すみません、一味ありませんか? 作:アナタ
二食目
「店員さん店員さん」
「分かってますよ。はい、これ」
「すみません、いつもありがとうございます」
彼はそれから頻繁にウチにくるようになった。
もうすっかり常連さんの仲間入りだ。
おかげで私のポケットには一味が常備される事となったのは運命だったのかもしれない。
.......まぁこれで厨房に行かなくて良くなったのでお母さんからの冷やかしは受けなくてすむんだけど。
何というか唐津くんが来るのはいつも昼間から結構ズレた時間に来るのでこの時間帯は割と暇なのだ。
何を言いたいのかと言うとお母さんがどうせ暇なんだから、と決まって唐津くんが来ると貸し出されるようになったという事。
いつから「ましろうどん」はキャバクラになったのだろうか。
そのおかげで格段にお母さんからの冷やかしは減ったのだけどその代わりこう、むず痒い視線を背中に良く感じるようになった。
うん、うん.......気にしたら負けだと思ってる。
「それで今日のオーダーは決まりましたか」
「うーん、そうだね.......」
唐津くんは本当に楽しそうにオーダーを選ぶ。
見ているこっちが気恥しいぐらいだ。
何というか唐津くんは確かにうどんが好きらしいけど、特別好きという訳でもないらしい。
実際に他の食べ物の話をする時だって同じような顔をしているから唐津くんは感情が顔に出やすいのだと思う。
こういうのはもっと顔に出にくい人だと思っていたのに、やっぱりこうやって話したりしてみないと人って分からないんだなって。
よし決めた、と唐津くんはメニューを置いた。
「今日はかき揚げうどんにしようと思う」
「かき揚げうどんですね、わかりま.......」
こ、この気配はっ!?
―――
「たのもー」
気の抜けた声が店の中によく響いた。
ん?この声は.......
「みさきせんぱーいぃーーーーーー!」
物凄い勢いで小さい店員さんがすっ飛んで言った。
比喩じゃなくて本当に吹っ飛んで行った。
まるでグラシュを起動したみたいだった。
どうやら小さい店員さんは初速の速いスピーダーのようだ、いやスピーダーなのに初速が速いのは可笑しいか。
ならファイターかな?
だって今も凄いインファイトしてるし。
「こんちには、みさき先輩」
「おぉ?唐津くんじゃん」
「え、みさき先輩と唐津くんは知り合いだったんですか?」
唐突にインファイトは終了した。
席に座る僕を見つけたみさき先輩が声を掛けてくる、それに合わせて戸惑った顔で小さい店員さんもこっちを見てくる。
「そうですね、主人とペットの間柄といいますか」
「んー、確かにそうだったかにゃー」
「えぇっ!?お二人はそういう関係だったんですか!?」
「物覚えの悪い僕でもあの時の事は忘れないよ。だって僕の買ったクレープをあんなに穴が開くほど見つめられちゃもう渡すしかないじゃないですか」
「あははー、でも仕方が無いよね。あの時はものすっごくお腹空いてる時に目の前で美味しそうなクレープが歩いてたんだもん。見ない方が失礼だよねー」
丁度休日の時間があった時に行列が出来るほど人気があるクレープ屋さんに行ってみようって唐突に思い付いたのはいいんだけど、行ったら行ったで物凄い行列が出来てて結局買えたのは並び初めて1時間後だったんだ。
僕が買ったのはストロベリーマウンテンという山のようなイチゴに生クリームとカスタードを加えたシンプルだからこそ普通に美味しいメジャーな組み合わせのクレープ。
多分その時僕はだらしない顔をしていたんじゃないかなって思う。
さぁ食べようって思った時だ、何だか視線を感じてそっちを見てみれば僕を凝視する人がいた訳で。
どうにもその視線が気になって僕は、僕を凝視する人まぁみさき先輩に話し掛けたんだ。
「どうかしましたか?」
「..............」
「?」
話しかけても返事がなかったから僕は首を傾げたけどよく見れば何だか手の方を見てるような気がして僕はクレープを上に持ち上げてみた。
「.......」
「.......」
下に下ろす。
視線も降りてくる。
空中で円を書くように回す。
視線も円を書くようにそれを追う。
「あの、食べますか?」
「食べるっ!?」
「まぁそんな感じで僕のクレープはみさき先輩に食べられちゃったって訳だよ」
「いやー、面目ない面目ない」
「相変わらずですね、みさき先輩は.......」
何処か呆れた目を向けながらも小さな店員さんは優しい顔でみさき先輩を見ている。
腕に抱き着きながら。
「でもでもっ、私そんなみさき先輩が大好きですよ?」
「はいはい。ありがとねー」
「あーん、みさき先輩のいけずー」
小さい店員さんがみさき先輩に飛びつくが寸のところでかわさらる。
再び飛び付く。
かわされる。
飛び付く。
かわされる。
飛び付く方もさる事ながら回避してる方もなんだか手馴れてる気がするのは気の所為だろうか。
何だか僕はお邪魔なような気が。
2人は仲がいいんだね、けどそれより。
「あの店員さん、僕のかき揚げうどんは?」
「あ」
――――――
「かき揚げうどん2人前になりますっ!」
「ん、ありがとうございます」
「まってましたっ!」
待ちに待ったかき揚げうどん。
うよう曲折このかき揚げうどんが運ばれて来るまでに色々あったがこうして目の前にあるのを見るとごくりと喉がなるほど食欲がそそられる。
はい、どうぞと小さい店員さんに一味を手渡される。
うんこれこれ。
サッサ、と八味を振り掛けて出来上がり。
「相変わらずそれやってるんだ」
「そうですね、基本的になんにでも使いますから。オムライスにもラーメンにも.......白米にも」
「白米っ!?」
「.......綺麗ですよ?」
「綺麗って何、美味しいって言わない辺り作為的なものを感じる!?」
「ははは、普通に美味しいですから」
少し赤っぽくなったがこれで僕のかき揚げうどんは完成だ。
うん、うん。
相変わらず僕はこのお店の麺は本当に美味しい。
ここまでは分かり切っていた事だけど問題はこのメインとも言えるかき揚げ。
スーパーやコンビニでも見掛ける何処にでも有りそうなかき揚げだけど、カレーうどんの事もあり期待している自分がいる。
いざ、サクッと気持ち良いぐらいにサックサクだ。
.......やっぱりこのかき揚げも手作りだ。
そこまで甘くはないけどしつこくない程度に甘く、これもまた汁との相性が抜群にいい。
麺と一緒にかき揚げを食べ、そしてまた食べる。
うん.......うんこれは美味しい。
「.......あ」
気が付けばかき揚げは無くなっていた。
これには僕も苦笑い。
何だか久しぶりに食べる事に夢中になっていてかき揚げが無くなったことにすら気が付かなかったようだ。
隣を見れば幸せそうにうどんを食べているみさき先輩、でも何だか不思議そうにうどんを見詰めている。
あぁ、分かりますよ先輩。
「先輩も気が付いたらかき揚げが無くなってた口ですか?」
「うん、そうなの。可笑しいよね、1口食べただけなのにかき揚げが消えたんだよ。もうこれは事件だね、密室で行われた完全犯罪だよコレは」
「うん、よく分かんないけどびっくりしたってはよく分かりました」
要するによく分かってない事だ。
「にしてもお二人とも凄い食べっぷりで私も嬉しくなってきちゃいました」
「あれ、真白まだいたんだ」
「何気にみさき先輩が酷いっ!?でも好きです!」
本当に仲がいいなぁ。
けど何だろう、何かが引っ掛かるような.......あぁそうだ。
「そう言えばみさき先輩」
「何かにゃー?」
「確か先輩ってうどんきら.......」
「はいストーップ」
「みさき先輩?」
口を塞がれた俺もそうだけど小さい店員さんも不思議そうにみさき先輩を見詰める。
へらへらと笑ってた先輩がだってちょっとだけ真面目な顔をしていたから。
みさき先輩と目が合う。
うん、うん。
納得してくれたか、といったかのように先輩は頷いた。
まぁ全然分かってないんだけどね。
「あー!なんかずるいです、アイコンタクトで意思疎通とか私でもやった事ないのに!」
「ざんねーん。真白はまだみさきちゃんLvが足りてません、レベリング頑張って!」
「もうカンストですこれ以上上がりませんよぉ.......」
「よく分からないですけど小さい店員さん元気だして?」
「小さいって言わないでっ!」
お、怒られた。
それを笑いながら楽しそうに僕と小さい店員さんを見る先輩。
うん、まぁたまにはこういうのもいいかな。
オリ主
趣味は食い歩き。
いつか都会に行って沢山の食べ物を食べ歩きしたいと思ってる。
食べ歩き時のみさき先輩との遭遇率はかなり高い。
鳶沢みさき
胃袋ブラックホール系女子。
基本おちゃらけてボケているがツッコミもこなせるハイブリット。
基礎スペックは恐ろしく高い。
主人公には得ずけされた関係。
食べ歩きに同行する事が多い、なおオリ主は財布な模様。
有坂真白
みさき先輩大好きちゅっちゅ。