前回の話で主人公の成長速度がおかしいと指摘されたので成長促進剤の設定を書いておきます。
成長促進剤
この薬品は生まれたばかり下級戦士に投与され、その効果は身体年齢が成人に成長するまで続く。その成長速度は素早く、個体差はあるが6歳以降の子供の身長は10代前半の身長になり、10歳にもなると成人と殆ど変わらない身長になる。一応副作用があるものの、殆どのサイヤ人にはその影響が出ないが最下級戦士には投与されない。
投与されるのは下級戦士のみで、その他のサイヤ人は投与されないと考えて良い。
とまあ、こんな感じです。即席で考えたものなので、些かおかしな点が見受けられますが単純に成長速度が速くなると思っていれば大丈夫です。
「あいっ変わらずこの星は広いな、リコ星人の都市も馬鹿みたいにある」
一人ごちりながらキューカはちらりとギネを見た。まだ次の地域へ向かう余力はあるように見えるが、明日の事を考えると今日はここで終わらせた方がいいだろう。
ギネと共に仕事をやり始めてから一日が経つが、効率は少し上がったような気がする。あたしが都市の住民を片付けている最中、ギネには周囲の村の制圧を頼んでいる。手間が省けてかなり楽になった。だがそれ以上にリコ星人の数が多い、一つの都市に少なくとも一千万体もいるのだから処理するだけでも流石に骨が折れる。
「ギネ、頼んでいた仕事は終わったのか?」
「うん、数は多かったけどあたし一人で十分だよ」
「ま、そうだろうな」
リコ星人の戦闘力は全体的に見れば低いが、ごく稀に戦闘力数千の個体がいる場合がある。あたしも何度か戦い、ギネにも見つけたら知らせる様言ってある。彼女の戦闘力は840、とてもじゃないが戦力としては見れないだろう。現に何度か戦っているところを見たが、動きに無駄があり過ぎるのだ。
元々戦闘向きでは無いのだろう。
「そういえば他のサイヤ人はあたしの事を何て言ってるんだ?」
ふと疑問に思った事をギネに尋ねる。今まで興味どころか考えもしなかった疑問、意味は無いがなんと無く他人から見たあたしの印象に疑問が湧いたのだ。
「仕事が異様に早くて、いつもつまんなそうに過ごしているあんたはある意味有名だ。一部じゃ鉄仮面の女って呼ばれているよ?」
「て、鉄仮面〜?」
ネーミングセンスのかけらの無い渾名に、あたしは少し驚いた。どこに鉄仮面の要素があるのだと聞きたい、仕事中のあたしの表情なのか、それとも話しかけられた時のあたしの反応なのか・・・心当たりがある自分が恨めしい。
「何度かキューカを見かけたけど、まさかこんなにあんたと話すとは思わなかったよ」
満面な笑みで話すギネに、あたしは顔が妙に熱くなった様な気がした。ここまで他人と会話したのは生まれて初めての事であり、久しぶりに戦闘以外の事で楽しいと感じる事ができたのだ。知り合ってから僅かな時間しか経ってないが、気付けばギネに感謝している自分がいた。
「そ、そうか」
「ねえ・・・」
先程の空気と打って変わってギネの声のトーンが低くなり、キューカに疑問を投げ掛けた。何故キューカは平気な顔で人を殺せるのかと、リコ星人の死体を見ながら彼女は言った。
「慣れ、かな・・・」
「え?」
あたしが返した言葉に、ギネは驚いたような顔をしていた。
「初めは自分がやった事に後悔したさ、一時期あたしは罪悪感で押し潰れそうにもなった。だけど・・・」
「だけど?」
「いっその事何も考えないでやった方が良いかなって、一々悩んでちゃ身が持たないからね」
罪悪感は今も湧かなくもない、しかしそれ以上に殺しに慣れてきている。それは決して褒められない事だと思うが、悩み過ぎてあたしの精神が壊れるよりは遥かにマシだ。
あたしの持論を聞いたギネは俯いていてよく表情が読み取れない。
「キューカは強いなあ・・・。あたしもキューカみたいに吹っ切れたいよ」
「そうかい?ギネのそういう性格が良い所だとあたしは思うけどね」
「ううん、いいんだ。よくあたしは甘っちょろいって言われているし・・・」
確かに他のサイヤ人から見たらギネは甘いのかもしれない、だけどそれが彼女の良い所だという事に気付きもしない奴等だ。全員碌でもない奴に違いないだろう。
戦闘力が低く、甘いギネの事を下に見ているんだろうな。
「あたしはギネをそうは思った事は無い。だから今度甘ったるいって言われたらあたしに言いな、そいつの事ぶん殴ってやるからさ!」
あたしが自信満々に言うとギネは少しはにかんで礼を言ってきた。やばい、ギネが可愛い過ぎる件について。
本当にサイヤ人かと疑いたくなる程に可愛い、あたしが男だったら絶対惚れる自信があるね。前世男だったけど・・・。
「話してたらもうこんな時間か、そろそろ飯にでもしよう」
直後、視界にいたギネの姿が突然消えた。あたしが反応すると同時に数百m離れた場所で何かが衝突する音が聞こえ、スカウターから警戒信号が鳴り響く。リコ星人が奇襲を仕掛けてきた事に気付いたのはそれから二秒後の事であった。
「敵!?ギネh・・・グアッ!」
ギネの安否を確認する暇もなく、キューカは突然現れたリコ星人に頭を掴まれコンクリートの地面に叩きつけられる。その後顔がめり込んだ状態のまま、コンクリートを抉る形で数m抉った後に彼女は凄まじい勢いで飛ばされた。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。襲撃だと気づいた次の瞬間、あたしは反応する間もなく倒されていたのだ。今まで戦ってきたリコ星人の奴らとは違う、事前に聞いていた戦闘力が高い個体と遭遇したと理解するのにさほど時間がかからなかった。
「い、いつの間に・・・」
スカウターに反応は無かった、なのに何故襲撃を受けた?それにコイツ、さっきの一瞬であたしが反応する前に攻撃を当ててきた。偶然なのか、それとも相手が強いのかは分からない、しばらく様子を見るか・・・。
埃を払いながらゆっくりと立ち上がり、彼女は奇襲を仕掛けたリコ星人を見据える。そしてキューカは殴り飛ばされたギネをちらりと見た。
「ギネは、生きてはいるがさっきので気絶したか・・・」
元々戦力として見てはいなかったがそれとこれとは違う、死んではないようだがやはり心配だ。だが、まずコイツを何とかしないとな・・・。
チッ、さっきから仕掛けてこないあいつはなんだ、挑発でもしているつもりか?なら、ムカつく野郎だ。
「戦闘力・・・たったの2だと?戦闘力をコントロールするタイプか、厄介な・・・」
これじゃあ迂闊に動けやしない。相手の実力が未知数な以上、下手に動くと逆に自分の首を絞める羽目になる・・・どうしたものか。
頬に嫌な汗が垂れる。ゆっくり歩きながら近づくそいつに、あたしはただ見ることしか出来なかった。やがて距離が50mを切った時、目に見えない速度で消えたのだ。
「き、消え・・・アガッ、ギ、ギ・・・」
消えたと思った瞬間、そいつの拳はあたしの腹部に深く食い込んでいた。血反吐を撒き散らし、奴が視界に入った瞬間あたしは漸く攻撃された事に理解しする。見えなかった、奴の動きが・・・。奴は予備動作無しであたしの動体視力を凌駕したのだ。
こいつは、ヤバいと理解するのにさほど時間は掛からなかった。
直後、あたしは投げ飛ばされ、レンガ作りの壁に激突する。咄嗟にさっきまでいた場所へ視線を向けるも、奴の姿は当然のようになかった。
「・・・っ!?」
一瞬何か見えた様に感じ、防御姿勢を作る。次の瞬間、再びあたしに衝撃が加わった。だが、幸いな事に咄嗟の判断でやった防御姿勢が功を奏し、食らったダメージはさっきより小さい。
再度投げ飛ばされる自分、その後再び奴の影が見えた。
「少しずつだが、あんたの動きが見えてきた」
相手に聞こえない声で呟く。
今まで一方的にやられていたあたしだが、小さな勝機を見出していた。現在奴の戦闘力は5800、恐らくこの数値が奴の本気なのだろう。
今度はあたしが攻めに入る番だった。気合いで奴を吹っ飛ばし、そこへ数発の気弾で追撃する。無論これだけであたしの手は緩めない、全力で奴の腹を殴り続けた。
「そーれっ!!」
ハンマー投げの要領で奴を空高く飛ばし、高速移動で先回りする。両手を組んだ状態で奴を殴打した。
凄まじい勢いで落下して行き、あと少しで地面と衝突しそうな所で驚くべき事にあいつは静止したのだ。
「まさかだとは思いたく無いけど、あたしの攻撃をまともに食らっておきながら大したダメージを受けていないとはね・・・」
それに加えてあたしの方は、さっきのダメージがまだ残っている。まるで身体中が悲鳴のようにガタガタ言ってるし、流石に不味いな。全力のフルバーストを喰らわせてやりたいけど、あの調子じゃあ余り効きそうないだろうし参ったなこれは・・・。
今まで戦った敵と比べて奴は一番強い、それこそ比べ物にならないくらいに奴は強い。戦闘力のコントロールが出来る時点で気付いていたが、奴は技術面でもあたしより強いだろう。
「勝てるか分からないけど、やるか!!」
直後、二人はその場から消え失せた。
沈みかけた太陽を背に、激しい戦闘が始まった。超スピードで移動し合い、互いに繰り出した攻撃が相殺される形で衝撃波が各所で発生する。
「動きが、速すぎる・・・!!」
苦渋の表情で奴の攻撃を回避し、カウンターとして胴体を殴る。しかしそれでも大した有効打にはならないだろう。奴は嫌らしいことにあたしの攻撃を受ける直前、姿勢を僅かに変えて受けるダメージを最小限にしていやがる。
「・・・ッ!?」
仕返しとばかりに顔面を殴られ、その衝撃でまたしても吹っ飛ばされる。彼女は地面と激突する直前に数発の気弾を放ち、追撃するリコ星人に当てた。気弾の爆発で生じた煙がそいつの身体全体を覆い、一時的に見えなくなった。
「クソッ!」
直感的にキューカはその場からバックステップでその場から離れ、直後にリコ星人の拳が地面に深々と突き刺さっていた。
一瞬でも遅れたらあの一撃であたしは死んでいたな。咄嗟とはいえ、奴を視界から逃せば流石にマズい・・・。どうやれば奴にまともなダメージを与えれられる?
思考を巡らせるも、戦況を一変させるような策はあまり思いつかなかった。しかし全く無いわけではなかった。
至近距離で全力のフルバーストを当てれば・・・いや、それだと隙がでかすぎる。だが、これしか方法がない・・・。
「どうすれば・・・」
戦闘の主導権を一瞬でもあたしが握ればその隙をカバーできる。だけど奴はあたしの動きを全部見切っている節がある、ここは賭けるしかないか。
この戦いが始まって以降、初めて彼女から攻撃を仕掛けた。地面を強く蹴り、己が出せるスピードを最大限に発揮し肉薄する。
右の拳を振り上げ、リコ星人の顔面を殴る動作を見せた時、そいつが僅かに反応する様子が見えた。
───掛かった。
実際に攻撃をやったのは右の拳ではなく、膝蹴りで奴の腹部に深く食い込ませることに成功した。ようやく、キューカはこのリコ星人にまともなダメージを与えるのに成功したのだ。
しかし、ここで気を緩めるわけにはいかない。彼女は間髪入れず、掌にエネルギーの塊を作る。
「今までの、お返しだよ!!」
直後、極太のエネルギー波がリコ星人を包み込んだ。できる限りの力を籠め、放ったフルバーストを異常なタフさを誇るあのリコ星人でもまとも受ければ無事では済まないだろう。数秒後、地面に着弾したエネルギー波は強烈な閃光とともに空高く土煙が舞い上がる光景が見えた。
スカウターは先の戦闘で壊れて使い物にならなくなっているが、キューカはまだあのリコ星人が生きていることを確信した。
「嘘・・・」
言葉が出なかった。真正面からあたしの攻撃を当てた、当てた筈なのに奴は堪えている様子がない。少なくともかなりの威力だったはずだ、流石にこれはショックだな・・・。
だけど、諦めるわけにはいかない。
もはや打つ手無しと判断した彼女は、肉弾戦による決着を挑むことにした。既にキューカは戦う気力は無きに等しく、意地だけで戦っていた。負けたくないという彼女のプライドが唯一の原動力となったのだ。
「ハァ、ハァ・・・」
戦闘が一時的に終わる頃、彼女の姿はボロボロだった。至る所から出血し、傷がない場所を探す事が難しい程に彼女は傷ついていた。
もはや、彼女には勝ち目が無い。戦闘力に負け、パワーに負け、スピードに負け、技術に負け・・・、全てに於いてあのリコ星人に勝る点は無かった。このまま戦闘が続けば自分は確実に殺されるだろう、だがそれでもキューカはこの戦いを楽しんでいたのだ。現に、今も笑みを浮かべている。絶望的な状況下でも彼女はまだ勝利を諦めていない目をしていた。
「あたしも、まだまだだな・・・」
勝ち筋は見えない。奴の弱点も見つける事が出来ず、あたしの攻撃は一切効いている様子は無い。・・・負けたくはないけど、負けるかもな。
「ハハッ・・・グホッ!?」
奴は仕上げと言わんばかりに強烈なボディーブローを打ち込んできた。血反吐を撒き散らすあたしに、既に抵抗する余力すらも残っていない。頭を掴まれ、伸びたあたしに重い一撃を当て続けた。
「止めだ」
ここに来てようやく喋った奴は、ただ一言言うとあたしの首を絞める。なんとなく、分かっていた。いつか、自分がこうなる事を・・・。
あたしは主人公では無くただの一般人、いわばモブだ。だから、覚悟していた。あたしはコイツに、殺される。
命乞いをするつもりは無い、今まで散々殺してきたのだから当然の事だ。
───あぁ、死ぬのか・・・。
短い間だったけど、碌な人生では無かった。好きでも無い仕事をやらされ、仕方なく殺してきた。だからあたしに相応しい結末なのだろう。
意識が遠くなる。死が近づいてきたようだ、もし自分の願いが叶うとしたら、もっとギネと喋りたかったなぁ・・・。
今日の満月は、凄く綺麗だ
終わりません、まだ続きます。この話のどこかに次回へのネタバレがありますので探してみてはどうでしょうか?
今回は主人公がボコボコにされる回となりました。戦闘シーンはまだ不慣れなので若干おかしい点ががあると思いますが、楽しんでくれたのなら幸いです。
感想、評価ともによろしくお願いします。
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