けものフレンズR   作:ドラクオ

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第3話「森のぬけみち」

友絵とイエイヌは、トナカイから聞いた情報を頼りに、植物園を目指して森の中を歩いていた。そこは、二人の身長の何倍もあろう高木が立ち並び、地面には紅葉した大量の落ち葉が敷き詰められていて、二人がそれを踏みしめながら歩く度に、シャリンシャリンという音が森の中に響き渡る。時折吹き抜ける風は、凍えるような寒さを感じた雪山の時とは違い、やんわりとした生温さを感じさせるものだった。何かに気付いた友絵が、地面を指差してこう言った。

「ねえこれ、どんぐりじゃない?」

イエイヌは地面に落ちていた焦げ茶色の木の実を拾い上げてこう答えた。

「本当だ。そこら中に落ちてますね」

二人がどんぐり探しに夢中になっていると、突然ガサガサと地面の落ち葉が震え始め、バサァっと落ち葉を空中に巻き上げながら赤い色をしたセルリアンが姿を現した。

「きゃっ!びっくりした」

「こんなところにセルリアンが……ともえちゃん!」

イエイヌは友絵を背にして、セルリアンと正面から向き合ったまま攻撃する機を窺った。バスケットボールより少し大きめなサイズの赤いセルリアンはじりじりとイエイヌとの距離を詰めていく。イエイヌはタイミングを見計らい、バッっとセルリアンに飛びかかった。がしかし、セルリアンは突然2体に分裂して左右に飛び退け、その真ん中に振りかざしたイエイヌの爪は空を切った。

「え?そんな、まさか」

分裂したセルリアンはイエイヌには目もくれず、その脇を通り抜け、バウンドしながら友絵に向かって一直線に前進していった。

「いや……こっち来ないで」

「逃げて!ともえちゃん!!」

友絵はセルリアンを背にして必死に逃げ出した。イエイヌは四足歩行の体勢を取り、全速力でセルリアンを追いかけていく。2体に分裂したセルリアンの片方の石に、イエイヌの爪がヒットする。しかしまだ、もう1体のセルリアンが残っていた。友絵が樹の根につまずいて、地面に倒れ込む。振り返ると、背中からガバアッと襲い来るセルリアン。

「ひっ!」

 

パッカァーン

 

間一髪。セルリアンに飛びかかったイエイヌの爪が、その弱点である石を砕いた。そのまま、地面を転がるようにして着地したイエイヌは、身体に付着した落ち葉を払うと、起き上がり友絵の元へ駆け寄った。

「はぁはぁ……良かった、無事で」

キラキラと光輝くその目には涙が滲んでいた。

「ありがとう、助かったよイエイヌちゃん」

イエイヌが差し伸べた手を掴み、友絵は立ち上がりお礼の言葉を口にした。イエイヌの目の輝きは、次第に消えていった。

「それにしても、まさかセルリアンが分裂するなんて、びっくりだよ」

森を歩きながら友絵がそう口にする。イエイヌは周囲を注意深く警戒しつつ、こう応えた。

「ぼくも二つに別れるセルリアンなんて、初めて見ました。でもそのせいでともえちゃんを危険な目に……」

イエイヌの表情に陰りが見えたのを察知した友絵は、笑顔でこう言った。

「イエイヌちゃんが居てくれたから助かったんだよ。だから、一緒に来てくれて本当にありがとう」

「……ともえちゃん」

 

しばらく森の中を歩いて行くと、植物園らしき建物の前へとたどり着いた。外観は黄緑色を基調とした洋風の作りで、玄関ドアの上に星形の紋章がついている。その大きさは一般家庭の住居より一回り大きい2階建ての建物といったところだ。

「ここが、植物園なんでしょうか?」

「わからないけど、とにかく中に入って聞いてみよう」

二人がドアを開けて建物の中へと入って行く。その様子を、樹の上からじ~っと窺う何者かの姿があった。

「……あの子たちはいったい」

樹上の者は、二人に気付かれないよう建物の裏側に回り込んでいった。

 

「きゃっ!」

建物の中心部にあったものを見て、友絵は思わず悲鳴を上げた。

「お、大きい……けど、来るなら迎え撃ってやります!」

イエイヌがそれに向かって威嚇するが、全く動く様子はなかった。冷静になって意味を理解した友絵は、それの近くまで寄って表示されている看板の文字を読んだ。

「ヒグマの……はく製」

「ともえちゃん!動かないからって近づいたら危険ですよ」

「大丈夫だよイエイヌちゃん。これはたぶん、動物の置物だから」

イエイヌは大きなヒグマのはく製が入っている透明なケースを触りながらこう言った。

「もしかしてこの動物、死んでしまっているんですか?」

友絵は少し考えた後こう答えた。

「詳しくはわからないけど、これってヒグマそっくりに作られた偽物なんじゃないかな」

通路を行くと、二人は他にもガラスケースに入った動物のはく製をいくつか見つけた。

「これは、エゾオオカミだって……でこっちはトド、アザラシ……フクロウにリスとか、いっぱいあるね」

友絵は興味深げにガラスケース内の動物を観察している。イエイヌは未だに半信半疑なのか、動物たちがケースの中から飛び出して来るんじゃないかと気が気ではなかった。

「……ふむぅ、帽子を被ったあの子、さっきからケース内のはく製を観察してる、それにおそらく文字も読めるみたい。隣の子はよく意味が解ってないのかな、かなり警戒してる……なるほど、少しづつ解りかけてきたみたいなの」

建物の外にある樹上から、窓ガラス越しに二人の様子を観察していた何者かは、二人が階段を上がっていくのを確認した後、止まっていた樹の枝から2階の屋根へと移動した。

 

2階に上がると、そこには考古学の研究などで使われていそうな古代生物のレプリカや化石、骨格標本などが展示されていた。

「わあ、すごいよイエイヌちゃん!恐竜の化石がある」

一際目立つ恐竜の骨格標本は、今にも動き出しそうな迫力があった。始めて見る恐竜の標本に圧倒されたイエイヌはこう呟いた。

「死んでるようでもあるし生きてるようでもあって、なんだか頭が混乱しそうです」

展示を見つつ、薄暗い通路を歩いて行くと、行き止まりの壁の窓ガラスが開いていて、そこから心地良いそよ風が流れ込んできていた。風と共に運ばれてきた葉っぱが、ヒラリと床に舞い落ちる。友絵がそれを拾おうとして屈むと、葉っぱの近くに紙切れを発見した。その紙には文字が書かれていて、友絵はそれを心の中で読んだ。

「(上を見ろ)」

「ともえちゃん!何かいます……」

イエイヌが何者かの匂いを察知し、警戒して友絵に呼び掛ける。友絵が咄嗟に上を見ると、天井の柱の陰から何者かが姿を現しこう呟いた。

「やはり、思った通りなの」

頭についた羽を羽ばたかせて、天井からフワリと床に着地した何者かが、友絵に向かってこう言った。

「あなた、ヒトですね?」

友絵はキョトンとした表情でこう答えた。

「……はい、そうです」

 

 

 

頭の両端に羽を持ち、茶色と白の縞模様の服を身に纏ったその者は、金色の瞳をキラリと光らせてこう言った。

「まさか実際にお目にかかれるなんて、思っても見なかったの……初めまして、モリコキンメフクロウの“リコ”です」

そう言うと、リコは友絵に向かって右手を差し出して握手を求めた。友絵は自分より一回り小さな身体をしたリコの手を握り、自己紹介した。

「初めまして、友絵って言います。あっちにいるのが……」

しばらく二人のやりとりを見守っていたイエイヌが、友絵の元へ駆け寄ってこう言った。

「ぼくはイエイヌです」

戸惑いながらも、リコと握手を交わしたイエイヌ。挨拶を終えた三人は、落ち着いて話をするためリコの案内で2階の応接室へと移動した。部屋の中央にはテーブルを挟んで二人掛けのソファーが2つあり、友絵とイエイヌは左に、リコは右のソファーに腰掛けた。その他にも、部屋の両端にはガラスケースに入った小さな化石や本棚などが見える。向かい側のリコが口を開いて、友絵たちにこう質問してきた。

「それで、あなたたちはどうして博物館に来たの?」

リコの質問に友絵はこう答えた。

「そっかあ、ここ博物館だったんですね。実は私たち、植物園に住む“博士”と呼ばれる方を訪ねて来たんですけど……」

友絵がこれまでの経緯を話し始めると、リコはうんうんと頷きながら最後まで話を聞いた後、こう言った。

「ふむぅ、つまり博士に会って港の場所を聞きたいというわけなのですね。解りました、そういうことならリコが植物園まで案内しましょう」

「本当ですか、ありがとうございます」

「良かったですね、ともえちゃん」

友絵たちは再びリコの案内で植物園へと移動することになった。博物館を出てしばらく外を歩いていると、ひと際目立つ扇形をした1本の樹が友絵たちの目に写った。友絵が急に立ち止まり、その樹に見入っていると、リコが口を開いてこう言った。

「その樹が気になるの?」

「はい、ちょっと……」

何の変哲もない樹ではあったが、友絵は不思議と目を奪われてしまった。近くで樹の根元をよく見ると、隣同士に伸びている2つの樹が寄り添って枝葉を伸ばし、1本の大きな樹の形を成しているのが解った。尚もその樹を見つめ続ける友絵に対して、リコはこう説明した。

「これはハルニレの樹って言って、ここら辺一帯の落葉樹林に分布している落葉高木の一種なの。植物園の本によると、あの樹はず~っと前からあの場所にあって、ヒトがいた頃は観光スポットとして有名だったみたい」

友絵の脳裏に大切なヒトの面影がフラッシュバックする。大きな手で友絵の頭を撫でるそのヒトを見上げている小さな自分。そのヒトに背負われて、落ち葉が敷き詰められた森の中を歩く光景。ふと、そこで記憶の映像は途切れ、友絵の意識は現実へと戻された。イエイヌは心配そうに友絵のことを見つめている。友絵は胸の内にフラッシュバックした記憶をそっとしまうと、二人の方に向き直ってこう言った。

「ごめんなさい、ちょっと気をとられていたみたい。行きましょう」

三人はハルニレの樹を後にして、植物園へと向かった。

 

木々の生い茂る林道を抜けると、丸いスイレンの葉が浮かぶ大きな池があり、葉の間から小さな薄ピンク色の花が咲いていた。池に掛けられた橋を渡ると、今度はアーチ状に蔦が張り巡らされたバラのトンネルが三人を迎えた。赤やピンクのバラが、緑色のアーチの所々に咲き誇るトンネルを抜けた先に、大きな透明の屋根の建物と、それに隣接する青い屋根の建物が見えてきた。

「せっかくだから、温室にある植物さんたちも見ていって欲しいの」

そう言うと、リコは透明な屋根の建物の中に二人を案内した。

「なんだか暖かいね」

「そうですね、まるで別のちほーに来たみたいです」

温室の中は外より気温が暖かく、熱帯地域にいるかのような気候だった。温室の植物を眺めていた二人に、リコはこう解説する。

「温室というのは、植物を育てやすい温度を一定に保つことで、本来冬場なんかに育てられない植物を育成できるようにしている場所なの」

温室の中ではバナナの木やサボテンなども栽培されていた。他にも、熱帯でしか咲かないスイレンの花が咲いていたり、シダ植物などが青々と生い茂っている。リコの解説を聞きながら温室内を散策していると、イエイヌの鼻がクンッと反応した。

「なんでしょう、これ?結構強い匂いがします」

イエイヌの質問にリコはこう答えた。

「それはウツボカズラって言って、食虫植物の一種なの。甘い匂いで虫をおびき寄せて、袋型の葉の中に溜まった消化液で溶かして補食するの」

「あの中に入ったら溶かされちゃうなんて、なんだかちょっと怖いですね」

甘い罠の香りに肝を冷やしつつ、イエイヌたちは温室を後にした。

温室を出てしばらく通路を歩いて行くと、さっきの青い屋根の建物と繋がっていた。ぼんやりと明かりが灯る通路の途中にある“第一ラボ”と書かれた部屋の中に案内した後、リコは二人に向かってこう言った。

「ここが植物園のラボ、リコの研究室なの」

友絵は部屋の中をぐるりと見回しながらこう言った。

「えっと、博士はどこにいるんですか?」

リコはコホンと咳払いすると、近くに置いてあった白衣を身に纏い、こう言った。

「実はね、植物園の博士と言うのはリコのことなの。ここにある植物さんやお花さんたちは、みーんなリコが育てたんだよ」

「えー、そうだったの!」

「リコちゃんがぼくたちの探していた博士だったんですね」

二人は顔を見合わせて驚いた。リコはサプライズが成功して満足そうな表情を浮かべながら二人にこう言った。

「というわけで、改めまして、植物園の博士ことリコです。よろしくなの」

リコは二人をイスに座るよう促した後、本題へと入っていった。

「そうそう、港の場所が知りたいんだったっけ。ちょっと待っててね、今地図を持ってくるから」

そう言うと、リコはラボの中にある資料棚を探し始めた。待っている間、友絵はさっき見たハルニレの樹のことを思い起こしていた。一瞬フラッシュバックした記憶を辿ると、ある思いが浮かんでくる。友絵の様子を気に掛けたイエイヌが、話しかける。

「どうかしましたか?」

友絵は小さくこう呟いた。

「……私、来たことがあるのかも」

イエイヌは耳をピクッとさせて、友絵に聞き返した。

「もしかして、何か思い出したんですか?」

頷きながら、友絵はこう答えた。

「はっきりと思い出したわけじゃないけど、でも幼い頃、私の大切なヒトと一緒に、この植物園に来たことがあるような気がする」

友絵の言葉に、イエイヌは憂いを帯びた表情でこう応えた。

「それは、良いことです。もしかしたら、旅をするうちに少しずつ記憶が戻ってきているのかもしれないですね」

友絵はイエイヌの顔を見ながらこう言った。

「うん、そうだね」

二人の間に、暫しの沈黙が流れる。

「お待たせ~、地図見つかったの」

しばらくすると、地図を持ったリコが二人の元へ戻ってきた。それは友絵たちが元々持っていた地図より距離や地形などが詳細に書かれてあり、それによれば、植物園から真っ直ぐ南に進むと、目的地である港に最短で着くようだ。しかし、それには1つ問題があった。

「真っ直ぐ歩いて森を抜けるルートなら、半日くらい歩けば港に着くはずだけど、森の中にはセルリアンがうじゃうじゃいるし、あまりお薦めできないかな。かと言って、森を迂回するとなると、何日もかかるし、ヒトが歩いて行くにはかなり険しい道で危ないの」

リコの説明を聞いた後、友絵はイエイヌにこう言った。

「やっぱり森の中を最短で行った方が」

「ダメです!ともえちゃんを危険な目に合わせるわけにはいきません。もしセルリアンの大群に囲まれでもしたらぼくでも守りきれるか」

普段は友絵の意見に素直に従うイエイヌだったが、今回ばかりは猛反対した。

「じゃあやっぱり森を迂回するしかないのかな……何日もかかっちゃうけど」

ため息を吐く友絵とイエイヌ。しばらく考えていたリコは頭の上にピコンと電球を光らせた後、二人にこう提案した。

「リコは森を抜けるルートの方に賛成かな」

すかさずイエイヌが反論する。

「そんなの危険過ぎます」

「確かに森の“下道”にはセルリアンが大量に潜んでいて危ないの。でもね、あの森にはセルリアンを回避できる“抜け道”が存在するの」

「森の抜け道……リコ博士、それってどこを通って行くんですか?」

友絵の質問に対して、リコはこう答えた。

「それは森の樹の上に設置してある“空中アスレチック”を通って行くルートなの」

頭にはてなマークを浮かべた二人は、リコにこう聞き返した。

「空中アスレチックって何ですか?」

「私も始めて聞いた。詳しく教えてください、博士」

リコは「その前に」と一言告げた後、再び資料棚のところへ何かを探しに行く。しばらくすると、地図のようなものを持って戻ってきた。

「リコが説明するより、友絵ならこのパンフレットを見た方が早いの」

リコが友絵にパンフレットを手渡すと、友絵はその内容を読んだ。

「森の空中アスレチックへようこそ。このアトラクションは、地上10m以上ある樹の上に設置されたワイヤーやロープ、木のはしごなどを伝い、樹上で暮らすフレンズや鳥のフレンズと同じ目線を体験できるアクティビティだよ……だって」

イエイヌは目をぱちくりさせてこう言った。

「ち、地上10mってそんな高いところにあるんですか?落ちたら大変なことに」

友絵はパンフレットの続きを読んだ。

「安全第一のためにお客様には安全ベルトとヘルメットをしっかり装着してもらいます。高いところを移動する際は、安全ベルトから伸びる命綱をきちんとワイヤーに連結し、スタッフの指示をちゃんと聞いてね……だって」

イエイヌは不安そうな表情で友絵にこう言った。

「ともえちゃん、もしかして……」

満面の笑みで友絵が応える。

「うん、私空中アスレチックやってみたい!」

「ああ、やっぱり……」

イエイヌはもはや諦めたのか、それ以上何も言わず、ただうなだれるだけだった。

「決まりね、アスレチックの場所まではリコが一緒について行くから安心して。もうすぐ日も暮れるし、今日はここに泊まっていくといいの」

「やったあ!ありがとう博士」

「……ありがとう、です」

明日へのワクワクを胸に笑う友絵と、若干ひきつった笑顔のイエイヌ。ため息混じりにイエイヌのお腹がぐぅ~っと鳴ったのを合図に、三人は仲良く植物園のラッキービーストが運んできたじゃぱりまんを頬張るのだった。

 

 

 

その日の夜。

仮眠室のベッドですやすや眠る友絵の元を離れ、イエイヌは一人、夜空を見上げていた。遠い夜の海に浮かぶレモン色の満月が、イエイヌをじっと見つめている。すると、イエイヌの背後から、音もなく誰かが近づいてきた。

「今日の満月は、一段と綺麗に輝いているの。眠れない夜には最適ね」

「……リコ博士。話し掛けられるまで全く気づきませんでした」

イエイヌに声を掛けてきたのはリコだった。二人は植物園の中庭にあるベンチに座り、月明かりの中で言葉を交わした。

「ほら、あそこを見てイエイヌ」

「どこですか……あ、ホントだ綺麗な白い花が咲いてますね」

「あれは月見草って言って、月明かりの夜に花が咲いて、朝になって陽が昇ると萎んでしまう花なの」

「どうして夜にしか咲かないんですか?」

イエイヌの質問に対して、リコは少し考えた後こう答えた。

「リコも詳しい理由は解らないの。でもね、暗い夜に咲く花があるってことは、この世界には他にも不思議なことや解らないことがたくさん溢れてるんだと思うの。それってすごく素敵なことだと思わない?」

リコは金色の瞳をキラキラ輝かせてイエイヌを見つめている。そんなリコのことを、イエイヌは心の中で少し羨ましく思った。ふと、イエイヌはリコにこんな質問を投げ掛けた。

「あの、リコ博士はともえちゃんのようなヒトに会うのは初めてだって言ってましたけど、実際に会ってどんな印象でした?」

リコはイエイヌの質問にこう答えた。

「優しくて温かくて、素直な良い子だと思う。ヒトってどんな動物なのか、本でしか見たことがなかったからずっと観察したいって思ってたんだけど、あの子を見てるとこう、何て言うか、ほっとけないって気持ちになるの」

イエイヌはうんうんと頷きながら、リコの話を聞いていた。するとリコはイエイヌにこんな質問を返してきた。

「イエイヌは、友絵のことどう思ってるの?」

イエイヌは少し照れくさそうに、こう答えた。

「ともえちゃんのことは、大好きです。ぼくがお役にたてることなら、何だってしてあげたいし、危険なことから絶対に守らなきゃって思います。だから、ともえちゃんの大切なヒトが見つかるまでは、一緒に……」

そこまで言うと、イエイヌは言葉に詰まってしまった。リコはそんなイエイヌを気遣うようにこう言った。

「友絵とイエイヌは良いコンビだと思うの。太陽と月みたいに、お互いの心が通じ合ってるって感じで。それに友絵の大切なヒトが見つかったとしても、あなたたち二人の気持ちは何も変わらないでしょ?」

イエイヌは俯いたまま「はい」とだけ答えた。しばらくした後、リコは先にラボに戻っていった。一人ベンチに座るイエイヌは思った。誰かを愛しく思うということが、これほど切ないものなのかと。

心の内にしまいきれない思いを、イエイヌは満月に向かって高く放り投げた。

 

 

 

翌朝。

ラボで朝食を済ませた三人は、植物園を後にし、空中アスレチックのある場所まで移動していた。リコは空から地上を偵察し、安全なルートに二人を誘導しながら道案内する。しばらく歩くと、森の中に大きなログハウスの建物が見えてきた。リコは地上に降りてきて二人にこう言った。

「あそこがアスレチックの始まりの場所なの。後は、中に入れば解ると思う」

「博士、ここまで案内してくれて、本当にありがとうございました」

「ぼくからも、ありがとうございます」

友絵とイエイヌはリコに対して感謝の言葉を告げた。

「ふふ、二人とも元気でね。また植物園に寄った時は、旅の話を聞かせて欲しいの」

名残惜しそうに手を振りながら、友絵たちはログハウスの建物の中へと入っていった。リコはその様子を見送ると、一息ついてこう言った。

「……さてと、行きますか」

 

建物の中に入ると、アスレチックで使用するための様々な器具が置いてあった。その中にはパンフレットで見た安全ベルトとヘルメットも置いてあり、友絵たちはそれらを試行錯誤しながらなんとか装着する。

「よし装着完了っと。良かったね、ちょうどいいサイズのがあって」

「はい、ぼくの耳もちゃんとつぶれずに隠れてます」

イエイヌが被っているヘルメットは、イヌ耳をカバーできるようにてっぺんの部分がぴょこっと三角型に2本立っている。準備を終えてアトラクションに向かおうとした友絵は、あるものに気付いて手に取った。

「このホイッスルは、アトラクション中にトラブルが起こった時に係員に知らせるためのもの、だって。一応持っていこうかな」

友絵はホイッスルを首に提げると、イエイヌと共にアトラクションへと向かった。

第1のアトラクションはログハウスの建物と繋がっていて、そこは中身をくり貫かれた大きな樹の内部にあった。樹の内部の壁には、ロッククライミング用の足場や取っ掛かりが設置されていて、どうやらそれらを利用しながら樹の頂上を登っていくアトラクションのようだ。

「この壁のでこぼこを掴みながら登っていくみたいだね。よーし、頑張ろ、イエイヌちゃん」

「は、はい頑張ります」

やる気まんまんの友絵に対して、イエイヌは少し面食らったような表情で返した。二人は慎重に取っ掛かりを掴みながら樹の壁を登っていく。そうして、樹の頂上まで登りきり、外へと繋がる出入口をくぐり抜けると、そこには樹の周囲をドーナツ状に覆うように設置された広いスペースがあった。

「うわあ、イエイヌちゃん見て」

そのスペースからは地上10mの樹の上から俯瞰して森を見渡すことができる絶景の眺めが広がっていた。景色に興奮する友絵をよそに、イエイヌはさっきから頻りに尻尾を震わせている。

「どうしたのイエイヌちゃん?」

「え、あ、なんでもないです」

強張った笑顔で返すイエイヌに、友絵はイタズラっぽくこう言った。

「もしかして、高い所が怖いの?」

イエイヌはドキッとしつつこう答えた。

「だ、だだ大丈夫です!ちょっと慣れてないだけで、問題ありません」

友絵はクスッと笑ってこう言った。

「わかった。でも無理しないでね。ダメな時は、ほら、そこの滑り台から下に降りれるみたいだし」

友絵の言葉で少し気が楽になったイエイヌ。二人は次のアトラクションへと向かった。

「次は、ロープで吊られた木の橋を渡るアトラクション“ウッドブリッジ”だって」

案内板の文字を読み終えた友絵は、安全ベルトから伸びるカラビナをロープに引っ掛け、木の橋を一歩ずつ渡り始めた。イエイヌもその背中を追うように、慎重に渡り始める。橋の板と板の間隔は少し空いていて、その隙間から下を見ると、紅葉した地面が覗いている。

「下見ると、やっぱり結構高いんだね。ちょっと怖くなってきたかも。ね、イエイヌちゃん」

友絵が後ろを振り返ると、イエイヌは必死の形相で友絵を見つめ返してきた。

「無理です!下なんて見たら進めません」

改めて高さを実感した二人が、橋を進もうとした次の瞬間。

 

ビュウウウウウウウウウ

 

「きゃっ!」

「うわあああああ!」

強い風が後方から吹き付けてきた。

思わずたじろぐ友絵とイエイヌ。そして風と共に、陽気な声が二人の後ろから飛び込んできた。

「やっほーーーい」

風に乗って勢いよく滑空してきた声の主は、二人の前に着地するとこう言った。

「君たち見慣れない顔だねぇ。どっから来たの」

呆気にとられた友絵とイエイヌ。なんとか声を振り絞った友絵がこう返した。

「あ、あなたはフレンズさんですか?」

フレンズらしきその人物はこう答えた。

「そ、あたしはタイリクモモンガの“モモ”だよ、よろしくぅ」

 

 

 

茶褐色の髪の毛に黒くて大きいつぶらな瞳、丸くて小さい耳と身長の半分くらいある長い栗毛の尻尾が特徴的なタイリクモモンガのモモは、興味津々な表情で友絵たちに話し掛けてきた。木の橋を渡りきり、休憩地点まで来ると、友絵とイエイヌは自己紹介した。

「初めまして、友絵って言います」

「ぼくはイエイヌです。よろしく」

モモは友絵に近づき、じっくりとその姿を見回した後こう言った。

「きみって何のフレンズ?」

「あ、私はフレンズじゃなくてヒトです」

「ヒトって……あっ前に博士が本で見せてくれたやつか!へぇ~、ずいぶん変わった毛皮をしてるねぇ」

「モモさんこそ、大きくてもふもふな尻尾がとっても可愛いですね」

友絵にそう言われると、モモは誇らしげに尻尾を揺らしながらこう言った。

「ふっふーん、いいでしょ。この尻尾があれば、どんな高い樹に登っても落っこちたりしないんだよ」

イエイヌはモモの尻尾を見つめてこう呟いた。

「そうなんですか……羨ましいです、その尻尾」

言葉を交わす中で、友絵はこれまでの旅の経緯と、空中アスレチックに来た理由をモモに話した。するとモモは、目をキラキラさせて二人にこう言った。

「じゃあさじゃあさ、誰が一番早くゴールまで行けるか競争しよっ!」

「え、でも私たちそんなに早く行けないかも」

「急いで行ったら危ないですし」

「よーいどん!ひゃっほーーい」

二人の言葉を待たずして、モモは大きな飛膜を開いてジャンプすると、風に乗って先に行ってしまった。呆気にとられた友絵とイエイヌは、どんどん遠くなっていくモモの背中を追うように、次のアトラクションへと向かった。

「次は、滑車のついたロープの上をスライドしながら滑っていく“スカイグライダー”か。ついに来たね、私パンフレット見たときからずっとこれやりたかったんだ」

興奮する友絵の隣で、イエイヌはひたすら深呼吸を繰り返していた。待ちきれない友絵は、先に自分のカラビナを滑車に繋ぎ、イエイヌにこう言った。

「じゃあ先に行くね。せーのっ!」

 

シュウウウウウウウウウウウ

 

勢いをつけて滑車を滑ると、心地よい浮遊感と向かい風の感触が友絵をくすぐってきた。

「すっごーい!空を飛んでるみたい」

友絵は最初にモモが滑空してきた時のことを思い出していた。そして自分も今、あの時のモモと同じ感覚を味わっているんだと感じ、自然と笑顔が溢れてきた。

傾斜のあるロープをどんどん下っていくと、滑車は徐々にスピードを落としていき、友絵は無事に足場へと着地した。その様子を、向こうの足場から眺めていたイエイヌが、大きな声でこう叫んだ。

「大丈夫ですか!ともえちゃん」

友絵は心地よい脱力感の中、こう返した。

「大丈夫だよ!すっごく楽しかった」

ほっと胸を撫で下ろしたイエイヌは、滑車とカラビナを繋ぎ、深呼吸をした後勢いよくロープを滑っていった。

 

シュイイイイイイイイイイン

 

「うわあああああああああ」

勢いが良すぎたのか、イエイヌの滑車は想像を超えるような速さで滑り出していく。森の中にイエイヌの絶叫がこだました。

「はぁはぁはぁ……す、すみません」

友絵の手を借りて、なんとか足場に着地したイエイヌは、青ざめた表情でお礼の言葉を口にした。フラフラとした足取りで休憩地点に入ると、友絵はイエイヌにこんな言葉を投げ掛ける。

「あ~楽しかった。またやりたいねイエイヌちゃん!」

半泣きの表情でイエイヌはこう返した。

「……そ、そうですね」

 

少し休憩した後、二人は次のアトラクション“ログステップ”に挑戦していた。地面から突き出した丸太の足場の上を、ジャンプして飛び移りながら渡るアトラクションであり、隣の丸太に飛び移る際には安全ベルトのカラビナを別のロープに引っ掛け直す必要があった。

苦戦しながらも、友絵とイエイヌは丸太を飛び移っていく。そして、友絵が隣の丸太に移動するため、ロープからカラビナを外した瞬間。

「……あっ」

急に足下の丸太がぐらつき、体勢を崩した友絵は、足を滑らせて真っ逆さまに落っこちていった。

「ともえちゃああああああん!」

イエイヌが必死に手を伸ばすも、友絵の手を掴むことは出来なかった。絶望がイエイヌの心を支配していく。友絵の身体がゆっくりと遠くなっていった次の瞬間、突然現れた影が友絵の身体をキャッチし、フワリと浮かび上がって足場に友絵を下ろした。放心状態になっていたイエイヌは、心を落ち着かせた後、友絵を助けた人物に向かってこう言った。

「……ありがとうございます、リコ博士」

リコはやれやれという表情でこう応えた。

「やっぱり、こっそり付いていって正解だったの」

意識を取り戻した友絵も、リコにお礼の言葉を告げた。

「博士、助けてくれて本当にありがとうございます」

涙目になっている友絵に対して、リコはこう言った。

「無事で良かったの。何事もなければ隠れて観察するつもりだったけど、ゴールまでもう少しだから、リコが連れていってあげるね」

友絵の心を落ち着かせるため、休憩地点で休んでいた三人の元に、大慌てでモモが飛び込んできた。

「あ、モモ。久しぶりね、どうかしたの?」

リコがそう声をかけると、モモはこう返した。

「ひっさしぶり~、博士。あ、そうだ、みんな聞いて聞いて」

モモの話によると、ゴール地点の手前に大型のセルリアンがいるらしく、そいつが邪魔で最後のアトラクションを通ることができないという。事情を聞いたリコとイエイヌは、友絵を休憩地点に残し、セルリアンの偵察に向かった。

「これは……かなり大きいですね」

それはイエイヌが今まで見た中で最大の大きさだった。クモの巣状に張り巡らされたロープネットの中心に、緑色の大型セルリアンは触手を伸ばして貼り付いていた。ゴールはセルリアンのすぐ後ろ側にあるが、通ろうとすれば間違いなく攻撃されるだろう。

「ね、やばいでしょ。あたしもあんな大きいの初めて見るよ」

モモが大きな目を丸くさせながらそう言った。充分距離は取っているためセルリアンが襲ってくる様子はないが、時おり吹く風や近くを舞う木の葉の方向に、無機質で黒い目玉をギョロっと動かしている。

「どうにかして石を狙いたいところだけど、たぶん背中にあるからセルリアンの背後を取らないと難しいの」

「どうしよう、あんなのがいるんじゃもうここで遊べなくなっちゃうよ」

「なんとかしないと……」

考え込む三人の元に、友絵が姿を現してこう言った。

「あのセルリアン、皆で協力して倒せないかな?」

イエイヌは声を荒げてこう言った。

「どうしてここに来たんですか!」

その瞬間、風に舞っていた木の葉を追っていた大型セルリアンの目玉は、イエイヌの方向をキッと見据えだした。その様子を観察していた友絵は、少し考えた後三人にこう言った。

「あの、ちょっと作戦を思いつきました」

 

風に乗りながら、モモはセルリアンの周囲をぐるりと旋回し、大声でこう叫んだ。

「おーい!こっちこっち」

セルリアンは大きな目玉でモモのことを捕捉すると、触手を伸ばして攻撃してきた。モモは軽々とした身のこなしでそれを回避しながら、樹の影に隠れる。そしてまた、風にのって次の樹の影へと飛び移っていく。セルリアンがモモに気をとられている隙を見計らって、イエイヌを連れたリコがゆっくりとその背後へと忍び寄っていく。その様子を、アトラクションのネットの上から友絵が見守っていた。

 

「よーどー作戦?」

モモが頭にはてなマークを浮かべながら友絵に聞き返す。

「はい、できるだけ離れたところからモモさんは大きな声でセルリアンの気を引きつけてください。その隙に、博士がイエイヌちゃんをセルリアンの石が見える位置まで運んでやっつける、っていう作戦なんですけど」

リコは説明を聞いた後、友絵にこう質問した。

「モモが陽動役だとしても、セルリアンが近づいてきたリコやイエイヌの方を狙ってきたらどうするの?」

質問に対して友絵はこう答えた。

「あのセルリアン、自分の近くにある木の葉を目で追っていたのに、イエイヌちゃんが大きい声を出した途端、そっちの方を向いたんです。だから、近くの物より大きい音の方を優先して追いかけてくるんじゃないかな、と思って」

「なるほど、セルリアンの生態をそこまで観察できるなんて……わかった、リコもその作戦に協力するの」

納得したリコに対して、説明されてもいまいちピンとこないモモはこう言った。

「つまり、あたしがやっほーいってセルリアンの周りを飛んでる間にイエイヌが石をパッカアンってことね。うん、オッケー!」

友絵は少し心配そうな表情でこう言った。

「ま、まあそんな感じかな。でも、あまりセルリアンに近付きすぎないようにしてくださいね」

作戦が決まった後、イエイヌは念を押すように友絵にこう訊いた。

「ともえちゃんは、危険なことしませんよね?」

友絵は一言、こう答えた。

「……うん、わかってる」

 

「ほらほらっ、こっちだよ」

モモはセルリアンの気を引ける距離を保ちながら、周囲を飛び回っていく。機を窺っていたリコたちは、ついにその石を捉えることができる位置に到達した。意を決してリコがイエイヌを投下しようとしたその時。

 

ビュウウウウウウウウウウウ

 

突風が吹きすさび、リコの身体は石から逸れた位置に押し流されてしまった。しかも、突風の影響でバランスを崩したモモが、セルリアンの近くに着地してしまう。セルリアンに捕捉されたモモ、絶対絶命のピンチの中、森に大きな音が響き渡った。

 

ピィィィィィィィィィィィィィ

 

それは、友絵がスタート地点から持ってきていたホイッスルの音だった。その音に反応したセルリアンは、ターゲットを切り替え、友絵めがけて緑色の触手を伸ばして攻撃してきた。

 

パッカアアアアアアアアアン

 

間一髪。イエイヌの爪がセルリアンの石を砕き、大きな花火を上げながらその破片がバラバラに砕け散って消滅した。

セルリアンを倒したイエイヌは、すぐさま友絵の元に駆けつけ、勢いよく抱きついてこう言った。

「どうして、どうしてあんなことを」

友絵はイエイヌの耳にそっと口を近付けてこう言った。

「……信じてたから」

 

最後のアトラクションを渡りきり、ゴール地点に到着した友絵たちは、ログハウスの建物の中にある休憩所でさっきのセルリアン討伐を振り返っていた。

「いやぁ、あの時は本当にダメかと思ったけど、助かったよ。ありがとね、ともえ」

「うん、私の作戦で犠牲者を出さなくて本当に良かった。モモさん、博士、協力してくれて本当にありがとうございました」

「まったく、友絵は本当に危なっかしいんだから。でも、セルリアンを倒せたのは友絵のお陰なの」

「そうそう、それにあたしのことはモモって呼んでよ。もう友達同士なんだから、ね」

照れくさそうに友絵はこう応えた。

「うんそうだね、モモ」

三人の会話をじっと黙って聞いていたイエイヌの方を向いて、友絵はこう言った。

「いつも心配かけてごめんね」

イエイヌは穏やかな表情でこう応えた。

「あんまり心配させるようなことすると、もう絶対傍から離れてあげませんから」

二人は顔を見合わせて笑った。

 

「これ、良かったらどうぞ」

森の外れまで見送りに来てくれたリコとモモに対して、友絵は一枚の絵を手渡した。そこには、紅葉した森の木々を背景に、アスレチックのスライダーを滑る友絵とイエイヌ、そして風に乗って滑空するモモと空を飛ぶリコが描かれていた。

「わぁ、なにこれスッゴい!ともえってこんなものまで作れちゃうの?」

自分が描かれた絵を見てはしゃぐモモ。

「友絵の描いた絵……これが、ヒトの力というものね。ふふ、やっぱりヒトって面白いの」

しみじみと、絵を鑑賞するリコ。

「二人に出会えた思い出と、アスレチックで遊んだ体験を描いてみたんだ。だから二人に受け取って欲しくて」

「もっちろん、受けとる受けとるぅ。あ、でも博士と半分こだからこの絵も半分に……」

「ちょっとモモ、破いたらダメなの!この絵は大切な思い出なんだから」

スケッチブックの絵を破こうとするモモを慌ててリコが制止する。二人で話し合った結果、その絵は植物園に飾っておくことに決まった。

「それじゃあ私たち行きますね」

「お世話になりました。ではまた」

名残惜しそうに、二人に別れの言葉を告げる友絵とイエイヌ。

「ばいばーいともえ、イエイヌ。また遊ぼうね」

「気を付けてね。いつでも植物園で待ってるの」

森を抜けて遠ざかる二人の姿を見送るリコとモモ。

木の葉の舞う静かな森に、風の音だけがこだましていくのだった。

 

≫つづく。

 

次回「やくそくの港」

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