ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 ~紋章のマレビト~   作:早起き三文

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第2話「ミレトスへの旅路」

  

「あの宿屋」

「それがどうかしましたか、シーザ?」

「ちょうど、いい場所にあるな」

 

 そのシーザの言葉にすぐにはピンと来ない所が、グランベルが王都「バーハラ」一の騎士と謳われる聖騎士リデールの、人が良い所なのであろう。

 

「姫様達が泊まる場所、という意味だよ」

「なるほど……」

 

 そう呟きながらリデールは自らが乗る馬の手綱を引き、魔法の灯りを灯した杖を軽く一振りした。

 

「ちょ、ちょっとまて騎士リデール!!」

「おお、すまんすまん」

「俺は騎兵ではないから、馬には慣れていないってんだ……」

 

 ここまで馬をリデールに引っ張ってきてもらったシーザは、突然騎士リデールが彼の馬を引く手を離したが故に、体勢を大きく崩してしまう。

 

「ならば、一応入ってみるか」

 

 再度シーザの手綱を握ったリデール、灯りをもたらすトーチの杖を鞍にくくりつけ、そのまま彼は馬の脚をやや早くする。

 

「だから、少し待てって……」

 

 そのシーザの声は、夜の街道を往く人々の注意を引き、何処からともなく忍び笑いがもたらされる。ドズル領内の宿場街まで、あと目と鼻の先だ。

 

 

 

――――――

 

 

 

「で、何で抜け出したんですか、エリア様?」

「何でって、決まっているじゃない」

 

 宿の風呂に入り、サッパリした風のエリアはそう溢しながら、ラディの目の前で軽くその脚を組む。

 

「ミレトスに行くとなると、あの口うるさいリデールを始めとして、大きな行列になるのよ?」

「そりゃ、エリア様はこのグランベルの王女様だから……」

「無駄な事だと思わない?」

「うーん……」

 

 正直、この世界に来てから一年もしないラディにとってはあまり詳しい事は解らないが。

 

「それほど、おかしな事ではないと思いますがね」

「別に戦争が起こっている訳でもなく、平和な日々」

「良いことじゃないですか?」

「もともと」

 

 そう言って、頭に巻いたタオルをベッドに投げつけながら、エリアはその宿の中で「中」くらいの質である部屋に置かれている寝台にと倒れこむ。

 

「ナーガの書、なんでいちいち取りに行かないといけないのよ?」

「いや、それは俺に聞かれても……」

「どうせつまらない儀式の連続なら、一人で行った方が気が楽じゃない?」

「いや、一人じゃないし……」

「何か言った?」

「いえ、何でもありません……」

 

 何故か睨み付けるエリアの視線を疎ましく思ったのか、ラディはこの部屋から離れ、自らにあてがわれた部屋へと、逃げるように移ろうとする。

 

「じゃあ、俺は自分の部屋に戻りますんで」

「そう、じゃあおやすみ」

「はい……」

 

 これでこの「姫様」とも、やや窮屈な身に纏っている革のジャケットともおさらば出来る、そう思って足取りがやや軽くなったラディは、エリアの部屋から出て。

 

「ふーん、ふん……」

 

 鼻唄を歌いながら、安い値段の部屋へとその足を伸ばす。

 

「全く、少しあの子に似ているからって……」

「たまらないか?」

「わがまま過ぎるよ」

「まあ、王族はそんなもんだ」

「そうだけどさ……」

 

 どこか愚痴めいた口調でそう言い放ったラディの後ろ姿を見やりながら、シーザは軽くその肩を竦めつつ。

 

「ボケたか、アイツは……?」

 

 そのまま、エリアの部屋へ軽くノックをした後に入っていく。

 

「きゃああ……!!」

 

 宿中にと響くその大声、それにはシーザの後を付いてきたリデールも血相を変え。

 

「あ、俺は鍵掛けてなかったのか!?」

「相手はお姫様だ、ちゃんと世間の常識を教えろ」

「す、すまないシーザ」

 

 一階へと続く階段、そこから駆け上がってきたラディもまた。

 

「げっ、シーザ!?」

 

 血相を変えた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「姫様っていえば、マルス様と結婚をしたシーダ様だけど」

 

 その頭に大きなコブ、ラディ少年の兄貴分であるシーザからの鉄拳制裁を食らった彼ラディが、その場にいる面々を交互に見渡しながら。

 

「あの方も、こんなに不用心なのかな?」

「お前の注意する所はそこではないぞ、ラディ」

「だ、だってさあ……」

「だって、何だ?」

「いや、何でもない……」

 

 片想いの娘にエリア王女が似ていたから、だから彼女の願いを受け入れた。そんな説明ではシーザは納得しなかったし。

 

「君を、処刑する事だって出来るんだぞ、ラディ?」

「す、すみません……」

 

 憤懣やるかたないリデールの怒りを解く事だって、ラディ少年には出来なかった。

 

「それで、異国の方」

 

 そのエリアの鋭い瞳、それは着替え中を見られたシーザに対する物であるが、当の本人であるシーザは至って涼しい顔だ。

 

「貴方もリデールと同じく、私を連れ戻しに来たの?」

「俺とラディは傭兵だ」

「今はグランベルの食客、無駄飯食らいでしょう?」

「ただ、騎士リデールからの任務を果たすのみ」

 

 エリアの皮肉にも耳を貸さず、ただ淡々と話すシーザに嫌気が差したのか、エリア王女はその視線のまま。

 

「ここまで来たのです、私はただでは帰りません」

「……では、どうしてもこのままミレトスまで行くと?」

「はい」

 

 リデールへと、強い口調で言い放つ。

 

「それでも気になるのでしたら、このドズルを南下した所にある、シアルフィのシグルド公子の力でもお借りします」

「その件なら、アルヴィス殿が願い出ていたはずでは……」

「あの方は嫌いです」

「何故、でございますか?」

「何か、恐ろしくて……」

「ふむ……」

 

 リデールにしてみても、グランベル近衛隊長を務めているアルヴィス卿の厳しさは、あまりエリア王女のような性格の人間とは相性が良くないかもしれないとは思うが。

 

「それでも、一人での旅は無謀ですな」

「ラディがいましたわ」

「彼は異邦人です、傭兵です」

「この一年、それなりの付き合いでありました」

「それと公務とは別でありましょう?」

「いつもながらリデール、貴方は頭が堅い……」

 

 眠たいのか、または他の理由か、エリアは苛立ったような声を上げ、リデールを非難するような言葉をその唇から放った。

 

「城には戻りません」

「ふぁあ……」

「ラディ!!」

「す、すみません!!」

 

 電光石火の勢いでエリアに怒鳴られたラディは、あくびをした口を急いで閉じる。

 

「はあ……」

 

 そのリデールのため息は苦労人のみが放てる物、まだそれほどの歳ではないというのに、よほどエリアに振り回されているのであろう。

 

「とにかく、一旦帰りますよエリア様」

「もう私は寝ます」

「あのですね、エリア様……」

「出ていってください」

 

 そのエリア姫のわがままに、他の三人はそろってその肩を竦めてみせた。

 

「俺はもう寝ますからね……」

「ラディ!!」

「俺だって眠いんだ、シーザ」

 

 ラディにしてみれば、彼女が次の日にグランベルへと引き返せば、それで構わないのだ。必死になる理由もなく、彼女エリアを危険な目に会わせる事も無くなる。

 

「とにかくだ、騎士リデール」

「はい、シーザ」

「俺達もここに宿を取ろう、二人分だ」

「……」

「騎士殿?」

「私はこの部屋の前で、エリア様を護衛しております」

「身体をこわすぞ?」

「騎士の使命ですよ」

 

 

 

――――――

 

 

 

「……ディ」

「……?」

「……ラディ!!」

 

 暗い部屋の中、ラディがその、よく聞いた事のある声にその目を覚ますと。

 

「エリア様、リデールさんはどうしたんですか?」

「眠り草がありました」

「まさか、一服盛ったのですか!?」

「女の部屋を覗き見している方が悪いのです」

「それは護衛……」

「行きますよ、ラディ」

 

 そのキッパリとしたエリアの言葉、それに対して無意味だとは思ったが、ラディが。

 

「やっ、やっぱり城ではなくミレトス……」

「当たり前じゃない!!」

 

 発した行き先の質問は、彼の期待を裏切る物であった。

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