自分なりの独自解釈を強く含む舞台となっております。アズールレーンの世界が舞台とはいえ、皆様との想像に大なり小なり差異が生まれると思いますが、その点は御容赦下さいませ。
人物の名前や性格、どうしてこんな状況になっているのか、などゆるく考えながら読んでいただければ幸いです。
雨だ。雨が降っている。降り注いでいる。雨が降り注ぐ中、2人を乗せたバイクが走っている。
「ちっ、クソッタレが...」
口悪く、男がハンドルを握りながら、1人で愚痴る。
「いいじゃん無事だし〜」
そして、愚痴に対して、男の背中の少し後ろから、気の抜けた感想が聞こえてくる。
「...呑気なヤツ。」
雨粒がヘルメットのシールドに付く。視界に雨粒がついては後ろに流れてゆく。
こんな日にバイクなんて走らせるもんじゃない。走らせるものでは無い事を、男は_
後ろに乗っている少女が蓮に声をかける。
「ねぇ、今コレ何処に向かってるの??」
「...わからん。」
「はァ?何それなんで決めてないの人間ってそんなアホだっけ??」
「うるっせェ仕方ないだろう!!お前も俺も追われてんだよ!!今は逃げるっきゃねぇ!!」
追われる理由の八割を担っている、後ろに乗るピュリファイアーは、そっぽを向いている。まるで、「ワタシノセイジャナイヨ」とでも言いたげに。
雨粒はずっと視界にまとわりつく。そろそろ鬱陶しいと思い始めるくらいには逃げ続けている。
それでも、蓮は、目的地の見えないバイクの旅を突き進むのだった。
セイレーン。突如として現れたソレらは、次々と、海と言う海を、街という街を侵略し、支配していった。死者負傷者の数は人類史史上最も多い数まで上り詰めていた。
こうした未曾有の驚異に立ち向かう為、世界中の国々全ての国際問題、国内問題を棚上げにし、「アズールレーン」を結成。侵略者セイレーンの技術を利用し、KAN-SENを開発。
フネの力を宿した彼女らと、アズールレーンの指揮官は、協力してセイレーンを徐々に撃退していき、遂に世界に仮初の平和が訪れた....
かのように見えた。
が。突如、その組織から、二大国、「重桜」と「鉄血」が離反。同時に2国は「レッドアクシズ」を結成、そしてセイレーン技術を元に人類の進化を測る「レッドアクシズ」に対し、人間の力でセイレーンに抗う「アズールレーン」の構図が出来上がっていた。
「あの災厄からもう8年か...」
白い軍服に身を包んだ女性が、机の上の写真たてに触れながら呟いた。
否、写真と呼ぶにはそれは大部分が焼失しすぎていた。焼け煤け、中央の学生服の女の子の顔はかすかに、両隣の人物は、顔すらわからないほどであった。
本当は、父親と、母親が写っているはずだったのに。
あのとき、何も出来なかった。焼かれ、蹂躙され、逃げることしかできなかった。
何の力もなかったのだ。
「皮肉だな。何が何だかわからなくなるくらいまで憎んでいるセイレーンの技術を使って、今この国で戦っているんだから。」
指揮官の証でもある、白い帽子を頭のツノに引っかからないように被り直した。
今は違う。無力じゃない。仲間がいる。同盟国もいる。武装だってある。闘う相手はわかっている。憎むべき相手もわかっている。守るべき民がいる。
それなのに_
『こいつは、「人」なんだよ!!俺よりも、お前よりも!!よっぽど!「人」なんだよ!!』
あの男の言葉は、やけに耳に残る。
あの男の目は、やけに脳裏に焼き付いている。
何が、「人」だ。
何が。何がわかる。セイレーンに全てを奪われた私の何が。
わかるって言うんだ。
「_官?指揮官??聞こえてる?」
「あ、ああ。摩耶か。ごめん。」
思考は、度々それに囚われる。いつの間にか目の前にいた
摩耶に気づくことができていなかった。
「考え中だったか?」
「ううん、大丈夫よ。」
「そう。じゃあ、報告をする。」
「あのセイレーンを庇った男は、現在、自動二輪車に乗って移動中。行先は、まだ掴めてない。」
「わかった。報告ありがとう。各母校に連絡をして、摩耶。その2人を発見次第報告、拘束するように、と。」
「......ってなって、今どこの母港に行ったって俺らは捕まってお前は分解されて解析に回されるか、それとも殺されるかだろうな。」
「はァ?じゃあどうするの?」
蓮とピュリファイアーが、誰もいないバス停で雨宿りをしながら作戦会議をしているところだった。
中央母港に務めていた蓮には、その指揮官であるツバメが、何をどうするか、どう行動するかなど、想像するのは容易いことであった。こちらがそれに対処できるかどうかについては別の難易度だが。
「あの女指揮官、ワタシに全く容赦ないもんね。」
「幼い頃、両親をセイレーン侵略で亡くされたんだとかよ。」
「やっぱお前のせいじゃねーの?」とピュリファイアーに視線をおくると、ピュリファイアーは「そんなの知ったこっちゃないね、」と肩をすくめる。
「戦争で人を亡くしたなんて言うけど、そんなのは戦争の常だし、人々が成してきた業じゃないか。ワタシらは関係ないと思うなァ〜」
そうは口で言うものの、少しだけ申し訳ないのか、雰囲気がしゅんとしている。
雨は降り続いている。が、あたりがもう暗くなっている。
このままバイクで動いていても、最悪、低体温症になって死ぬ。まだ捕捉されているようなことは無いと踏んで、ここで一夜明かそうとしているのだった。
(途中で食料確保のために店に寄ったけど...そっからバレるなんてことは多分ない...よな?)
ゴソゴソ、と袋から携帯食料と、飲料水を取り出して、隣のピュリファイアーに放ってやる。
「サンキュー!!」
早速封を破って口に運ぶピュリファイアー。
もっきゅもっきゅと食べる彼女に対して、蓮は封を破る手すら途中で止めて、何か考えているようだ。
「食べないの?」
「あ、いや。ひとつ行き先を考えてたんだ。」
ピュリファイアーの一言で現実に引き戻された蓮は、そう言いながら封を開け直す。
「へぇ、考えついたの?」
「ああ。多分、あの母港なら行っても大丈夫って保証でき...る訳じゃないけど、他に比べたら全然良い。」
「不安の残る言い方だなァ....」
壮年の、と言うには、些か歳を取りすぎだろうか。
顔にはシワがより、頭髪は白く。これには老人という表現の方がよっぽど合うだろう。ただ、この老人は、指揮官として今なお、勤めているのだが。
「指揮官、報告がある。」
覇気のある声が、ドアの開く音と共に執務室に響いた。空気の流れが変わり、部屋の中に漂う煙草の白煙が揺らめく。
「三笠か。どうした?」
「うむ。第一母校から連絡を受けてな。」
「ほぉ、こんな辺鄙な地にあるここにか。」
「と、言うよりかは、全母港への連絡だな。」
三笠は、一通の手紙を、老年の指揮官へ差し出した。
「こいつはどうやって届いたんだ?」と煙草を灰皿に置き、手紙を広げながら、三笠に問う。すると三笠は手元から十字型の紙のような物体を取り出す。
「シキガミが届けた。おそらく、第一母港にいる、赤城か加賀が飛ばしたものだろう。」
と、答えた。
「なるほどなぁ。電話か信号かで届けてくれりゃそっちのが早いのにな。そうじゃなくて、シキガミを使ったってことは...電波で傍受される可能性も考えたってことか...?」
手紙を開くと中には、こう書いてあった。
『先日 第一母港街に、一体のセイレーンが出現。市街地につき、一般市民への被害阻止と、目撃者数の抑制を考慮し、綾波と私で捕縛にあたるも、重桜第一母港勤務の男性メカニックがセイレーンへの協力をしたことで、捕縛は失敗。現在、自動二輪車で逃走を続けている。もし、そちらの母港で発見されるような事があれば、速やかに捕縛し、第一母港に報告されたし。』
「...なるほどな。セイレーンだったら電波傍受もありえるから、ってワケか。」
かさり、と手紙を読み終えて机に放る。
「しかし、指揮官。不思議に思わないか?セイレーンが逃げる。と表現するのだからそれはおそらく上位個体の人型セイレーンなのだろう。が、彼女らは神出鬼没。技術も未知のものを使っているハズだ。」
「ならば、彼女らの独壇場である海に逃げるのは確実である。なのに何故逃げないのか...ってことか?三笠よ。」
「ご名答だ。」
「...一考の価値アリ、だな。」
「うむ。そういうことだ。指揮官。」
「まぁ、そもそも...ココに来るかどうかはわからんがね。」
はぁ、とため息をつきながら、吐き出した分を補給するかのように、灰皿に置いてあった煙草を口にあてがった。
「そう、考えることを止めるのは惜しいぞ。もしかしたら彼らに会うかもしれん。命運などどう転ぶかわかったものではないからな。」
三笠は、指揮官の近くのソファに座り、そう言う。
「命運、ねぇ...」
吐き出したため息はやはり、白かった。
「..,で、そのエイイチ、っていうジジイのところに行こうっての?」
「ああ。英一指揮官以外の母港行ってすぐ解体ってのはないだろ。きっと。」
「不安だなァ根拠も無いし。」
はぁ〜あ、とため息をつく。
「いいだろ、それ以外に道はない。だろ?俺らで英一指揮官に俺らの境遇を説明する。それで、どうにかしてとりあえず、鉄血の国に行くんだ。」
「鉄血?」
何故、と、唐突に出てきた単語の意味を、彼女は問う。
「そうだ。まず、俺らが目指すのは、自由の国、『ユニオン』だ。そこでなら、俺も、お前も、きっと自由に生きられる。だからそこを目指す。目指すにあたり、ユニオンはアズールレーンの本拠地だ。お前は艤装を使えない。というか、船を使えない。そうだろ?」
ピュリファイアーは「まァね」と肩をすくめる。ワケありだ。
「だったらここから海に出てそのままユニオンまで渡るのは無謀だ。襲われでもしたら木っ端微塵だしな。」
「でもそれと鉄血になんの関係があんのさ。」
「だから、最短で目指すんじゃなくて、重桜のレッドアグシズとのパイプを利用して、どうにか鉄血国内に転がり込む。そっからは鉄血からロイヤルの国は目と鼻の先だ。で、ロイヤルに着いちまえばアズールレーン加盟国家だからな。そこからユニオンなんて楽勝だろう。だから、まず鉄血母港重桜支部である英一指揮官の母港へ行く。そこで運良く鉄血のKAN-SENと接触できれば多分国外に行けるってわけだ。」
そう、説明されたピュリファイアーは、またため息をついた。
「それってさァ運が良すぎない?上手くいくかな?」
どこか自信の無さげな目をしている彼女。いよいよ、人間っぽく見えてくるものだが、これでもセイレーンだ。確率の計算でもしてしまったのだろう。夜の影が深く顔に写りこむ。
「知らん。上手くいく、いかないじゃない。やるんだ。上手くいかなかったらそのときに考えればいい。」
と、蓮は、そう言うのだった。彼女はそれを聞いてしばらく目を丸くしていたが、やがて言い返した。
「...はァ、その考え方、いつか大変な目に遭うよ。きっと。」
「上等。何かをしたいんだったら、考えるより動なきゃいけねぇからな。」
「ふーん...?」
むしろ、コイツは本当に人間だろうか、と思い始めるピュリファイアーであった。
次回:アズールレーン-Philein- 1話「セイレーン拾った」
お楽しみに
神奈 蓮(22)
ピュリファイアーをバイクに乗せ、律儀にヘルメを被る重桜の人。本作品の主人公である。
ピュリファイアー(???)
蓮と一緒にバイクに乗っている。人類の敵、セイレーンだが、どうやらワケありのようだ。
春間 ツバメ(26)
どうやら両親をセイレーン侵攻で亡くしているらしい。さぞ、セイレーンを憎んでいることだろう。身体には、角や尻尾など、龍の特徴が強く身体に出ている。
摩耶(???)
高雄型重巡洋艦3番艦。鳥海と共にツバメ指揮官の秘書艦をつとめる。戦闘の腕は1級品。柔か、剛かで言えば、その太刀筋は剛に分類されるだろう。些か、剣速が速く見えるが。
上城 英一(67)
別の重桜母港の指揮官。レッドアグシズ共同母港でもあるので、鉄血艦の世話も見ている。よく煙草を吸う。手癖に近い。三笠とは長い付き合いで、お互い信頼し合っているように見られる。
三笠(???)
前弩級戦艦。今は一線から退いているが、その剣技、戦術、砲撃は曇ることを知らない。煙草は嫌とは思っていないが、身体の健康の為に、少しは遠慮して欲しいと内心に思っている。