「マスター、よろしいのですか?」
「なにがだ?アーチャー」
狙撃銃を携えた若い女の問いかけに初老の男、ジャレッド・ブルームは睨みつけた。その様子に怯むことなく、女は答えた。
「御子息のことです」
「よい。それよりも、だ。あの娘、なかなか面白いではないか」
出来損ないの息子のことなど眼中になく、彼の目下の標的は美作の次期当主だった。
美作琴音の父である美作家・現当主、美作
それよりも彼の娘の名が広まるばかりだった。噂されるは、彼女の圧倒される数と非常に細かく美しい魔術回路、希少属性——ノウブルと称される——風。さらに魔眼さえ持つとまで言われている。時計塔でも彼女の話題で持ちきりだった。あの美作泰造の娘が非常に優れた魔術師だ、と。それと比例するかのように泰造は時計塔からも姿を消した。そして、彼自身の話題はぴたりと止まった。止まってしまった。
そんな時だった。彼が冬木の聖杯戦争に参加する噂を聞いたのは。第五次聖杯戦争よりもそれほど時間が経たずしての開催——冬木の聖杯戦争はおおよそ60年周期で行われていた——。その噂を聞き、すぐさまジャレッドも準備に取り掛かったが、準備が完了した頃には
泰造と再び相見えるチャンスを目前で取り消されたジャレッドは現代魔術科のエルメロイを強く憎んだ。だがすぐにそんなことはどうでもよかった。根源へ至る方法が彼の手元に届いたからだった。
数ヶ月前、ジャレッド・ブルームの元に聖杯戦争開催を報せる手紙が届いた。手紙の内容は聖杯戦争の場所と日時。そして、彼のサーヴァントとなる英霊の聖遺物が同封されていた。不審に思いながらも、まさか自分が、自らの手で、一族の悲願である根元に至ることが出来るのであれば泰造との対決など、どうでもよかった。どうでもよくなった。
しかし、そこで思わぬ邪魔が入った。彼の工房に何者かが侵入し、聖遺物が盗まれたのだ。彼も色位に授けられた魔術師である。そんな彼の魔術工房に形跡もなく侵入できる人物は、息子のジェレミー以外考えられなかった。急ぎ彼は時計塔のコネを使い、今のサーヴァントであるアーチャーの聖遺物を手に入れ召喚し、姿を消した息子と彼の
インランドエリアに着くと彼はアーチャーの持つクラススキル、千里眼を活かすために、自らの地脈としても相性のいい山頂に工房を作った。そこから京都——名目上こう表記する——を一望した。
彼にとって好都合だったのは、
スコットランドの英雄『ウィリアム・ウォレス』イングランドからのスコットランド支配に対して、抵抗をし続けたスコットランドの愛国者であり騎士。
彼の一生は実に壮絶なものであった。
一時期はスターリング・ブリッジの戦いにて戦果を上げ、「スコットランド守護官」に任命され「サー・ウィリアム・ウォレス」と呼ばれるようになる。
しかし、彼の栄光も長くは続かなかった。貴族階級からの軽蔑や味方からの援護もなく、フォルカークの戦いの大敗によりその職を辞することになる。
その後も彼は懸命にイングランドに抵抗を続けたが、かつての部下や仲間たちに裏切られ、捕縛されてしまう。彼はイングランド国王に対する重大な背信行為、大反罪で罪を問われたが「私はイングランド王に忠誠を誓ったことはなく、彼の臣民ではないので大逆罪など犯していない」と裁判で主張した。
しかし有罪になり、ウォレスの処刑は決まった。それは残虐なものであった。処刑地までの8キロの道を引きづられる。引きづられながら石などを投げられる。処刑地では首吊り、内臓抉り、四つ裂きという形で処刑される。挙句、ウォレスの首はロンドン橋で串刺しとなり、4つに引き裂かれた胴体はイングランドとスコットランドの4箇所で晒し物にされた。
彼の死をもってイングランドはスコットランドの抵抗を恐怖で鎮圧させるつもりであったが、逆にスコットランド国民を立ち上がらせ、イングランドから支配を崩壊させた。
ウィリアム・ウォレスは英雄として死んだのではなく、死んでから人々を鼓舞させた英雄となったのだ。
真名とは召喚された者の本名、いわば正体。これは秘匿されなければならなく、相手に正体が知られる。すなわちそれは、英霊の残した伝説・伝承が知られるということであり、弱点につながる情報をさらすことにもなってしまうのである。
ジャレッドはセイバーの正体に気づくと、くつくつと笑い
「行くぞ、アーチャー。これからが本当の開戦だ」
そう呟き下山を始めた。アーチャーはこくりと頷くと霊体化して姿を消した。