ヤモシ「腹減ったし…ちょっと行ってくる…。」
あぐらをかいて座っていたこの大男はそう言って立ち上がった。
彼の名はヤモシ、筋肉こそあまり大きいとは言えない体だが、
平均身長160㎝代のサダラ人の中でも群を抜いて大きく、2mは超えている。
小高い丘の上からイカパス人の集会を眺めていたヤモシは、
ノソノソと気怠そうに下って行き出した。
ホレソ「おい、ちょっと待てよ!俺も行くぜぇ〜!何人狩れるか勝負しようぜ!」
「お、おい。あれって!」
群衆の中の誰かが丘の方を指差している。
声に気がついた者が一斉に丘の方を見て、再びあの日の恐怖を思い出した。
「うわぁぁ!だ、ダイオウ様ぁ!!サダラが!サダラ人がこっちに向かって来ます!!」
アオリ達3人に、戦士達だけが許された伝統の刺青を彫り終えたところだった。
クラァ「ほぅ、タイミングが良いのか悪いのかわからんな。空気の読めん猿め。」
クラァの苛立ちは一気に周りをピリつかせた。
近くで見ていたケーンに顎で指示を出す。
ケーン「久しぶりの登場だぜぇ。グレードアップした俺様のウォーミングアップにまずは間抜け猿2匹のお仕置きの時間だぜ。お前達3人はそこで見ててな!」
ケーンはこの数ヶ月ひたすら鍛錬を続けていた。
達人と呼ばれる程の領域にまで達し、技、力共に数ヶ月前とは別人のようになっていた。
サダラ人2人が村の入り口に入る寸前の所でケーンが立ちはだかる。
ケーン「おい、猿共。わざわ『ガハッ!!!』
言いかけていたところをヤモシの蹴りが腹に入る。
ホレソ「なんだお前ぇ?気持ち悪ぃな。1番に死にてぇのか?」
ヤモシ「‥。お前、弱い。」
呼吸がうまく出来ず、うずくまっているケーンの頭をホレソが踏みつけようとした。
グシャ!!
っと嫌な音を立てて潰れた脳みそが辺り一面に散っている。と思ったが、
ホレソの足元にはぽっかりと穴の空いた地面があった。
寸前の所で回避したケーンは少し警戒したように距離を取った。
ケーン「てめぇ‥不意打ちとは陰気なヤツめ。」
ホレソ「お!お前なかなかやるなぁ、よし俺が相手してやるぜぇ」
ケーン「舐められたもんだぜ、まぁいいまずはてめぇからぶっ潰してやるぜぇ!」
ホレソは完全にみくびり、過信していた事にすぐに気がつく。
勢いよく飛びかかって来た相手が、自分の想定していた以上の速さで詰めて来ていた。
まばたきをしたほんの一瞬の隙に、左頬に鋭い痛みが襲いかかり
数m後方に吹き飛ばされていた。
砂埃の中を口を拭いながら出て来た、ホレソ。
ホレソ「はっはぁ〜!!覚悟は出来てんだろぉなあぁ〜??ぶっ殺してやる!!」
戦闘民族の殺気は肌がピリつく程凄まじく、一気に緊張感が増す。
ドンッ!!と地面を蹴る音のした後
両者は力比べをするように手を掴み合っている。
ホレソがケーンの脇腹目掛け膝蹴りを入れようとするが、ケーンも膝を立て防ぎ、
頭突きをホレソの顔面に食らわせた。
鈍い音と共に折れた歯が地面に落ちる。
口と鼻から血を流していたホレソは咄嗟に手で押さえ顔面が歪む
その隙にふくらはぎに強烈な蹴りを入れ膝をつかせた。
この蹴りで完全に骨折し、苦悶の表情のホレソは顔色が一気に悪くなる。
興奮状態のケーンは、間髪入れずにとどめの手刀で首を切断しにかかろうと勢いよく振りおろした。
が、首に当たる寸前の所で手が止まる。
止めたのではなく、止まった。
ケーンは背後から今まで感じた事のない殺気に襲われ金縛りにあってしまう。
あまりにも凄まじ過ぎる殺気は本能に直接語りかけてきた
『死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。』
体は小刻みに震えだし、寒気がするのに体中から汗が吹き出してきた。
目の前には満身創痍で立ち上がる事が出来ないホレソが嫌な笑い声をあげている。
ホレソ「ヒヒッ!て、てめぇ‥はぁ、はぁ。‥死んだな。ちくしょう…足の骨が折れてやがる‥。あばよ!やれぇ!!ヤモシぃぃ!!」
ガシィ!!
クラァ「惨めな弟よ。また命拾いしたな。」