東方OO 無双転生編   作:ツボツボ

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第2話

ガンダムマイスターには様々な能力を求められる。ガンダムを始めとした火器の運用ならびに拳銃やナイフを使用した白兵技術、簡易な応急処置、交渉術やサバイバル技術、ガンダムの構造並びにメンテナンスのマニュアル等等紙媒体にして電話帳並みの厚さになる情報を学習しなければならず、習熟にかなり時間がかかる。特にガンダムの操縦は性能テストも含まれているので二千以上の項目をクリアさせられる。

要するにガンダムマイスターに休みなんてないのである。

 

 

「んっ、もう朝か」

 

 

ラグランジュ1にある資源衛星に擬装したドックの寝室で目が覚める。時刻はグリニッジ標準時で午前5時。四時間睡眠である。成長期はよく眠るべきだが、脳に刺激を与えて分泌物を多くする錠剤で強引に解決している。

 

 

――よく考えたら17なのに休日返上で働いてる私って児童憲章に引っかかるかも。まあ、厳密には違法組織だから法律が適用されない、か。

 

 

「どうでもいっか。さあ、お仕事お仕事」

 

 

ぴっちりしたノーマルスーツを着た霊夢は鼻歌交じりにブリッジに向かう。この宙を浮くふよふよ感が霊夢は大好きだ。まるで初めからこれを知っていたかのように、霊夢は無重力を自分の物にしていた。移動用のレバーは使わず、壁や天井を蹴って加速する。途中サポートメンバーとすれ違い、向こうが目を丸くして驚く。レバーを使わなければ三半規管が混乱してしまうのに、彼女はガス噴射も無しで角をすんなり曲がって人にぶつかりかけても直前に体を捻って避けてしまうのだ。

 

 

「あの人、ガンダムマイスターだよね」

「霊夢・スカーレット。四人目だとさ」

「あんな可憐な少女が戦うのか」

 

 

サポートメンバーからちらほら噂をされても我関せず、霊夢は巨大な機体が収まっているブリッジに辿り着く。

そこには一足先にPDAを操作している壮年の男性がいた。イアン・バスティ、ガンダムの補修から開発まで手広く手掛ける技術屋だ。

 

 

「おお、待っとったぞ霊夢」

「おはよー、イアン。今日は何のテスト?」

「指定コースを指定時間で一周するテストだ。途中でペイント弾を撃ってくるターゲットがいる。被弾すれば減点、ブランクをターゲットに当てれば加点だ」

「シミュレーションとの差を計測したいのね」

「仮想と実機は別物だ。ちょっとした違和感が致命傷になるなんざしょっちゅうだからな。できるだけ調整せんといかん」

「わかったわ。それじゃあ、ドミナ。いきましょか」

 

 

鮮やかな朱色を基調としたガンダムドミナのコックピットに霊夢は飛び乗る。全長17.5メートル、重量58.2トンのこの機体は多対一の中近距離戦闘を想定している。腰をガードする重層装甲――スカートには十基のGNファンネルとGNファング、一対のビームライフルを搭載し、袖に当たる所にビームサーベルを隠している。エクシアが剣士とするならドミナは狩人だ。名前の通り猟犬で獲物の逃げ場を誘導し、圧倒的な手数で封殺するスタイルは霊夢にとても馴染んでいた。

 

 

『ハッチオープン。カタパルト射出モードに移行しますです』

「リポーズ解除。……ミレイナ・ヴァスティ。アンタ、まだ八歳よね。なんで管制室にいるの?」

『パパにお願いしたらやらせてくれたのですよ。いってらっしゃいですぅ』

「ミレイナとイアンは後でリンダさんと説教ね」

『お姉さま、ひどい』

『待て。わしも悪いのか!?』

「ガキに隔壁開けさせるとか馬鹿なの?死ぬの?一度イアンの頭を整備する必要があるわね」

『わ、悪かった。頼むから嫁には』

「ドミナ、出るわ」

 

 

背中のGNドライブが励起し、緑色の光の粒子が噴き出す。カタパルトの初期加速を得たドミナは莫大な推進力で広大無辺の闇を突き進む。淑やかに輝く星の海。丸く雄大な水の星。遍く照らす光の星。息を飲む美しい八海を紅白の機人が悠々と泳ぐ。

 

 

「最大加速度に到達。トレーニングミッション、ファーストフェイズ終了。セカンドフェイズに移行するわ」

 

 

指定コースを無駄なく疾走する。死角から攻撃するターゲットを撃破しながら時に鋭角に曲がり、資源衛星をS字にかいくぐったりするこのルートは初心者泣かせの登竜門であり、幾多のマイスター候補を予備役に蹴落としてきた。ガンダムに乗り始めて一ヶ月にもならない彼女には手も足もでまいとプトレマイオスチームの誰もが予想していた。

だが、霊夢の天才的な飲み込みの良さは常識を軽々と打ち破る。すいすいと暴れる衛星群を避け進み、衛星の影から狙撃してくるターゲットを止まらずに迎撃し、後ろに目があるみたいに後背の奇襲にも対応して返す刀で反撃する。碌に視認もせず一撃で撃ち抜く化け物じみた精度も加えて、次々と端末に送信される非常識な情報にイアンは舌を巻く。

 

 

「全く無茶苦茶な奴だ。ドミナが霊夢に振り回されてやがる」

 

 

霊夢の尋常ではない反射行動にドミナへの反映がミリ秒スケールで遅れていた。ターゲットの銃座が動いた途端に霊夢は察知して引き金を弾いている。目視だけでは説明できない、天性の直感で空間を見下ろしているのだ。

 

 

『セカンドフェイズ終了。ラストフェイズ開始。ドックに帰還します』

 

 

淡々とこなした霊夢のスコアはトータル446ポイント。平均90ポイントを大きく上回り、かつてアレルヤが打ち立てた398ポイントを突き放して首位に躍り出た。被弾数0、全ターゲット一撃破壊、コース逸脱率0.16パーセントがハイスコアに直結したのだ。

イアンが難しい顔をしていると、ティエリアが挨拶をしてきた。

 

 

「イアン・ヴァスティ、何かあったのですか」

「いや、これを見てくれ。どう思う」

 

 

霊夢のパラメータを見渡したティエリアは目を見開く。

 

 

「彼女は本当に人間なのか」

「わしが知りたい所だ。それに機体の反応具合からまだ延びしろがあるらしい」

「ではソフト(マイスター)よりもハード(機体性能)を向上させるべきですね。システムの見直しを」

「わかっとる。だが霊夢の動きはかなりアクロバティックだ。ロールアウトしたばかりのドミナをすぐには改良できんし、まず情報と資金が足りん」

 

 

隔壁が開いてドミナが格納される。コックピットから「よっこらしょ」と降り立った赤いマイスターはブリッジが安全になったのを確認してヘルメットを外した。一房に束ねていた黒髪が無重力空間に零れる。ちなみにミレイナは母リンダに回収されてしこたま怒られている。

 

 

「あら、ティエリアじゃない」

「霊夢・スカーレット。君の訓練データを閲覧させてもらった。率直に言って、君の技能は賞賛に値するが乱暴に過ぎる。ガンダムへの労りが感じられない」

「ああ、やっぱり。多分ドミナの関節に疲労がいったかも」

「そうだ。あの動きでドミナを酷使し続けたらいずれ空中分解しちまうぞ」

 

 

ティエリアはわざと辛口のコメントを述べたが、霊夢は苛立ちのいもなく評論を受け入れた。どんな機体にも性能限界はある。それを知った上で経戦能力を磨いていくのがマイスターの仕事であり、機体を自壊させるようなマイスターは三流の名を拭えない。

 

 

「構造上の限界なら仕方ないわ。でもイアン。関節は新素材に期待するとして、反応誤差の課題なら答えを提示できるわよ」

「ほう、聞かせてもらおうか」

「これよ。暇を見て大まか構築してみたんだけど、どうかしら」

 

 

ポケットから取り出したデータスティックをイアンに手渡す。端末に接続すると、幾つものモジュール群がウィンドウに表示される。

 

 

「これはまさか、自己学習プログラム!?」

「操縦者から僅かに漏れ出る脳量子波から反射パターンを作成して機体との反応誤差を検出、プログラムに反映して最適化。使えば使うほど自分に馴染むオリジナルの完成よ。欠点は悪い癖まで学習しちゃう所だけど」

 

 

事も無げに言うが、実際こんな高度なプログラムを自力で作成しろと言われたらイアンやティエリアにはお手上げだ。脳量子波に関しては宇宙物理学と大脳生理学の知識が絶対で、整備士や兵士には縁がない分野だからだ。

 

 

「一体いつの間に?一朝一夕には作れんはずだ」

「マイスターに選ばれてからちょくちょくとね。物理実験用マニピュレータに使われてる機械言語を流用しているから、このままじゃ使えないわよ」

 

 

霊夢は顔色一つ変えない。近い未来がなんとなく『視えて』しまう彼女にとって予期できないトラブルも対策できる範疇だ。ソレスタルビーイングの接触も避けようと思えば避けられたのだが、さらなる厄介事が飛びかかってくる気がしたので霊夢は敢えて誘いに乗ったのだ。それにソレスタルビーイングには特大のびっくり箱と同じ気配がした。乗りかかったら最後まで。霊夢はとことん本気で箱を開け続ける。箱の核心を見る為なら、多少強引にでも障害となるリボンは取り払うべきだろう。霊夢ののほほんとした表情の裏では無意識にここまで考えていたが、霊夢は生来あまり喋らないし、仮に自分の心情を説明できるとしても、面倒くさいから説明しないだろう。霊夢が大学で不思議と言われていた一端がここにあった。

 

 

「驚きも越すと呆れちまうな。わしらは幸運だ。霊夢が味方で」

「この学習プログラムはヴェーダに報告したのか」

「はあ?ヴェーダに教えてあげる義理はないわ」

「何だと!?」

「考えてもみなさいよ。誰が覗いてるかもわかんないのに、秘匿技術を入力できる訳ないでしょ。唯でさえ太陽炉が機密漏洩してる可能性さえあるのよ」

 

 

イアンはともかく、ティエリアはクソ真面目で殊ヴェーダになると親を侮辱されたかのように睨んでくる。

 

 

「それは有り得ない。太陽炉の設計図はレベル7の秘匿領域だ。誰も」

「誰も閲覧不可能か。答えは『いるかもしれない』よ。勿論根拠はあるわ。エクシアの実体剣GNソード、あれってGNフィールドを鱠みたいに斬れるわよね。私達が二年後に相手する国家群にフィールド張れる技術はないに等しい。生産性のない武装組織に無駄金は使えないんだから、本来低コストで使い勝手のいいビームサーベルだけ用意すればいい。なら、なんでイオ爺がそんな武装をわざわざ用意したのか、考えた事はある?」

「そ、それは」

 

 

察しの良いティエリアだ。霊夢が恐れている可能性に気づいたのだろう。口ごもるティエリアに代わってイアンが答えた。

 

 

「対ガンダム戦を想定しているためだ」

「そうね。だけど、あのヴェーダを開発したイオ爺の事だから、太陽炉に安全装置を取り付けてるはずよ。裏切り者の太陽炉を無力化させるような仕掛けをね。じゃあ、ティエリア。なんで実体剣があるの」

 

 

ティエリアには心当たりがある『安全装置』に、どうにか平静を装って顔を引き締めた。

 

 

「……考えたくもないが、安全装置が無効になった場合をイオリア・シュヘンベルクは予想していると思う」

「そうよね。つまり、イオ爺は太陽炉を盗み出して尚且つ安全装置を潰せるプロメテウスが現れると考えてるの。かなり悲観的な男の人ね。よっぽど人間不信だったのかしら」

 

 

イアンとティエリアは閉口した。ゼウスを騙して天上の火を盗み、人間に火を与えた神、プロメテウス。なんて皮肉なのだろう。否定できる材料もなかった。

 

 

「脅しすぎたわね。でも、これ位想定しておいていい加減よ。イオリア計画はゴルゴダの坂。簡単には前に進めない」

「だが僕達はソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ」

「武力を以て変革を促し、罪を背負うのが俺達の役目か」

「そう。イオリアの願いがどこにあるのか気づかなければならない。だから」

 

 

ぐ〜。

 

 

霊夢のお腹が鳴ってしまった。朝から食べずに訓練したせいだ。育ち盛りでも女の子。気まずい。霊夢はぽっと顔を赤らめ、イアンは肩を震わせて俯いた。ティエリアはさっと顔を逸らした。

 

 

「朝ご飯を食べに行くわ。ハロ、メンテよろしく」

「リョーカイ、リョーカイ」

 

 

お茶を濁していこうとする霊夢にティエリアは待ったを言えなかった。彼女の後ろ姿が消えてから、ティエリアはため息をついた。

 

 

「僕たちの認識は甘かったみたいだ」

「まあ、知るは一時の恥って奴だ。わしだってヴェーダが悪用される可能性なんざこれっぽっちも思いつかなかった。霊夢の発想は一体どこからくるんだか」

「ヴェーダなしで計画を遂行するのは不可能だ。それに、ガンダムのオペレーションシステムにも密接にリンクしている。霊夢の指摘はそのままソレスタルビーイングの崩壊を意味している。そんな重大な欠陥にこの僕が今まで気づけなかった」

 

 

 見るからに落ち込んでいるティエリアに、存外表情に富んでいるのだな、とイアンは関心していた。冷徹な性格もアイデンティティーの根幹を揺るがす想定に揺さぶられているに違いない。

 

 

「せめてヴェーダと独立したOSは構築しておくべきだな。さすがにミッションプランの予測は万一の時、スメラギに任せるしかないぞ」

「スメラギ=李=ノリエガの戦術予報は高い水準をマークしているが、それは軍事的な側面しかカバーできない。紛争根絶の戦略にはヴェーダの情報収集能力が不可欠だ。僕にはヴェーダに取って代わる有効な代案をうまく提示できない」

「まだ実行してもいないんだ。あせらずじっくり考えればいいのさ」

 

 

 突きつけられた難問に眉根を寄せるティエリアを宥め、去り際に一言残していった。

 

 

「ティエリア。お前さんにいつか言っておこうと思っていたがな。あまり肩肘を張るな」

「僕にそういうつもりはありません」

「使命に全力で奉仕するのは天使だけで十分だ。人間常に緊張していたら体も心も持たん」

「お気遣いは無用です。では失礼させてもらう」

 

 

 ティエリアのつんけんした物言いは今に始まった事ではない。イアンは彼の言葉の端々に悔しさが滲んでいたように思えた。誰よりもヴェーダを知り、ソレスタルビーイングに献身していると自負しているのに、つい一か月前に入ってきた少女に重大な危険を指摘されたのだ。よく理性を強くあってくれた。もし感情に任せて言い返したら、あの霊夢の事だ、さらに徹底的に言い負かしてしまうだろう。

後でティエリアをどうフォローしようか。

人間関係の機微に敏くなってしまい、どうも年をくったな、とぎこちなく笑ってしまう老技術士であった。

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