雪風の少女と北の島国   作:志真 文

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第1話 こうして少年は少女と出会った

「…何これ」

 

 アイスランド共和国――アイスランドは、目の前に突然現れたものを、呆然と見つめた。

 場所は世界会議の会場の廊下。

 先程うっかり会議で必要な書類をホテルに忘れたことに気付き、一緒に会議室へ向かっていた仲間たちと別れて引き返して、もう一度この廊下を歩いていて。

 ああもう始まってるんだろうな、と考え、憂鬱になりながらも足早に会議室へ向かっている最中に。

 

 ――このよく分からないものが、進路を遮るように現れたのだった。

 

 発光している、鏡……のようなもの。

 大体ニメートルくらいの高さの楕円形で、厚みはない。よく見れば僅かに地面から浮いている。

 突然現れたことといい、宙に浮かんでることといい、怪しいことこの上ない。

 放っておきたい所だが、こんな不気味なものをそのままにしていくのも躊躇われた。危険物なのかもしれないし。

 

「とりあえず…写メっとこ」

 

 ひとまず落ち着くためにも、状況保存だ。

 ジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出して、撮影。

 カシャリ、という軽快な音が、この奇怪な状況と相まって、やけにシュールに聞こえた。

 撮影した画像を保存しながら、アイスランドは目の前の鏡(?)を観察してみる。

 

「なんだろ、これ…。ノーレなら分かるかな?」

 

 トロールとか妖精とか、目に見えないものとよく戯れている兄を思い出す。

 傍にいれば相談できるのだが、今頃彼は会議室の椅子に座っているだろうし、そもそもこの廊下には自分以外誰もいない。

 なんとなく、撮影しただけで終わらせるのもどうかと思うので、アイスランドはさらに検証してみることにした。

 ポケットを漁り、くしゃくしゃに丸められた用済みのメモ用紙を取り出して、放り投げる。

 

 緩やかな放物線を描いたそれは、跳ね返ると思いきや、

 

 ――吸い込まれ、消えた。

 

 貫通して反対側に落ちたわけじゃない。

 消えて無くなった。

 

「なにこれ意味わかんない」

 

 とんだ危険物である。

 少なくとも、人がくぐってはいけない物のようだ。

 投げ入れたメモ用紙は消滅したのか、それともどこかへ行ったのか。 

 それは分からないが、触れないほうがよさそうだ。

 さっさと会議室に行って、これをどうにかしてくれそうな人たちに任せよう。

 そう判断して、アイスランドは鏡(?)の横を通り過ぎようとした。

 

 しかし、踏み出した足は――得体の知れない、柔らかいものを踏みつけた。

 

 同時、

 

「Ouch!」

 

 甲高い声が、足下から聞こえた。

 

「え?」

 

 ぐらり、と傾いた視界の端に掠めたのは、白いもの。

 ぽよんと跳ねたそれには、まるで子供の落書きのような、とある大国の顔にどことなく似ている顔があった。

 確か、そう――最近北欧に入りたがっているメガネが飼っている、謎の生物。

 なぜ、いつの間にここに、などと考える暇さえない。

 

「ちょっ、うわっ…!?」

 

 修正不可能なほどバランスの崩れた体が向かう先は、あの鏡(?)。

 

「嘘!?」

 

 咄嗟に突き出した腕は――当然、鏡(?)に飲み込まれる。

 そのまま、飛び込むようにそれをくぐることになった。

 

「――――っ」

 

 覚悟して身を固くしたが、触れたからといって、特に痛みも熱もない。

 そして何の抵抗すらもなく、アイスランドはそのまま派手に倒れ込んだ。

 

「っ、いった……」

 

 アイスランドは全身を強かに打ち付け、痛みに呻いた。

 変に力んでいたせいか、受け身も取れず、手や膝さえ突くこともできなかった結果である。

 

 ……あのメガネ割る。フィンが止めても割ってやる。

 

 身を起こしながら、八つ当たり気味に誓う。

 そして手をついて、目に入ってきたものに、息を呑んだ。

 

 ――地面だ。

 

 恐らく、草原。

 会議場の赤い絨毯じゃない。

 土と草の臭いが、これが幻ではないことを訴えかけてくる。

 会議場の中では吹かない、自然の風が髪を撫でていく。

 いつの間に外に――いいや、ありえない。自分はただ、あの不気味な生き物を踏んづけて転んだだけだ。

 転んだだけだったのに、なんで、こんなところに。

 混乱する頭を振って、無理矢理落ち着く。

 ここで取り乱したって、どうにもならない。

 

「な、なに……」

 

 とにかく、状況を把握しなければ。

 そう自分に言い聞かせながら、顔を上げた先に――

 

「……」

 

 少女がいた。

 

 年頃は、十代前半くらいだろうか。

 小柄で華奢な体躯に、シャツとプリーツスカートと白いタイツを纏い、その上に何故か黒いマントを羽織った少女。

 手に持った彼女の身の丈よりも大きい杖もあって、まるでおとぎ話の魔女のような出で立ちだ。

 ショートボブの髪は、染めたにしてはやけに自然な青。

 細くて赤いフレームの眼鏡の向こうの瞳も、同じく青だ。

 背景が抜けるような青空なだけに、まるでそのまま空に溶けてしまいそうな、儚げな雰囲気を纏っている。

 どこか気品を感じさせる、幼く可愛らしい顔には、一切表情が浮かんでいない。

 良くも悪くも精巧な人形のようなその少女は、ただじっと無表情でアイスランドを見下ろしている。

 

「……誰?」

 

 もちろん、初対面だ。

 アイスランドの問いに、透明過ぎて感情の読めない瞳でアイスランドをじっと見返して、少女はただ一言、

 

「タバサ」

 

 と名乗った。

 

 

 




どちらかの作品知らない人向け、ざっとした主人公紹介


タバサ

 トリステイン魔法学院の生徒。15歳。
 風系統の魔法を操る凄腕のメイジ(魔法使い)。
 いつも無口で無表情。
 辛い過去を背負い、復讐のため戦う。


アイスランド

 北欧にある島国。外見年齢は16かそこらだが、実年齢は1100歳越えてる。
 ノルウェーの実の弟で、北欧諸国の中では末っ子ポジション。
 大人びているようで、子供っぽい面もある。
 時々旅行会社の北欧ツアーから除外されるのが悩み。
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