夜の広野にて、広野に似つかわしくない火花が散った。
それを発するのは、黒髪の青年が率いるチームと眼鏡をかけた女が率いるチームの争いであった。
大きな人馬のような姿をした英霊・項羽の刃が青年の首を刈り取ろうとした。
しかし、灰色の大きな体がそれを阻止する。その姿は膨張した蒸気機関車のようであった。
「汝を抱擁するぅ!!」
灰色の巨人・スパルタクスが抑えているところで、青年は
その巨体を踏み台にすると、人馬の頭上へ舞い上がった。
しかし、素早い仮面の影が頭上からの攻撃を阻止する。
それも隼のように。
「そう上手くはいかない…か。」
人類最後のマスターである青年・藤丸は敵の異様な力み方に違和感を覚えた。
「……なるほど、項羽の首だけは全力で取らせないつもりか。」
「貰った!」
金髪の騎士が赤い剣を振り下ろした。
空かさず仮面の騎士・欄陵王は相方サーヴァントに向けられた赤い剣と自身の剣を衝突させた。
このような攻防が明朝まで続いた。
「ここまで粘られるとは…!」
藤丸は作戦の再検討を目的とした、退却の命令をサーヴァントたちに放ちながらも追いかけてくる敵を狙撃していく。
しかし、項羽の厚い装甲を崩すはおろか、速度を落とさせることさえも出来なかった。
「どうするんだ、マスター?」
「こうなったら目眩ましか最大級の攻撃を…!?」
藤丸は話している途中で、敵の援軍が来たことに気付いた。万事休す…かと思われたその時。
「双方、武器を下ろせ!帝の命であるっ!」
軍を引き連れた女槍兵が間に入った。
「帝はカルデアの者を迎い入れろとのことっ!」
「!?なんでよ!?」
「…助かったのか?」
芥は悲嘆の叫びを挙げ、藤丸は安堵しつつも苦虫を噛み潰した顔付きをする。
しばらくしていると、男の声で通信が来た。
「カルデアの者たちよ、聞こえるな?」
「誰だアンタは?…なんてのは愚問か。秦の始皇帝さん。」
藤丸は声を聞いた途端、毛を逆立てたけいかを見ながら通信の相手が誰なのか勘づいた。
「…で、要件は?」
「お前達が求める薬をそちらに渡す。その代わり、貴様達の車輌とを分析させてもらう。」
始皇帝は要求に従えば、カルデア一行の安全を約束するとまで言うのだ。
この要求にどう応じようか、藤丸が必死に考えていると横槍が飛んできた。
「始皇帝様っ!どうして我々ではなく、カルデアにそのような言葉を!?」
すると、男の声はその横槍を折ったのだ。
「そのようなことを口にしたければ、あのシャドーボーダーとやらを『無傷』で取ってから言うのだ!たわけ!!」
「くっ」
芥は臍を噛むように握った拳を袖で隠した。
「…で、どうする?カルデアの諸君?」
始皇帝が話すと、藤丸は手を挙げた
「その契約には乗ろうと思う。…が、一つ条件がある。……この世界にある『樹』の場所を教えろ。」
藤丸がそう言い切ると、芥は真っ青になった。
「『樹』とは……なんだ?そうか、芥ヒナコめ……。まだ何か隠してるな?クリプターとやらは益々信用出来かねぬな?」
藤丸たちは驚いた。なんせ、異聞帯の王たる始皇帝が空想樹を聞き覚えの無いように話すからだ。
Fin
次回予告
「正気か、マスター!?」
「始皇帝に一矢報いてやりてぇんだよっ!」
「我こそはっ!『反逆の暁星』であるっ!!!」
次回は……予告見れば何が起こるか分かってしまう人はわかってしまいますね……。