反応がした。が、遅い。激しい爆発音と共に二人が覗く窓を破壊する。
「うわあぁぁぁぁぁ!!」
少年の情けない叫び声が聞こえる。サーヴァントは少年を小脇に抱え、ランサーの槍を剣で受け流す。
サーヴァントのステータスを確認する。そして剣を扱うサーヴァントといえば最優のクラス、セイバーだろう。
片手で大剣を扱い、6m以上あるランサーの長槍と存分にやり合っている。
「せせせせせせ、セイバー!!!撤退!撤退しよう」
どうやらセイバーのマスターは相当の弱腰らしい。であるならば、チャンスだ。
「ランサー、そのまま押し通しなさい」
「応!はあぁぁぁぁ……!!!」
ランサーは声を張り上げ、長槍を思い切り振り勢いをつけてセイバー目掛けて薙ぎ払う。
セイバーは少年を投げ飛ばし、それを全身で受け止める。
「ぐふッ……!」
セイバーはうめき声をあげ、倒れそうになるのを大剣で支えた。
「撤退だって。撤退しろよ、セイバー」
泣きそうな声で少年はセイバーに懇願する。
セイバーはここで退くことはできない、とでも言わんばかりの眼差しでランサーと対峙する。
いいだろう。私としてもここで一人脱落させるのもやぶさかではない。
「ランサー、宝具の使用を許可する。ケリをつけなさい」
「御意!!」
しかし、銃声と共にセイバーのマスターの足元に着弾したことによって、それは防がれた。魔術師あろう者が銃を使うとは思えなかった。まぁ魔術使いであるならば、別ではあるが。
可能性があるならば、アーチャーのサーヴァント。近代兵器を使うアーチャーならばいてもおかしくはないだろう。
一発目は脅しか、それとも自分も見ているのだぞというアピールか。続いて発射された二発目の銃弾にその回答はされる。
それは確実にセイバーのマスターの頭を狙ったものだった。もちろん、セイバーはそれを防ぎ
「出てきなさい!我がマスターを遠距離から狙おうとは腰抜けにもほどがある!」
思い切り左手でマスターの頭を押さえつけ、自らは剣を構えて周りを見渡す。その声に誰も反応を示さず、静寂が訪れる。
そこで姿を見せぬまま、セイバーのマスターに向かって正体不明の声は発した。
「私から聖遺物を盗み出し、聖杯戦争に参加している気分はどうだ?」
魔術による遠隔地からの対話。優秀な魔術師であればあるほど、携帯電話を所持しない。
『そういったものに頼るのは実力のない未熟な魔術師であると公言しているのようなもの』だと軽んじているからだ。
しかし、ある魔術師の言うところなれば『外付けの端末で用が足りるのなら、その分の回路を違う用途に回せる。今まであった機能を捨てる代わりに新しい
「と、父さん……」
「やはりお前如きでも最優と呼ばれたセイバークラスならば扱いに困らないのだな」
「今の襲撃はあなたの仕業ですか。我がマスターの父君」
セイバーのマスターの父親はくつくつと笑うと
「左様よ。セイバー。私のアーチャーの銃弾を防ぐとはさすがよな」
ひどく低い、でもよく通る声だった。
「やはりあれは近代兵器……。アーチャーの攻撃でしたか。しかしながら、そのような遠距離から自らの息子を狙うは許しがたい行為であります」
「初めからそいつには何一つ、期待なぞしておらんわ。そうさなぁ……そいつの妹の方が魔術師としては優秀なのだからな」
その言葉に少年は肩を震わせ、瞳に涙を浮かべ唇を噛み締めていたていた。彼が言ったことは事実なのだろう。事実だからこそ、少年も悔しいのだろう。
「聞こえておるか!アーチャーの
セイバーと我、ランサーとの戦いに手を出すとは言語道断!お主らがセイバーに手を出すというのであれば、我はセイバーに手を貸すとするが?」
「……!」
突然のことで絶句する。開いた口が塞がらないとはこの事だと実感する。ありえない。信じられない。考えられない。どうしてあなたが口を挟むというの……!
ランサーを止めようとセイバーたちの元へ私は不用意に近づいてしまう。
「やはり対峙していたは、サーヴァントであったか。
……よいだろう。ランサー、そしてそのマスターよ。お前たちの実力が確かならば、ここでセイバーを討つがいい。私たちはその戦いには手を出さない。約束しよう」
「相、分かった!」
アーチャーのマスターの言葉にランサーは応え、戦闘を続行しようと長槍を構えた。
「待ちなさい!」
好き勝手しようとするランサーを止める。
「何故止める?
「セイバーとの戦闘中に手を出される可能性だってあるし、仮に戦闘に手を出さなかったとしても戦闘後に私たちが討たれることだってあるわ。
残念ですが、ここは私たちは退かせて頂きます。
セイバーのマスターの頭を撃ち抜くことのできたアーチャーの目ならば私を討つことだって可能でしょう。その時は決死の覚悟でその引き金を引かせなさい!」
彼の父親はまた、くつくつと笑い
「良いだろう。小娘と思って侮っていたが、なんとも面白き娘ではないか。私がもう少し若ければ、側室にでも貰ってやっても良かったかな、美作の次期当主よ」
男のふざけた言葉は、最後に言った言葉で打ち消された。どこで私が美作の人間だと言った……?
「どうした?随分と困惑しておるようだが、お主も知っておろう?私は〝ジャレッド・ブルーム〟である」
では、彼が、この男が、こいつが、二十歳にして
私は動揺を隠しながら言った。
「お言葉ですがブルーム卿、私はあくまでも当主候補。まだ決定したわけではありませんので……」
「くっくっくっ。遠慮か謙遜か、はたまた己の自信のなさか……。
なんにせよ、お主の実力は時計塔の連中も認めておろうに」
そんなこと言われても私はそんな器でもなければ、実力も伴っていない。一体、どこの誰が吹聴したかは知らないが、やめていただきたいものだ。
「……るな。……るなよ」
「ほう?何かほざいたか?出来損ない」
自らの息子をこう呼ぶジャレッドは本当に
「……するんじゃない。……しるな。僕を無視するな!僕は
ああ、彼は父親に認めてもらいたいのだろう。なるほどな、その気持ちは分からなくもないが、私は
それにブルーム家は今でも根源を目指し求めている家系として有名だ。
魔術なんてものは神代から現代まで衰え続けているものでしかないのだから、現代の魔術師のほとんどが根元を目指しつつも、
父は根源を求め、子は父を超えることを求める。その時点で実力はともかく、結果はだいたい見えている。目指す場所が違うのだ。それも大きすぎるほどの差がある場所。それに気づかぬ限り———彼に本当に実力があり、父がそれに気づかなかった場合を除き———ジェレミーの負けは目に見えている。
ブルーム卿もそれがわかっていたからだろう、再びくつくつ笑い
「ほう、言ったな。言いよったな。その言葉忘れるでないぞ。楽しみにしておるぞ……
そう言って声の主の気配は消えた。
「お姉さん、僕は超える。父を超える。だから……あなたにはここは見逃してほしい……。お願いします」
頭を垂れる少年の肩は震えていた。ああ、悔しかったろう。悲しかったろう。辛かったろう。私も今の流れから戦闘をする気は起きない。その辺り、私は甘い
「ええ。もちろん、いいわよ。あなたが父を超えることができた時、また逢いましょう?」
その言葉は本心だった。彼には超えることが難しいとわかっていた、わかっていたけれど、私は期待せずにはいられなかった。
見てみたい。そう思った。そう思ってしまった。