心中が喧しいパチュリーさんの小悪魔達観察記   作:風緑.

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5P目 = Y_再び二度

 目が覚めたら、目の前に目が覚めるような美女がいました。

 おいおい、勘弁してくれよジェニファー。二度も起こすだなんて君は本当に悪い女だな。どうしたんだい、私と一緒に夜の向こうまでランデブーしたいのかい…… 

 

 

 いや違う。吸血鬼特有のテンプテーションだこれ。いい加減発動しない方法を覚えてほしい。親友に毎回発情しかける私の事情を察してくれないか。いつもギリギリで耐えてるんだよ、ジェミリア。

 

「お早う。久しぶりの二度寝の味はどうかしら?」

「ふふ……面目ないや……」

 

 はい、こんにちは。大図書館の虚弱体質、パチュリー・ノーレッジでございます。今はこちら、昼の太陽も拝める巨大窓と豪華天蓋付き客用寝室のベッドの上で療養中。動かせる筋肉オールモストナーン。そのうえ倒れた時の喘息の発作がまだ軽く尾を引いてる。うーん、この感覚久しぶりだわ。控えめに言って死にそう。

 

「話はコアだったか、あいつから聞いたよ。精神汚染を治すための解除魔法で全部解除してしまったのだろう? あなた、たまーに軽率よね」

 

 あ、そういうことになってるのね。コアのやつ、約束は守ったんだ。そりゃそうか、悪魔だもの。契約には逆らえないわよね。

 ん? でも契約で召喚したわりにたまに反逆されてるような……

 

 つい思考の渦に入り込みかける頭を、羽でつつかれた。ついでに頬を羽でぷにぷにされる。やめろ、こしょばい。でも振り払えない。全く力が入らないぞ。しかも魔法も使えないぞ。悔しい。

 

 

 

 ……使えない?

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……あ、ああディゾルブスペルか。まだ残ってるのね。私の魔力を消しても消去力が有り余ってるんだな。さすが私の魔法だ。強いぞすごいぞ、うん。

 

「……まあ、そのうち体鍛えなきゃって思ってたし……あなた風に言うなら、これも運命なのよ、レミィ」

「そう、なら治ったらすぐ運動を始めましょうか。案ずるな、ランニングウェアならもう用意しているわよ、パチェ」

 

 部屋の隅に置かれた紙袋が羽でぴっ、と差される。はっはっは。さすが親友だなあ。その外堀から埋めていくところほんと大好きだぜちくしょうめ。

 

 さて、さっきからベッドそばの木椅子に座り、ふてぶてしい態度をとっているこの蝙蝠羽の少女。名前をレミリア・スカーレットという。この紅魔館の現当主であり、私の無二の親友である。

 これ以上の説明はいるまい。だって掘り返せば必ず一緒に私の黒歴史が出てくるからね。これは隠蔽工作ではなく、ただ必要がないだけだ。そこを間違えないでほしい。

 

「残念だったわね、そのランニングウェアが私に合うサイズとは限らないわ」

「問題ないさ。フリーサイズを用意した。第一あなたは八十年前から全く変わらない体型でしょうに」

「変わってないわけじゃないわよ。最近お腹の肉が気になる」

「それぐらい、魔法を使う時のエネルギーにでも転化したら?」

「……お前永琳かよ」

「いやそれどういう意味よ」

 

 おいおいレミィ、お前はまだ幻想郷語を習得していないのかい。永琳は天才って意味の形容詞だぞ。ちなみにレミリアという形容詞もあり、そちらは目的に対して手段が壮大すぎるという意味である。『金が欲しいから異変起こすとかお前レミリアかよ!』って感じ。

 

 両方あの泥棒から教えてもらったものだ。……言っといてなんだけど、これ本当に使われてる言葉なんだろうか。後でちょっと人里に行ってみましょう。最近団子屋が新しい団子を開発したらしいし、そのついでにでも。

 

「まあいい、ともかく今しばらくは大人しくしな。変に無理して動いたら十年単位の筋肉痛が襲いかかるって医者が言ってたから」

「それは脅しとして受け取るべきかしら」

「素直に忠告として受け取りなさい。紅魔館の頭脳がそんな理由で倒れるのは許さないわよ」

 

 素直に気遣う言葉が出せない吸血鬼に言われたくないのだが。といっても、そんなストレートな返しは期待してないのでしょうね。まったく、困った友人を持ったものだわ。

 

「そうねぇ、レミィがそんなに私を心配するならそうしよう」

 

 そんな言い方されたら、つい意地悪したくなるじゃないか。

 その言葉を聞いたレミィはみるみるうちに顔を耳まで赤く染め、「う、うるさいわね! そんな減らず口叩いてないで、さっさと良くなって図書館に戻って来なさい、この馬鹿!」と手をぶんぶん振り回しながら叫ぶ……なんてことは起きなかった。

 

「……ええ、そうしなさい。さて、後もつかえてることだし、私はそろそろ戻るわ」

 

 レミィが木椅子から立ち上がり、軽く伸びをする。

 この程度では、レミィのカリスマは崩れない。うーん、なんか今日はずいぶんカリカリ(カリスマカリスマの略)してるな。私の見舞いの時くらい、もっと肩の力抜いていいのに。まあ私のシナリオ通りに行ったら抜き過ぎだと思うが。それともこれが素なのか? いや、まさかな。

 

「今日も事務仕事かしら?」

「そうだな。それとフランの依頼業の手伝いね。なんでも麒麟が来るとか」

「へえ、麒麟が。面白そうね、その話後で聞かせて頂戴」

「もちろんよ。それじゃ」

「ええ、また」

 

 レミィが寝室のドアを開く。そして閉じるまで、私とレミィは互いに手を振り続けた。ところでレミィの別れ間際に怪しい笑みを残していく癖は治らないんだろうか。何か謎のしでかした感出るからやめてほしいのだが。もう慣れたけどさ。

 

 にしても麒麟か。たしか大陸の瑞獣だったわね。長年生きてるけど実物は見たことないな。動けるようになるまで暇だし、遠見で覗いてみようかな……そうだ、魔法使えないんだった。うぐぅ。

 

 ううむ、こうなるとレミィをそのまま帰したのは誤算だったわね。ついでに誰か話し相手を呼びに行ってもらえば良かった。

 たぶんコアは今頼みごとという契約を守って輝針城のほうに行ってるだろうから、あっ、後で呼び戻しとかないと、そうね、太陽の位置的にそろそろ休憩に入る美鈴とか。最近部下が優秀になってきて暇な時間が増えた咲夜とか。なんなら贅沢言わないわ、本を読んでもらえるなら誰でもいい。退屈で死ぬ前に誰かヘルプミー。

 

「……ぉぉぉおおお!!」

 

 その祈りが通じたのか、ドアの向こう側がやにわに騒がしくなったかと思いきや、勢い良く開いた。

 

「型やってる場合じゃない! 生きてますかパチュリー様!」

「おはようございますパチュリー様。手も足も出なくても食べられる昼食をお持ちしました」

「……また死にかけてる。本当、心配かけないでよ。パチュリーの馬鹿」

「起きられたんですね! もう大丈夫ですか? 胸は貸さなくてもよろしいですか?」

「黄泉に至る街道の上へ、智は確かに傾いでいた。それでも貴女がここに存在しうる、その奇跡を私は祝福する。パチュリー・ノーレッジ卿」

「パチュリーはん! 無事か! ……なんや、問題なさそうやな。ともかく元気でよかったわ」

 

 いや祈り通じすぎよ。多い多い。美鈴と咲夜はともかく、フランドールやコア以外の小悪魔数名まで来なくても。あとゼンはほんとごめん。後でなんか奢るわ。

 まあ兎にも角にも、彼女たちはみんな私を心配していたのね。何か言っておかねば。

 

「……心配かけたわね。しばらく動けないけど、このとおり私は元気に」

「うわぁあああん! 良かったパチュリー様あああぁ!」

 

 私が言い終わらないうちに、美鈴が私の手をぐっと握った。強く感じる触覚。遅れて伝わる痛覚。その時理解する正確。手の骨砕けたって確信。

 

 

 あっやば、二度意識がフライアウェーイ。

 

 

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