アズールレーンPhilein   作:瀧本さん

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2話なのに上下に分ける無能を許して欲しい


2話「その手はなんの為にある 上」

轟!と、紅い機刀が雨粒を切り裂き、ピュリファイアーを襲う。

それを、彼女は受けることなく躱し、難を逃れた。

が、それでも攻撃の手は緩まるはずもなく、振り下ろしが続く。今度は艤装を使い、刀の軌道を逸らした。続く第3、第4の刃も身を捻り躱してゆく。その紅い機械の刀が振るわれる度、火花が散り、雨にかき消されながらも、地面や建物に傷跡を残してゆくのだった。

(思ったより遠慮がないなァ、建物への。)

ここは重桜の街だ。街を壊すような思い切った攻撃は、重桜のKAN-SEN達にはできない。

できないはずだが、綾波の斬撃は予想よりも、遥かに「それ」に構わないものだった。

(ま、どのみち、このままだとワタシのこと倒せないだろうから、どこかで大きい一撃を振るってくるはずなんだけど...)

ピュリファイアーは、綾波の斬撃に対し、カウンターを画策しているようであった。

(だんだん、動きも慣れてきたのです。避け方のクセもだいぶ掴めてきた...次の一刀で決めるです!!)

対して綾波は、ピュリファイアーの予想通り、必殺を次の一撃で決めるようであった。

互いが、跳んで間合いを取る。およそ10歩間。

 

一瞬の空白が生まれ、雨が地面を叩く音だけが流れる。

 

「はあああああああああっ!!!」

ここだ、とタイミングを読んだ綾波が、一気にピュリファイアーとの距離を詰める。

それは、斬撃ではなく、上空への蹴り上げ。

「!?」

咄嗟に腕を組んでガードをするピュリファイアー。しかし、その勢いは殺しきれず上空に打ち上げられる。そして跳躍しそれに追撃せんとする綾波。

だが。

「...ふふ、知ってるかい?アヤナミ。」

「空中では、防御が疎かになるって事をさァ!!」

打ち上げられたピュリファイアーは、セイレーン艤装を起動していた。大きな砲口が綾波を捉えている。

ここまでの展開を読んでいた。ということだ。

綾波、万事休すか。

否。それは違う。

綾波は不敵に笑う。

「ここなら、遠慮なくぶっ放せるのです!!」

「艤装、起動!! 最大火力、です!!」

自身のさらに上にいるピュリファイアーへ、艤装の砲口が火を吹く。

綾波は、考えた。ピュリファイアーの防御を崩すことは難しい。1歩踏み込んだ斬撃を繰り出さなければ、ダメージを負わせることはできないだろう、と。だがしかし、同時に、深く踏み込むことは、カウンターの危険も大きくするものであることを理解していた。カウンターをされてはいけない。

ではどうするか。地上では建物への損害は、最小限に抑えなければならない。カウンターをさせない。防御されては意味が無い。

いいや、逆だ。カウンターをさせない、と考えること自体が愚策。

考えを誘導するのだ。では、カウンターを誘えば、良いのだ。

カウンターが来る、とわかりきってさえいれば。

そうすれば、後の行動は、どうにでもコントロールが効く。

『お互いが、防御を疎かにする』という盤面を作って。

 

「チィッ!!」

ピュリファイアーが起動しかけていた砲口を引っ込め、その艤装を防御へ回す。下から迫り来る砲火をどうにか凌ぐ。

相手が「不安定な」防御をした瞬間を、綾波は見逃さなかった。

砲撃をした艤装を解除し、それを踏み台に、更に上空へと加速する。

「せいっ!!!」

「がッ........!?」

一閃がピュリファイアーをその艤装ごと切り裂く。

ピュリファイアーの左腕腕は、二の腕半ばで、切り裂かれたのだった。

 

 

 

(あああああああああぁぁぁッ!?クソッ!こんな腕1本ごときで!こんなに痛みを感じるなんて!!痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!)

ピュリファイアーは、その左腕を見る。鮮血が重力に従って雨と一緒に地面へ落ちてゆく。

普段のピュリファイアーならば、腕1本や2本はただの誤差だったろう。しかし、今のピュリファイアーは限りなくKAN-SENに近い身体だ。痛覚もある。そんな初めて味わった痛みに対して、彼女がとった行動は、「逃げる」という、およそ全ての生物に、原始的に共通する行動だった。

 

 

斬った。その確かな感触を手に、綾波は落下する。ピュリファイアーの追撃をしなくては、と、空中で身体を捻り、ピュリファイアーへ落下を早めようとしたとき、妙なことに思い当たった。

これまでのピュリファイアーとの戦いの事だ。

どの戦いでもピュリファイアーとの戦闘を行った際、必ず見られた行動が1つある、という。

「技術を解析させない」故、と言われている。

そう。自爆。本体の自爆だ。自爆をすることで、残骸を回収させず、情報の漏洩を防いでいるのではないか、というのが自爆に対する考え方だ。

今、腕が切り落とされた。この腕は「解析できる」状態だ。ならば、そういう仕掛けがあってもおかしくないのではないか。

「え」

綾波は気づいた。だが、遅すぎた。

空気を震わす程の爆発が起きた。その爆発源は、やはり、切り落とした「左腕」。技術の解析への対策として、自爆機構が組み込んであったのだ。綾波はその爆風に煽られ、空中での体勢を崩し、あらぬ方への地面へと墜落してしまった。

ぱらぱら、と元、何かであった残骸が降る。

直接、自爆に巻き込まれたわけではないので、比較的軽傷で済んだ綾波。だが、その爆発のすきにピュリファイアーは逃げ、姿をくらませてしまった。

「...指揮官、綾波です。ピュリファイアーと戦闘。左腕を切り落しダメージを与えましたが、左腕の自爆機構が作動し、巻き込まれたのです。軽傷で済んだのですが、ピュリファイアーにはそのすきに逃げられました。」

と、綾波は、報告した。

『そうか...報告ご苦労様。』

「...いえ、逃げられたかはまだわからないのです。」

綾波は、通信から届いた声に、追加の情報を報告する。

「血痕が、地面に残されているのです。今からそれを追うのです。」

その血痕は裏路地の方へと続いていた。

 

 

「ふむ。じゃあ、それを追って。一応待ち伏せには気をつけるように。」

そう言って、椅子に座っている、若い軍服の女性は通信を終えた。

「う〜ん、今回のセイレーン、なかなか興味深い動きをするね?指揮官。」

「ツバメでいいって。何度も言って...」

「ダメだよ指揮官。指揮官は指揮官だからね〜。」

青葉は左手のペンを、春間ツバメに向け、そう言う。

「ならせめてツバメ指揮官にして。私の名前は「指揮官」じゃあないもの...」

ふぅ〜と一息つく。

そして、同じ部屋にいる青葉に話しかけた。

「青葉、あなた、狩りをする動物についての資料は読んだことある?」

「ん〜...新聞記事作るときに1回読んだ...かな?」

「じゃあ知ってるかな。狩る側じゃなくて、狩られる側の知恵。」

そう言って、今度は指揮官が、青葉に人差し指を立てるのであった。

「??」

「多分、すぐにわかる。」

と、言ったすぐそばに、通信が入った。

『指揮官、血痕を見失ったのです。申し訳ないのです...』

「わかった。じゃあ、朝までしらみ潰しに市街地を捜索して。住民が活動し始める6時には捜索を止めて帰還するように。引き続き待ち伏せには気をつけるように。報告ご苦労さま。」

『了解なのです。』

そうして、通信を終えた後、ツバメ指揮官は言うのだった。

「やっぱりね....」

 

 

「なんとか、『鬼』は撒いたかな...?」

とっさに、血痕を囮に使い、自身はそれと違う方向に逃げるという、動物が行う「足跡を消す」方法の応用で、どうにか綾波からの追撃を免れた。

力尽きたかのように、裏路地の壁を背に、地面に座り込む。

表に比べれば、雨風はまだ凌げる。が、寒い。いつもの身体なら寒さなんてデータでしか知ることはなかっただろう。しかし今はKAN-SENに近い身体。初めて感じる「悪寒」を拭いきれないでいた。

「はぁ....はァっ...、」

悪いことには、身体が発熱していた。焼けるような、とまでは行かないが、意識が朦朧とする。発熱の原因すら思い当たる思考すらできない。

 

長い長い雨の音が続く。

どれほど時間が経っただろうか。寧ろ、意識が飛びきっていないのが奇跡だ。幸いにも、まだ綾波には、見つからないようだったが。

すると、音が聞こえた。幻聴か、と疑ったがそうではない。

確かに近づいて来る。

 

「ぅ...ぁ...」

寒い、寒い。ヒトに近いカラダは、こんなにも不便なのか。

左手の感触は...ない。寒さを感じることも、握ることも、伸ばすことも、叶わない。左手は、ない。

(何も思考できない...)

「ぁ...?」

 

「大丈夫か、立てるか?」

手が、差し伸べられた。

 

 

 

手を差し出した。目の前の少女を救う為に。

少女は弱々しくも、確かに俺の手を取った。

「おおっと?」

手を貸して立ち上がった、と思ったその瞬間に、ピュリファイアーは気を失ってしまった。彼女の全体重が、俺にかかる。

軽い。歪な軽さだ。その原因はおそらく、その切断されてしまった左腕。何かがまとわりついて、止血しているように見える。

今までの、機械を見てきた経験から、これも艤装の1種か、と予想を立てるが、見ただけではどうにもならない。

それに、彼女の身体がやけに冷たい。身体は冷たく、額は熱い。完全に雨ざらしによる風邪の症状だ。低体温症かもしれない。

ピュリファイアーを背負って、雨の降る道へ戻る。そして走る。

どうにか一刻でも早く、ピュリファイアーを雨風をしのげる場所へ連れてゆく為に。

 

 

 

 

「指揮官。もしかして、綾波がピュリファイアーを捕まえられないってわかってたの?」

「あくまで予想だけど、そうね。」

司令室の椅子にぐーんともたれかかるツバメ。

そうしてから、頭部のツノに引っかからないように指揮官帽を被り直す。

そう。指揮官は予測していた。この天候、戦場、互いの状態やetc...全てを読み取り、未来を見るかのように、この事態を予測していた。

「ま、予測してもピュリファイアーの行き先がわからないから、どうしようもなかったけれどね。」

 

「...話が少し変わるけどさ、指揮官。」

「ん?」

「よく指揮官が飛び出さなかったね。セイレーンのことすごく憎んでるから、飛び出してもおかしくなかった。」

何か特別な理由があるんでしょう?と迫る青葉。

しかし、ツバメはいたって冷静に返した。

「あの通報が入ったとき、見回りをしている綾波が1番近かった。それだけ。もし仮に、私が1番近かったなら、私がセイレーンを叩き斬ってるわ。」

「おおう...」

中々に物騒な返答が帰ってきて、少したじろぐ青葉。

「そ、そうだよねぇ指揮官。陸に上がったピュリファイアーなら余裕か〜。」

「でも、海では、私は力を発揮できないから。だから仲間を頼るのよ。」

(海なら!!!ね!!!!)

青葉は心の中でツッコミを入れる。

海では力を発揮できない、と言っているが、陸での力を、青葉は知っている。

指揮官についての新聞記事を書くにあたり、剣術訓練道場を覗いた際に。

高雄と、鬼怒と、摩耶の相手を同時にしていたことを。

そしてその3対1の構図で、いくら、艤装無し、木刀1本という条件下でも、ツバメが、彼女らと同等に立ち回るどころか、圧倒していたことを知っている。

海で戦えないのが残念なくらいだ。と青葉は思う。

一騎当千どころか、万でも億でも相手できそうだ。と、つい、誇張して、新聞記事に書いてしまうくらいには。

と、青葉はツバメを見るが、何故か心のここにあらず、というような目をしていた。

「...指揮官?」

「あ、ああ。もう上がっていいよ?青葉。」

ツバメの返答が、珍しく遅れた。

青葉は、何故心がここになかったのか、不思議に思い、少し首を傾げたが、

「ふーん...ま、こういう情報系の統制は、私や明石に投げても大丈夫だからね。お先に上がるよ〜」

と言って、軽い声で司令室から出て行くのだった。

 

 

1人残された指揮官は、また、椅子にもたれかかった。

 

 

 

がちゃり、と音を立ててドアが開かれる。一瞬、雨が地面を打つ音が、部屋に入り込み、ドアが閉じると同時に消失する。

蓮は、ピュリファイアーをおぶりながらそのまま靴を脱ぎ、家に入る。

安いアパートでもそれなりに暖房はある。冷えた体を温めるには良いだろう。

蓮は、ピュリファイアーをひとまずソファに寝かせた。そのまま、洗面所に行き、体を拭くためのタオルを手に取り、ピュリファイアーの元へ戻る。

彼はそのタオルで、ピュリファイアーの長い髪の毛につく水気を拭き取ってゆく。そうして、身体も同じように。

呼吸は乱れていない。等間隔で、胸が動いているのがわかる。

そして、蓮はその胸を見て、苦い顔をしながら、ある事に思い当たる。

「服が濡れてっから脱がさねぇと根本的な解決にならねぇな...」

実に苦い顔だ。百足を噛んだとしても、こんな顔にはならないだろう。

いくらセイレーンと言えど、いくら作り物の体と言えど、蓮にとって、女性の裸体を見ることは、酷く、恥ずかしいと思える事だった。

しかし、つべこべ言ってられる状況ではない。

蓮は臍を固め、その手で、ピュリファイアーの服を掴んだ。

濡れて脱がしにくいかと思われた白い服は、意外にも、すんなりと脱がすことができた。そのまま、あってないような黒いスパッツも下ろす。

そうして、服の下に広がる裸体を目にする蓮。

「っ.....」

思わず、息を乱した。ろくに呼吸もままらないあたり、いかに蓮が童貞か見て取れる。

しかし。

それは、あまりにも綺麗だった。

そして、それ故に、あまりに歪だった。

完全な調律のとれた身体。指先から、手首、胸にかけて足のつま先まで、白く美しい、陶磁器のような肌。

造られたからこそ、「完璧」な身体。

そして、その「完璧」から、程遠い程の、「左腕」の欠如。

そここそが、歪さの正体であった。

他の全てが完璧であるからこそ、左腕の欠落が、歪に想起されるのだ。

 

見とれている場合ではない、と蓮は思い直し、ピュリファイアーの身体を丁寧にタオルで拭いてゆく。

時折、タオル越しに、何やら非常に柔らかいものに触れる。触れる度に、蓮はたじろぐ。お陰で、普通に体を拭くだけはずがとても時間がかかっている蓮であった。

 

 

 

「...男物だが、まァ無いよりマシだろうな。ずぶ濡れた元の服着せる訳にもいかねェし。」

そして、彼は、自分の服をタンスから引っ張り出して、ピュリファイアーに着せてやった。勿論、パンツやブラジャー等、あるはずも無いモノを付けてやることはないようだが、来てる方がマシだろう。ピュリファイアーの為にも、蓮の精神衛生上の為にも。

「..,さて、また出かけるかね。」

そう言って、蓮は立ち上がる。玄関に置いてあるカギを2つとり、ヘルメットを引っ張り出して、リュックを背負って、サイフをポケットに突っ込んで、また、扉を開けて、部屋を出ていった。

 

 

こんな雨の降る日に、バイクなんて運転するものでは無い。と蓮は知っている。だが、彼はバイクを起動する。

1世代前のエンジンが唸りを上げ、重低音が響き、雨と曇天の空へ消えてゆく。

蓮は、雨合羽にヘルメット、リュック、といかにも珍妙な格好で、バイクに跨り、雨の街へ繰り出してゆくのだった。

「風邪を引いたら、鍋食って寝るのが1番だな。」

雨足は、少しだけ弱まり、空からは、天使のはしごが降りていた。




上下で分けるの下手くそ芸人なのは許して欲しい。
綾波:強い。戦闘力(剣術や体術、戦術総てを含めて)の高さは母港随一。
ピュリファイアー:セイレーン艤装による防御とバカ火力が持ち味。今回はカウンターで事を穏便に済まそうとしていたようだ。
指揮官:春間ツバメ:めっちゃ強い。身体には龍の特徴が現れている。戦闘力は凄まじい。陸、艤装無し、木刀1本という条件下で彼女に勝てるのは...いるのだろうか。好きなものは青葉の淹れる緑茶。嫌いなものはセイレーン。
青葉:司令室を任されるKAN-SENのうちの1人。新聞を書く。ずっと司令室にいるので同じくずっといる指揮官の好みのお茶の味を知っている。
司令室:オペレータールーム。中央母港全ての情報がここに集まる。各国に劣らないIT技術、で、データを管理している。指揮官がここで、前線への指示、街と海の監視をする。
アパート:蓮が済んでいるアパート。安い。蓮以外は住んでいない。
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