彼女はよくいる一介の時計塔所属の魔術師だった。いや、〝だった〟はおかしい。現状そうなのだから時計塔所属の魔術師だ。
ほんの半年前に父親から魔術刻印を引き継いだばかりで7代目当主に成り立てだった。
そんな彼女は時計塔の降霊科の講義を受けるために教室に向かっていた。
時計塔の生徒と言っても様々だ。中には授業を受けたくない生徒もいるのだ。
そういった生徒らは口々にめんどくさいだの、受けたくないだの、と廊下で話す。
「くだらない。受けたくなければ、受けなければいいのよ。その間に私はもっと上に行く」
そう呟くと先ほどよりも歩くスピードを速め教室に向かった。
真面目に講義を受ける彼女の後ろで不真面目な女生徒二人。彼女らがコソコソと会話しているのが耳に入る。無視しようとするが耳元で飛ぶ羽虫のように彼女の耳に問答無用で入ってくる。
「聞いた?聖杯戦争の噂」
「なによ、それ」
「どうも近々開催されるみたいなのよ」
「あれ?でも聖杯って近代魔術科のロードの手によって破壊されたんじゃ……?」
「さあ?私は知らないわよ。ただ聞いただけだもの。噂よ、噂」
「ふーん……。ま、私たちには関係ないわよ」
「でもさ、少し面白そうじゃない?」
そこで講師が睨みつけたので、残念ながら二人の会話は終了した。それきり聖杯戦争の話題は二人から出ることはなかった。
講義終了後、彼女は図書館で聖杯戦争について調べ始めた。
「なるほど……ね。面白そうじゃない」
彼女はその噂の出所や開催場所を自分ができうる限り調べた。
いつものほんの興味だけだったのが、好奇心に代わり、しだいに参加したいという欲求に変わっていった。
しかし、彼女には問題があった。サーヴァントを召喚するための触媒となる聖遺物だ。
彼女は自分が出来うるありとあらゆる方法を模索し、どのような手段も選ばなかった。
その結果だ。彼女は聖遺物を手に入れることに成功し、噂の聖杯戦争の開催地に向かった。
そこからは簡単だった。彼女は書物で読んだ暗記した方法でサーヴァントの召喚を試みた。
その結果……
「サーヴァント、キャスター……あれ?違う?私は誰?」
ここまでが僕のマスターが僕を召喚するに至った経緯の物語。
そしてここからがサーヴァントである僕と彼女の物語なわけだ。
【序章・魔術師】【序章・復讐者】
「は?あんた、誰よ」
彼女が用意した触媒は、かの有名な劇作家ウィリアム・シェイクスピアのハムレットの手書き原稿のよくわからない場面の一枚だった。
それで召喚されるサーヴァントはもちろんウィリアム・シェイクスピアだ。
いや、そのはずだった。ただ、彼女の目の前に現れた僕はシェイクスピアではなく、王族だった。
「いやはや、なるほどなるほど。理解した」
「私はあんたのマスターよ。あんたのクラスと真名を教えなさい」
「これは、これはマスター。失礼致しました。
クラスは復讐者——アベンジャー。
どうやらマスターが用意したこの聖遺物はかの憎きシェイクスピアのハムレットの失われし手書きの原稿のよう……。
そして私はハムレットのモデルとなったデンマーク国王子アムレート。
此度の聖杯戦争の聖杯は弱小サーヴァントであるシェイクスピアを召喚するならばイレギュラーなクラス、復讐者のアベンジャーを用意したのでしょうな。
そして、この聖遺物とサーヴァントとマスターの相性を鑑みた結果、〝僕〟が召喚されたのでしょう!」
「—————」
「どうしたのです?そのような鳩が豆鉄砲を数百発くらったような顔をして
彼女は生唾を飲み、一瞬思考を張り巡らせるような仕草を見せると
「つまり聖杯は私が召喚しようとしたシェイクスピアは弱小だから、そいつを召喚するくらいならば、触媒に使ったこいつからあんたを選んだってわけね」
「全く同じことを先ほど説明致しました」
「んなこといいのよ!!要は何?あんた強いの?」
強いか弱いかで聞かれると僕自身も困るところはある。だが、彼女が希望する答えを口に出すならば
「シェイクスピアよりは強いです」
「はあ……もうあんたでいいわ。というよりあんたでしか無理か……。
よろしく、アベンジャー」
仕方なしに彼女は右手を差し出す。少なくとも僕が知るあのアベンジャーよりは強いはず。
……多分。……きっと。そうだよね……。
「我が剣はあなたの為に振るいましょう、マスター」
そう言って僕は差し出された彼女の手をぎゅっと握り返す。異常な聖杯戦争。異常なクラス。
異常なサーヴァント。異常な僕だからこそ正常であろうとする。
異常の中の正常、それもまた異常なのだから。
クラス:アベンジャー
真名:アムレート
筋力:???
耐久:???
敏捷:???
魔力:???
幸運:???
宝具:???
クラススキル:???
保有スキル:???