タイトルは仮のものです。
いいのが思いついたら変更します。
とりあえず移動しましょ、というキュルケの言葉に従い、三人と一匹は歩き出した。
向かう先は、あの大きな建物だ。
どうやらあそこが『トリステイン魔法学院』とやららしい。
「『フライ』で飛んで行った方が早いけど、私のサラマンダーとアイス君も一緒だものね。さすがに抱えて飛べないわ」
いつの間にやら、キュルケはアイスランドを愛称で呼んでいた。
それは別に構わないのだが。
「飛ぶ…って、空を? さっき飛んで行った子みたいに?」
先程、猫を抱えて飛んで行った少年を思い出す。
あれは『フライ』と呼ぶ魔法(?)らしい。
そのことを、自分の知識の中に書き足しておく。
「そりゃあ、メイジは飛ぶものだもの」
ごく当然のことのように、キュルケは言う。
どうやら、メイジとはここでは当たり前で、重要なものらしい。
「メイジ、って何」
気になる単語が出てきたので、アイスランドは尋ねてみた。
語感から、なんとなく魔法使いのようなものなのだろうと推測は出来るが、自分の持つイメージと『メイジ』が、同じものであるかは分からない。
だからこその質問だったのだが、キュルケはもちろん、今まで表情を動かさなかったタバサまでもが、驚いた顔でアイスランドを凝視した。
「メイジを、知らない?」
「ちょっとアイスくん、あなた何処から来たの?」
二人の反応は、アイスランドにとっては久々のことだった。
少し身体が成長して、兄に連れられ大陸へと足を向けるようになった頃に、向けられた周囲からの反応。
みんな知っていて当然のことを知らない、世間知らずを見る目。
「何? そんなにいっぱいいるの?」
アイスランドにとっての『魔法使い』のイメージとは、数が少なく表舞台には出ない魔法を使える人間、というものだが、ここでは違うのだろうか?
しかし返ってきた答えは、彼の予想の斜め上を行っていた。
「いっぱいも何も…。メイジは貴族と同義よ。王族だってもちろんメイジ、平民だって貴族の魔法の恩恵を受けているのよ。それなのに知らないなんて…。あなた、辺境の山奥にでも住んでいたの?」
「貴族…」
生まれてから今まで、貴族という社会階級が存在しなかったアイスランドには、いまいちピンとこなかったが、この世界において『魔法』というものが、社会的強者の重要なステータスとなっていることは理解できた。
「自分のことは後で話す。……僕も、君たちに聞きたいことが沢山あるし」
この世界のこと。
この国のこと。
メイジのこと。
タバサとキュルケのこと。
この場所のこと。
――そして何より、帰る方法。
アイスランドは、国だ。
国としては若輩者にカテゴライズされ、外見も少年の姿だが――それでも、国として生まれた責任がある。
帰れないなんて、言わせない。信じない。
だって、何よりも大切な国民たちや兄たちが待っているのだから。
「…そう。じゃあ、行き先を変更してタバサの部屋に行きましょ」
僅かに重くなった空気を打ち消すためか、キュルケが明るい声を上げた。
「サボるの?」
「いいじゃない、行かなくても平気よ。使い魔とのコミュニケーションの取り方とか心構えとか、人を召喚したタバサには必要ないでしょ?」
会話が出来るんだもの、とキュルケは茶目っ気たっぷりに言った。
タバサは堂々とサボリを宣言するキュルケに、無表情ながらどこか呆れたような視線を送ったが、やがて諦めたように頷く。
「じゃあ、さっさと――」
立ち止まっていた二人に痺れを切らして、アイスランドが二人を促そうとした、その時。
ド――ン!!
背後から響く盛大な爆発音が、辺りの空気を振るわせた。
「うわっ!? ……え、何?」
慌ててアイスランドが振り返ると、自分達のいた輪の中央で、大量の砂煙が上がっていた。
大勢の人間の声が聞こえるが、何を言っているのかは、ここからでは聞き取れない。
笑い声が大半を占めているので、深刻な状況ではなさそうだが……。
「ああ、もうルイズの番なのね」
大したことじゃないと言わんばかりに、キュルケが軽く肩を竦めた。
「いつものこと」
タバサも、眉一つ動かさないまま、淡々とそれだけを言った。
そんな二人の様子に、アイスランドはますます困惑する。
「いつものことって……、大丈夫なの? 結構大きな爆…」
言い終わらない内に、再び爆発。
声をかき消すその大音量に、思わずアイスランドは肩を竦ませる。
「他のみんなと同じように見学したい所だけど、長くなりそうだし、明日の楽しみにとっておきましょ。それじゃ、改めて出発~」
どこか面白そうに爆心地を一瞥すると、キュルケは楽しそうに二人を先導して歩き始めた。
その間にも、爆発音。
「……いいの?」
「いいの」
改めて隣のタバサに確認してみれば、短い答えが返ってきただけだった。
この世界は、思った以上に物騒なのかもしれない。
未知のこの世界に、漠然とした不安を感じたアイスランドであった。
その謎の爆発はしばらくの間止むことはなく、ようやく聞こえなくなったのは、三人が校舎に辿り着いた頃だった。