Fate/Different   作:倉敷 紡

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2.聖杯戦争

 ————数時間前。

 日本からこちらに来て、この異常な光景は割とすぐに受け入れることができた。魔術の世界でなら妥当だ、そう自分の中で処理することができたのだ。一般人に見られることもなく、聖杯戦争などという儀式をするならば、これぐらいする必要がある。今ではSNSを含めインターネットが小学生にまで普及した世の中だ。大掛かりな儀式をしようものならすぐに拡散されてしまうだろう。

 『ハッシュタグ#拡散希望 人と人がありえない動きしながら争ってる!!』それにサーヴァント(バケモノ)同士の対決の写真を添付され世界中に拡散されてしまう。

 ()()の学校に通い、()()の生活をしている自分も魔術師の世界というもの染まってしまっているんだろうなという自覚はある。

 普通の生活をしていれば、何もなかった雪原に一歩、足を踏み入れただけで京都が広がっていれば混乱するだろうし、パニックに陥るだろう。

 それこそ手持ちのスマホで、グリーンランドに京都出現 写真を添付してSNSで拡散なんてこともしてしまうだろう。

 私たち魔術師は優秀であればあるほど、計算や通信など携帯で出来る程度の処理は魔術回路で行える。しかし、今や()()はそれだけじゃない。携帯電話以上のことが行える。だから私は持つことにしたのだ、この直方体の電子機器(スマートフォン)を。

 

 私が簡易工房として利用した坂本龍馬寓居跡(ぐうきょあと)を出て、八坂神社まで向かっている途中にそいつとは出会った。

 そいつは一般人が存在しないこの京都で、この町には似つかわしくない風貌をしていた。漂う異臭——浮浪者と同じ悪臭と腐った川のヘドロが混じり合ったような匂いを放っていた——脂が乗り粘っこくドロドロとし伸び茂ったよもぎのような髪。その姿はまるでそう、さながら〝ホームレス〟のようだった。

 そいつは地べたに座り、焦点の合っていない目でゆらりと私たちを見ていた。私もそいつを見ていたが焦点が合わない。ただただ、気持ち悪い。

 

(マスター)、気をつけろ。こいつはサーヴァントだ」

 

「え?」

 

 霊体化させていたランサーはその言葉と同時に実体化し、私に注意を促した。ランサーの言葉に思わず私はそいつを睨み、身構える。

 しかし、そのホームレスのような容姿のサーヴァントは何をすることもなく、私たちを焦点の合っていない目でじっと見つめていた。奇異な様子に私は手出しができず、ランサーにその場待機を命じる。

 が、その静寂は突如としてランサーの懐に現れた青年と呼ぶには幼く、少年と呼ぶには大人びた男——それを青少年と呼ぶにはいささか違う気がした——によって壊される。

 

「弥ッ!」

 

 掛け声とともにランサーに一撃放った。ランサーはそれを槍で受け止める。当たり前だ。たかだか人の拳などサーヴァントには効か———。

 ———が、そのたかが人間(まじゅつし)の拳と英霊(サーヴァント)の持つ槍がぶつかりあっただけでは出ない、爆音と衝撃波が辺りにこだまする。

 彼は間髪入れずに続けて二打、三打と続けて打つがランサーはそれを全て防ぐ。彼は構えたまま二歩三歩下がると

 

「驚いた。(ボク)の拳を防ぐとは。」

 

 彼は全く驚いた様子を見せず、真顔で言った。その姿はさながらホムンクルスを思わせるようだった。サーヴァント反応はない。多少の魔力反応があるだけだ。でも、なんなんだ。このランサーと張り合う異様な、異常な、逸脱した強さは。

 

「AAArrrrrraaaaaaaa!!!!」

 

 ホームレスのサーヴァントが痺れを切らしたのか、突然叫び出した。

 

「嗚呼。分かったよ、バーサーカー。(あなた)のサーヴァント強いネ」

 

 彼はランサーに背を向けてホームレスのサーヴァント———バーサーカーの元へ歩む。

 私は思わず叫ぶ。

 

「ま、待ちなさいよ!!な、なによ今の・・・」

 

 私の方を振り返り、呆れたようにため息を吐くと

 

「バーサーカー、扱うには魔力消費多い。其、非効率。ならば、我出た方が効率良い……。

 此、最後也」

 

 そして彼は自然に歩むように一歩踏み出し、一瞬にしてランサーの目の前に現れる。

 

「 猛 虎 硬 爬 山 」

 

 そう呟くと右拳による中段突き。それを防がれるとさらに踏み込み、再び右拳で中段突きを繰り出す。

 

「うぐぅ!!」

 

 ランサーは二撃目を受け流す。しかし、その振動だろうか、ランサーが一瞬苦しそうな声を漏らす。

 私にはわからない。わからないけれど、一つわかることがある。それは外傷のないランサーがダメージを受けていることだ。

 

「たかだかマスター……魔術師の分際でサーヴァントにダメージ……?」

 

(ボク)、強き者の後継者也。英霊なぞに負ける拳無」

 

 そういうと彼はバーサーカーを連れて去っていった。私……私たちには追う気力、意志、意力すら起きなかった。

 バーサーカーの()()()()の強さはそういうモノだった。

 私は彼がそのまま去ったことに安堵した。してしまった。

 

「安堵しているところ悪いが、まだ一つサーヴァントの反応があるぞ、(マスター)

 

「わかっているわ。そこの日本家屋に反応がある」

 

 私はそこに潜むマスターに気付かれぬように気を張る。サーヴァント反応が丸わかりな辺りアサシンではないだろう。直接見ればステータスまでわかるのだろうけれど、ここからじゃ確認は不可能だ。

 

「どうする、(マスター)

 

「彼らから殺気は感じ取れない。あなたダメージは?」

 

「たかだか魔術師の、それも童の拳なぞ我が肉体にはなんの損害もないわ」

 

「オーケー、いくわよ」

 

「応とも!」

 

 ランサーは家屋に向かって踏み込んだ。

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