遠くの方で銃声が聞こえた。妾のマスターも反応したが、日本で感染した眼内炎———めばちこといったか———が急に痛みを発したせいかその場にとどまることになった。
「これ、マスター。そのように目を抑えると悪化するぞ」
「ああ、わかっている。でも、痛つ……」
やれやれ……。妾のマスターは、なんともまぁ情けない男じゃな。
さて、妾たちは拠点しとておった場所———宝蔵寺から何気なく八坂神社へと向かおうとしておった時に銃声が鳴り響いた。マスターのめばちこの悪化共に引き返すことになったのは言うまでもない。
「銃声で悪化したわけではあるよな?」
「はは、まさか。そんな、いや、多分……ないだろう……?」
歯切れが悪そうにマスターはつぶやいた。
この男、何を隠しておる。まぁ妾にはマスターが何を隠していようがいまいが関係はあるまい。
今はそれよりも、だ。妾のマスターを付け狙う者どもを排除せねばならぬ。
「そこの者、出て参れ。アサシンでもない者がコソコソするでない」
妾たちがこの寺を出て行ったと同時に来たのであろう。そうでなければ、妾が気づかぬわけがない。
「ほう!このワシらに気づくか!見事よ!実に見事!」
「あ!ちょ、ちょっと!勝手に出ていかないでよ!全く、こいつは……」
年老いた大男、そして気強そうな娘の二人組。
「アサシン、気をつけろ。あの二人組、全く正体がわからない」
「わからないとはなんじゃ?」
「わかるだろう?二人のどちらからもサーヴァント反応がないんだよ」
左様か、左様か。で、あるならば聞くまでよ。
「お主ら、何者じゃ」
大男はカッカッカッと笑うと
「何者、か。ワシは————」
「あーっ!あーっ!あーっ!あーっ!!!
なななななな、なに言い出してんの!?あんたは!!」
妾の問いに答えようとした大男の言葉を娘が遮る。なんじゃ、面白みのない。
慌てた様子を見せた娘は“オホン”と咳払いをすると真剣な顔つきに戻すと
「そうよ、アタシたちはこの聖杯戦争の関係者よ。こいつは言おうとしたみたいだけれど、詳しいことは言えないわ。
それで?アサシンクラスの楊貴妃様とそのマスターはアタシたちと争う?それとも協力する?」
妾はマスターと目を合わせる。なんじゃと———?。この娘、何故妾の真名に気づいた———。
「驚いているようだけど、あなたたちだけじゃないわよ。この戦争に参加している全てのサーヴァントの真名は私には分かるのよ」
「おい、娘。お主の方こそ口が軽くはないか?」
「いいのよ!!アサシンたちがアタシたちに協力しないというならここで潰すのみ。だったらアタシたちに有利な状況は変わらない。でしょう?」
二人が言い合っている内に妾たちは結論を急いだ。
「いいんだな?アサシン」
「妾の真名が明かされた今、協力しない手はないだろう。どちらにせよ、一生隠し通せるものでもないわ。それに他のサーヴァントの真名もわかれば、妾たちにも有利であろう?」
マスターは頷くと
「よし、あんたたちに協力しよう」
「ふーん、わかったわ。あなたたちの賢明な判断に敬意を表するわ。
なんなら
「ハハッ。そこまでしてしまうとアサシンの我々があんたたちを暗殺できなくなってしまう。それはご遠慮頂こう……。
なんて、
「そう……わかったわ」
結論ついたようじゃな。さてと。妾はわざとらしい咳払いをし、その場の空気を一度整え
「お主たち、何者じゃ?妾たちと協力関係にあるならば、その正体を明かしてもらわねばな」
此奴らに邪魔されぬようマスターの前に立ち、二人に問う。
「カッカッカッ!!聞いて
「黙りなさい。アサシン、残念だけれどそれは言えない。私に言えるのは私はマスターでこいつは正規のサーヴァントではないということよ。聡明なあなたならば分かるでしょう?」
「ふむ、承知した。妾はこれ以上、お主たちに問うことはせぬ。マスターはどうじゃ?」
「ああ、大丈夫だ。俺は西門類。よろしく」
「アタシはギネヴィア。セレナ家第5代当主ギネヴィア・セレナよ」