お互いを睨み、ついに動き出した両者。
妲己とも呼ばれ、カルデア壊滅を引き起こしたクリプターの一員となっているコヤンスカヤは、懐からメスを思わせるような短い刃を取り出した。それは先程まで洗ったかのように、光っていた。
「…なるほどな。」
藤丸はその短刀を取り上げるべく、敢えて距離を近づける。その手には、一つの剣が握られている。
コヤンスカヤの素早いナイフ捌きを軽くいなし、藤丸はソードブレイカーとしての側面を持つ自慢の剣=シルバームーンでそのナイフをガラスのように割って叩き落とした。
「おお!?」
ゴルドルフ所長が喜びの眼差しを藤丸に向ける。
「所長!俺が相手してるとは言えど、コイツはサーヴァント。アンタを殺すだけの実力は十分備わっている!」
「!」
「だから、早くここから離れて、仲間を呼べ!」
ゴルドルフは頷いて走ろうとするが、何かに脚を引っ掻けたかのように転んだ。
「何やってんだ!?」
「なんだか、目眩が…!」
「目眩!?……」
藤丸は、ゴルドルフが半分食したケーキを思い出した。そして、内から込み上げてくる炎によって揺れた声で話す。
「やはり……アレは……」
「えぇ、そうです。『毒』ですよ。」
藤丸の感情を嘲笑うかのように、ケーキの中身をうち明かすコヤンスカヤ。
だが、藤丸は狼狽も恐怖も感じなかった。
ただ、その中に燃え滾る炎を静かに燃やしていた。
そして、その剣に膨大な魔力を浴びさせコヤンスカヤにぶつけようとする。
しかし彼女はこれをかわし、藤丸の背に複数のナイフを刺した。
藤丸は背中の衝撃と毒に耐えられず、前のめりに倒れた。
「任務完了♪」
「小僧…お前…」
コヤンスカヤの顔は明るく、ゴルドルフの顔は青くなっていった。
「では、ここら辺で。カルデアの終了を宣言……ッッ!」
コヤンスカヤは懐から、連絡機器を取り出そうとしたが、体が言うことを聞かなかった。
それはまるで、彼女の体が釣糸によって吊るされているようだった。
そして、彼女はある気配に気付いた。
彼女の背後から、声がした。
「いやぁ、生まれて初めて死んだフリをしたよ…。しかし、魔術回路に入ってくるタイプの毒ってのも初めてだったから解毒するのにほんの少し時間かかった。」
藤丸が立ち上がったのを期に、コヤンスカヤの顔が青ざめていく。
「心配したぞ!」
「な、何故毒が!?」
尻に火が付いたコヤンスカヤは声を荒げる。
一方で、藤丸は余裕綽々と言わんばかりに静かに語る。
「私のメイガスモードの能力……毒を受けた自分自身の体から毒を『完全に』取り除く。」
「こうなったら…っ!」
コヤンスカヤは身体中に魔力を回して、動けない状況を脱しようとするが…。
「妲己。残念ながら、貴様を縛っているものはただの鎖では無い。『蛇』だ。それも蛇の中でも絞殺力が最も高い…」
「ま、まさか!?」
妲己から、滝のように冷や汗が流れた。
「ご存知!『錦蛇』だ!!『白蛇縛』・『錦蛇』(パイシゥーバインド・ニシキヘビ)!!」
藤丸がそう叫ぶと、先程まで目に見えていなかった、正確には藤丸以外は誰の目にも写らなかった白い複数の鎖がコヤンスカヤを繭に閉じ込めるように纏わり付いた。
白い鎖で出来た繭の中で、コヤンスカヤの体に鎖がきつく締まる。
「ぎゃあああ!!」
女狐の断末魔が新カルデア基地中に響き渡り、白い繭は赤く滲んだ。
そこで、藤丸は女狐と交渉を始める。
「可哀想なヤツだ……もしお前たちの組織について吐いたら……離してやろうかなぁ?」
コヤンスカヤは藁にもすがるように、泣き叫ぶ。
「吐きます!我々のことについて吐きますから、この鎖をほどいてください!死んでしまいます!!」
「あぁ、今『楽』にしてやるよ……。」
すると、藤丸はコヤンスカヤをボールを篭に入れ込むように薄暗い部屋へ投げた。
しかし、完全に手放したわけではなく鎖は自動的に部屋にある鉄格子へと絡まった。
「離してくれるのでは無かったの!?」
「『楽』にしてやると言ったな…アレは嘘だ。」
藤丸はコヤンスカヤに、彼女から奪った通信機を見せ付けながら彼女を害虫を見るような目で見据えた。
「そ、それは!」
「それでは、また後でな。」
藤丸はコヤンスカヤから奪った録音機のスイッチを入れ、通信機の電源もオンにした。
すると、音声が流れた。
「コヤンスカヤ、作戦は上手くいったか?」
声の主はクリプターのリーダーである、キリシュタリアだ。
藤丸はキリシュタリアに対して、聞けば耳に重りが付いたように感じられるような口調で返事をした。
「クリプターのリーダー・キリシュタリアだな?」
「……!」
キリシュタリアは電源を切ろうとしたが、聴いた声の質を見て切ろうと考えるのを止めた。
「刺客なんざ寄越したということは……これは三度目の宣戦布告と……捉えて良いんだよな?」
静かだが、岩や鉄の塊がのしかかるかのような声で藤丸はクリプターに対して牽制をかけた。
キリシュタリアはこれを軽く受け流した。
「あぁ、そうだ。今度こそ、お前たちを倒し、我々こそ人類の正しい歴史を歩む者だということを証明してみせよう。」
「なら、こっちは。お前たちの造った世界を壊すだけだ。この選択に対して、まるで霧のように漂う鬱陶しい迷いは……今の俺には無い。」
「ほう……ならば見させてもらおうか。お前の大いなる霧払いってやつを。」
そこで、通話は終わりの鐘を告げた。
「……で、この女に対しては俺達の出番か?マスター?」
藤丸の後ろに黒い袴を着た男、帽子が特徴的な中華風の小さな女そして黒いドレスを着こんだ背の高い女がいた。
男の質問に、藤丸は顔を硬めながら答えた。
「あぁ、その女の監視もとい尋問を頼む。私はカルデアの服が汚れないように、着替えるからね。」
藤丸がその場から姿を消すと、部屋から一人の女の悲鳴が鳴り響いた。
To be continued
次回のFate/Grand Orderは!
「ゴフッ……!薬は…!ゴホッ!人智統和帝国・SINに!!」
「てめえは、ゴルドルフの毒が治ってから紅くして干してやるよ。」
「なるほど、ここが中国異聞帯か…」