けものフレンズR   作:ドラクオ

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第2話「雪のあしあと」

しんしんと雪が降り積もる山道を、二人は並んで歩いていた。吐く息は白く、寒さが手足の先まで滲んでくる。空も少し曇っていて、時折吹きすさぶ風などを立ち止まってやり過ごす。堪らず身体を震わす友絵に、イエイヌが心配そうに声を掛ける。

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。ちょっと寒いけど、なんとか」

友絵がそう言うと、イエイヌはおもむろに自分の着ていた衣服の上着を友絵の肩に掛けた。

「ありがとう、すごく温かいよ。でもイエイヌちゃんが寒くなっちゃわない?」

イエイヌはホッとした顔で友絵にこう返した。

「いえいえ、ぼくは寒いの結構得意なのでこれくらい平気です」

まっさらな雪の絨毯に刻まれていく、二つの足跡。右はイエイヌ、左は友絵。二人の歩く歩幅は違えど、同じ速さでそれは続いていく。

 

しばらく行くと、道端に木製の看板が建っているのをイエイヌが発見した。近づいて看板をよく見ると、文字が書いてあるのがわかる。どうやら何処かの場所を示す案内板のようだ。イエイヌにもわかるように、友絵が書いてある文字を読んだ。

「南に500メートル先温泉ありって書いてあるね」

友絵はイエイヌの家から持ってきた地図をショルダーバッグから取り出し、現在の位置を確認した。

「たぶん今私たちがここらへんだから、温泉は……このあたりだね。いいなぁ、温泉」

友絵は温泉に興味しんしんだった。

「おんせんって何ですか?」

イエイヌの問いかけに、友絵はこう応えた。

「温泉っていうのは、ん~っと大きいお風呂みたいなものかな。入ると疲れがとれるし、お肌がつるつるになるんだよ」

イエイヌは友絵の説明を聞いて、温泉に興味が湧いてきた。

「行きましょう、温泉に」

そうして歩き出そうとした次の瞬間、猛烈な吹雪が二人に襲いかかってきた。

「あっ!」

体勢を崩した友絵は、手に持っていた地図を離してしまった。それでも止まない烈風が、あっという間に地図を彼方まで吹き飛ばしていく。

「どうしよう、地図が飛ばされちゃった」

「とにかく、追いかけましょう」

二人は地図が飛ばされた方向へ歩き出した。

1時間くらい、地図を探して歩き回ってみたものの、見つけることはできなかった。すっかり身体が冷えきってしまった友絵は、膝が笑ってしまうほどガクガク身震いした。

「うぅ~、寒い」

寒さには強いイエイヌも、雪道を歩き回ったせいか、ブルブルと身体を震わせていた。

「さ、さすがに冷えてきました。あっ、ちょっとあそこで休憩しませんか?」

イエイヌは近くにあった洞穴を指差して友絵にそう促した。二人は一時洞穴へと避難するのだった。

その洞穴は、ヒトが5~6人入れるくらいの大きさであり、奥の方は暗くて見えないが、暖をとるくらいのスペースは余裕であった。

「とりあえず、服を乾かさないとね。イエイヌちゃんそこにある樹の枝をとってくれる?」

イエイヌは洞穴にあった樹の枝を友絵に拾って友絵に渡した。ショルダーバッグからマッチを取り出した友絵は、スケッチブックの白紙のページを一枚破り、細かく刻んでそれに火を付けた。やがてその火は樹の枝に点火し、焚き火となった。

「ふぅ~、温かいねイエイヌちゃん」

「ですね~、生き返ります」

しばらくまったりした後、二人は今後について話始めた。

「地図見付からなかったね……これからどうやって進もうか」

「そうですね、闇雲に歩き回ってもしょうがないですし、とりあえず近くにある温泉に行ってみるしか」

二人が暖をとっていると、洞穴の奥の方から突然悲鳴が聞こえてきた。

 

きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

二人が声のする方に振り返ってみると、雪のように真っ白な細長い耳をピンと立て、赤い眼をしたフレンズが、怯えきった表情でこちらを見ていた。

「あ、あなたは……」

友絵が言葉を発するより先に、そのフレンズは洞穴からピョンっと逃げ出していった。

「あ、待ってください」

二人は焚き火を雪で消火すると、逃げ出したフレンズに温泉の場所を聞き出すため、その足跡を追いかけていった。

 

足跡を追いかけていた二人は、それが急に途絶えているのに気づいて歩みを止めた。

「あれ、おかしいな。さっきの子の足跡が、ここで止まってるみたい」

辺りを見回してみるも、さっきのフレンズの姿は見えなかった。イエイヌが匂いで探索してみるも、雪が降りしきる状況では、上手く匂いをかぎわけることができなかった。足跡を遡って探して見たものの、やはりその姿は何処にも見当たらない。

「さっきの子、たぶん白いウサギのフレンズだと思うんだけど、こんなに雪が降り積もっているんじゃ、見つけるのはすごく難しいかも」

「そうですか、なら洞穴に戻って雪が止むのを待ちましょうか」

二人がさっきの洞穴に戻ろうと歩き出すと、遠くからシャンシャンと鈴の音が響き渡ってきた。その音はだんだんと、二人に近づいてくる。イエイヌが警戒し、友絵の傍に寄る。すると木々の向こうから、イエイヌと同じように左右で瞳の色が違う、頭に大きな黒い角を携えたがっしりとした体格のフレンズが現れ、二人に向かってこう言った。

「やあやあ、わたしはトナカイ。君たちはこんなところで何をしてるんだい?」

友絵はトナカイに挨拶した。

「初めましてトナカイさん。私の名前は友絵って言います」

警戒を解くとイエイヌも挨拶をした。

「ぼくはイエイヌです。わけあって友絵ちゃんと二人で旅をしているんですけど……」

これまでのいきさつを聞いたトナカイは、うんうんと頷きながら、二人にこう言った。

「よおしわかった!温泉に行きたいのだな。では、わたしが案内しよう」

胸につけた黄色い鈴を鳴り響かせながら、トナカイは雪道をずんずん進んでいく。二人はその後に付いていった。

 

 

 

トナカイの大きな背中を追いつつ、二人は雪道を歩いていた。雪深い道のりではあったが、トナカイの足跡はまるでかんじきを履いているかのように雪に沈まず平らだった。しばらく歩いていると、イエイヌの鼻がピクッと反応した。

「クンクン……何か匂います。なにやら刺激的な匂いが」

前方から煙がたっているのが見える。近づいて行くと、友絵にもその独特の匂いがするのを感じられた。煙が立ち上る木造の建物の前で止まったトナカイは、二人の方を振り返ってこう言った。

「さあ着いたぞ。お目当てのものはこの中にあるんだ」

トナカイは建物の門をくぐって中に入っていき、二人にこっちこっちと手を振り促した。二人はそれに従い、中に入っていく。建物の中は少し薄暗かったが、トナカイは早足でどんどん前進していき、ある場所でまた立ち止まるとこう言った。

「この先にあるのが温泉だ!」

赤い暖簾に大きく「湯」と書かれた入り口をくぐり、衣服の脱衣場を通り抜けて木製のドアを開くと、そこには独特の硫黄の匂いが立ち込める、乳白色の温泉が広がっていた。

「うわあ!この匂い、温泉って感じだね。それに、お風呂からの景色も最高だね」

久しぶりに見る温泉に、友絵は目をキラキラと輝かせる。中は雪がパラパラとちらつく露天風呂になっていて、さっきまで自分達が歩いていた雪山が、湯船の仕切りの上からちょっこりと覗いていた。

「これがおんせん……なんだか色が濁ってるし、変な匂いもするし、本当に入って大丈夫なんですか?」

初めて見る温泉を、訝しげに見ていたイエイヌに向かって、待ちきれない様子の友絵はこう言った。

「大丈夫だよ、ほら早く一緒に入ろう」

トナカイにお礼を言った二人は、脱衣場でさっさと衣服を脱ぐと「ケロリン」という文字が底に書かれた黄色い風呂桶で掛け湯をした後、足先からゆっくりと湯船に浸かった。先に友絵が入り、まだ躊躇していたイエイヌも、早く早くと友絵に手招きされて、恐る恐る湯船に浸かった。全身を包み込むじんわりとした虚脱感と、濁り湯が誇るつるつるの感触がなんとも心地よく、思わずため息がこぼれ落ちた。

「ふぅ~~~気持ちいいです」

「ごくらくだね~」

雪道を歩き回り冷えきっていた身体に、芯まで伝わってくるポカポカとした幸福感。二人はしばらくの間、その温もりに酔いしれていた。その様子を、浴槽の近くで伺っていたトナカイに友絵は声を掛ける。

「そう言えば、トナカイさんは入らないんですか?」

トナカイはこう応えた。

「わたしはそんなに寒くないから大丈夫だ。それにこの温泉は……」

「ふ、ふにゅ~」

友絵の隣から、突然気の抜けたようや声が聞こえてきた。どうやら声の主はイエイヌのようだ。

「どうしたの、イエイヌちゃん?」

友絵が声を掛けるも、イエイヌはのぼせたかのように目がトロンとして、ほっぺたも赤くなっている。

「え、イエイヌちゃん大丈夫?もしかしてのぼせちゃったの!」

「ひょんなことないれす、えへへへへ、とっても気持ちいいれすよ、ともえひゃん」

そう言うと、イエイヌは友絵に思い切り抱きついてきた。そして、友絵の顔をペロペロとなめ回し、尚も甘えてくるのだった。

「ちょっと待ってイエイヌちゃん、落ち着いて!」

終始二人の様子を眺めていたトナカイがこう言った。

「ここはフレンズが入ると身も心もグダグダになってしまうグダグダ温泉、と呼ばれている。それにしても、君たち本当に仲が良いんだな、わっはっはっ」

「トナカイさん!そう言うのは先に言ってくれなきゃ、もう~」

友絵が堪らず温泉から逃げ出した。

「あ!まっひぇ、ひかないれ」

顔がふやけてグダグダになったイエイヌが友絵を追いかけていく。トナカイはそんな二人の仲睦まじい様子を見て、高らかに笑うのだった。

 

「なるほど、ヒトを探しに港へ行く途中だったわけか。しかし途中で港への地図を失くしてしまったと、ふむふむ」

建物のロビーに移動した友絵たちは、来客用のソファーに座りながら、トナカイに旅の経緯を説明していた。トナカイと友絵が話している間、イエイヌはソファーにぐで~っと横になっている。まだ頭がのぼせている様子のイエイヌに、友絵は持っていたスケッチブックで扇ぎ、そよ風を送った。

「行く当てもないし、これからどうしようかと思って……」

浴場を出た後、友絵は建物内に地図をがないか探して見たが、温泉地のパンフレッ以外は見当たらなかった。途方にくれていた友絵に、トナカイはこう言った。

「港の場所を知っているフレンズの住み処なら、わたしは知っているぞ」

「え、どこにいるんですか?」

友絵が聞き返すと、トナカイはこう答えた。

「この山を下って麓の森をしばらく行った先に“植物園”という場所がある。そこに住んでいる“博士”なら港の場所を知っているはずだ」

「植物園に住む博士か……教えてくれてありがとうございます」

「これも何かの縁だ、わたしが植物園の近くまで案内しよう」

「いいんですか!本当に、トナカイさんにはお世話になりっぱなしで」

頼もしくて器の大きいトナカイに頼りっぱなしの友絵は、少し申し訳なさを感じていた。そんな中、トナカイが友絵にこう投げ掛けてきた。

「その代わりと言ってはなんだが君に一つ頼みたいことがあるんだ」

「はい、私にできることならぜひ」

「おおそうか、引き受けてくれるのか、ありがたい。これは君にしか頼めない事だからな」

「私にしかできない事?」

「うむ、詳しい話はここを移動して目的地についてから説明するぞ。イエイヌもまだ調子が戻っていないし、雪が止んでから出発するとしよう」

トナカイに頼られて、友絵は嬉しさを感じていた。自分も誰かの役に立ちたい、そんな気持ちが心に芽生え始めたからだ。しばらくして、イエイヌの体調が回復し、雪も止んだのを確認した友絵たちは、温泉を後にして、次の目的地へと向かった。

 

雲間から陽光がさして、キラキラと輝く雪道を進む友絵たち。しばらく行くと、広大な雪原の中に三角屋根の建物が見えた。その隣には半月型の屋根がついた建物がある。

「お、見えてきた。あそこが目的地だ」

トナカイが建物の方向を指差してそう言った。近くまで行くと、石の台の上にろうそく型の看板が立っていた。友絵が近づいて文字を読む。

「……ホロホロ牧場」

トナカイの案内で来た場所は、観光用の牧場だった。友絵たちはトナカイに導かれて半月屋根の建物の中に入った。そこには牧草や農耕器具などが収納されていて、奥の方には小さい船の形をした木製のソリが見える。トナカイはソリの前で立ち止まると、友絵たちに振り返ってこう言った。

「頼みと言うのはだな、この壊れたソリを直すのを手伝ってもらいたいんだ」

ソリを見てみると、どうやら雪の上を滑るための板の部分が割れてしまっているようだった。イエイヌが興味深くソリを見ながらこう言った。

「これって、何をするためのものなんですか?」

トナカイはこう答えた。

「ヒトを乗せて運ぶためのものさ」

遠い記憶に思いを馳せながら、トナカイは話を続けた。

「かつてわたしは、このソリにヒトを乗せて運んでいたんだ。みんな喜んでくれて、それが自分でも嬉しくて。だからもう一度、このソリにヒトを乗せて運べたら楽しいだろうなあと、思ったんだ」

トナカイの話をしみじみ聞いていた友絵は、トナカイにこう言った。

「わかりました、このソリを私たちで直しましょう!イエイヌちゃんも協力してくれる?」

イエイヌは笑顔でこう答えた。

「はい、もちろんです」

 

三人はソリを直すため、まず雪板の代わりとなる木材を探した。ガサゴソと漁っていると、イエイヌが声を上げた。

「あっ、これなんてどうですか。真っ直ぐで割れてないやつです」

イエイヌが見つけたのは細長いベニヤ板だった。

「うん、バッチリだね」

次に、真っ直ぐな板の先に「反り」の部分を作るため、先端が曲がっているものを探した。トナカイが何やら発見し、友絵の元にやって来る。

「これなんてどうだろうか。結構曲がっていて固そうだぞ」

トナカイが持ってきたのは熊手だった。

「え~っと先端をこうして、さっきの板とくっつければ……うん、大丈夫そうだね」

かくして材料が集まり、後は木材を加工する作業が残っていた。これは道具を使えて手先の器用なヒトでなければできない作業。イエイヌとトナカイは友絵が木材を加工するのをじっと見守っていた。

「すまないな、こればっかりは君に頼るしかないんだ」

「友絵ちゃん、手伝えることがあったら言ってくださいね」

心配そうに見守る二人に、友絵はこう応えた。

「大丈夫だよ、任せて。私頑張っちゃうから」

慣れない手付きながらも、ベニヤ板とソリの箱の部分を釘で打ち付けていく。熊手の先端をノコギリで切り取り、ベニヤ板の先に同じように釘打ちしてくっつけると、ようやくソリの修復が完了した。完成したソリを見たトナカイは、嬉しそうに目を輝かせてこう言った。

「なんと素晴らしいソリだ!ありがとう友絵、そしてイエイヌも。ああ、わたしは感動している。これでまた、ソリでヒトを乗せて運ぶことができるのだなぁ……」

友絵はホッとため息をつき、イエイヌと顔を合わせて安堵の表情を浮かべるのだった。

 

三角屋根の建物に移動した友絵たちは、そこにある仮眠室で一晩を過ごした。翌朝、トナカイが待ちきれない様子で友絵たちを起こしにきた。

「おはよう!今日は良い天気だぞ。これは絶好の滑り日和だな」

友絵とイエイヌは眠い目をこすりながら身支度を整えると、トナカイと共に建物の外に移動した。

「ちょっと待っててくれ」

トナカイはそう言うと、昨日修理したソリが置いてある建物の中に入っていった。二人が雪玉を投げ合って遊んでいると、トナカイが戻ってきた。右手にはソリを、左手にはトナカイの身長と同じくらいの、両端に角型のヘラが付いた棒を携えていた。

「待たせたな、さあ準備万端さっそく滑るとしようか」

そう言うとトナカイは牧場にある小高い丘まで二人を連れていった。友絵はトナカイが持っている物が気になって質問を投げ掛けた。

「トナカイさんが持っているそれって、何ですか?」

「これはわたしの武器でもあり、ソリを操作するためのオールさ」

丘の上に到着した友絵たちは、ソリに乗り込んだ。友絵とイエイヌはソリの前方の座席に、そしてトナカイはソリの後ろに立ち、ゆっくりとソリを押していった。

「ちょっとドキドキするね、イエイヌちゃん」

「お、落とされないように気をつけましょう」

「さあ行くぞ!」

トナカイのかけ声で、ソリは勢いよく走り出した。ぐんぐんスピードを上げながら雪の斜面を真っ直ぐに滑っていく。友絵は向かい風に煽られて帽子が飛ばされないよう、バッグの中にしまった。

「すごいスピードだね、ソリってこんなに早く滑れるんだ」

圧倒的なスピード感に、友絵はワクワクが止まらなかった。

「ぼくたちは動いてないのに、どんどん景色が流れてく。なんだか不思議な気持ちです」

初めて体験する乗り物に、イエイヌは興奮していた。

「どうだい二人とも、このスピード感、最高に気持ちいいと思わないか?」

ソリの後ろの席に座っていたトナカイが、声を掛ける。

「最高です!」

「はい、ちょっと怖いけど楽しいです」

二人の楽しそうな顔を見て、トナカイはとても満足そうな表情を浮かべた。

「ねぇねぇあれ見て、すごいキレイだよ」

友絵がイエイヌに指し示した方向には、真っ白な雪が被さった樹氷が立ち並んでいた。それはまるで樹から雪の葉っぱが生えているかのようだった。澄みきった青い空の色と、白くて透明な樹氷とのコントラスト。その中を、ソリが滑り抜けていく。友絵は思わずスケッチブックを開き、虹色のペンを取り出してその光景を描き出した。

「友絵ちゃん、また何か描いているんですね」

「うん、この光景はどうしてもスケッチしておきたくて」

友絵が絵を描くのに夢中になっていると、イエイヌはソリの前方の進路に樹が立ち塞がっているのに気づいた。

「あっ!目の前に樹が、ぶつかる!」

慌てるイエイヌだったが、トナカイは余裕の表情でこう言った。

「なあに、心配ご無用。たあ!」

トナカイが持っていた角型のオールを右手側の地面にパーンと突き刺すと、その反動でソリは進路方向を左に転換した。今度は左手に樹が見えてくると、右方向に舵を取った。トナカイのオールは、本来なら真っ直ぐにしか進めないソリの舵を取るためのものだった。

「トナカイちゃん、カッコいいです」

その姿に、イエイヌは思わず感嘆の言葉を表した。

「ふっふーん、さあ麓までいっきに行くぞ!」

トナカイは誇らしげにオールで舵を取りながら、滑らかな斜面を下っていった。

 

山の斜面を下り、平地まで降りてくると、ソリは徐々にスピードを落とし、ゆっくりと止まった。友絵たちはソリから降りると、トナカイに向かってお礼の言葉を告げた。

「トナカイさん、ありがとうございます。ソリすっごく楽しかった」

「ありがとうトナカイちゃん。オールを振り回す姿が、かっこよかったです」

トナカイは満面の笑みでこう応えた。

「こちらこそ、ありがとう。ずっと夢だったソリを引くことができて、わたしは満足だ」

雪道をしばらく歩くと、しだいに雪のない地面が顔を出し、森の入り口が見えた。

「この森をしばらく行くと、植物園が見えてくるはずだ。二人とも、気をつけてな」

ここまで案内してくれたトナカイに、友絵は感謝の気持ちを込めて、スケッチブックのページを一つ取り外してトナカイに渡した。

「これ、さっきソリに乗っている時に描いた絵です。お世話になったお礼に、どうぞ」

その絵には、青い空と樹氷を背景に、トナカイが友絵とイエイヌの乗るソリの舵を取る姿が描かれていた。

「なんと!これは素晴らしい。友絵はこんなことも出来たのだな。ありがとう、大切にするよ」

手を振り、トナカイとお別れした友絵たちは、港の場所を知っているフレンズがいるという植物園を目指し、森の中へ歩いて行くのだった。

 

≫つづく。

 

次回「森のぬけみち」

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