【 鉄鋼は刃 ― intro ― 】
翌日からあなたは本格的にベルナ村でのクエストをこなしてゆきました。
採取系統は一気に往復して終わらせ、小型生物の討伐と併せて地形を把握。脳内に自動で地図を描けるくらいに走り回った後、中型モンスターの討伐に取り掛かります。
ドスマッカオ。
先日討伐したマッカォの親玉です。中型走竜の中でも尾の力強さと脚力の強さが特徴ですが、攻撃方法の事前動作が丸わかりなので特に苦戦せず討伐することが出来ました。
むしろこういった群れを作る走竜の場合は次々と襲いかかってくる兵隊の方が恐ろしいのですが、間引きを終えていたことも幸いしました。あなたは小型走竜の全隊を呼ばれる前に電撃的に頭を叩いて、群れを解散させたのです。
ついでに言えば、槌の扱いをもうちょっと確かめておきたいという思惑もありました。特にここベルナ村の教官から享受された新たな体術や「狩技」の数々は、それなりの経験を積んだあなたをして新たな見地と呼ぶべきもの。これら手応えを少しでも試しておいて、大型モンスターに備えるのが吉でありましょう。
ホロロホルル。
凄い眠い……。いや恐ろしいモンスターです。
このホロロホルル。見た目は中型の鳥盤生物なのですが、まさかの飛び道具を使ってくるので対応に苦慮してしまいました。戦意満々のハンター方々の意識を奪ってしまうその理屈は、学者方満載のベルナ村であればこそ、色々と研究もされているご様子。
……とはいえあなたはその点に興味が無いので、イモートにたたき起こして貰いながら突貫。小柄な体躯と体躯に比する頭の大きさ故に大槌で戦い易い相手でも在りましたので、頭蓋シェイクで万々歳。討伐と相成りました。
さて。
そうして古代林特有の生物らを狩猟し終え、ベルナ村に帰投した頃合いでありました。
「―― お。帰ってきたな、後輩」
夜だというのに篝火を点した村の出入り口で、センパイが手を振っています。
何かの御用事でありましょう。あなたはセンパイに駆け寄りながら、取りあえずホロロホルルの狩猟成功を口頭でも報告しておいて。
「そっちは心配してなかった。流石だな後輩! イモートもご苦労さん! ……んで本題なんだが、向こうで食事でも採りながら話そうぜ」
そう言うと、センパイはあなたを連れて村の奥側へと向います。あなたとしてもクエストを終えたばかり。身支度や食事の時間がもらえるとありがたいので、お誘いは大歓迎。勿論おごりでしょうし。センパイですから!
そのままセンパイの後ろを着いて行くこと暫し。
昼間は気球や飛行船が離着陸を繰り返す、台地場に整備された丘陵を抜けて。道なりに歩いて行くと、この村に到着した頃から顔を覗かせていた ―― 大きな大きな石造りの何かが近づいてきます。
その麓にまで到達して。あなたの隣をトコトコと歩いていたイモートが、口を開きました。
「ここが、龍歴院。……いえ、わたしたちにとっては『集会所』と呼称した方がしっくり来ますかニャ」
あなたもその巨大な造り物を見上げながら、センパイの先導に続いて集会所へ足を踏みいれます。
一般的な集会所と違い、「
もっと特徴的なのは、此方にも武器防具を整備するための職人が常駐している事でしょうか。依頼をこなしながら武具の調整を行うには、とても便利な仕組みでしょう。ありがたや。
などと、集会所を歩き進め、中央部を抜けた辺りに差し掛かり。
……するとそこで、あなたは足を止めます。止めてしまいました。魅入ったのです。或いは魅入られたのです。
めっちゃ溢れるチーズをフォンデュすべく、ひとりの……いや、一匹の生物らしき
波打つチーズ。茹だるチーズ。溶けるチーズ ―― 纏われるチーズ!
「―― オウ! 待っておりましたニャ、お客様! Meのアイルービストロへ、ようこそニャ!!」
アイルー……と、呼んで良いのでしょうか。いえ。宜しいのでございましょうか。
妙に恰幅の良い、8頭身くらいの、獣人種に特徴的な体毛の、コック帽を被り
頭身だけを判断基準にするなれば、彼はアイルーではありません(断言)。しかしならば彼が人間であると仮定すると、アイルーフェイクとは似ても似つかない、体毛ふさふさ中肉中背ひげつき尻尾つきな狂気の
あなたは目を見開き、暫しその奇っ怪な生物を観察していましたが……我を取り戻すと、掛けられた声に返答すべく頭を回します。まぁ、ええ。お客。ええ。あなたはお客なのですけれどね? そこに間違いはありません。
「おっすー、急な飛び込みなのにさんきゅなニャンコック。っと、ミィも準備してくれてたか。ありがとな」
「……別に、構わにゃいわ。これくらいはにぇ」
「ええ。我らが愛し娘も関係する事ですからニャ!」
手際よく料理を並べると、
あなた達と、料理と盛り付けを手伝っていたミィさんも席についたところで、ショウさんが早速と切り出します。
それは兎も角。料理をチーズにディップ! ディップ!!
「―― んぐ。まぁチーズ美味いんにゃ同意しとくが……話初めて良いか?」
「はぁ。貴方も、十分。食べてるじゃにゃい」
「これから用入りだし食べといて損はないかなーと」
「……まぁ、良いわ」
などと仲の良いやり取り。ショウ&ミィセンパイ方々もお料理を口に運びながら、状況を説明して下さいます。止まらぬ左手に裂けるチーズ(の滝)。
センパイがあなたを待っていた、その理由。
「―― 今日は古代林がざわついてる。小型モンスターや
ですね。
つまるところ管轄地とは。逃げ道や隘路を含んだハンターにとっての狩り場でありながら、周辺の集落からモンスターの注目を「引き受ける」、緩衝地帯の役割を持つもの。センパイの言う通り、大型モンスターが魅力的な根城である管轄地を居と定める。それは狙い通りの順当な結果な訳で。
だとするとここまでは予定調和。問題は……ああ。あなたもひとつ、思い当たる事があります。もしや、この間、走竜種を間引いた後に村を出立した……。
「アイルーの迎え部隊が、今夜。村に戻るために古代林を通過するわにぇ」
「そこに加えて、この不穏な空気と来たわけだ。今出立すれば多分、ぎりぎり間に合う。どうも今の内に調査を入れた方が良さそうかなと思ってな」
先日村を発った、オトモアイルー及びニャンター候補の迎えの一団。
アイルー達の数の多さから、彼らは陸路を選択していた筈です。だからこそ、村さえ近ければ夜間も移動できる訳なのですが。
「勿論、迎えの一隊に警告の伝文運んで貰って、脚を止めることは出来る。ただ問題は、大型モンスターが誰からも視認できてないって点にある。古代林は背の高い樹林帯に入られると、空からじゃあ観測が難しいんだ。ハンターの人らは森の感じが判るだろうから俺らの第六感的な危機予測に賛成こそしてくれるだろうが、相手方を納得させるだけの人数を集めるには時間がかかる。警告発するのに俺の一存、しかも勘でって訳にゃーいかんしな。森のデータを集めてもいいが、これも書類にするのに時間がかかっちまう」
「なにせ、あれらには。商隊も同道しているから……利益背反のお話になると、面倒なのよ」
どうやら大型モンスター警報を発して部隊を遠ざけるという案は、ギルドから許可が出なかったご様子ですね。
センパイもにが虫を噛み潰したような……いやあれ本当に噛んでいますよニャンコックさんが。むしりと。
「そこで貴方がたに、Meから依頼をば出させて頂いたのですニャ。無論、ベルナ村の村長様と連名にて……」
「まーそら心配だよな、ニャンコックは。何せ義娘さんがピンチだときてる」
ニャンコックさんを見て、センパイが腕組みしながらうんうんと頷きます。
義理の娘。ああ……もしかすると、ネコ嬢さんの事でしょうか?
「そーそ。今回のこれは、ネコお嬢初めての遠征だからな、何事も無く終わらせてやりたいってのはよーく判る。んでもって、村長さんや俺らで話し合った結果出された依頼がこれだ」
懐から羊皮紙を取り出し。
センパイは、掌でドンと大きな音を立てながら依頼書を机に置いて見せます。はじけ飛ぶチーズ。
『表題:古代林のシメジ採取調査』
古代林の……シメジ採取……調査っっ!!
「おう。2回も言わせて悪いな?」
「はぁ。……突っ込みでしょ」
「そら突っ込みですニャア」
頬を掻くセンパイに、ミィさんとイモートが鋭く合いの手。調理台の奥ではニャンコックも苦笑。
しかしまぁ、なるほどなるほど。ざわついているから、調査ついでのシメジ採取。この辺りが落とし所だったのでしょう。大型モンスターの狩猟として依頼を出すには利権が絡んで不可能な以上、折衷案としては上々に過ぎます。
「龍歴院の側の権利で出せるとなると調査関係になる、ってのも大きいなー。ま、ついでに大型モンスターに遭遇したら後は臨機応変に出来るだろ。フリーフィールド探索の場合の狩猟権限が適用される筈なんで、どう扱おうが俺らの自由って寸法だな」
「ええ。文句を、言われる。筋合いはないわにぇ」
おおう……とても
はてさて、これにてあなたを待っていた理由は判りました。その調査探索に、あなたを引き連れて行きたいのでしょう。隣ではイモートも「あるじさん。わたしも同道しますよニャア」と賛成の意。大変にありがたい。
……ただ、センパイの勘が当たっている事を前提にすると、あなた方はこの依頼で大型モンスターの狩猟……遭遇戦に突入する可能性が高い訳です。だのであなたは、一刻ほど準備の時間が欲しい旨をセンパイに告げます。
「おっけ。どうせ今は気球の手配してる待ち時間だからな。その間に……商隊の方の足止めは難しいかもだが、俺も一応村の知り合い通して運搬遅らせてくれるように頼んでみるわ。説得が上手くいって、夜間の移動はしないどいてくれりゃー万々歳なんだが……通商計画じゃあ今夜の内に村に着きたいみたいだったからなー。期待薄かもだ」
「私の方からも。アイルー達に、伝書鳥で。連携をお願いしておくわにぇ」
「Meは移動の為の気球の手配を一刻後に調整してくれるよう依頼しておきますニャ。どうかご武運を。そして我が義娘をお救い下さいませニャ、ハンターさん!」
ニャンコックにがっと拳を握られ、腕をがくがく。ガタイが良いので上下運動が激しい。
ともあれ。こうしてあなた達は集会所にて1度解散を挟み、各々の準備を終えて、ざわつく古代林へと出立することになったのです。
尚、出された山盛りのお食事は、スタッフに委託するまでもなく完食いたしました。我ら、ハンターですもの!
――
――――
村から古代林の管轄地へと移動する為には、勿論陸路も使用できます。しかし移動を短縮したい場合は、気球を使うのが最も効率的な手段。ベルナ村とは高地に存在する集落であり、その山岳裾に広がる古代林には、気球による上下移動が大変に適しているのです。
なので行動は早めが良いと踏んだあなた達は、ニャンコックさんが依頼してくれていた気球に乗って古代林を目指しているので。
今日は星月夜の美しい夜です。世をあまねく照らす丸い照明の様な月が放つ光は、あなたの眼下に広がる古代林をうす青く染め上げています。
鬱蒼と茂る樹木群。高低差のある地形は底に行くほどに闇を濃く纏い、其処に居るであろう「なにがしかの存在」を覆い隠してしまっているのでしょう。これこそが古代林が周辺地域と異なる植生・生態系を育むに至った最たる理由なのですから。
「しっかしまぁ……流石にベルナ村に来て数日でここまでクエストこなしちまうとは思わなかったぞ、後輩」
迅竜素材の片手剣を腰に差したセンパイが、地面から視線を外さないままあなたに声を掛けます。
数日。そうですね。数日しか経っていないのですよね。だからこそあなたの持つ武器は、未だにベルナ堅石製の大槌なのです。ご無体な……。
「順応早いなー。俺だったらひと月はかかると思うんだよ、後輩がこなした依頼の数だと」
「貴方の、場合は。研究素材を見つけると、そこにかかりっきりになるからでしょうに」
「まぁまぁ……わたしのあるじさんもその気はお有りですけれど、そこで足を止めてしまう事はありませんからニャ?」
イモートが笑みを湛えながらあなたを見上げます。なんでしょう、その含み笑いは。
確かに調合や武器防具への転用を考えるのは楽しいものですが……あなたの場合は「効率」も優先する場合が多いです。
既知の調合。フィールドで取れる素材。モンスターの傾向と弱点。それらを鑑みて「最善の一手」を選び取る。数多くの経験を積んだあなたが遂に見出した、星の数ほどあるに違いない ―― 「最良の武器」。それこそが「効率」なのです。
相手が大型モンスターと見られる今回は、その中でも特に有名なこれらを用意した訳なのですが……。
「確かにな。後輩が準備したこの
「……徹底、してるもの。にぇ」
お褒めの言葉を有り難うございます。センパイ方々。
さて。そんなやり取りを繰り広げていたあなた達ではあるのですが……古代林の上層地面が近づいてきた頃合いで、ぴたと口を閉じます。
「―― 視られたか?」
あなたとほぼ同時に勘づいたセンパイが、小さく呟きます。
じゃんっ、という謎の擬音。ぞくぞくとした冷たさが背中を駆け上がり、目の前に居るだけでスタミナを削られるような、大型モンスターに特有のあの感覚。
周囲には何もありません。夜の只中を浮かぶ気球の上で、あなた達は一斉に身構え。
明滅。灯り ―― 火 ―― いや、高熱の溶解物!
ごうっ! と言う音と共に闇を切り裂き飛来したそれは、気球の上部 ―― 球皮を貫いて行きました。
開戦の火蓋にしては一方的なものでしたが、それはそれ。目下の問題は、あなた方が現在浮力を失いつつある気球の只中にあり……宙に浮いてしまっているという事でしょう。
さては落下、待ったなし!!
「爆発しなくて御の字! おーし、それじゃ狩猟開始だ。ミィはこっち。シメジはまぁ後で適当にでっちあげようぜ。気球は俺とミィに任せろ後輩。腕はそっちのが上だろうし、ちょっとの間だけ相手は任せた。 ―― さー、行けっ!」
「其方は、あなたに。……頼んだわよ」
言われずとも飛び降りる構えをしていたあなたは、センパイに向けて力強く頷きます。
がっしりと背中に張り付いたイモートの体重を感じながら ―― 目測。
先ほど高熱の溶解物が放たれた点は、周囲を観測していた4名の内、あなたの側からぎりぎり視認できていました。おそらく古代林の最深部。菌糸類が大発生しているあの周辺でしょう。
対して気球は、少しずつ高度を下げながらベースキャンプ側へと向って流れています。このままでは相手を見失う可能性が高い。だからといって、あなたとイモートが用意した道具を捨てるのも惜しい。気球の落下点を記録する必要もあります。
発射点を見たのはあなた。腕は(多分、おそらく。装備は別として)同等。だから相対するのはあなたで、残るのはセンパイ。別途の行動を取るのがベストというこの判断は、総じて正しいものです。センパイ方が居てくれて、これほど心強いこともありません。
任せました、任されました。
あなたはセンパイ方に笑顔で手を振ると、あたりを着けた場所へ向けて身を乗り出します。
踏み切り ―― ぶわっと空気を押しのける浮遊感。そして降下。
着地点を平地にするべく必死に気球を誘導し始めたセンパイとそのオトモさんを尻目に。
あなたは未だ知らぬ大型モンスターが跳梁跋扈する古代林の奥底へと、飛び込んで行きます。
昇り注ぐ緑の葉、その奥の奥。
―― 青焔の刃が闇夜を裂いて閃いたのを、あなたは確かと垣間見ました。
・ニャンコック
チーズ狂のコック。頭身や体格がアイルー離れしているが、生物学上は確かにアイルーであるらしい。
アイルーらしからぬ体格から膂力や筋力も相当なものであり、下手なハンターよりは狩猟も出来る。
こちらは龍歴院の専属であり、村に住むおかみさんアイルーとは棲み分け出来ているようだ。
ネコ嬢を義娘と呼ぶのは独自設定。
登場人物の名前と彼の自称が被ってややこしかったため、「ミィ」→「Me」に変換している。
・ドスマッカォ
走竜、マッカォの親玉。
頭個体だけあって、尾や鶏冠が発達しており、体格も並以上。
ハンターであればこそ見慣れた体格だが、一般人にとって「自らの体格と同等かそれ以上の肉食生物」というものはかなり恐ろしい。
繁殖力が極めて高く、統率する個体が居る場合には走竜の群れの危険度が跳ね上がるため、討伐依頼はかなり優先的に受理される。
・ホロロホルル
ギルドによる呼称は
獲物を前後不覚に陥らせる「鱗粉」、生物を昏酔させる液体を
尚、ギルドの区分けに拠るなれば、正確には中型モンスターではなく大型に属する。特に体長の小さな種という扱い。