シャドーボーダーのトレーニング室。そこには、一人体を休まずに鍛えている若者がいた。
それは、藤丸立香(20歳)だ。次のクリプターたちによる襲撃に備えて、特訓をしている。
そんな彼を気遣う後輩がいる。
「先輩、そろそろ休まれては如何でしょうか?」
彼女の名はマシュ・キリエライトだ。
藤丸の大切な後輩である彼女は、無心に体を鍛えている藤丸にもう一度声をかける。
「先輩、そろそろ休憩に」
「あぁ、もう少ししたらな。」
「もう三時間は続けてますよね?」
「何?……本当だ。少し休憩しよう。」
藤丸はマシュに渡されたタオルを受け取ると、それで体についた汗を拭いた。
そして、彼は黙ったまま虚空を眺めていた、
すると、彼らが現在乗っている装甲車=シャドーボーダーが大きく揺れた。
「きゃっ!?」
「敵……では無いようだが、何が起きた!?」
藤丸とマシュは管制室へ走った。
すると、シャドーボーダーが海に突入してしまったことに気付いた。
「藤丸!手伝ってくれぇ!」
そう叫んだのは、シャドーボーダーの運転係のムニエルだ。
彼はカルデアの中では、藤丸に歩み寄ってくれる数少ない人間の一人だ。
「分かった!」
藤丸は、ムニエルの隣に座りシャドーボーダーの復帰の操作を試みる。
しかし、彼らの尽力叶わず陸地が中々見つからない。
すると、彼らの後ろからも声が聞こえた。
「どういう状況だ、これは!?」
「ゴルドルフ所長!シャドーボーダーが海に沈没してしまいそうなんだ!!」
「何だと!?陸地は見つからないのか!?」
「見つかってたら、今頃その方角に舵を切ってるぜ、オッサン!」
藤丸とムニエルを指揮するのは、カルデアに着任したてのゴルドルフ新所長だ。
藤丸は彼を「所長」と呼び、ムニエルは「オッサン」と呼んでいる。
暫くしていると、マシュがカルデアのサーヴァントの一人・ダヴィンチちゃんを連れて
管制室に来た。
「不味い、この船はあと一時間で沈没してしまう!」
藤丸とムニエルは更に速いペースで、シャドーボーダーを浮上させることを目的とした作業を始めた。
すると、二人はカルデアに通信が来ていることに気付いた。
「誰かから、通信だ!」
「奴らじゃないだろうな?」
「ミスター藤丸にミスタームニエル。解析するんだ。」
カルデアのサーヴァントの一人である、シャーロック・ホームズに指示された二人は通信の解析に取りかかった。
「シーキューシーキュー。もしもし、こちら彷徨海船港」
送り主は女の声で、「彷徨海」を名乗った。
「彷徨海…?」
藤丸が、聞いたこと無い単語を目の当たりにして首を傾げているとゴルドルフ所長が叫ぶ。
「彷徨海というのは、あの時計塔やアトラス院と並ぶ魔術の総本山の一つではないか!?よし、通信を続けて我々を助けて貰おう!!」
「でも、それは何処に!?」
ムニエルが必死にモニターで彷徨海の場所をチェックしていると、スピーカーから声が。
「あっ、そちらには見えていないのね?ちょっと待ってね。」
女がそう言うと、シャドーボーダーの目の前に大きく尖った岩山のような物体が海から現れた。
「デカァァァ!?」
「私の名はシオン。ようこそ、彷徨海へ!!」
数分後、藤丸たちは彷徨海の港に着きムニエルと少数のサーヴァントに留守番させた。
そして、そこで彼らは広いホールのような場所だ。
「広ぇぇぇ!」
まるで秘密基地を構える組織に入りたての隊員みたいに、藤丸が叫んでいると何処から足音が聞こえた。
そして、現れたのは紫色の服にツインテールそして白いスカートを履いた女だ。
「私が先ほど通信したシオンです。貴方たちがカルデアですね。ここまでは私の計算通りですね。あれ?もう一人は?」
シオンが藤丸の不在に首を傾げていると、足元から声が挙げられた。
「なんと純白で美しいんだ…」
藤丸はシオンのスタイルと美貌に、鼻の下を延ばしていた。
そのことに気付いたシオンは顔をトマトのように赤らめて、甲高い声で叫んだ。
「イヤァァァ!!」
「グフフフ……リツカちゃんもっこりぃぃ!どう、シオンさん?偉大でしょ?偉大でしょ!?」
藤丸は自慢げに下半身を、シオンに見せ付ける。
この完全なるセクハラに、抗議を挙げたのは
「この……もっこり魔術師がぁぁぁ!!!」
藤丸の魔道書ことアークミネルバだ。
彼女は何処からともなく取り出した金槌で、色魔と化した藤丸を叩いたのだ。
「リツカちゃん、ガックシ~。」
討たれた藤丸は情けない断末魔を挙げながら倒れた。
「申し訳ねぇ、うちの『変態』マスターがとんだ迷惑を。」
そして、藤丸たちはそれぞれ自己紹介をし終えシオンが彷徨海にいた訳を聞いた。
ある日、地球の白紙化を予知した彼女は彼女の父である前アトラス院長にそのことを報告したが相手にされず逃れる方法を考えていた。そこで彼女は彷徨海に行くことを思い付き実行したのだ。
そこまで話していると、藤丸たちは自分達の後ろから声が聞こえたので振り向く。
「は、離せ!俺はムニエルだぞ!?」
一行が視たのは、アラビア風の格好をした少年と見てとれる者に強引に歩かされているムニエルであった。
「あっ、キャプテン。」
「あれは…サーヴァントだね?ミス・シオン?」
「ご名答。こちらではサーヴァント召喚システムが未完成な物だから、幻霊も混ぜてるけどね。」
幻霊。それは、霊基数値が足りなかった為に英霊に昇華されず、サーヴァントとしても成立しないもの。精々が都市伝説程度の概念であり、英雄にも反英雄にもなれず朽ちて消えるだけの存在のことである。
藤丸はカルデアに所属しているサーヴァントの何体かが、幻霊との融合体であることを思い出していた。
「カルデアのシャドーボーダーだっけか?損傷はが激しい…これでは機械が泣くぞ。」
「な、なんかごめん…」
「あぁ、キャプテンはね、機械弄りが得意なの。だからこそ、機械の扱いが悪いのが我慢出来ないの。」
そうして、シャドーボーダーの修理をキャプテンに任せ、それぞれの部屋に案内されたカルデア一行は休むことにした。
しかし、数時間が経過した後に藤丸は目を覚ました。
「なんだか、甘い香りがする。」
藤丸はその方角へゆっくり歩いていった。そして、ある異変に気付いた。
心踊るような甘い香りの中に、真夜中の空のような黒さが隠れていることに気付いたのだ。
それを察知した藤丸の顔が険しくなった。
そして、藤丸は急いで原因を探るべく、足音を立てないようにかつ迅速に香りが漂う部屋の前に着く。
そこは明かりの付いた食堂だった。
そして、藤丸が視たのは…。
「あっ」
「…………」
無断でケーキを食べているゴルドルフ所長だった。
藤丸は先程までの表情を嘘のように隠しながら苦笑いし、ゴルドルフ所長を見つめる。
「頼む!このことは黙っていてくれ!」
「えぇ、分かりました。ただし、条件があります。耳を貸してください。」
藤丸はゴルドルフとの距離を縮めると、ゴルドルフの後ろの方角へ赤い光弾を投げた。
「なっ!?」
「まさか、私の気配を!?」
驚愕の声を挙げながら、先程まで隠していた姿を現したのは旧カルデア基地を潰した組織・クリプターの一員であるコヤンスカヤだ。
「どうやってかは知らないが……ここに侵入した以上は……これ以上は話さずとも分かるな?『妲己』」
「その名で私を呼ぶとは。やはり、貴方を弱体化および抹殺の第一候補に挙げるべきでしたね。」
「あの大妖怪にそこまで言われるなんて、光栄ですこと。」
そこまで言い合うと藤丸は、自らの眼を研ぎ澄まされた刃に変えた。
妲己も覚悟を決めたかのような顔付きになる。
すると、藤丸は腰に巻いていた、小型の龍型の魔術デバイス=メイガスドラゴンを仕込み武器のように取り出した。
彼にもコヤンスカヤにも隙と言える隙は殆ど無かった。
「暴食『グラ』のアーカイブに接続。テーマを実行するっ!」
藤丸はその身を、青と白を基調とした鎧に包んだ。
そして、白銀の雪のように輝く剣=シルバームーンを何処からともなく取り出す。
最後に睨み合っていた両者はついに、動き出した。
To Be Continued
次回のFate/Grand Orderは
「吐きます!我々のことについて吐きますから、この鎖をほどいてください!死んでしまいます!!」
「あぁ…今『楽』にしてやるよ…とてつもなくな。」
「なんだぁ?俺たち新撰組の出番ってわけか、マスター?」
「あぁ、頼むぞ。私は少し着替えてくるからな。なに、これから『仕事』なものでね。」