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初めて訪れる古代林のフィールドに、あなたは控えめに言って大興奮しております次第。
「外界から隔絶された地域」と称されるだけあって、こうしてパッと見て回るだけでも、他の地域との違いが目眩く視界に飛び込んできてくれます。
特記すべきは、「植生」でありましょう。
何故か菌糸類が大繁殖した底部。シダ類が発達した中部。活火山に連なるなだらかな盆地を裾に、高地故に高低差のある地形。それらを包み育む豊富な麗水。区画をひとつ跨ぐだけで世界が変わるその様は、まさしく「隔たれた」と呼ぶに相応しいものです。
それら景色を楽しみながら、あなた達は次々と採取をこなしてゆきます。採取目標となるのは深層シメジ。名前そのまま、古代林の底部周辺を苗床に繁殖する特徴的なキノコです。
そんなキノコを見つけ次第ポーチに詰めて、ついでに採掘。ハンターなるもの採取を欠かしてはなりません。あなたの隣では歴戦のオトモたるイモート女史も、せっせと採取をこなしてくれています。
「ふと思ったのですけどニャ」
なんでしょう。
あなたはカクサンデメキンを釣る手を止めないまま、イモートの言葉に相づちをうちます。
「カティが、あるじさんの事を……多分、凄い心配してましたニャ?」
どうやらネコ嬢さんの事を考えていたようです。
村を出る前のネコ嬢さんの様子は確かに、少しばかり印象に残るものではありましたが……
それはそれとして、あんなにも心配されるのは久しぶりの事でした。最近では、それこそ災害級の古龍討伐の時でさえ、あなたは仲間達と笑い合いながら狩猟に向ったりしていたものですから。無論、古龍と対面してからは幾度となく死にかけたりするのですけれども……ええ。存外に嬉しい物ですね。
「それですニャ。カティはベルナ村と直接契約している竜人組合の職員ですから ―― あるじさんの経歴を知らないんじゃないかしらニャ?」
ふむん。あなたはイモートが指摘してくれた内容について考えてみます(釣り餌を現地調達しつつ)。
イモートの語る竜人組合とはその名の通り、竜人種さん方が寄り集まって形を成した集団です。竜人さんは種族特有の凝り性な性分から、職人という名にそぐわぬ一芸特化な方を数多く排出していますので、特にハンターズギルドなどでは重宝されている組合になります。
かつての竜人族は平均寿命が只人の10倍以上はあるという種族柄、智と合理と整合性を優先する種族であったため、こうした交流が盛んになったのは近現代の世代に多いのですが……カティは見た目相応の若い竜人とみてよい筈。つまりは組合員の中でも交流を始めたばかりの、世情に疎い側。
ただでさえアイルー斡旋業は情報が命ですから、ハンター側については教科書通りに学んだ程度だと仮定するなれば。
「ハンターはただでさえ離職率も高く、命を落とす、行方不明になるなんてのもざらな……阿漕な職業ですニャ」
ですね(カクサンデメキン祭開催中)。
そして恐らくネコ嬢さんは、アイルー種の情報管理に関してはエキスパートと呼んで良いでしょう。ムーファに積まれている資料を見る限り、そのコンディション管理と情報統制は一級品。ネコ婆さんの後継として恥じる所の無い人物です。
だから恐らく、むしろ逆で。イモートのスキル等からあなたの実力を判断せざるをえないのではないでしょうか。
「ふむん」
あなたは取りあえずの持論を展開します。
イモートのスキルは超回復特化と呼んで良い物。さすればあなたの事を「回復を要するハンターである」と判断出来なくもありません。それはつまりダメージをよくよく受ける……後方支援の方達をはらはらさせるハンターであるかも知れない、と言うこと。
次に討伐歴ですが……ハンターの討伐歴はハンターカードに記載されますが、イモートのカードはここベルナ村に着いてから発行された新規の物。ここに来てやっと、アイルー単体でもハンター……に準ずる「ニャンター」として登録することが許された経緯がありますから、これは仕方がないでしょう。
しかしそうなると、ハンターカードは白紙のためイモートの側からその主たるあなたの経歴を見ることは出来ません。引っ越しも、あなたがベルナ村に移ると決まってから2週程度の超っ早の突貫作業。調べるための時間も、あまりありませんでしたからね。むしろイモートの移籍という例外をこの短期間で通しただけでも十分過ぎる働きです。
だとすればネコ嬢さんがあなたについて詳しくないのは仕方が無いことで、仕事に関しても管轄外という結論に至ります(カクサンデメキン豊漁につき)。
……とはいえ、他の地域のギルドから装備品などを置いてきた事は知っていたようですし。ベルナ村には他にも多くの同業者や協力者がおり、そもそもハンター側には龍歴院という巨大なバックアップもついてくれています。カティの仕事はあくまで「オトモアイルーの斡旋」その一事。自分の経歴などについては「新人じゃ無い」くらいを知っていれば十分なのではないでしょうか。
そもそも件のオトモアイルーも長年連れ添ったイモートを、(道理を引っ込めてまで)こうして無事に連れてくることが出来ましたので、万々歳ですし。
「ふむん、ふむん。……つまりカティはむしろ良くやってくれた方で、あるじさんが心配されるのは流れからして普通であるニャ、と」
でしょうね。
「あるじさんを……
ええ。……ご不満でしょうか!
「はいですニャ。我があるじさんは、姉さんのあるじに負けず劣らずの凄腕ニャン。わたしがいつでも、その腕前を誇らしく思う程。心配という単語については、些か以上に心外ですニャ!」
ちょっぴり
勿論「心外ではあれど怒りはありません。カティの抱く不安は、ハンター業の傍らに寄り添う者として理解できます。ええ。痛い程に……」とイモートは続けてくれます。
ですねぇ。まぁ、その辺は実力で示すしかないだろうという結論がとっくの昔に出ている訳です。それこそネコ嬢と別れるあたりで既に。
なので、これらは本当に無駄な考察ではあるのですが……時間潰しにはなりましたね!
「ですニャア。……んではあるじさん、必要量は揃いましたニャン?」
イモートが可愛らしく小首を傾げ、此方を見上げます。
あなたは返答代わりに許容量一杯に膨れたハンターポーチをぽんと叩くと、物品の納品のため、意気揚々とキャンプへ帰投するのでした。
【 高原の村 ― ざわざわ ― 】
その夜。
一度ベルナ村へ戻ったあなたは、依頼を受けてとんぼ返り。再び古代林を訪れていました。ベルナ村とここは行き来に1日とかからない程の距離。幸いな事に、こうして連続でクエストを受けることも可能だったのです。
納品を半日足らずで終えて、村長へ報告して、装備品の新調と道具の生産を依頼して。先のネコ嬢の事もあります。ベルナ村におけるあなたの評価を早々に落ち着けておくべきでしょうという意見の一致もありまして。村のハンターの取り纏めであるセンパイにも許諾を得て、駆け足に次の依頼にも手を付ける事にしたのです。
夜の古代林は、深々とくり貫かれた闇の坩堝の様な印象をあなたに与えてくれます。虫の音と木々がざわめく音が混沌と、夜を住処とする生物達が一斉に動き出す油断のならない空気とが合わさり、どうにも落ち着かない感じです。
まぁ、そんなざわついた空気もあなたにとってはよくあるものです。背中に石製の『大槌』を背負い、しかし気負いもなく。あなたはベースキャンプからひと区画を挟んだ、ギルドフィールド北側の最も広い区画へ脚を踏み入れます。
遥か遠くで明滅する活火山が昼夜関係なくもうもうと煙を吐き出す姿を遠目に。見晴らしの良いそこへあなたが踏み入ると同時、ちくちくとした視線が身体に刺さり。
そして視線はすぐさま ―― 殺意へと変わります。
「マッカォの小隊3、視認! 来ますニャア、あるじさん!」
石製の小斧を構えたイモートの横で、あなたは小さく頷きます。これが狩猟開始の合図となりました。
走り寄る獲物の姿が、段々と鮮明に。
マッカォ。全高はあなた以下、頭部から尻尾までは2メートル超。赤と緑の警戒色満載の身体が特徴の、古代林特有種の小型走竜です。艶やかな赤の皮は繋ぎの素材として大変価値がありそうで、しかも繁殖力の高い小型走竜。なんと美味しい生物でしょう。ええ。ハンター的に。
そんな皮算用な分析を頭の中でしながら、あなたは距離を図ります。
走りつつ。イモートの真横から、僅かに数歩分横へずれ込むと、眼前奔るマッカォは分断した
イモートに1、あなたに2。
―― 接敵。
不用心に近づいてきたマッカオ①。狙ってと言わんばかりに突き出されたその頭へ、出会い頭から力を溜めていたベルナの堅石製ハンマーを大上段、振り下ろす。
砕き、地面までを貫き潰した感触。生臭い漿液の飛沫 ―― 頭蓋の粉砕を確認。
頭蓋ごと地面に槌をめり込ませたまま。その隣で(隙だらけに)驚いたように目を見開き、足を止めたマッカオその2に当て身。空いた間と崩した隙を使う。
渾身、横殴りに頭を狙って……手応え。打撲による多量の出血、脈拍の低下 ―― 失血よりも気道の腫脹、閉塞、痙攣、呼吸の停止を確認。
3手。この間6秒ほど。上々でしょう。
ふう、とあなたが息を吐いて隣を見れば。
「こちらも片付きましたニャア、あるじさん」
手早くマッカオの喉笛を叩き切ったイモートが、此方へ駆けてきていました。流石の手際です。
「そんな言葉は、あるじさんの方にこそ相応しいニャン? ハンマー自体の習熟はされてますでしょうけど、ベルナ産堅石制武器を扱うのは初めてでしょうに……」
そこは慣れです。
大槌は振り回す際にバランスを保つのが大切なので、少しばかり工夫は必要ですが、切れ味をあまり気にする必要もありませんし(気にしなくて良いとは言っていない)、敵を数多く討伐しなければならないとくれば、走竜を討伐するのに選ばない理由もありません。
それに、この大槌は使いやすいですね。走竜2匹を叩いても、重心のずれが感じられませんでした。槌本体がぶれないよう、密度を均一に調整してくれているに違いありません。武器屋さんのお力が伺えます。
「怖いニャ、怖いからぶんぶん振らなくていいニャ」
割と気に入ったので振ってみせていたのですが、イモートからは不評のご様子。
仕方ないので槌を再び背負うと、あなた達はクエスト達成のために古代林を駆けてゆく事にするのでした。
なにせあなたは先のマッカォの他、他の大陸でよくよく見かけた紫色の走竜……ジャギィを討伐して欲しいという依頼も、受けているのですからね。時短は大切なのです。
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そうして走竜を山と片付ける狩猟を終え、本日2度目のベルナ村へ帰還。
帰還して早々。村の入り口に、人々が集まっているのが見えるのですけれども……?
「おー、帰ってきたな後輩。疲れてないか?」
「……あら、無事かしら。良い事にぇ」
あなたは一団の中にいたセンパイとアイルーさんに挨拶を返しつつ。
マッカォもジャギィも問題なく討伐できました。むしろ古代林の昼夜の感じを探る余裕があったほどです。なのでそれ程疲れてはいませんが……既に、夜も更けていますからね。これはなんの集まりでしょう?
「後輩が受けてた依頼……『走竜の討伐』が成功したって報告を貰ったからな。たったさっき、オトモアイルー迎えの旅団が村を出たんだよ」
成る程。あなたが受けた依頼は、この旅団の進路確保を含めたものだったのでしょう。
センパイが指さすその先 ―― 既に小さくなった旅団の方を見れば。一団に混じってムーファに跨る小さな金髪ネコ耳カチューシャさんの後ろ姿も少しだけ見え……すぐに丘の向こうへと消えてゆきました。
しかしまぁ、これで合点がいきました。ネコ嬢から走竜の間引きを依頼されたのを、何故だろうと思ってはいたのですが。彼女自身も同行するつもりだったから、なのですね。
「ええ、そうにぇ。古代林と遺跡群の中間地点にまで遠征をして送迎を引き継ぐそうよ」
「そーなー。ネコ婆の後釜を担うってなると、大陸を歩き回るのも仕事の内になるからな。今回のは顔見せを含めて、って感じだろ。ついでに言えばアイルーをベルナ村に召集するのは俺の依頼な訳だが」
センパイはそのまま説明を加えてくれます。
オトモアイルーから派生した、本職としてのアイルー族のハンター。称して「ニャンター」の試運転が、いよいよここベルナ村で行われるのだそうです。センパイはその管轄役で、第一例をアイルー族のミィさんが担っているとの事。
試運転は順調に進んでおり、テストケースを増やすため人員を召集したのだとか。なるほど。これにはネコ嬢さんも右往左往する筈でありましょう。なぜならば、業務の走り出し期間とは総じて慌ただしく、忙しい物と相場が決まっておりますので。
まぁ、この辺りについては何度も話題に出していたので、予定調和といった所でしょうかね。はい。
いってらっしゃい。頑張って。
丘の向こうへ消えた彼ら彼女らに向けて、今は届かぬ祈りにも似た激励の言葉をかけておいて。
あなたは一隊の無事を祈りつつも、2日目の夜を過ごすのでした。
・ニャンター
新たに増設された、ハンターと同等の権限を持つアイルー職の呼称。
ハンターは黎明期を抜け、しかし長年、あくまでお供に徹していた獣人種からすれば ―― これは驚くべき革新事 ―― 歴史的な一歩である。
しかしマタタビ爆弾にはご注意を。
連打はここまでで、続きは明日23時以降となります。あしからず!