【 鉄鋼は刃 ― main,outro ― 】
重力に吸い込まれてゆき、急速に近づく地面 ―― に向けて、四肢を最大限に利用して衝撃を殺して、着地。
全身を痺れが登っていく様な錯覚の後、あなたは直ぐに岸壁に身を寄せます。
「―― 居ますニャ。あちら」
同じく軽やかに着地していたイモートも、あなたの足下から正面へ視線を伸ばしながら頷きます。
標的にして元凶。現在の古代林管轄地の主は、狙い通り、すぐ目の前に座していました。
骨格は獣竜種。青を基調とした身体。大きな顎、明滅する咽頭。刺々しく燃え盛る鱗を全身に
相対しましたるは、斬竜 ―― ディノバルド。そういう名前だったと記憶しています。
「現存数が少なく、ここ古代林周辺と……つい最近になって王国の手を離れた経緯のあるデデ砂漠の方にも繁殖が確認された種ですニャア。僻地ばかりを住処とする、わたし達でも戦うのが初めての……」
イモートの言葉を遮って、ディノバルドは此方を振り向きます。
2度に分けて。反転、反転。
対面 ―― 咆吼!!
「ヴフゥ ―― ラォォォアアアァァァッッ!!!!」
びりびりと震える肌。いよいよの開戦です。
あなたは耳元でぱきんと割れた使い捨ての耳栓を詰め替え……油断なく、ディノバルドの周囲を左回りに旋回し始めます。
先ほどの気球への迎撃からみるに、如何様かのブレス有り。
前足は獣竜種の例に漏れず退化しており、武器とは見做さず。
顎、そして何より ――。
「尾! 来ますニャ!」
ズッ ―― ズシンッ!
イモートの警鈴に合わせて、すぐ左 ―― そして右。続けざまに振り下ろされる尾を、あなたは身を低くしてかいくぐります。
踏み固められた地面がバターの様に抉られるその様子は、刃尾の威力の高さを示しています。
そして、周囲全てに神経を巡らせていたあなたの肌をふっと撫でる、温かさ。どこか……刃が抜き放たれた後の地面からでしょうか、僅かながら余熱を感じます。
あなたはディノバルドを観察。……口唇周囲に、積層した金属片が視認出来ました。加えて全長の半分はあると見られる尾。間違い有りません。研いでますね、これは。
「ですニャア……!」
噛み付きを
刀の様な尾。焔。そして金属。ディノバルドの最大の武器は ―― とっと。
連撃。予備動作の少ない噛み付き、後方に下がりながら反転、距離を調節。その先で顎を大きく開いたディノバルドが、あなたに向けてブレスを吐き出してきます。
「ヴォォアッ!!」
飛来数2発。蛇行し、緩急をつけ。位置取りと歩法だけでそれらを躱して、観察。
あなたの右側に着弾したブレスは、しかし代表的な飛龍種のそれとは異なり、地面にへばり着いたまま面影を残していました。研いだ尾の副産物……屑鉄とでも呼ぶべき物を、ブレスの核として利用しているのでしょう。
そうしている間にも、ディノバルドが小刻みに位置取り ―― そんな遠くからでも届くのかと叫びたくなる尻尾、叩きつけ。
踏み込んで繰り出せばリーチは長く。反転後退してから出せば、ハンターを引きつけてのカウンター。
強靱な後ろ足があればこそのフットワークです。あなたは距離感が難しいな、という印象を受けます。
いずれにせよ、少しは反撃しておきたい所。あなたは背中の槌の持ち手に手を伸ばし。
「―― 後ろですニャ、あるじさん!」
ディノバルドを挟んで反対。此方を
後方で爆裂音。位置からして、先ほどのブレスが着弾したもう一方の側。うわぁ。爆発までするらしいですね、
「ご無事で。……はてさて、あの図体に獣竜種生来の高さと脚力。強いて言えば頭は狙い易くはありましょうが……いかがしますニャあるじさん」
また距離を取ったディノバルドを引きつけながら、イモートの方針確認の言葉。
あなたは強く頷き返します。やってやれです。元よりあなたは、こういった見たことのないモンスターと出会う事を「好し」として遠出をしているのです。
是非もなし。手持ちの武器防具は貧相であれ、準備は抜かりなく。
立ち回りとモンスターの動向を探る必要はいずれにせよあって……この遭遇は突発的だとはいえ、むしろ幸運と呼べましょう。
倒します。……ええ。この斬竜は、いずれにかあなたに、必ずしや降りかかる驚異であります。けして届かない相手ではありません。何れ倒さねばならないのなら。準備に費やす時間と討伐にかかる時間を天秤に。ここで取り除いてしまえれば、それは「効率化」に他なりません。
「つまりは ―― いつも通り、ですニャ?」
ええ。呆れたようなイモートの言葉に、あなたは頬を緩め口角を吊り上げます。無意識に。
大槌を両手にずしり。あなたはディノバルドに相対します。
喉に焔を灯し、唸りをあげるは、見上げ仰ぐ程の巨躯を
なればこそ。ハンターとは、窮地を自ら先導し、切り拓く者であり。
なればこそ。ハンターとは、強敵を前に見得を切る、傾奇者であり。
なればこそ! あなたは勇ましき志を掲げて剣とする、狩猟者なれば!
さあ ―― さあ! いざ、いざ!!
「ヴルォアアァア゛ーーッッ!!」
古代林の奥深くから震え、響き。周囲に決戦の開幕をこそ、知らしめたのです。
――
――――
ベルナ村と古代林の管轄地が近いことは、行き来が簡便であるという大きな利点です。
……が、しかし、その利点は裏を返せば「陸路で村へ向う商隊は必ず近辺を通過しなければならない」という欠点でもありました。
普段はそれを空路を使うことで解消しているのですが……この一団はそうもいきません。具体的に言えば、輸送する物量の多さから経費削減のために陸路を選んでいたのです。ベルナとアイルー達の駐留所を設けた村との距離が、そんなに遠くは無いというのも一因でしょう。
兎も角。ともあれ。
とっぷりと夜に浸かった古代林を、今(よりにもよって本日)、オトモアイルーを迎えた中々の規模の一団が通過しようとしていました。
商隊も合流しているこの一団は、積み荷も沢山。竜車や鳥車が隊列を成して目指しまするはベルナ村。
一応、先んじて、ベルナ村の取りまとめハンターからの私的な警告は届きました。しかし残念ながら、或いは予想の通りに、納期が遅れるという点について商隊の長が難色を示してしまいました。時は金なり。納品は早ければ早いほど費用が浮きます。一隊の規模からこの貿易の総額を見れば、予定通りの夜間行軍を慣行した長の判断も、一概に責められたものではないのです。
それらを理解して、彼ら商隊に同道したベルナ村からのアイルー迎えの一団も、古代林に足を踏み入れていました。
明るすぎる夜の月に照らされながら歩く彼ら彼女ら。新たにオトモを目指すアイルー諸君は、初めて見る古代林の景観に興味津々。おっかなびっくりながらも、努めて陽気に、ハンターになったら的な夢を語り合ったりしています。
そんな中。もこもこむふぉーな四脚奇蹄目の上に……そう。彼らを率いて村を発ったネコ嬢さんは腰掛けていました。
引率役でもある彼女は、(比較的)高所から遠くを眺めていたのですが、ふと、違和感を感じて古代林の闇夜に視線を巡らせます。
「? 何か今……空気が、震えたような」
そんな気がして周囲を見渡しますも、無論大型モンスターの影は見えません。古代林は夜でも水と木々の喧噪に満たされており、大きな音も珍しくはありません。
商隊は既に管轄地の一部を横切ろうとしていました。初めての大きな仕事を滞りもミスも無く終え、ほっと安心出来たその帰路です。目先のベルナ村へ急ぐ商隊。新人のアイルーメラルー数多。
この一隊の前後には護衛のハンターも居るのですが……アイルー達の駐留先だった村は、帰り道の護衛ハンターとして新人の方々を選んでいました。ただ、残念なことに新人ばかりの
無論、ハンターの花形とは大型モンスターの討伐。ネコ嬢とて異議はありません。
ですけれども、という逆説を繋ぎたくなるのは……不安がり過ぎなのでしょうか。
ええ、はい。
はたして、不安は的中します。
商隊の先頭が管轄地を抜け、大型モンスターの入り込めない
―― ヴルォアアァア゛ーーッッ!!
今度ははっきりと聞こえました……聞こえてしまいました。
紛れもない、大型モンスターの咆吼です。
なんだなんだ、と慌て出す商隊の人員。半ばパニックに陥る新人アイルーメラルー。
そして困った事に ―― 遙か遠方からの威圧感によって、竜車を引いていたアプトノスと鳥車を引いていたガーグァが足を止め、あまつさえ逃げ出してしまったのです。仕方がありませんね。動物というモノは、自然界のカーストに極めて弱いのであるからして。
とはいえ商隊の長にもこういった経験が無いわけでもありません。長は極めて冷静に務め、事務的に、当たり前に、護衛のハンター達に周囲の警戒を依頼します。
問題はここで周囲警戒に当たったのが、かなり特徴的な古代林の地形に全くもって造詣のない……有るはずの無い……遠方の村々から来た、新人ハンター方々であった事でしょう。
ハンター達は各々武器を取り装備を調え、荷車を降ります。
積み荷を再編して隘路に向う商隊を見送りつつ後方、殿を務める事に。その傍らには、彼ら彼女らとコンビを組む予定のアイルー諸君も混じりました。
ヴヴヴルォォォオオアアアー―ーッッッ!!
再び、大きな咆吼。
金属音の様な物が混じった異様な響きが、向かいの木々をざわりと揺らしました。
近い。ハンター達の手に汗が滲みます。実はさっきから何度も宙に打ち上げられている樽爆弾の信号や狼煙を見る猶予も、古代林の不気味な夜闇に目を凝らしてその種類を判別するだけの心の余裕も、残念ながら彼ら彼女らにはありません。
そしてあっさりと、ディノバルドが木々の間から顔を覗かせるのです。
硬直 ―― 予想だにしないというより、見慣れない、いや、大型の。
新人ハンター達が考える事が出来たのは、そこまででした。
足が止まった敵対物を逃す道理もありません。ディノバルドは容赦なく刃尾を振るいます。
縦に3発。一撃ごとにハンター達が吹き飛んでゆきました。凄まじい衝撃に水辺まで転がる者。昏倒した者。意識はあるものの顔面蒼白、腰が抜ける者。
そしてそれはアイルー達も例外ではありません。
「なっ、なん……ニャ……!? なんなんだニャ!?」
毛を逆立て、
……不幸にも、あげてしまいました。
ぎろり。
「―― ヴルゥ」
「ひ」
間近なディノバルドの視線に射られ、
逃走を。追撃を免れたハンターもアイルー達も何とか促そうとしますが、声が出ません。
道具を ―― ポーチはぺしゃんこ。ああ。これは。
「あ、ひ」
既に言葉を成していない悲鳴を、アイルーは漏らします。
赤く、口元に溶解した金属。下半分だけでもアイルーの体躯を悠に超えるディノバルドの顎が、目前に迫り。
迫り。
迫る……足音。
ハンターよりも遙かに軽く小刻みな、まるで少女の駆ける様な ―― 正しく、誰かの窮地に駆け寄る音。
「目を ―― 閉じてくださいっっ!!」
アイルー耳を模したカチューシャが、闇夜に揺れます。
ディノバルドの10メートル付近にまで接近した少女 ―― ネコ嬢が、自らの掌よりも大きな物体を、投擲。
そして炸裂。眩い光が生まれて、ディノバルドとアイルーの間を隔て遮りました。
「ヴォォオオオルォォッ……!?」
大きく仰け反って、ディノバルドは身悶えます。ネコ嬢が放った閃光玉によって目を焼かれたのです。
狩猟道具の講習を受けておいて良かったと心底思いながら、ネコ嬢はアイルーとハンター達へ端から声を掛けます。
「今の内に……こちらへ! ハンターさん、アイルーちゃん!!」
ネコ嬢もハンター達も知っています。モンスターという物は想像を遙かに超えて強靱で、この閃光玉の効果などはすぐに消えて無くなってしまうことを。
だから、あるハンターはこの機会を逃すまいと震えたままで必死に立ち上がり、近場に居たアイルーを担いで隘路へと走り。
あるハンターは放られた武器はそのまま、地面を這って隘路へ逃げ込み。
……しかし。
「……あ、ニャ、腰が……抜けて……目も、ちかちかして……!」
直近に居たアイルー、そして昏倒したハンター1名ずつが、すぐには起き上がれずにいました。
彼ら彼女らを、少女は目に留めます。自分よりも大きな体躯の、それはそれとして役職的にも守るべき、引き連れるべき方々を。
なればこそ、少女は更に駆け寄ります。身体を振り回す斬竜の間近にまで迫り、せぇの、と力を込めて。
「……んーっ! んーーーっっ!!」
「な、何してるにゃネコ嬢! オレらは放っといて、逃げるニャ! 逃げるニャ!?」
必死に彼らを持ち上げ、引きずり、ネコ嬢は隘路を目指します。
彼らを見捨てるという選択肢は、彼女にはありませんでした。実質彼女は
それは多分、輝かしい物でした。誰かを見殺しにしたくない。そんな素直で、真面目で。暖かさを忘れる筈のない、日溜りのような心根でした。
とはいえ心は心。筋肉量は残念、ネコ嬢は見た目通りに少女の
微々たる前進。隘路までの距離。唸るネコ嬢。
当然、ディノバルドが視界を取り戻す方が早い。首を振って視界を探り、瞬きをひとつ。
目前に獲物。そして当然、敵対行動を取った少女を ―― 斬竜が見逃す筈もなく。
「……ヴォォオッ!!」
「……!!」
振り上げられる尾。その影に照らされ縮こめられた、少女の矮躯。
遙か高く。刀の様な尾を振り翳し月を斬る竜を前に、竜人族の少女は絶命を覚悟しました。
ああ、終わるのだなと。真っ暗になるのだなと。
遠く長い竜人の寿命では無く……天命。
わたしという個はここに尽きるのだと。そういう諦めにも近い想いでもって、少女は目を瞑ります。
せめてもアイルーをぎゅっと胸に抱き、その時を待つ。
空を切る音。
―― 重ねるように空を切る音。
ドズン!! 打撃の音。
痛みはありません。
代わりに誰かの息遣いが聞こえます。
そう。誰かが。
誰かが。
「―― あ」
その人は血に
既にここまで長い戦いを繰り広げてきたのでしょう。打撲を受けていない場所など無い、とばかりに布鎧のあちこちを
息を荒げ。脈動を乱し。それでも自らの武器を持ち上げて、迷うこと無くディノバルドの巨体に立ち塞がります。
冷えた夜陰を切り裂く、熱を
首の高さで振られたそれを、あなたはスウェー。ネコ嬢達が攻撃に巻き込まれないようその位置を視界に収めながら、体をそらした反動で力を溜め、ぶつけ、次の一撃も受け反らします。
ぎりぎり受け損ねたベルナ石の大槌の端が、ずるりとカッティングされつつも。
「―― ネコ嬢、逃げられますかニャ!」
イモートが近くに駆け寄り、ネコ嬢の安否を確認してくれます。
どうやら五体満足であることに、ほっと息を吐きながら。
「成るほど、昏倒したハンターと腰抜かしたアイルーを庇ったニャァか。……その心意気やよし! よくやってくれましたニャン、ネコ嬢!」
あなたへの状況報告も含めて声に出し……どうやら状況を完全に理解したイモートも、同様に前を向きます。
「あ、あの!」
ネコ嬢が慌てた様子で口を動かします。どうやらあなたに何某かを話したいご様子。
ですが残念、余裕はあまりありません。
だから……大丈夫。任せて。
ええ。むしろここを転機として、相手もまた動かさず、倒しきってしまえば良いのです!
あなたはネコ嬢にそれだけを伝え、ディノバルドを真正面に捉えます。
今までいなしていた巨体の暴力に ―― 正面から。
さあ、反撃です!
溜め二段階。振り抜いた尾の隙をかい潜って顎へ。
予備動作の殆ど無い噛み付きを腹の下で避け、それでも炎のとばっちりをくらい。
イモートのスリングが投擲した石が瞼の上を直撃したその隙に立ち上がり、反対側。
……ここ!!
振り下ろした槌ががつりという小気味良い音を立てて、ディノバルドの顎を打ち付けました。
そして咽頭部で赤熱していた部分が、狙い通りに爆発。ディノバルドは片膝をつき、そのまま地面に倒れ込みます。
すっと回り込んだあなたは、痙攣するようにばたばたと暴れるモンスター、その頭側……やや左手前を位置取って。
振り下ろし、振り下ろし、トドメの ―― 飛んでけぇぇ!!
勿論、質量差が大き過ぎるので飛びませんけれどね。
しかしディノバルドは再び、今度は自らの爆発ではなく槌の打撃による昏倒で目を回す羽目になりました。
ついでにもういっちょ三段目まで加えておいて、さらにさらに、その合間。
「―― そんじゃあ、第二陣のお披露目と行きますか!!」
「爆弾、設置するわ。……総員、距離をとって頂戴」
がらがらと滑車を引いたセンパイが、昏倒の余韻の中にあるディノバルドに向けて接近して行きます。
滑車の荷台には、山と積まれた大樽。これらは勿論、只の樽ではありません。火薬と、あなたが採取しまくったカクサンデメキン。それらを調合して爆発力を飛躍的に高めた必殺仕事人な兵器、大樽爆弾Gなのでした。
あなたとイモートが距離を……しかし取らず。ディノバルドの身体自体を壁にして爆発を防げる位置についたのを見計らって、センパイアイルーが火口に着火します。
轟音。爆発。2度の転倒と移動によって十分に距離が空いているというのに、ネコ嬢の身体をびりびりという衝撃が襲う。それ程の破壊力を持った爆発です。
黒い煙に包まれ、晴れ。
ディノバルドの甲殻は削れ、顎もぼろぼろになっていました。
……でも、それでも竜は倒れません。
「オ゛オッ!! ヴォォオオオ!!!」
そして立ち向かうハンター達もまた、それが当然とばかりに各々の武器を持ち上げ ――。
また、互いが互いへと牙を剥きます。
それら攻防を……今は近く、しかし遥か離れた場所から、少女は呆然と眺めていました。
アイルーを救おうと、自らが振り絞った精いっぱいの勇気 ―― それを遥かに超えて。彼ら彼女らは大型モンスターに相対し、闘争を繰り広げています。
ネコ嬢は一見をもって知りました。狩猟とは、命のせめぎ合いでした。相手を殺さねばならないのです。そうして作り上げた土台に、わたし達は立っているのです。
誰よりもそれを知っているのがハンターなのだと。人と獣。嘗ては絶望的に隔たっていたその距離を必死に詰め、間近に成し遂げるのがハンターなのだと。最前線とその後方。壁は無くともハンターとそれ以外。両者の間には当然……しかし本来であれば誰にも気に留められる事がないはずの……距離が有る。ええ。当たり前です。それを知りえなかった事さえも、少女故の見識の狭さを鑑みて当然で。
けれども彼ら彼女ら、その背中を間近にみて ―― ネコ嬢は今、理解しました。そう。「理解してしまった」のです。
周囲を回復する笛を吹いて援護をするイモート。
遠距離武器を巧みに駆使するミィ。
視界を遮り、塞ぎ、楯と剣とで防御的にやり繰りするショウ。
……そして誰よりも傷を負い、ネコ嬢達の側には近づけまいと立ち塞ぎ、それでも斬竜に相対する、あなた。
その背中は遠く、小さく。闇があるからこそ眩く。だからこそ手を伸ばし望む、一筋の光明。夜空に輝きを放ち人々を導く、星々の在り方に似ているように思えます。
誰の手にも届かない場所で輝く星。月の様に夜道を照らす事もなく。輝きが消えたとて不和はなく。けれど何かを燃やして輝ける、そんな光に。
遠いのに、その背中が大きく ―― とっても、大きく見えます。ええ。確かにそのように見えています。残念ながら、見えてしまっています。
ぼろぼろなのに暖かく見えます。傷だらけなのに頼りたくなります。血まみれなのに近づきたくなります。近づいて、支えてあげたくもなります。
何故でしょう。相反するこの矛盾に、竜人族の少女は今、高揚を感じているのです。
頬が赤くなるほどに熱を、涙が溢れるほどに揺れを、胸がはち切れんばかりの昂ぶりを感じているのです。
それらは今度こそ間違いなく、少女にとっては初めての、「不思議な気持ち」でありました。
……がつり。斬竜が最期の力を込めて、自らの尾を咥えた音です。
力を溜め、まるで居合いの様に尾を振り抜くその攻撃は紛れもなく、ディノバルド最大最強の一撃。既に何度かくらったりくらわなかったりを経験済みのハンターらは、それぞれ回避行動を取るべく身構えます。
ただし残念。あなただけは、ディノバルドに向って猛然と駆け寄りますけどね!!
ぅおい! と
ここ。顎の絞筋が緩むその一瞬、あなたは全力で前方ローリング。
狩技「絶対回避」。剣域を潜って、ディノバルドの目前まで肉薄します。
間近に、頭蓋にまで変形が及んでいるであろう……叩かれ凹んだ厳つい顎。苦労の甲斐あって、その甲殻はあなた同様ずたぼろでした。
あなたはちょっと苦笑しながら、お互い大変だなぁと世間話でもするように、槌を横溜めに構えます。
あと数十歩。
振り回した尾が ―― なんと。ディノバルドは回転させきった尾を、再び右側から咥えてみせるという芸当をみせてくださいました。
これは、ああ、大回転居合いをもう一回出来そうな体勢です。ディノバルドの目もその高揚ぶりに呼応したのか、どことなく赤い焔を帯びている様な気がします。
どうやらただで終わらせてくれそうにはありません。ぬわー、と奇声を脳内で漏らしながら、あなたは集中の度合いをフルスロットル。足は止めず、ディノバルドに向けて前進を続けます。
狩技にも頼ることは出来ません。今度こそ、正真正銘の、見切りです。
凄まじい速度。擦れ合っただけで焔が舞い全てを斬り散らすであろう、いやに澄んだ音が耳朶をうちます。
怪物に相応しいその巻き打ちに、あなたは確信を持って飛び込みました。
ディノバルドには誤算があります。彼または彼女の最大の武器たる尾は、今や万全ではありません。センパイとセンパイオトモとイモートが協力して、その先端を削り折る事に成功しているのです。
……まぁ、そのために。仲間達に背後を取って貰うために、あなたが
兎も角。
有るべき部分に今は無い刀身を意図せずして。放たれますは、ディノバルド渾身の抜刀、2撃目。
来る瞬間、あなたは一歩だけ歩みを止めつつ身を低く。
ほんの僅かに開けた位置で、届かなかった灼熱の刃が空を切る。
ぎらりと青くも赤い、焔の切っ先をそのまま写し取った様な刃の尾。触れる物全てを切り裂き砕き叩き焼き熱し切る、竜の長物。
焼け焦げたような臭気が誰を掠めることも無く通り過ぎ、そしてあなたはまた、駆け出します。
苦し紛れ、無理やりな体勢から突き出された顎を避け、横殴り。
崩しが綺麗に入り、巨体が足をもつれさせます。渾身。ややも怯んだ頭を溜め二段から、トドメに向けて地面を震脚。
……ご唱和下さい。
会心の手応え。
仰け反って、仰け反って……オオ、ン。
竜は断末魔の叫びを残して、仰け反り過ぎてはとうとう、仰向けに地面に倒れ。
そして終ぞ、起き上がることは無かったのです。
・ディノバルド
危険度5。リオレイアなどの比較的数の多い大型飛竜と比べて数も少なく、肉体的にも脅威となる正しくモンスターと呼ぶに相応しい生物。
徘徊地域が狭く人間の生息域とはあまり被らないため5となっているが、恐らくは危険度6のモンスター達と比べても戦闘能力では十分に引けを取らない。
攻撃範囲が大きく、その前後に長い体躯を駆使し尾を振り回すため、距離感が掴み辛い。
(アイボーご出演おめでとうございます!)
・絶対回避
身体を大きく捻りながら前へ身体を投げ出す、回避のための狩技。
効果は読んで字の如く。
・スタイル
あなたは取りあえずブシドーを採用しています。
回避して駆け寄ってる辺りにその片鱗が伺えれば幸い。
・ホームラン
異世界迷い込み系統としては、最高峰だと思っています。
大好きです。