心中が喧しいパチュリーさんの小悪魔達観察記   作:風緑.

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11P目 = Y_意地

「『バニシングエブリシング』」

「っ」

 

 トランプが宙を舞い、二人の姿が消える。ついでに泥棒も消えたところに咲夜の幽かな優しさを見た。

 ディゾルブスペルが突き刺さる。

 

「あ、ああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

 インの絶叫が、紅魔館を震わせる。

 

 それはつまり私も震えているということになり気合で抑え込んだ筋肉痛が再発してててしかもさっき埃吸い込んじゃったから呼吸器官までででで更には頭に巡った血がそのまま血管圧迫して頭痛ががががが

 

「あああああ…………ぐっ、が、ぐぅぅうっ!!」

「……もうひと踏ん張りよ、イン! 負けるな!!」

 

 でも。ここで弱さは見せられない。信じて頑張ってる小悪魔の前で、血反吐吐いてる頼りない主。そんなのはもう、たくさんだ。それにまだ見栄を張ってから十秒も経ってないし。せめて一分はカッコつけたい。

 ところで、唇って噛めば噛むほど血の味ね。血はレミィに薦められたとき以来だけど、やっぱり美味しくないや。珈琲の方が好き。

 

「う、ああ、アアアァァァァァ!!!!」

「……!?」

 

 突如、ディゾルブスペルの消費量が跳ね上がる。それが私の右腕に幻想の重みとして降りかかる。重みは右肩まで伝播し、遅れて差し込むような鋭い痛みが襲う。肩の力が抜け、支えを失った腕が力無く落ちた。

 

 ――そこへ、無理矢理立てた右膝をつっかえる。

 

「……っ! ……っっ!」

『わ……れ……願いを、叶える……モノ』

 

 二の腕に膝蹴りをかますようなものだ。当然、腕に激痛が走る。だが、これで関節的に腕は真っ直ぐなまま落ちない。震えるギプスで右手を引っ掛け、再び掌をインに向ける。そして緊急的に割いた身体強化分の魔力をディゾルブスペルに戻す。

 

 ……あれ? なんか、インから出てる?

 

『この者の……願いし、普遍。たとえ、誰が相手になろうと……我、叶えることを、誓う』

「……お前は」

 

 具体的に言うと、倒れてるインの背中から魔力が溢れてる。

 溢れた魔力が塊になって、しきりに振動してる。

 

 あー、うん。あの、えっと。

 あれも魔法に関することだし、知らないわけじゃないんだけども。

 何なのかは分かるんだけどさ。

 

 

 一体何をやったのさ、イン。

 

 

『紫の魔女。この者の願う普遍において、最大の脅威。排除する』

「えっ、おまっ」

 

 魔力の塊からめき、めきと音がする。瞬間、鞭のように魔力が私へと伸びてくる。咄嗟にディゾルブスペルを変形させ、伸びた部分を全て覆い消す。

 そんなことをすれば当然薄いところだってできるわけで。今度はそちらから塊が伸びる。それを消す。横からまた伸びる。消す。陰からもう一本。

 消す。貫くように真っ直ぐ。

 消す。薙ぎ払うように死角から。

 

 

 ――自立魔力。今や伝説となった現象。

 超高密度にした魔力が意思を持ったように振る舞い、与えられた魔法を使って、可能な範囲で願いを叶える。

 たとえば自立魔力に日魔法を与えると、叶えられるのは日光浴から核融合まで。

 

 

 消す。地面を伝って。

 消す。

 

 不規則に曲がって。

 消す。

 直前で一度躱して。

 

 

 伝説になった理由は、もう対処法ができてるから。

 この現象にはフランドー……紅霧異変のときのレミィの紅霧でイギリスを覆う程度の魔力が要る。

 それほどのコストを自分で使わずに「暴走」させるのはあまりに勿体無いし。

 伝説になるのは、当然だった。

 

 

 消す。

 消す。

 消 す。

 

 三叉が 一つ。

 

 

 そんな、自立魔力のコストは。

 たとえば、私の「賢者の石」であっても。

 一つ、二つじゃ、到底足りない。

 

 つまり――

 

 

 

 す

 

 

 

 

 

 天井から急降下扇状に左右網目で分散薄く広がり面制圧見えないほど細く鋭く内外で濃度に差をつけて偽装直前でパターンを変え僅かに曲射取られた部分を切り離し枝状に分化初めから当てない攻撃を織り交ぜ執拗に頸を狙いただ落ちてくるだけの塊が交ざり壁で跳ね返り背中を撃ち高出力で前方から一撃細かく視界全体を覆い大量に絶え間なくそれに紛れて空中を伝い

 

  

 

 

 

 

 消

 

 

 

 

 ベッドの繊維の隙間。

 

 

 

 

『人の身に限界あり。敗北を認めよ』

「……」

 

 光が、消える。

 

『敗北を認めよ』

「…」

 

 

 喧騒が、遠ざかる。

 

 

『敗北を……』

 

 

 

 鉄の味は、もう、しない。

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……?』

 

 

 三十二。

 

 

 

『……なぜ、認めぬ?』

 

 

 三十八。

 

 

 

 

『なぜ、まだ、抵抗を続ける』

 

 

 四十三。

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぜ――死なぬ』

 

 

 五十一……。

 

「決まってるでしょ」

『何?』

 

 一旦ストップ。えっ、お前に時間は止められない? ちょっと考えてみてほしいわ。周りに何も動くものがないなら、それは時間が止まったって言えるんじゃないかしら。

 だから鞭を全部一気に消し飛ばした今は、停止してるも同然だから見栄カウンターを進めなくていい。オイラーも驚きの完璧な理論よ。完璧だから後で咲夜に調整してもらって完璧さを増していきましょう。「あんたが、本物の――」やっぱり真に完璧なものって完璧じゃないからこそ完璧だと思うのよね。凹。成長し続けるからこそ後から来た化物みたいな才能にも負けない積み重ねになるの。年齢とともに重ねるべきは強さじゃなくてこういう牽強付会も自分の力に変えられるような強かさって書いたら文字変わらなあっやばもう流石に限界――っ!

 

「――け、こほ、うぇ、げほっげほげほぐげおえぅ!!!」

 

 防御用と見せかけて、濃くしたディゾルブスペルの一部を内側に変形。そのまま自立魔力を刺し貫く。

 

『……!?』

 

 次いで、空いた穴にディゾルブスペルを流し込む。これで内外両方から自立魔力は消されていく。

 

 ……目論見は、上手くいった。こいつは……保って、15秒。

 

『あ……ぁ……? 紫……魔女……何を』

「ぜ……教えて、あげ……ひっ、げほっ、えほっ!」

 

 だから、15秒。

 たったそれだけ、耐えれば、それでいい。

 

『消える……消えていく……!? 何だ、これは、我……我、は……っ!!』

 

 

 ――たったそれだけ、なのに!

 

 

「ぅ――statically, durably, fir、ぁ、がふっ、う、Permanen、ぁぐっ!!」

『止めろ……止めろ! 紫の魔女!! 我は消えず、消えるわけに行かず!! この者の願い、我が、我の代わりなど、どこにも――!!!』

 

 随分、暴れてくれたじゃないの! いくら咲夜が綺麗にしてても、そんな動いたら埃が立つでしょうが! 私が喘息でグロッキーなの分かってるのか! そうでなくても限界ギリギリだっていうのに! 耳鳴りは酷いし、上がどっちか分かんないし、表情筋まで含めて全身筋肉痛なんだよ! そりゃ分かるか! さぞ見るも無惨な生きてる死体(リビングデッド)なんでしょうね!

 でもね! 今更引かないわよ! ここまでやって、駄目でしたって言って諦められるなら、魔女なんて名乗っちゃいないわ! 主なんてもってのほか! ノーレッジ家からも蹴り出される……かどうかは怪しいけど! とにかく! お願いだから早く沈んで! はよっっっ!!

 

 

 

「uuuuUUUUUUUUUUUuuuuuuP!!!!!!」

 

 

『む、らさきィィィィィ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……パチュリー様?」

 

 

 

 

 

 

 


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