1.インランドエリア
氷と雪のみに包まれた大地が広がるグリーンランド内陸部。そこへ突如として結界が張られありえない街が構成された。現地の人間がそんなものに気づくはずもなく、そこはまるで日本の古都のような街並みへと変化させた。
もちろん、そんな街に人っ子ひとりおらず無人の京都、そんな異様な光景がインランドエリアには広がっていた。
そんな場所に二人の自転車を漕ぐ姿が見受けられた。
「結界内に入りましたね。ここが戦闘となる地です」
見たこともなく、グリーンランドではありえない街並みを目に口をあんぐり開け、少年は動揺を隠せずにいた。
「なんなんだ?ここは?」
分かっている。知っている。そのはずなのにその言葉が出てくるほどにこの地は異様だったのだ。
「私たちは聖杯より、この時代の知識、情報を与えられます。
この地はおかしい。聖杯からの情報ではここら一帯は雪と氷に包まれた雪原のはず。しかし、この風景は日本の西部に位置する京都そのものです」
「キョウト……。聞いたことがある。ニホンの観光地の一つで、その昔、首都だったシティだ」
「マスター、とくにかく今は教会に向かいましょう。詳しい事情はそこで」
そういうとセイバーは自転車を再び漕ぎ、どこにあるかもわからない教会を目指した。
しかし、行けども行けどもそこらにあるのは神社仏閣のみ。教会なんていう西洋の建物は見つからない。
それはそうである。ここは京都——正確にはグリーンランドであり、その面影は耐え難いほどの極寒と氷雪で出来た道のみ——なのだから。
「セイバー、一度休憩しよう。ここのまま無駄に進むよりも休んで、魔力も回復させた方がいい。
お前を召喚した時に使った魔力がまだ存分に回復していないしな」
目についた家の前に自転車を止めさせた。初めて目にする日本家屋に彼は呆れ返った。
「ニッポンジンってこんな寂れたとこに住んでんだ。
いや〜、僕じゃ考えられないな。まさかと思うけど、電気やガスはない……なんてことないよね?」
何度もいうがここは日本ではない。グリーンランドのど真ん中。ただの雪原である。当然のことながらガスも電気も通っていない。
「おいおい……。ありえないな、ニッポンジンは」
彼はポケットからボールペンを取り出すとガスコンロを模したなんでもない場所に描く。彼が持つボールペン型の魔術礼装ボゥッと火がつく。
ルーン魔術、魔術系統の一つで呪文の詠唱をする必要がなくルーン文字を刻むことで発現させる魔術。時計塔では廃れた魔術だったが、20世紀にどこぞの学生魔術師が復刻させた。噂ではその魔術師は今では封印指定されているらしい。
彼が使用したのは、カノ。着火のルーンである。
(ほう、ルーン魔術……)
「ははは……僕にはこれぐらいしか出来ないんだよ、どうせ」
(そうでしょうか)
「なにが言いたい?」
彼は霊体化して姿が見えないセイバーを睨みつけた。
(そう睨みつけないでいただけませんか。私はあなたを揶揄したわけではありません。ただ……いえ、まだ話すには早いでしょう)
「なんだよ、僕はお前のマスターなんだぞ」
(時がくればお話しますよ、それより今は外の様子に気をつけた方が)
「外……?」
彼は家の窓から外の様子を見渡す。彼の目に映ったのは、甲冑に身を包んだ大男と女性の姿だった。
そして、二人と対峙している姿が見えないが膨大な魔力を纏った何か。
「あれは……サーヴァント……?」
「でしょうな。二陣営とも我らには気づいていない様子、ここから存分に見学させていただきましょうか」