それはあなたがいよいよ、上位に向けた防具作りに勤しんでいるある日の事。
「―― おいっすー。精が出るなぁ、我が後輩」
何故かハンターハウスの窓から顔を出しましたるセンパイが、軽い調子で手を振っておいでませ。
最近は龍歴院の方で出ずっぱり(引き籠もりとも言う)なごセンパイではありますが、その突拍子無い行動にもそろそろ馴れてきました貴方。此方はその軽い調子をオウム返しに、ぴしっと敬礼しておきます。
今日は調査とか入ってないのですかね、センパイ。
「まーちょっと抜け出してきたんだよ。調査ばっかりで息が詰まってな。イモートもおいっすー」
「ええ。こんにちニャーですニャァ、ショウセンパイ」
「でもってちょっとお邪魔するぞー?」
「どうぞ。外側から窓に寄りかかられているよりは、家の中に入ってもらった方が外聞も良いですニャン?」
「ほいほい。お許しを頂いたところで……よいせっと」
軽妙なやり取りでイモートにも許可を取り、センパイは中へ。適当な椅子に腰掛け、イモートが出したバッケ茶なるキワモノに口をつけます。
まさに不動。バッケ茶が含有するやたらな苦みに、センパイ、微塵も動じず。
「俺らと一緒に狩猟にでもいかないかー、ってお誘いなんだ。後輩を」
ほう。此方を。
「そーそ。残念ながら俺とミィだけだと色々と不安でな。実力者たる後輩の力をお借りしたいなぁと。何とか頼む!」
ぱぁんと両の掌を合わせて、先輩は此方にびしりと頭を下げます。
あなたは横に座るイモートと視線を合わせて……はて、どうしましょう。
「宜しいのではないですかニャン? この間センパイのオトモたるミィさんに伺ったのですが、ニャンターとオトモアイルーの兼業をなさっている彼女は、ショウさんのスケジュールメインで動かざるを得ないのだそうですニャン」
ほむん。
「で、お二方が同時に動いている案件と。つまり今回のセンパイのお願いは、ある程度の『大切な用事』だと言う事でしょうからニャァ」
なるほど。
でしたら此方も、防具の完成を待っている期間ですし、センパイの狩猟にお付き合いすると致しましょう。
あなたは会談をそう締めると、武器と防具と数多くの道具(主に爆弾と罠)を抱え。龍歴院……そして今回の狩猟の目的地となるユクモ村付近へと足を向けるのでした。
→
→→→
→→→→→
(早送り)あなた狩猟中……。
←←←←←
←←←
←
そして、ベッドに突っ伏すあなた in マイハウス……。
「―― あのう。だ、だいじょうぶ……では、ないですよね」
此方を気に掛けてくださるネコ嬢方。わたわたと
さて。実に効果的な刺激療法にてベッドの上の置物から復活しましたるあなた。ハンターハウスからベルナの村中真ん中辺り……いつも美味しい料理を開発して下さるおかみさんの所のカウンターに移動して、でも突っ伏しつつ、何とか胃に栄養素を突っ込みながら、ツッコミ。
いやあれホントになんで相手しちゃったんですか? 『赤兜アオアシラ』って。青みの欠片もないんじゃないですかね(返り血)。そもそも場所もユクモ村から更に移動したほぼ秘境みたいな所でしたし。
「特殊個体……超特殊許可下での狩猟、という奴にぇ」
「残念。俺の専門なんだよなぁあれが……」
自分奢りのご飯をもそもそ口に詰めつつ、綺麗な発音で説明下さいますセンパイ方。
「あなたの、言う通り。あのアオアシラ、返り血で染まってるんじゃにゃいかって言うくらいには人を屠ってるもにょ」
「いや猫だっても語尾が『もにょ』て。……痛い痛い、頬をドングリで突かれるのは痛い。……まー、あれだな。最近は狂竜化とか、獰猛化とか、そーゆーのが話題になってただろ?」
自らのオトモに突かれながらも話題を進めてくれるセンパイは、ぴっと指をたてて。
「狂竜化については、後輩にとっちゃ今更の話題かも知れないけどな。さておき。新種だけじゃあなく、モンスター方々、個々の特殊性ってのにも目が向けられてるんだよ。特に研究者の間でな。で、その先陣が俺になってるって流れなんだが……あのアオアシラの特殊個体『赤兜』ってのは、損害を与えすぎててなー。村1つと討伐チーム1つをお釈迦にしちまってるってので、狩猟が必須だったんだ。だのに赤兜ご夫婦に通常種1体の、合わせて3体。まぁ、もう少し遅かったら3体の『赤兜』を相手にしなきゃならなかったのかもと考えれば、ましな方だったのかねー」
軽妙かつ神妙に、そんな説明を付け加えてくださいました。
なるほど。あの個体相手に戦力が必要だったのは、大変よく判ります。
ちなみに最後の1匹になった辺りで固まった戦法は「状態異常で攻める」でしたね。睡眠爆破にあなたの持ち込みが大変役立ちました次第。
しかしまぁ……だとすると。センパイはああいった特殊個体ばかりを専属で相手取っている訳なのですか。おっそろしい(率直。
「そーなー。でもまぁ俺くらいの腕のハンターは大勢いるし、本当なら人手は足りてるはずなんだ。……問題は、この特殊狩猟許可を得て初めて行けるクエスト群が、ギルドの評価と殆ど関係ないって所なんだよなー」
うわぁ。
それは、何というか、ご愁傷様です(合掌)。
「いちお、ハンターランクは上がるぞ? でも世間評には乗らないし、相対危険度の監査対象でもない。狩猟を成功させて得られるのは、もっと難しい地域で変異化した同個体の狩猟許可っていう鬼畜ぶり。素材も加工が特殊過ぎて汎用性が少ない。強化するのに同じモンスターの、もっと強い相手の素材が必要っていうな。……要はうま味が少なくてやる奴がいないんだ」
「えぇ、でも。村などに早急に被害が出る訳でもないの。追い込みは私達が担当して、あとは都合のいい時に狩猟に向かうという流れにぇ」
「だなぁ」
愚痴らしきものを楽し気に呟いておきながらついにはバッケ茶を飲み干しまして、センパイはひょいと腰を上げます。
また、お仕事でしょうか?
「おー。なんせまだ日も高い。後輩は上位の武器手前までを揃えたら、ついに集会所クエに挑むだろ? 俺も書類上の手伝いは色々とさせてもらうつもりだからな。ハンターの招集もそうだし……鍛冶屋の備品と人手もグレードアップさせる予定がある。ここで立ち止まってる暇はないからな!」
「そうかしら、にぇ。……いずれにせよ、アナタ達だって長く村に逗留するつもりはないでしょうし。折角色々な場所へ飛べるようになったのだから。……私たちと、どちらが課題を先に終わらせることが出来るか、競争かしらね」
「競争、競争か。……それも良いかもな?」
やけに嬉しそうな表情で、センパイとそのオトモがそんな無理難題をけしかけてきますが……互いに進捗を競い合うくらいなら楽しそうではありますね。センパイとはどうせ、ベルナ村に戻るたびに顔は合わせるのでしょうから。
「そうな。いつかまた、こっちの研究がひと段落ついたら一緒に狩りには出られる。ハンターランク的には俺もそこそこあるし……G級あたりかね? 落ち着くとしたら」
「えぇ。あの青年が作っている、船が。完成したのなら……私達が現場に赴く仕事も増えそうだもの」
「んー、そうなると大変な狩猟ばっかりになりそうではある。けど、俺らに振られる狩猟なんて重要なのばっかだろうしそこは気にはならないな。……あ、あとニャンター業務ではネコお嬢にも色々と面倒かけるけど、よろしくな?」
「はっ、はい! むしろ、アイルーさんの狩猟履歴の報告はわたしの方がミィさんにはご迷惑をおかけしているような……?」
「そこは、慣れよ。今のうちだけ。どうせ本格的に忙しくなったら、貴女に丸投げににゃってしまうのだから。私からも、よろしくにぇ」
「……わかりました。頑張って、覚えますね!」
がっと四つ指で拳を握って、気合を示しますネコ嬢。
その姿を見届けてから、センパイらは龍歴院のある方向へ……緩やかな丘の向こうへと歩いていきました。
……あ。途中でセンパイがアイルー塗れになりました。どうやらアイルーにはとても好かれる様で。
これじゃ歩けん!と、1匹1匹、名前を呼び掛けながら地面に下ろします。何やら続いた名詞は、恐らくはアイルー方々の名前なのでしょうけれども……なんだか色とか植物とかの名前が多い気がしますが、気のせいかもしれません。今あげた以外にも沢山いますし。
でもって。
あなたも、おかみさんの作ってくれた前菜をもそもそと(半ば習性で)口に運びながら、センパイ方と再び狩りに同行できる日のことを考えます。
今回の狩猟に同行して、判りました。センパイとオトモセンパイはかなり謙遜してます(断言)。あのおっそろしいアオアシラ達を追い詰めるまで、センパイ達は9回ほど2名(+アイルー)だけで狩猟している訳です。センパイが身に着けているナルガクルガの防具も、白とかいう見慣れない色をしているのは、つまり「そういう事」なのでしょうから。
そんな人と狩猟に出る、G級あたりのモンスター。何のことでしょうとしらを切りたくなりますね。エンシェントとかエルダーとかいう古語が頭に付く生物達が、またもや目前に立ちはだかるのでしょうか。ううん。
……まぁ、その前に上位の依頼を片付けなければならないのですけれどね……?
などと。あなたは目前に積まれた課題の壁をぶっ壊す気概に、人知れずやる気を燃やすのでした。
余談で一部を〆やがりましたごめんなさい。
では、皆さんよいお年を。
・赤兜
特殊狩猟許可、と呼ばれる依頼によって討伐が成される、アオアシラの特殊個体。
亜種とはまた違って、モーションや属性だけでなく、明らかな強化が施されている。
ただ、赤兜だけは鮭ばしゃーんする愛嬌が仕込まれていて癒し。
・バッケ茶
オリジナル。バッケはフキノトウの事である。
出典はアイスボーンより、バッケ酒。