのが現状でいえる事実なのだろう。
それはやはり御役目が関係しているからなのか、それとも────
◇◇◇
今日はいつもより早めに学校に着いてしまっていた。別に早く登校する理由もなかったのだが、何となく早く学校に行きたい気分だった。ま、早起きは三文の徳って言うしな!
8時前ということもあり隣の一組の教室にはまだ誰も登校してきている人がいなかったため自分のクラスにも誰もいないかもしれないなと思いながら教室の扉を開けた。
「まあ、誰もいないよなぁ……」
予想通りですね、はい。ていうか一人だと教室が広く感じるような気がする。
「俺が一番!」
教壇前に立ちながら少し自慢気に言ってみる。
──少しも面白くなかった……
一人で盛り上がってすぐ下がる始末である。やはり一人で盛り上がるというのは難しい。てかなんか友達いないみたいで悲しくなってくる。
早く誰か来ないかと考えながら暇をつぶせるものはないか探してみると後ろにある大きな黒板に目が止まった。
「……よし──」
とりあえず絵でも描いて待つことにしよう。
何描こうかな? ピカチ◯ウとかのマスコットキャラを描こうかな。
本当はかっこいいのを描きたいんだけど、俺は絵が上手くないからなぁ……欲を言えばディ◯◯ガとかパ◯キアとかを描いてみたい。頑張ってもルカ◯オ辺りが限界である。
でもピカチ◯ウはポ◯モンの中では一番好きなキャラなので、主人公の長年の相棒を描くことに決めた。
うーん、ちょっと丸い感じになっちゃったかな……これだと初代よりに近くなっている。
太ってた?頃の初期も可愛くて好きなのだが、細身の方が好きであるため描き直しをしようとした時、教室の扉が開いた。
◇◇◇
「おっ!鷲尾さん、おはよう」
「え、えぇ。おはよう高嶋君」
黒板前に立っていた高嶋君と軽い挨拶を交わす。その顔は少し嬉しそうである。
高嶋君が黒板に向き直ったので、私も自分の席に着き授業の準備をする。
登校中に他クラスの生徒を何人か見かけたが、自分のクラスの生徒は見かけなかった。
高嶋君が早く学校に登校しているなんて珍しいと失礼ながらそう思ってしまった。
私の場合は日直だったため早めに家を出ることにしたのだが、いつもの高嶋君なら予鈴が鳴る5分前くらい前か遅刻してくるの2パターンのはずなのだが……まあ、そんな日もあるのだろう。
クラスにいるのが自分達二人だけかと思うと少し寂しいような気持ちになる。
ん、
辺りをもう一度見渡す。1人、2人……数え間違いではなさそうだ。
2人で話すこと自体は珍しくないのだが、同年代の男の子と教室で2人きりという状況は今までなかったため、妙に緊張、動揺してしまっていた。
「鷲尾さん」
「は、はい!?」
急に呼ばれたため話を最後まで聞かないで返事をしてしまった。
……これではまるで私が高嶋君のことを意識しているみたいに捉えられてしまうのではないだろうか。
「鷲尾さんっていつもこんなに朝来るの早いの?」
「き、今日は私が日直だったから早めに来ただけよ」
「そういえばそっか……にしても俺からしたら少し早いような気もするけどなぁ〜」
流石鷲尾さんといつものように言う。
気づかれてないことにふと安心を覚える。
「高嶋君ももう少し早く来るようにしなさい……最近遅刻が目立ってるわよ」
「ははは……努力しまーす」
棒読みで返事をされる。……多分分かっていないのだろう。
「よし! 完成。どう鷲尾さん?」
上手いでしょとでも言いたげな顔をしている。
しかし、あの絵はなんだろうか。
猫……じゃないわよね、かと言って犬という訳でもなさそうだし。
でも────
可愛い、ハムスターに似ているような容姿から思わずそう思ってしまった。
「可愛いわね……」
「そうでしょそうでしょ! どうよ俺のピカチ◯ウ上手く描けてるでしょ?」
「そうね、と言いたいのだけれどこのピカチ◯ウ?という動物を見たことがないから判断ができないわ」
こんな動物が本当にいるのだろうか? 名前すら聞いたことがない。いや、既に数百年前に絶滅してしまったのだろうか?
「なん……だと」
高嶋君の方に目を向けるとひどく驚いた顔をしていた。
「ポ、ポ◯モンの代表ともいえるこのキャラを知らないなんて……嘘だろ……いやもう既に完結してしまった作品、とはいえ今でも子供達の中では名前くらいは知っていてもおかしくはないはずなのに……」
「た、高嶋君?」
ぶつぶつと何かを呪文のように言い始めながら近づいてくる……正直不気味に思い、一歩下がってしまった。
「鷲尾さん!」
「ふぇ!?」
急に両肩を掴まれて思わず変な言葉を出してしまった。
というか近い!?
「大丈夫、俺が手取り足取り教えてあげるから!」
「な、なな!?」
この状況を誰かに見られたら、きっと勘違いされていたに違いない。
思わず、「何言っているの!?」と言おうとした時、ドサっという何かが落ちたような音が廊下から聞こえた。
最悪な状況を思い浮かべてしまう……そうはならないで欲しいと願いつつ顔をそちらに向けた。
◇◇◇
ピカチ◯ウを、ポ◯モンを知らないなんて……すごい損してると思う。俺なんてアニメ見て感動して泣いたからね。別れの回はほんとに泣けるから仕方ない。
だから、鷲尾さんにも教えてあげようと思った。知って損はしないと思う。
アニメのDVD貸してあげようかな?昔リメイクされたのだったら持ってるけど、それともゲームを貸してあげるべきかな?
しかしどちらも鷲尾さんからは想像がつかない。真面目な性格だから、ゲームは禁止とか、やっても1日1時間とか言いそうな雰囲気あるし。
……よし、俺が簡潔にまとめて教えてあげることにしよう!アニメはとっくに全話視聴済みだからな、知識で俺に叶う奴はこの学校にはいないだろう。
「大丈夫、俺が手取り足取り教えてあげるから!(ポ◯モンのこと)」
しかし何故だろうか、俺が教えてあげると言ったら鷲尾さんが固まり出したんだが……
どうしたのかと聞こうとしたのだが、ドサっという何かが落ちた音に反応して頭を向けた。
「ご、ごめんなさい…私、2人がそんな関係だって知らなくて……」
登校してきたのは、うちのクラスで学級委員をしている女の子だった。挨拶しようと思ったんだけど、なんかすごい気まずそうな顔をしてたためできなかった。
よく分からないけど「お邪魔しましたぁー!」と走って何処かへ行ってしまった。君、うちのクラスだよね?
ていうか、手提げ落としたままだけど拾わなくていいのだろうか……まあ、机に置いといてあげればいっか。
俺は手提げが落ちているとこまで移動して拾いに行こうとしたのだが、右手を後ろから掴まれた。
「ど、どうするの!?絶対変な誤解されたわよ!!」
俺の両肩を強く掴まれ揺らされる。
あの、指がくいこんで痛いんですけど! あなた、意外に力強くないですか!?
「ちょ、鷲尾さん、痛い痛い! あとそんな揺らさないでぇ!?」
俺から手を放すと、急いでその後を追って行ってしまった。うぅ、世界が揺れて見える……
別に仲が良いことを知られたところで困ることなんてあるのか?疑問に思ってしまう。まあ、女の子は……デリケート?ってやつらしいから、男の俺とは少し違うのだろう。意味は気にしがちとかそんな感じだっけ?教えてもらったのは結構前のことだから忘れた。というか、いつもは冷静沈着でクールなイメージの鷲尾さんが焦っている様子をみることができたって、すごいレアなことなんじゃないだろうか。
須美の知らない一面をまた知れて嬉しくなった。
ちなみにこの後須美により誤解?は解けたらしいが、朝からどっと疲れが溜まって疲れた様子が見られたとか。
五年生の時点では須美とはそこまで仲が良いというわけではないです。ほぼ優士から一方的に話しかけにいっている感じです。
最初の頃の鷲尾さんですから、仕方ないですね。
須美は四年生の時に神樹館へ転入してきたと思うんですが……作者は原作知識が曖昧なので、違ってたら教えてくれると嬉しいです。
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