ポケモンリーグ準優勝者の育て屋ライフ エピソード0 作:九戸政景
それでは、第2話をどうぞ。
『イリス地方』の『ロンドシティ』に引っ越してきた翌日、イクトは『イリス地方』での旅の準備をするため、パートナーのロイを頭に乗せながら街の中を歩いていた。
「さて……寝袋や簡易テントみたいな大きな物は、もう『カントー地方』にいる時から揃えてたから、それは問題ない。だから、後は旅の最中に出合ったポケモンを捕まえるためのモンスターボールや回復用の道具を揃えて……と」
「ピカ、ピカピカチュ?」
「ん? 旅の最中の野宿用の食糧は旅立ちの前日に揃えるから、まだ買わなくても大丈夫だ」
「ピカ……ピカ、ピカピカッチュ?」
「うーん……たしかに野宿用のランプの燃料も欲しいけど、それも前日に揃える形でたぶん良いと思うぞ? 早めに色々と準備をするのは大事だけど、それを旅立ちの日まで保管する事を考えるなら、極力旅立ちに近い日の方が良いと思うからさ」
そんな会話を交わしながらイクト達が街中を歩いていたその時、「あ、いた!」と嬉しそうに言う声が聞こえ、イクト達がそちらに顔を向けると、そこにはシアとパートナーであるイーブイのラピスの姿があった。
「シア、それにラピスも。おはよう」
「ピカ、ピカッチュ!」
「ふふっ、おはよう」
『おはよう、二人とも。朝から旅の準備でもしてたの?』
「ああ、今日はモンスターボールや回復用の道具を揃えていこうと思ってるんだ」
「そっか。あ、もし良かったら私達もそれについてっても良いかな?」
「それは良いけど……シア達には何か予定は無いのか? 誰か別の友達と遊ぶとかラピスのバトルの特訓をするとか……」
「うーん、特にないかな。ポケモンの言葉が分かる能力の事で周りの子達からはちょっと避けられてるし、ラピスのバトルの特訓も今はする必要も無いしね」
「そっか……うん、分かった。それじゃあ一緒に行こうぜ、二人とも」
『シア達ならもちろん大歓迎だよ』
「イクト君、ロイ……うん、ありがとう!」
『ありがとう、二人とも!』
「どういたしまして。さてと……それじゃあそろそろ行こうか」
「うん!」
『『おー!』』
シアとロイ達が元気よく返事をした後、イクト達は楽しげに話をしながら『ロンドシティ』の中をゆっくりと歩き始めた。そして、その次の日からもイクトは待ち合わせをするなどしてシア達と行動を共にし、イクトがシアと一緒にいる事に興味を持った同い年のトレーナーなどから申し込まれたバトルを受けたり、ロッカ博士の研究所を訪れて『イリス地方』に棲息するポケモン達の話を聞いたり、と様々な事をしながらイクトは『イリス地方』での旅の準備を着実に進めていった。
「ふう……それにしても、今日も結構色々な物を買ったなぁ……」
そして、『イリス地方』に来てからおよそ一週間が経ったある日の夕方、両手いっぱいに持った荷物の重さを感じながらイクトが独り言ちていると、それを聞いていたシアはクスリと笑った。
「たしかにそうだね。でも、旅に出るからにはそれくらいの荷物が必要なんでしょ?」
「うーん……必ずしもそうでは無いかな。ただ、これは俺にとって初めての旅になるから、出来る限り旅の最中に困らないようにはしたいんだ」
『そっかぁ……まあ、その気持ちは分からなくも無いけどね。ところで、この『ロンドシティ』に引っ越してきてからそろそろ一週間になるけど、『イリス地方』での生活には慣れてきた?』
「まあ、それなりにかな。でも、この『イリス地方』はとても良いところだと思うし、シア達やロッカ博士みたいな良い人達にも出会えたし、『イリス地方』に引っ越してきて良かったって思ってるよ。なっ、ロイ」
『うん! それに、今ですらこんなにも楽しいんだし、旅に出たらもっともーっと楽しい事が待ってそうだよね』
「ははっ、そうだな」
イクトとロイが楽しげに話す中、シアはその姿を見ながらどこか寂しげな笑みを浮かべると、そのまま夕焼け空を静かに見上げた。
「旅、かぁ……私も旅に出たら今よりも成長出来るのかな……」
「多分そうだと思うけど……シア、何かあったのか?」
『あ、もしかしてこの前みたいにシアの能力に対して嫌な事を言われたとか? それだったら、また僕達がバトルで倒して──』
「ううん、違うの。ただ、私はこのままで良いのかなってちょっと思っちゃったんだ」
「……というと?」
「……実はね、昨日の夜にお姉ちゃんと喧嘩しちゃったの」
「シア、お姉さんがいたのか」
「うん、とってもバトルが強くて優しい私の自慢のお姉ちゃん。でも、ちょっとがんばり過ぎちゃうところもあって、見てるこっちからすればとても心配になっちゃうほどなの。それで、お姉ちゃんも少しは休んだ方が良いって言ったんだけど、お姉ちゃんはそれを全然聞いてくれなかったから、思わずこんな事を言っちゃったの。
『頑張り屋のお姉ちゃんは好きだけど、今のお姉ちゃんなんて嫌い!』ってね……」
「……そっか」
「そして、それに対してお姉ちゃんが驚きながらもどこか哀しそうな顔をした瞬間、やっちゃったとは思ったんだけど、そんな事を言っちゃった事で今朝もお姉ちゃんに話し掛けるのすら戸惑うようになっちゃって、朝御飯を食べて軽く準備をしたらそのまま出て来ちゃったの……」
シュンとした様子で俯きながらシアが話し終え、イクトは「シア……」と心配そうな表情で隣を歩くシアを見た後、夕焼け空へ視線を移しながら静かに口を開いた。
「やっぱり、しっかりと謝るべきだと俺は思うかな」
「……そう、だよね」
「ああ。シアがお姉さんの事を心配なのは分かるけど、そういう風に言われてお姉さんも結構ショックを受けただろうからな。それに、このままで良いとはシアだって思ってないだろ?」
「うん……」
「だったら、やっぱり謝るべきだよ。このままだと、お互いに辛い気持ちを抱えるだけだからな」
「……そうだけど、やっぱり不安だよ。お姉ちゃん、哀しそうな顔をしてたけど、本当は私の事を怒ってるかもしれないし……」
「……まあ、本人がどう思っているかは分からないけど、少なくともシアの気持ちは伝わってると思うし、まずはお姉さんに謝って、その上でもう一回その思いを伝えれば良いと思う。お姉さんだって、シアの言葉を無視したいわけじゃないだろうからさ」
ニコリと笑いながら言うイクトの言葉を聞き、シアは不安そうな表情を浮かべながら「イクト君……」と呟いた後、自分の腕の中にいるラピスへ視線を移してから覚悟を決めたような表情でコクンと頷いた。
「……私、お姉ちゃんに謝る。そして、少しでも休んでほしいって事をもう一回伝えてみるよ」
「そっか。まあ、また何かあったら遠慮無く相談してくれよ?」
「うん、そうする。イクト君……本当にありがとうね」
「どういたしまして。あ、それと……もし本当にシアも旅に出るならその時は俺も準備を手伝うから、その時も遠慮無く言ってくれ」
『と言っても、ここのジム戦を終えたら次の日にはもう僕達は旅に出ちゃうから、それまでの間ならって事になっちゃうけどね』
「ははっ、たしかにそうだな。でも、レドがリザードンまで進化したり、俺達を乗せて運べるだけの力を持った飛行タイプのポケモンをゲットしたりしたら、その時は一時的に『ロンドシティ』まで戻ってこれるし、それなら問題ないだろ?」
『ふふ、たしかにね』
イクトの言葉にロイがクスクスと笑いながら答えていたその時、「旅……」とシアはポツリと呟くと、何かを思いついたような表情を浮かべながらコクンと頷いた。そして、そのままイクトへ視線を向けると、とても真剣な表情を浮かべながらイクトに話し掛けた。
「……イクト君、明日も旅の準備をするんだよね?」
「ん……まあ、そうだけど……」
「あの、さ……明日の朝にロッカ博士の研究所まで来てもらうのって大丈夫……かな?」
「え、それは別に良いけど……どうかしたのか?」
「うん……ちょっとね。でも、明日になったらしっかりと話すから、今はこれ以上訊かないでもらえると助かるかな」
「……分かった。それじゃあ明日の朝、ロッカ博士の研究所で待ち合わせだな」
「……うん、ありがとう」
シアが安心したような笑みを浮かべると、イクトはそれに対してニッと笑いながら頷いた。そして、イクト達は再びポケモンの事や『イリス地方』の事などについて話しながら夕焼け空の下を並んで歩いていった。
翌日、イクト達がロッカ博士の研究所を訪れると、玄関には既にシアとラピスの姿があった。
「シア、ラピス、おはよう」
『二人ともおはよう!』
「……うん、おはよう」
『おはよ、二人とも』
「うん。シア、お姉さんとの件はどうだ?」
「うん……帰った後、しっかりお姉ちゃんに謝ったよ。そしたら、お姉ちゃんもスゴく気にしてたみたいで、お姉ちゃんもゴメンねって謝ってくれて、その後は二人で色々話し合って、とりあえず今日明日のところは家でゆっくりしてみるって言ってくれたんだ」
「そっか、それなら良かったよ」
「うん、これも全部イクト君のおかげだよ。本当にありがとうね」
「どういたしまして。それで、ロッカ博士の研究所に来たは良いけど、これから何をするんだ?」
「……うん、それなんだけどね……」
イクトからの問い掛けにシアは少し緊張したような表情で答えると、気持ちを落ちつけるように一度深呼吸をしてから言葉を続けた。
「イクト君、今から私とポケモンバトルをしてくれる?」
「ポケモンバトルって……それは良いけど、一体どうして?」
「……それは──」
イクトからの問い掛けにシアが真剣な表情で答えようとしたその時、「……おや?」とどこか楽しげに言う声が聞こえ、イクト達がそちらに視線を向けると、そこには『ベイカー・コーポレーション』の社長であるアーサーとそのパートナーであるシャロの姿があり、アーサー達の姿にイクト達が驚いた様子を見せる中、アーサーは面白そうな物を見つけたかのような楽しげな笑みを浮かべながらイクト達へと近付いてきた。
「おはよう、お前さん達。こんなところで何をしてたんだ?」
「おはようございます、アーサーさん。実は昨日の夕方にシアにここへくる約束をしてて、今シアからポケモンバトルを申し込まれてたところだったんです」
「……ほう、ソイツは面白そうじゃねぇか。良ければ、俺も見てて良いか?」
「はい、それは大丈夫ですけど……お仕事は大丈夫なんですか?」
「ああ、一切問題ねぇぜ。何故なら、ちょっとした理由があって、本社でやらなきゃいけない仕事は全部副社長に引継ぎしたから、今日からしばらくは本社でやる事は何も無いんだよ」
「ちょっとした理由……ですか?」
「おう。実はな、俺はしばらくの間、この『イリス地方』を巡る事にしたんだよ」
「『イリス地方』を巡るって……もしかして出張とかですか?」
「んー……まあ、それに近いな。俺も一応時間を見てはウチの支社の様子を見に行ってるんだが、それでも時には支社で働いてる社員から出る要望なんかを聞き逃してる事もあるんだ。だから、これを機にしっかりと支社全てを訪れて、これからのために話を聞いていこうと思ったんだよ」
「そうだったんですね……」
「ああ。それに……どうにもクリスや本社の役員達から俺は働き過ぎてるように見えるらしくてな。かなり前から休め休めって結構言われてたんだ。だから、一応は長期出張という形で支社全てを回るが、『イリス地方』の各所で色々な物を見たり体験したりする事で、心身のリフレッシュも図るという半仕事半休暇みたいな形を取る事にしたんだ。それで、しばらくこの『ロンドシティ』には俺以外だと本当にどうにもならない事態以外では戻らないだろうから、色々見て回ろうとしたところでお前さん達を見つけたってわけだ」
「なるほど……」
アーサーの話にイクトが納得顔で頷いていると、「ところで……」と言いながらアーサーは不思議そうにシアに視線を向け、それに対してキョトンとしているシアに話し掛けた。
「シア、どうしてイクトにポケモンバトルを申し込んだんだ? まあ、別に本来訊く必要なんて無いし、こう言われるのはあまり良い気分はしないだろうが、俺から見たらシアはあまりポケモンバトルが得意じゃなさそうに見えたもんで、ちょっと気になったんだ。すまねぇな」
「……ふふ、実際にその通りなので気にしないで下さい。でも……私にはイクト君とどうしてもバトルをしたい理由があるんです」
「バトルをしたい理由……シア、どうしてそんなに俺とバトルをしたいんだ?」
「……それはね、イクト君に勝つ事で、今の私から一歩前に進みたいからだよ」
「一歩前に進む……」
「うん。それと……これは別に断ってくれても良い事なんだけど、私がイクト君とのバトルに勝ったら、一つだけお願い事を聞いて欲しいんだ。その代わり、イクト君が勝ったら何でも一つだけお願いをしても良いから」
「お願い事……それは大丈夫だけど、そのお願いって何なんだ?」
「それはバトルが終わるまで内緒。もっとも、それは君に勝った上で話すつもりでいるけどね」
「……そっか。まあ、バトルを断る理由も無いし……良いぜ、そのバトル受けて立つ!」
『僕達に挑んだ事、後で後悔しないでよ?』
「ふふ、そんなのしないよ。それより……油断してると私達にあっさり負けちゃうかもよ?」
『たしかにバトルはあまり得意じゃないけど、私達だってそれなりに特訓はしてるもんね!』
イクトとロイ、そしてシアとラピスが火花を散らす中、アーサーはその様子に楽しげな笑みを浮かべた。
「くく……これは本当に楽しそうなバトルになりそうだな。さて、それじゃあ早速ロッカ博士にバトルフィールドを使っても良いか訊きに──」
「あ、それなら予め私が聞いていたので大丈夫です。ただ、ロッカ博士も私とイクト君のバトルが気になるみたいで、もしやる時には呼びに来て欲しいと言われてますので、結局ロッカ博士のところへ行かないといけないんですけどね」
「はっはっは! まあ、その気持ちはスゴく分かるぜ? 将来有望そうなトレーナー同士のバトルなら見たいと思うのは当然だからな。んじゃ、早速ロッカ博士を呼びに行くとするか」
「「はい!」」
『『はーい!』』
イクト達が揃って返事をした後、イクト達は研究所の中へ入り、アーサーの姿に研究員達が驚く中を歩いていき、奥の方にある研究室のドアを開けた。すると、そこではロッカ博士が机に向かって書類の作成を行っており、イクト達はロッカ博士に声を掛けるために静かにロッカ博士へ近づいた。
「ロッカ博士、おはようございます」
「……ん? ああ、イクト君にシアちゃん。それにアーサーさんまで……もしかして今からバトルするところだったの?」
「はい。なので、ロッカ博士を呼びに来たんです」
「なるほどね……それにしても、まさかアーサーさんまでいらっしゃるとは思いませんでした」
「ははっ、そうだと思います。まあ、俺も偶然イクト達と出会って、今からバトルをするところだったと聞いて、せっかくなので観戦させてもらう事にしたんです」
「ふふ、そうでしたか。さて、それじゃあそろそろ行きましょうか」
そのロッカ博士の言葉に揃って頷いた後、イクト達は研究所のバトルフィールドへ向けて歩き始めた。そして、バトルフィールドに到着すると、イクト達とシア達は静かにそれぞれの位置に着き、お互いに闘志に満ちた視線を向け合った。
「さて……シア、こうしてバトルをする以上、一切は手は抜かないからな!」
『二人とも全力で行かせてもらうよ!』
「うん、こっちこそ負けないからね!」
『私達の力、見せてあげるよ!』
イクト達とシア達がそれぞれ声を掛け合った後、審判役のロッカ博士は静かにイクト達を見回し、準備が出来ている事を確認すると、大声で呼び掛けた。
「それじゃあこれから、イクト君とシアちゃんのバトルを始めます。使用ポケモンは一体、どちらかが先に戦闘不能になった時点でバトルは終了とします。皆、改めて準備は良いかしら?」
「「はい!」」
『『大丈夫です!』』
「分かったわ……それじゃあバトル、開始!」
その声と同時に、イクトはロイに指示を出した。
「よし……ロイ、先手必勝だ! 『ねこだまし』!」
「ピカ!」
イクトの指示に大きく頷きながら答えると、ロイは足のバネを上手く使って瞬時にラピスとの距離を詰め、ラピスの目の前で両手をパンッと強く打ち鳴らした。
「ブイ……!?」
「ラピス!」
ロイの『ねこだまし』の衝撃でラピスは後ろへ吹き飛ばされると、そのままバトルフィールド上に倒れ込んだ。そして、どうにか立ち上がろうとしたが、体勢を崩す形でガクッと膝をつき、その姿にシアは悔しそうな表情を浮かべながらイクト達へ視線を向けると、イクトは得意気な笑みを浮かべた。
「どうだ、シア。やっぱり、『ねこだまし』は結構厄介だろ?」
「……そうだね。でも、厄介な技を持ってるのはロイだけじゃないんだよ?」
「……なに?」
シアの言葉にイクトが警戒した様子を見せると、シアはようやく立ち上がったラピスの姿に安心した様子を見せながら技の指示を出した。
「今度はこっちの番! ラピス、まずは『かげぶんしん』!」
「ブイ!」
シアの指示にラピスが答えた瞬間、ラピスの周囲に幾つものラピスの分身が出現し、ラピスとそれらは「さあ、行って!」というシアの声と共にロイの周りを縦横無尽に動き回り始めた。
「……なるほど、『かげぶんしん』か。たしかに厄介な技ではあるけど、俺達にはそれだけじゃ勝てないぜ?」
「ふふ、分かってるよ。だから、こうするの。ラピス、ロイに『スピードスター!』」
「ブイ!」
シアの指示と同時にラピスと分身達はヒラリと跳躍すると、一斉に尻尾を振るって星形の光線をロイへ向けて発射し、イクトはそれを見ながら余裕綽々といった様子でロイに指示を出した。
「ロイ、跳び上がりながら回転して、全部『アイアンテール』で打ち返せ!」
「ピカッ!」
イクトの指示に頷きながら答えると、ロイは軽やかに跳び上がりながら回転を始めると、そのまま向かってくる『スピードスター』を『アイアンテール』で次々と撃ちかえし、どうにか回避をした本物のラピス以外の分身は『スピードスター』を受けて全て消滅した。そして、それに対してシアは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに落ち着いた様子に戻ると、狙いどおりといった様子でクスリと笑った。
「やっぱりそうするよね……シア、ロイの着地点までダッシュ!」
「ブイ!」
シアの指示に従い、ラピスがロイの着地点へ向けて走り出すと、イクトは「なに!?」と驚きを隠しきれない様子で声を上げた。そして、その内にラピスはロイの真下まで到着すると、それに対してロイが驚いたような表情を浮かべる中、シアはウインクをしながらシアに指示を出した。
「シア、ロイに『メロメロ』!」
「ブッブイ!」
ラピスがシアと同じようにウインクをすると、ラピスの体から幾つものピンク色のハートが現れ、着地をしたロイの周りをグルグルと回転し始めた。そして、それを見ながら戸惑うロイにハートが命中した瞬間、ロイの目はハートになり、動きもフラフラとした物へと変わった。
「『メロメロ』……! おい、しっかりしろ、ロイ!」
「ピカ~……ピカチュ~」
イクトが必死にロイに声を掛けるもロイの視線はラピスへと注がれており、心なしか頬の電気袋の周りもほんのり赤みが差していた。そして、そのロイの姿にシアはクスクスと笑うと、得意気な顔でイクトに話し掛けた。
「どう、イクト君? 私のラピスだって中々やるでしょ?」
「……そうだな。それにしても、『メロメロ』を覚えさせてるなんて……それはお姉さんからのアドバイスか何かなのか?」
「うん! 相手が自分と違う性別に限られるけど、相手の行動を制限できるし、可愛いイーブイにはピッタリな技だよって言ってたから、すぐに覚えさせたんだ♪」
「なるほどな……! 」
シアの説明にイクトは悔しそうに歯をギリッと噛みしめると、『メロメロ』でラピスに魅了されているロイに必死に声を掛け始めた。
「ロイ! しっかりしてくれ、おいって!」
「ピカ~、ピカピカチュ~」
「ふふ、無駄だよ。今のロイはラピスの虜。たしかにイクトとロイの絆はたしかだけど、流石に『メロメロ』に掛かったポケモンを正気に戻すなんて事までは出来っこないよ。ラピス、このまま攻めていくよ! 『とっておき』!」
「ブイ!」
『メロメロ』が成功した事で勢いづいたシアの指示にラピスは大きく頷くと、身体に金色の光を纏いながら足で地面を踏みしめ、目の前に巨大な星形の光を作り出し始めた。そして、「ブイ!」とラピスが気合のこもった声を上げると、星形の光は光線となってロイ目がけて発射された。
「くっ……ロイ、避けてくれ!」
「ピカ~、ピカチュウ~」
必死になりながらイクトはロイに声を掛けるが、『メロメロ』の効果によってイクトの声はロイには届かず、ロイは向かってきた『とっておき』を諸にくらい、その衝撃で背後へ大きく吹き飛ばされた。
「ピカ~」
「ロイ!」
イクトの足元付近までロイが吹き飛ばされてくると、イクトは悔しそうな表情を浮かベていたが、ロイに対しての心配もその表情には表れていた。
「ロイ、大丈夫か!?」
「ピカ……ピカピカチュ~……」
「ロイ……」
イクトの声に答えながらロイがムクリと起き上がると、イクトはロイが起き上がった事に一瞬安堵した様子を見せたが、『メロメロ』状態が続いている事を確認した途端、その表情は再び不安げな物へと変わり、その様子にシアはクスリと笑った。
「どうやら、まだロイはまだ体力があるみたいだけど、相変わらずラピスにメロメロみたいだね」
「……そうだな。でも、俺達だってこのままじゃ終われない。絶対にここから逆転してみせるさ!」
「イクト君……ふふ、なら見せてもらうとしようかな! ラピス、ロイに『スピードスター』!」
「ブイ!」
シアの指示に従い、ラピスがロイへ向けて『スピードスター』を放つと、イクトは歯をギリッと噛みしめてからロイに指示を出した。
「ロイ! 『アイアンテール』で『スピードスター』を打ち消せ!」
「ピカ~」
しかし、『メロメロ』状態のロイにはイクトの指示は届かず、目をハートにしながらフラフラとするロイに『スピードスター』が命中し、ロイは攻撃を受けた衝撃でバトルフィールド上をゴロゴロと転がった。
「ロイ!」
そして、傷ついたロイがバトルフィールド上に倒れ込む中、イクトの表情には焦りの色が浮かんだ。
「くっ……やっぱりあの『メロメロ』をどうにかしないと。でも、どうしたら……!?」
バトルフィールド上に倒れ込んでいるロイを見ながらイクトは頭の中で『メロメロ』の対策を必死になって考えていたが、「……やっぱり、これしかないよな」と覚悟を決めたような様子で呟くと、倒れ込んでいるロイへ向かって必死になって声を掛けた。
「ロイ! 聞こえるか、ロイ!」
「……イクト君、一体何を……?」
「お前なら『メロメロ』なんかに負けずに頑張ってくれるって信じてる! だから、起きてくれ、ロイ!」
倒れ伏すロイに対してひたすらイクトが声を掛ける中、シアはそれを見ながら静かに首を振りつつイクトに話し掛けた。
「イクト君……気持ちは分かるけど、どんなに声を掛けたところで『メロメロ』の行動制限に勝てるわけが──」
「いや、俺は信じてる」
「……え?」
イクトの言葉にシアが心から驚いたような表情を浮かべると、イクトは目の奥で闘志の炎を燃やしながら確信した様子で言葉を続けた。
「たとえ、『メロメロ』が解けなくてもロイなら『メロメロ』に負けずに戦ってくれる。俺はそう信じてる!」
「イクト君……」
「ブイ……」
「だから、起き上がって一緒に戦ってくれ……ロイー!!」
イクトの心からの叫びがバトルフィールド上に響き渡ったその時、イクトの頭の中に『……負けたく、ない……!』という少年のような声が響き、それに対して「……え?」と驚きの声を漏らしていると、「……ピ、カ……?」という声がロイから漏れ、それと同時にロイはボロボロの身体でゆっくりと立ち上がり、イクトの方を振り返りながらゆっくりと親指を立てた。
「ロイ……! お前、『メロメロ』が解けたのか!?」
「ピカ……!」
「ロイ……ははっ、やっぱりお前はスゴいよ!」
「ピカ、ピカッチュ!」
得意気な顔でロイが腰に前足を当てながら胸を張る中、目の前で起きている出来事にシアとラピスは心からの驚きを見せた。
「う、うそ……『メロメロ』がイクト君の声で、想いの力で解けたっていうの……!?」
「ブイ……!? ブイ、ブイブイ!?」
「うん……本当ならあり得ないけど、ロイの様子を見る限り、たしかに『メロメロ』は解けてる。でも、本当にどうして……?」
「ブイ……」
シアとラピスが呆然としながらイクト達を見つめる中、イクトはそんなシア達を見ながらクスリと笑った。
「なんで『メロメロ』が解けたのかは正直俺達にも分からないよ。でも、たしかなのはこれで俺達にも活路が開けた事。そして、自分の相棒達を信じて進めば奇跡だって起きるって事だ!」
「自分の相棒達を信じて進む……そっか、分かっていたつもりだったけど、分かってなかったよ。それがイクト君の、イクト君達のポケモンバトルなんだね!」
「ああ!」
「ピッカ!」
シアの言葉にイクトとロイは同時に頷いて答えた後、再び戦う体勢を取りながらシアとラピスを真っ正面から見据えた。そして、イクトは帽子を被り直すと、楽しさに目を輝かせながらロイに指示を出した。
「ロイ、まずは回復からだ。『ねがいごと』!」
「ピカ!」
イクトの指示に答えながらロイが祈りを捧げるような仕草を取り、身体が白い光に包まれだすと、それに対してシアは焦ったような様子を見せた。
「う……このままじゃ、勝利が
「ブ、ブイ……!」
そして、シアの焦りが伝わったかのようにラピスも焦ったような表情を浮かべながら『スピードスター』を放ったが、その姿にイクトは余裕綽々といった様子でニッと笑った。
「それくらいなら問題ないぜ! ロイ、『スピードスター』をギリギリまで引きつけろ!」
「ピカ!」
イクトの指示に対してロイは一切疑う様子を見せる事無く頷くと、自分へ向かってくる『スピードスター』をジッと見つめた。そして、『スピードスター』が目の前まで迫り、「……今だ!」というイクトの声がバトルフィールド上に響いた瞬間、ロイは瞬時に上へと跳び上がり、『スピードスター』を回避すると、『ねがいごと』の効果でダメージを回復しながらそのままラピスへと近づき、その様子にシアは再び驚いたような表情を浮かべた。
「『スピードスター』をあんな方法で避けるなんて……! で、でも……『スピードスター』は必ず相手に当たる技。一回避けただけじゃ、『スピードスター』からは逃げられないよ!」
そのシアの言葉通り、『スピードスター』は瞬時に向きを変えると、再びロイへ向けて飛び始めた。しかし、それに対してイクトは焦るような様子をまったく見せず、ニッと笑いながらロイに声を掛けた。
「ロイ! 『スピードスター』は気にせず、そのままラピスに近づいてくれ!」
「ピッカ!」
まるで滑空するように身体を大きく広げながらロイは答えると、そのまま静かにラピスの目の前に着地し、それを見たラピスが「ブイ!?」と驚きの声を上げながら警戒した様子を見せると、ロイはニコリと笑ってから軽やかにバック宙をした。そしてその瞬間、ロイ目がけて向かってきていた『スピードスター』がラピスの目の前に現れ、それに対してシアとラピスが反応出来ずにいる内に『スピードスター』は全てラピスに命中した。
「ブイ……!」
「あぁっ、ラピス!」
『スピードスター』が命中した事でラピスがバトルフィールド上をゴロゴロと転がる中、ロイがゆっくりと着地した瞬間にイクトは笑みを浮かべながらロイに指示を出した。
「これで決めるぞ! ロイ、『ボルテッカー』!」
「ピカ!」
イクトの指示に返事をしながらロイは地面を強く踏みしめて走り出すと、身体中に電気をまといながら走り続け、ラピスがダメージで顔を歪ませながら立ち上がった瞬間、「ピー……カァッ!!」と気合のこもった声を上げながら勢い良くラピスに激突した。
「ブイーッ……!!」
「ラピス!」
『ボルテッカー』の衝撃でラピスは上に打ち上げられると 、そのまま強くバトルフィールド上に落下し、その周囲には砂埃が立ちこめた。 そして、砂埃が静かに晴れると、そこには目を回しながら倒れているラピスの姿があり、ロッカ博士はラピスが瀕死状態になっている事を確認すると、イクト達の方へ手を高く上げながら大声を上げた。
「ラピス、戦闘不能! よってこのバトル、イクト君達の勝ちよ!」
その声を聞いた瞬間、シアは心配顔でラピスへダッと駆け寄り、倒れているラピスを静かに抱き上げた。
「ラピス! ラピス、大丈夫!?」
「ブ……ブイ……」
「……良かったぁ。うぅ、本当に良かったよぉ……」
「……ブイ、ブイブイ……」
「……ううん、ラピスは悪くないよ。負けちゃったのは、『メロメロ』が解けた事に動揺して冷静な判断が出来なくなっていた私のせいだから……」
ラピスを見ながら悔しそうに目を潤ませるシアの姿に、ラピスが「ブイ……」と心配そうに鳴き声を上げる中、シアはラピスを抱き抱えながらゆっくりと立ち上がった。そして、「だから……」と呟くと、目に涙を浮かべながらもニコリと笑った。
「これから、一緒に頑張っていこう。いっぱい特訓して、いっぱい勉強して、いっぱいバトルをして……もうこんな悔し涙を流さなくてもいいようにしよう!」
「……ブイ!」
声を震わせながらも力強く言うシアの言葉にラピスがニコッと笑いながら頷くと、シアはラピスの笑顔を見ながらクスリと笑い、愛おしそうに頬ずりをしていると、「おーい、シアー!」と美味しそうに『オボンのみ』を頬張るロイを頭に乗せたイクトが片方の手に『オボンのみ』を持ち、もう片方の手を振りながら走り寄ってくるのが目に入り、それに対して微笑みながら手を振り返した。そして、イクトがシアの目の前で足を止めると、シアはラピスを片方の手で抱き抱えなおしながらもう片方の手で軽く涙を拭い、ニコリと笑いながらイクトに話し掛けた。
「イクト君、ロイ、お疲れ様」
「シア達もお疲れ様。ほら、ラピスにも『オボンのみ』を食べさせてやってくれ 」
「うん、ありがとう」
イクトから『オボンのみ』を受け取り、シアが腕の中にいるラピスに渡すと、ラピスが美味しそうに『オボンのみ』を食べ始めた。そして、それを安心した様子でシアが見つめていると、イクトはクスッと笑ってからシアに話し掛けた。
「シア、いいバトルをありがとうな」
「こっちこそありがとう。今回のバトルで、私達ももっともーっと頑張らないといけないって実感できたよ」
「ははっ、それは俺達も同じだよ。『メロメロ』でロイがまったく攻撃できなくなった時、あそこまで焦らなきゃもう少しロイが受けるダメージを抑えられただろうし、これからもレド達も交えて特訓をしないといけないって感じたよ」
「ふふ……そっか。それにしても……イクト君の声でロイの『メロメロ』状態が解けたのは本当に驚いたよ。これって、イクト君がポケモンの気持ちを感じ取れる事や色々なポケモンと心を通わせられる事と何か関係があるのかな……?」
「さあな。ただ……」
「……ただ?」
「ロイの『メロメロ』状態が解ける前、頭の中で声がしたんだ。『負けたくない』って言う少年みたいな声が、さ」
「声……それって、もしかしたらロイの気持ちがイクト君に流れ込んできたんじゃないかな?」
「ロイの……気持ちが?」
「うん。『メロメロ』で行動が制限されていたとはいえ、ロイにだって負けたくないっていう気持ちはもちろんあったと思う。だから、原因は分からないけど、ロイの気持ちがイクト君へと流れ込んできて、そんな声が聞こえたんじゃないかな?」
「なるほどな……ロイ、お前はどう思う?」
「ピカ……ピカ、ピカピカピカッチュ!」
「……そっか、やっぱり負けたくないとは思ってたのか。となると、シアの考えはもしかして本当に合ってるのかもしれないし、そうだったら嬉しいな」
「ふふ、そうだね」
会話を交わしながらイクト達とシア達が笑い合っていると、審判役をしていたロッカ博士とバトルの観戦をしていたアーサー達がゆっくりとイクト達へと近付きながら声を掛けてきた。
「みんな、バトルお疲れ様」
「期待していた通り、とても面白いバトルだったぜ?」
「ピカ……ピカチュ」
「ありがとうございます。そういえば……ロッカ博士、バトルの途中でロイの『メロメロ』状態が解けた事ですけど、博士はどうしてそんな事が起きたと考えていますか?」
「そうね……私も今回の件は本当に初めてだから、正確な事は言えないけれど、それでも良いかしら?」
「はい、大丈夫です」
「分かったわ。それで、私の意見だけど──」
その時、「ロッカ博士、そのお話に私も混ぜて頂いても良いですか?」と落ち着いた少女の声が聞こえ、イクト達は同時にそちらへ視線を向けた。すると、そこにはニコニコと笑いながらイクト達へ向けてゆっくりと歩いてくるクリーム色のロングヘアの女性の姿があり、その姿にシアとラピスは心から驚いたような表情を浮かべた。
「お、お姉ちゃん……!?」
「ブイ……!?」
「お姉ちゃん……って、じゃああの人が……」
「うん、私のお姉ちゃん。でも、どうしてお姉ちゃんがここに……?」
「ブイ……?」
シアとラピスが揃って首を傾げる中、シアの姉はシアの目の前でピタリと足を止めると、クスリと笑いながら静かにシアとラピスの頭を撫で始めた。
「シア、ラピス、バトルお疲れ様。負けちゃったのは残念だけど、とても良いバトルだったよ」
「あ、ありがとう……って、お姉ちゃんもバトル見てたの!?」
「うん。今朝、シアがなんだかはりきってる様子だったから、ちょっと気になって少し距離を離して着いてきたんだ。そしたら、そちらの彼とポケモンバトルを始めたものだから、可愛い妹の頑張るところを見ようと思って、離れたところからずっと観戦させてもらってたんだ」
「そうだったんだ……でも、それなら別に近くで見てくれても良かったのに……」
「ふふ、本当はそうしたかったよ。でも、私がいたらシアはいつも以上にはりきって、本当の実力を出し切れないと思ってね」
「お姉ちゃん……」
「まあ、さっきも言ったように私としてはとても良いバトルだったと思うよ。少し判断が甘いところや冷静さを欠いていたところはあったけど、『かげぶんしん』や『メロメロ』も交えながら着実に攻めていけていたし、もう少しラピスとのコンビネーションを高めれば、絶対にそんじょそこらのトレーナーには負けないと思ってる。姉の贔屓目を除いてもね」
「お姉ちゃん……うん、ありがとう!」
「ブッブイ!」
「ふふっ、どういたしまして」
シアとラピスのお礼に対して笑みを浮かべながら答えた後、シアの姉はロッカ博士の方を向き、丁寧に一礼をした。
「こんにちは、ロッカ博士。今回は妹達のバトルの審判をして頂き、本当にありがとうございます」
「ふふ、良いのよ。私もイクト君とシアちゃんのバトルには興味があったからね」
「そうですか、それなら良かったです」
「でも……まさか貴女までバトルを見ていたなんて思わなかったわ。シアちゃんから家でゆっくりする事にしていると聞いていたから、とても驚いちゃった」
「そうだろうと思います。でも、今まで友達らしい友達がいなかった妹がはりきって出掛けていったら、姉として気になると思いませんか?」
「ふふ、それもそうね。シアちゃんから昨日まで少しわだかまりがあったとは聞いていたけど、基本的に貴女達はとっても仲の良い姉妹だものね」
「はい、もちろんです」
ロッカ博士の言葉にクスリと笑いながら答えると、シアの姉はイクト達やアーサー達の方を向き、ペコリと一礼をしてからニコリと笑った。
「初めまして、皆さん。私はリア、シアの姉です。妹共々これからよろしくお願いします」
「あ、ご丁寧にどうもです。俺の名前はイクト、そしてこっちが相棒のロイです。こちらこそよろしくお願いします」
「ピカ、ピカッチュ!」
「名前はたぶん知ってると思うが、俺の名前はアーサー。そして、このクールなピカチュウが俺の相棒のシャロだ。これからよろしくな」
「ピカ……」
「ふふ……はい、よろしくお願いします」
イクト達の自己紹介に対して微笑みながら答えた後、リアは再びロッカ博士の方を向いた。
「さてと……ロッカ博士、お話の途中で入ってしまってすみませんでした。それで、『メロメロ』が解けた件をロッカ博士はどのように考えていらっしゃいますか?」
「そうね……さっきも言ったように正確な事は言えないけれど、私はこれはイクト君のポケモンと心を通わせられる力に因る物だと考えているわ」
「俺の力に因る物……ですか?」
「ええ。話を聞く限りだと、イクト君はこれを能力的なものではなく、特技のようなものだと考えているみたいだけど、これまでも怒りで我を忘れたポケモンや心を閉ざしていたポケモンとも心を通わせる事が出来た。そして今回、『メロメロ』という言ってみればポケモンの正気を失わせる技を受けたロイを正気に戻す事に成功した。という事は、イクト君が様々なポケモンと心を通わせる事が出来るのは、シアちゃんのポケモンの言葉を理解する事が出来るのと同じように生まれ持った能力的な物で、これには『メロメロ』や『こんらん』といったポケモンの正気を失わせる状態異常すら癒やしてしまう力があるのかもしれないわね」
「俺に……そんな力が……」
「もっとも 、まだ試していない事も多いから、本当のところは分からないし、何故あんな事が可能なのかはサッパリだけど、少なくともこれはイクト君のみが持つ強みのような物であるのは間違いない。まあ、その力でそういった状態異常が治ってしまう事をあまり快く思わない人もいるかもしれないけど、さっきのバトルの内容を思い出す限りだと、それが働くのはイクト君自身が心からそれを願った時くらいのようだし、イクト君がそういった物を望まないというのなら、そうしないように気を付けていればきっと大丈夫よ」
「……分かりました。ありがとうございます、ロッカ博士」
「どういたしまして。まあ、イクト君さえ良ければ、今後もこの力やポケモン達の気持ちを感じ取る力について何か分かったら教えてもらえると助かるわ。一研究者としてこんな学会でも聞いた事が無い事例については興味があるし、真相を知りたいところだもの」
「はい、もちろんです」
ロッカ博士の言葉にイクトがニコリと笑いながら答えていると、静かに話を聞いていたリアがジッとイクトの顔を見つめ始め、その様子にイクトは少し困惑した様子でリアに話し掛けた。
「あ、あの……何か?」
「あ、うん……さっきのイクト君達の戦い方、スゴく興味深かったなぁと思ってね」
「え、そうですか……?」
「うん。ポケモンバトルの経験値こそまだ少ないみたいだけど、技やポケモンについての知識の深さや相手の技を避ける時のタイミングの測り方は見事だった。そして何より……言動一つ一つに自分のポケモンへの信頼感が見えていて、同じポケモントレーナーとしてスゴく勉強になってたんだ。後ろから迫ってきていた『スピードスター』を回避の指示無しでロイが避けたのだって、ロイなら指示無しでも避けてくれると思っていたからでしょ?」
「あ、はい。それもありますけど……元々、ロイにはバトル中に周囲の音にも注意を払うように頼んでいましたし、『カントー地方』にいた頃から仲の良い野生のポケモン達に手伝ってもらいながらそういう特訓もしていたので、ロイならやってくれると思って指示は特に出さなかったんです」
「ふふ、やっぱりね。でも、そういうお互いに信頼し合い尊重し合える関係性はとても素敵だと思うし、これからもそれは大事にしていってね」
「はい!」
「ピッカ!」
イクトとロイが揃って返事をすると、リアは満足顔でうんうんと頷き、「それにしても……」と言いながらシアの方へ顔を向けたかと思うと、悪戯っ子のような笑みを浮かべながら少しからかうような調子で話し掛けた。
「シアがとっても楽しそうにイクト君の話をする物だから、どんな子なのか気になっていたけど……まさかこんなに素敵なボーイフレンドだったなんてね。シア、こんなに頼りになる子はこの『ロンドシティ』にはいないんだし、これからもイクト君の事は大切にね」
「もう、お姉ちゃんまでそんな事を言う……イクト君はそういうんじゃなく、同じポケモントレーナーで仲良しの男友達だよ。そうだよね、イクト君」
「そうだな。それに、シアは俺には勿体ないくらい可愛い女の子だと思うから、俺がシアのボーイフレンドを名乗るなんておこがましいくらいだし」
「そうそ──へ? イ、イクト君……今、なんて……?」
「え? だから、シアは俺には勿体ないくらい可愛い女の子だと思うから、俺がシアのボーイフレンドを名乗るなんておこがましいって言っただけだけど……それがどうかしたか?」
「あ、いや……私、家族や博士以外から可愛いとか言われた事あまり無かったから、その……ちょっと驚いちゃって……」
「あ、そうだったのか。でも、そうだとしたら周囲の奴らの目も大した事無いよな。楽しそうに話をしてる時とかラピスと一緒に遊んでる時とかの笑顔は可愛いし、色々気が付いてくれる気立ての良さもあるし、正直シアがそういう意味でのガールフレンドだったらどんなに嬉し──」
「ちょ、ちょっとストップストップ! これ以上は本当に恥ずかしいからストップ!!」
「ん……そうか、それじゃあここまでにしとくか」
イクトが口を閉じると、シアは顔を赤くしながら軽く俯き、その姿を見たアーサーはどこか呆れたような表情を浮かべながらイクトに話し掛けた。
「なあ、イクト? お前さん、あそこまでの言葉を並べておきながら本当にシアに対しての恋愛感情は無いのか?」
「え、無いですよ? 俺はあくまでも自分がシアに対して抱いている思いを言っただけですから」
「……そうかい。ところで、お前さんは『カントー地方』でもそんな感じに仲良くなった女を褒めちぎっていたのか?」
「いえ、まったく。というのも、『カントー地方』にいた頃は、女友達なんてまったくいなくて、誰かと遊ぶにしても同じ『マサラタウン』に住んでる男友達かロイ、後は『1番道路』や『トキワのもり』のポケモン達くらいでしたから」
「へえ……そんなにモテそうな面してても周りの女は誰も食いついてこなかったのか?」
「あ、はい。女友達はいる事はいましたけど、本当に何か話をする程度でみんな『マサラタウン』出身の大物トレーナーである『リビングレジェンド』ことレッドさんのファンだったので、自分の周りの異性にはまったく興味が無かったんだと思います。かくいう俺もレッドさんには憧れてますし、レッドさんのような強いトレーナーになる事を目標にして仲良くなったポケモン達との特訓に明け暮れていましたから」
「なるほどな……つまり、イクトにとってシアは初めてしっかりと話をしたり、一緒にいて楽しいと思えたりする女友達ってわけか」
「そういう事になりますね。だから、もしもシアと旅が出来たら本当に楽しいと思いますけど、俺の旅に付き合わせるなんて事は出来ませんし、流石にシアだって嫌だと──」
「……そんな事無いよ!」
そのシアの大声にイクトが驚いた様子で視線を向けると、シアは肩を軽く震わせながら少し怒ったような表情でイクトの事をジッと見つめていた。
「シ、シア……?」
「イクト君との旅が嫌なんて事はないよ! だって、私は……」
そして、シアが再び俯き出すと、リアはクスッと笑ってからシアの事を軽く抱き締め、背中を優しく撫でながら声を掛けた。
「シア、言いたい事があるなら言っちゃった方が良いよ?」
「お姉ちゃん……でも、私は……」
「シアの事だから、バトルに勝ったらそれを言って、負けた時には別の事を言うつもりだったんだろうけど、本当に伝えたい事を伝えずじまいで終わらせたら、一番後悔するのはシアなんだよ? だから、もうそんな自分の中の決まり事は無しにして、シアがイクト君に話したかった事を正直に話してごらん。イクト君ならしっかり話を聞いてくれるはずだから。そうだよね、イクト君?」
「え……あ、はい。それはもちろんです。それに、バトルの勝敗次第でどちらかが片方に好きなお願いを一つしても良いという約束をしていたので、もしもシアが勝った時はどんな事をお願いしたかったのかは気になりますから」
「……そっか。それで、イクト君はシアにどんな事をお願いするのかは決めてるの?」
「……一応は。ただ、それを話すのはシアがどんな事を俺にお願いしたかったのかを聞いてからにしたいです」
「……うん、分かった。という事みたいなんだけど……シア、貴女はどうしたい?」
「……私、は……」
リアからの問い掛けにシアは再び軽く俯いた後、「……そうだよね」とポツリと呟いてから顔をゆっくりと上げ、一度深呼吸をすると、イクトの顔を正面から見ながら静かに口を開いた。
「イクト君……私ね、もしもバトルに勝てたら、イクト君の旅に私も連れて行って欲しいって言うつもりだったの。イクト君が私と一緒にいて楽しいって思ってくれてるように私もイクト君と一緒にいるのはスゴく楽しいし、イクト君やロイ達の傍でポケモンの事やバトルの事についてもっと学びたいと思ってたから」
「…………」
「でも、ポケモンバトルが弱い私がついて行っても、イクト君の足手まといになるかもしれないし、そんな私のワガママをただ言っても、やっぱりイクト君の迷惑になるかなと思った。だから、ポケモンバトルで勝つ事で私の強さを証明しつつ私の旅への同行を自分への賞品にすれば、私もバトルで勝つために頑張れるし、イクト君の迷惑にもならないかなと思ったの……」
「……そうだったんだな」
「……うん。でも、こうして負けた以上、私が旅についていくなんて事は──」
そう言いながらシアが暗い表情で俯き掛けたその時、イクトはシアの頭にポンと手を置き、優しく撫でながらシアに話し掛けた。
「シア、俺達はお前やラピスが旅についてくる事を迷惑だなんてまったく思わないよ。な、ロイ?」
「ピカ!」
「イクト君、ロイ……」
「シア、一緒にいて楽しい人と旅をしたいっていう気持ちはおかしくないし、俺だって同じ気持ちだ。それに、旅の中では絶対に一人じゃ乗り越えられない壁や試練だってある。でも、一緒に旅をする仲間がいれば、それだって乗り越えられるんだ」
「イクト君……!」
「……だから、ここでバトルに勝った賞品を使わせてもらうよ。シア、ラピス、俺達と一緒に旅をしてくれないか?」
「ピカ、ピカッチュ!」
「……うん! もちろんだよ!」
「ブッブイ!」
握手のための手を差し出しながら問い掛けるイクトの言葉にシアとラピスが笑顔で答えながら握手をすると、リアはとても安心した様子で小さく息をつき、シアの肩にポンと手を置きながら声を掛けた。
「良かったね、シア」
「うん! お姉ちゃん、私の背中を押してくれて本当にありがとう!」
『ありがとう、リアお姉ちゃん!』
「ふふ、どういたしまして。でも、こうして旅についていくと決めたからには、イクト君の事をしっかりとサポートしてあげるんだよ?」
「うん、もちろん!」
『私達に任せておいてよ!』
微笑みながら言うリアの言葉にシアとラピスが揃って頷きながら答えていると、それを見ていたアーサーはどこか満足げな顔で小さく息をつき、イクトとシアの肩に手を掛けながら声を掛けた。
「良かったな、お二人さん。お互いの気持ちが通じ合っててよ」
「はは、そうですね」
「さっきもお姉ちゃんと約束しましたけど、旅についていくからには、イクト君のサポートはしっかりとこなしますよ!」
「……くく、そうだな。だが、子供だけの旅だと、何かと困る事が起きる可能性もあるんじゃねぇか? 旅の最中に何かの事件に巻き込まれても自分の思ったように事を運べないとか本当に困った事が起きてもそれにすぐに対処できないとかな」
「……まあ、それはたしかに考えられますよね。何年か前に『カントー地方』でも『ロケット団』っていう組織が悪事を働いていて、それをレッドさんやそのライバルのグリーンさんが解決したらしいんですけど、その最中も色々と苦労をしたと聞きますし……」
「だろ? それなら、もう一人サポート役を連れていくのも手じゃねぇか? ちょうどここに何か事件が起きた時に顔が利く大人がいる事だしな」
そう言いながらアーサーがニッと笑ってみせると、イクト達は顔を見合わせてからとても驚いた様子でアーサーへ視線を戻し、その表情のままでアーサーに話し掛けた。
「えっと……それってつまり、アーサーさんも俺達の旅に……」
「ついてきてもらえるって事、ですか?」
「ああ。まあ、お前さん達さえ良ければだが……どうだ? これでも、昔は発明家志望で『ベイカー・コーポレーション』のオリジナル製品の殆どは俺も開発に関わってるから、旅の最中で何か必要な物があれば、作ってやる事も出来るし、料理だってそれなりに出来るから、足手まといにはならないつもりだぜ? なあ、シャロ?」
『……ああ。普段は少し怠け癖があるけど、やる時にはしっかりと物事をこなす男の中の男だから、旅ではとても助けられると僕は思ってるよ』
「そうそう……って、怠け癖のとこは余計だっての!」
少しムッとしながらアーサーがシャロのパイプを取ると、途端にシャロは耳をペタンと倒し、目を潤ませながらアーサーの手の中にあるパイプへ必死に手を伸ばした。
『あうぅ……ゴメン、ボス。だから、早くパイプを返してよぉ……』
「……はあ、まったく。ほらよ、相棒」
そして、溜息をつきながらアーサーがシャロへパイプを返すと、シャロは急いでパイプを咥え、再び落ち着き払った様子で話し始めた。
『ふぅ……すまない、また取り乱してしまったね。やっぱりこれが無いとどうにも落ち着かない物で、ボスからパイプを取り上げられるとすぐああなってしまうんだよ』
「そういえば、初めて会った時もそうだったな。でも、どうしてそのパイプが無いとそうなっちゃうんだ?」
『……これは、このパイプは僕の憧れの人が咥えているとされる物と同系統の品でね、僕がいくら電気技を使っても燃えないように加工された特注品なんだ。そして、これを咥えている間は、僕は弱気で臆病な僕から落ち着いたクールな僕へ変わる事が出来る、いわば性格を変えるスイッチみたいな物さ』
「なるほどな……」
シャロの説明にイクトが納得顔で頷いていると、アーサーはにいっと笑いながらイクトに話し掛けた。
「それでどうだ? 俺とシャロも旅に連れて行ってくれるか?」
「えっと……それはもちろん良いんですけど……」
「『ベイカー・コーポレーション』の支社を回るという仕事の方は大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ねぇさ。支社の連中にはその近くまで差し掛かった時に連絡をするとは言ってあるし、現役のトレーナーの旅についていく事で、トレーナー達の生の声を聞く事も出来るから、『ベイカー・コーポレーション』の新製品を作る上での大きなヒントも見つかるだろうからな」
『だから、君達の旅についていけるなら僕達も非常に助かるというわけさ。それに、先程の君達が言っていたようにどうせ旅をするなら一緒にいて楽しい人とした方が良いだろう?』
「アーサーさん、シャロ……」
ニッと笑うアーサーとクスリと笑うシャロの姿を見た後、イクトはシアと顔を見合わせ、同時にクスッと笑いながら頷き合うと、揃ってアーサー達の方へ向き直り、同時に手を差しだした。
「アーサーさん、シャロ、これからよろしくお願いします」
「これからよろしくお願いします!」
「……ああ、こっちこそよろしくな、お前さん達」
『同行させてもらう以上、僕達も精いっぱいサポートをさせてもらうよ』
『うん、よろしくね』
『一緒に旅を楽しもうね!』
イクト達トレーナーが握手を交わし、ロイ達ポケモンが笑いながら言葉を交わした後、「ん、そうだ」とアーサーは何かを思い出したように言うと、スーツのポケットから黒い『ポケフォン』を取り出し、操作を始めた。そして、「……これで良いな」と満足げな顔で言いながら『ポケフォン』をしまうと、その様子にイクトは不思議そうな顔をしながらアーサーに話し掛けた。
「アーサーさん、誰かにメールでも送っていたんですか?」
「ああ、ちょっとクリスにな。さて、お前さん達。明日は何をするのかもう決めてるのか?」
「あ、えっと……明日はここのジムに挑戦して、勝てたら残りの時間を旅の準備にあてるつもりです」
「そうか……それなら、明日のジム戦も観戦させてもらうが、その後にちょいと『ベイカー・コーポレーション』まで来てもらって良いか?」
「はい、それは大丈夫ですけど……何かご用事ですか?」
「まあな。という事で、俺はそろそろ失礼させてもらうぜ。クリスに頼んだ物について俺もちょっとだけ手を加えたいからな」
「分かりました」
「それじゃあ明日は、『ロンドジム』の前で待ってますね」
「おう。それじゃあな」
『では、また明日』
そして、アーサーとシャロが歩き去っていくと、リアは微笑みながらイクトに話し掛けた。
「さてと……明日は『ロンドジム』に挑戦するみたいだけど、何か対策はしてるの?」
「あ、いえ……特には何も」
「そっかぁ……まあ、『ロンドジム』は鋼タイプのジムだから、炎タイプや地面タイプ、後は格闘タイプなんかがいれば結構楽になるけど……」
「あ、炎タイプならヒトカゲのレドがいます」
「ヒトカゲ……ああ、ロッカ博士が保護してたっていう色違いの子だね。それなら、少しは楽に戦えるかな。でも、『ロンドジム』のジムリーダーは中々手強いから、油断はしないようにね」
「はい!」
イクトが元気よく返事をすると、リアは満足顔でうんうんと頷いた後、気持ち良さそうに体を上にグーッと伸ばしてから、ニコリと笑いながらイクトに話し掛けた。
「さてと、それじゃあ午後からは私も特訓や旅の準備に付き合ってあげるよ。私もちょうど育てて始めの子が何匹かいるから、結構良い勝負になると思うし」
「え、それは助かりますけど……本当に良いんですか?」
「うん。これからシアがお世話になるからそのお礼っていうのもあるけど、ポケモンリーグに挑戦したいっていう君の力をもっと間近で見てみたいからっていうのが大きな理由かな。だって……」
「……だって、何ですか?」
「……んー、やっぱり内緒。いまそれを話しても良いけど、いま話したら楽しみが減っちゃうからね。だから、イクト君が無事にバッヂを8つ手に入れたら、その時にこの続きを話してあげるよ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべながらウインクをするリアの姿に、イクトがポカンとした様子で「は、はあ……」と言うと、リアは微笑みながら「それと……」と言いつつシアへ視線を向けた。
「シアもこれについては内緒ね」
「あ、うん……分かった」
「よろしい♪ あ、それと……ロッカ博士、午後もバトルフィールドは使っても良いですか?」
「ええ、良いわよ」
「ふふ、ありがとうございます。という事で、とりあえずここらで一時解散かな。そろそろお昼の時間だし、腹ごしらえは必要でしょ?」
「えっと……はい、そうですね」
「うんうん。それじゃあ行くよ、シア、ラピス」
「うん、分かった」
『はーい』
シアとラピスが返事をすると、リアは微笑みながらコクンと頷き、再びイクト達の方へ視線を向けた。
「さてと……それじゃあイクト君、ロイ、また後でね」
「あ、はい」
『はい』
そして、イクト達の返事にクスリと笑うと、リアはシアを連れて研究所を後にし、研究所のバトルフィールドにはイクト達とロッカ博士だけが残され、リア達が歩いていく姿を見ながらイクトは軽く苦笑いを浮かべた。
「何というか……リアさんってスゴくパワフルな人なんだなぁ……」
「まあ、そうね。あの子、結構世話好きだし、何か思いついたらすぐに行動に移しちゃうところもある上、それで何度も色々な人のピンチを救った事もあるようだから、何かと頼られるのよね」
「なるほど……でも、さっきは本当に何を言いかけたんだろう……? ロッカ博士は何か知ってますか?」
「うーん……なんとなく分かるけど、あの子の楽しみを減らしちゃうのも可哀想だし、ここはあの子の言う通りにしてもらっても良いかしら?」
「あ、はい……分かりました」
「うん、ありがとう。それじゃあ私はそろそろ研究に戻るから、イクト君達は午後からの特訓と旅の準備を頑張ってね。イクト君達のジム戦や旅の成功を祈ってるわ」
「はい、ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして。それじゃあね」
「はい!」
「ピカチュ!」
ロイと共に返事をし、笑顔で手を振りながら研究所へ向けて歩いていくロッカ博士を見送った後、イクトは頭の上にいるロイに声を掛けた。
「よし……それじゃあ俺達も一度帰ろうぜ。昼食を食べながらさっきのバトルの反省会と午後からの特訓について話し合いをしたいからな」
「ピカッ!」
笑顔で答えるロイの声にニッと笑い返しながら頷いた後、イクトはロイと共に自分の家へ向けてゆっくりと歩き始めた。すると、研究所の屋根の景色が一部揺らぎ、そこに白く大きな身体を持ったポケモンが姿を現した。そして、ポケモンは楽しそうに話をしながら歩いていくイクト達を見ながらどこか楽しそうな様子で独り言ちた。
『……あのトレーナーは中々見所がありそうだな。奴や我が生まれの親からあの洞窟から離れ、信用のおけるトレーナーでも探すために旅に出てはどうかと言われた時は、そんな奴がいるわけはないと思っていたが、あのトレーナーなら少しは信用しても良さそうだな。もっとも、この私に勝てればの話だが……まあ、明日のジム戦とやらを見てから、バトルを挑むべきかを考えるとしよう』
そう言うと、ポケモンは自身の持つサイコパワーに意識を向けると、『……ではな、イクトよ』と言いながら姿を消し、そのまま研究所を飛び去っていった。
第2話、いかがでしたでしょうか。最後に出て来たポケモンについては、何となくでも正体が分かる方はいらっしゃると思いますが、正体が明かされるのはもう少し後なのでお楽しみにして頂けると嬉しいです。
そして最後に、今作についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。