常軌を逸した強さを誇る女王の傍らに長い間寄り添い続けたプレデリアン達は、自らが女王となっても、また脱走した自分達の総力を上げてもあの女王一体には敵わないであろう事を、時が経つに連れて如実に理解し始めた。
女王となったプレデリアンも、間近に感じ続けてきたその身の重厚さとこの己の肉体を比較してしまえば、この己の体は張りぼてなのでは? と思ってしまう程であった。
ただ。それでもあの子種に唆されて呪縛を解かれてしまった身としては、如何に女王が強かろうとも、その配下として再びこの身を捧げる気にはどうしてもなれなかった。
ゼノモーフとしての本質がそれに違和感を訴えようとも、プレデターとしての本質がそれを無視する程に、プレデリアンの狩猟への欲望は強かった。女王であろうとも、抑えつけられる事への拒絶感は強かった。
ただ、それでも。
どうすればあの女王を打ち倒す事が出来るのか、皆目見当がつかない。
あの女王の頑強な肉体を、ただのゼノモーフが相対したら恐怖の余りに全てをかなぐり捨てて逃げ出してしまう程の暴力性に対して、どのように策を弄せば立ち向かえるようになるのか。あの首をもぎ取る事が出来るのか。
戦闘経験が豊富だとは言えども、やった事と言えば精々ただの女王を殺す程度。そんなプレデリアン達には全く分からなかった。
新しく女王となり、知性もより発達したプレデリアンも、自分達には経験が無さ過ぎると絶望してしまう。
唯一策を知っているとするのならば、この世界の外側から来たであろうあの子種なのだろうが……。
それは酷く屈辱的な選択肢。だが、それ以外に選べるものもなければ、何もしなかったところで待っているのは破滅のみ。
長い、長い時間を掛けて。
不快に何度も喉を鳴らし、歯がすり減る程に幾度と歯軋りを繰り返し。
プレデリアン達の数匹ーーとりわけスピードに特化した数体が、子種に、プレデターに教えを乞うべく飛び出していった。
*****
女王が長い産卵管に自らを繋いで座する場所を固定している理由は、産卵をよりスムーズに行う為である。だが、十分な量の卵を産み終えたところで、女王はそう各地を活発に動き回る事もない。
群れの頂点である女王が危険が蔓延る表に出る事は控えているのだろう、という至極最もな意見もある。
だが女王は、女王であると同時に、群れの中で最大の戦力でもある。ゼノモーフが蔓延る星に躊躇なく降りられるプレデターだからこそ、そんな女王を単体で屠れるのであって、並のプレデターでは何体居ようともその体躯に等しく圧し潰されるだけだ。
女王が早くに出張っていたら。群れと共に積極的に襲いかかられたら。プレデターがよく行う女王の捕獲作戦の成功率も、もう少しばかり低ければ、死者も多く出ているはずだろう。
その理由は何か、と問われた時。最も説得力があるのは、あの巨体を動かすだけで必要なエネルギーが莫大だという事だった。
とりわけ、あのプレデリアンの女王の肉体は、一日活動するのにどれだけのエネルギーが必要になる事だろう?
体格、筋力、運動量。より優れた頭脳。どれもが普通の女王とは一線を画している。
二倍、三倍。もしかしたらそれ以上かもしれない。
今、この近辺には。
ゼノモーフは死体としてどこにもあったが、強力な酸の血液に栄養の絶たれた肉体はすぐに耐えられなくなり、自壊している。
野生動物は容易く捕まえられるだろうが、どこも軍勢を増やしていた今ではそれも少なかった。
プレデターは、久々にゆったりとした時間を過ごしていた。
必要なのは、これ以上の技量でも、優れた武器でもない。
ゼノモーフの因子を色濃く埋め込まれたこの肉体の扱い方が、短期間であの女王に敵う程になる訳でもない。
武器も、ゼノモーフの肉体を加工したものより上等なものが手に入る事もない。もしかしたら同じ試練をしているプレデターと出会える事もあるかもしれないが、そんな稀有な可能性に祈る事など愚かでしかない。
だから、必要なのは入念な作戦とそれの為の準備、それだけだった。それだけに自らの全てを預けてあの女王を打ち倒さなければいけない。
作戦は空腹にさせる事。
自らが仕える女王すらも放って逃げ出してきたゼノモーフ達に聞いてみれば、プレデリアンもかなりの数が死んだらしい。
そして、数多の群れから攻め込まれたのに反撃出来たのは、そして追い払ったのはプレデリアンの女王たった一匹なのだと言う。
そこから、今までの体験も含めて、プレデターは一つの結論を出していた。
端的に言ってしまえば。
プレデリアンでの群れは、もうゼノモーフの本来の群れの在り方を維持する事が出来ない。
ゼノモーフの、個としてではなく群れとして生きる在り方。それは女王も例外ではないが、それはプレデターの優秀な肉体と共に引き継がれた闘争本能と強く相反してしまう。
そんな中でプレデリアンの女王となったあの個は、自らの闘争本能を満たしてくれる相手が居ない事を悟って、女王となり、群れを作ったのではないだろうか。
群れとして生きたいと思ったからではなく、退屈を晴らす事が出来ない事を悟って群れを作った。
群れが必要だったからではなく、自らの世話をさせる為だけに群れを作った。
そして子であるプレデリアン達もまた、そのままでは群れとして在る事よりも闘争本能を優先する為、放っておけばこうして女王の元から去っていってしまう。
それを防ぐ為に女王は子供達を抑制して、自らの為だけに仕えさせた。
また、子供達も女王に隷属させられなければ仕える事すらしない。
女王は、その子供達に愛情を注ぐ事も、頼る事もない。子供達も、女王を仕えるべき親とではなく、超えるべき相手と見做してしまう。
それが、ゼノモーフがプレデターの因子を取り入れた結果だ。
だから、女王はこの事態を引き起こした自らを探す為に、残った子供達を動かす事もないだろう。
子供達が動かされたとしても、女王から長時間離れてしまえば欲が湧いて、どんな命令を受けていたとしても独断で殺したりだとか、手柄を挙げようとするだろう。
そうなれば、女王は時が経たない内に空腹に苛まれる。しかし、この事態を引き起こした、ただの子種であった自分を逃がすなどと言う選択肢もプライドの高さから取らないはずだ。
準備は、とにかく武器を作っておく事。また、飢えた女王に決戦を仕掛ける場所を見定めておく事。
そして、飢餓に追い込むという作戦を数多のゼノモーフに伝える事。
前者にはそう苦労はしない。ゼノモーフの死体など幾らでも転がっているし、もし適したものが無かったとしても、この体なら他の群れに乗り込んで好きなだけ素材を調達する事もそう恐れる事ではなかった。
決戦の場所も、もう幾つか決めてある。飢餓に陥った女王を確実に仕留められる場所。そこに作った武器を至るところに隠し終えていた。
後者も同様だ。仕えていた女王すら見捨てて逃げてしまったゼノモーフ達は、いつまで経ってもどれもこれもが抜け殻のようで、放っておけば休眠すらせずに餓死していくようだった。
ゼノモーフに感情はあれど、復讐という概念までを持ち合わせているのか? 女王を殺された場合、そこから殺意を滾らせて再び立ち上がるだけのタフさを持っているのか?
多少不安な部分もあったが、そこにあの元凶の女王を倒せる可能性がある、それに自らも力になれると吹き込まれれば、全てではないにせよ再び動き始めるゼノモーフは多かった。
女王の監視をしながら、未だ生きている貴重な動物達を遠くへと連れ去る、もしくは殺して食してしまう。
やる事はただそれだけ。幾ら犠牲になろうとも一つでも傷をつけろだとか言っている訳じゃない。監視に対しても、見つけられた場合はひたすらに逃げるのではなく、女王が入り込めないような狭い隙間を見つけておけ、だとか細かいアドバイスをしておけば、生存率も多少は上がった。
そうしていれば、プレデリアンの一匹が自分を見つけてきた。
以前よりも多少大きくなりつつも、全体的にはスリムになった肉体。背中の管も抜け落ちたかのように無くなっており、四足での活動が出来るように骨格も多少変わっている。
ランナー……走る事への特化を遂げたプレデリアンは、自分を見つけると、けれど襲いかかってくる事はせずに中距離で立ち止まった。
ただ、その距離でも分かる。
葛藤、苛立ちと言ったものを隠せていない。
その多少の間の後に、聞いてきた。
ーー……狙いは、飢え、か?
その問いでプレデターも理解する。
自分達がどう足掻こうともあの女王には太刀打ち出来ないと悟ったのだと。そして、心の底から不本意ながらも、子種である自分に教えを乞いに来た。
心底愉快になりながらも。
ーーそうだ。
素直に返した。隠すつもりも、隠せるつもりもない。
ーー女王は、ローヤルゼリーを多く保持している。だが、それでも保つのはそう長くないだろう。
ローヤルゼリー。女王が良質な卵を産む為に作られる、栄養価の高い物質。
ーー何故言い切れる?
ーー新たに我等の中で女王と成った個からだ。
それは、多少なりとも信用して良いだろう。
ーーそれで、飢えさせたとして、その後はどうするつもりだ? その手で仕留めるのだろう?
プレデリアンであろうとも、それに疑いは無いようだった。
そう……やろうと思えば手を下さずに殺す事も可能だろう。とにかくあの女王から誰もが逃げ続けて、動物も逃し続けていけば、孤立無援の女王は餓死を免れられないはずだ。
ただ、それを良しと出来る程にプレデターは狩りへの欲求を失っていなかったし、プレデリアンは狩りへの矜持というものを身の内に秘めてしまっていた。
ーーそうだな……。
プレデターは、それに関しても正直に話した。
これに関しては隠す事も出来たが、どうせ話さなかったとしても、探られるだけだったし、その方が厄介だと思っていた。
実際、こうして特化したプレデリアンに対して、特に目の前に居るような機動力に特化されてしまえば、今のプレデターでさえ相手取るのはあまりしたくなかった。
数匹に付かず離れずの位置で粘着され続けたら、正直なところ……成す術も余りない。
それに気付いてはいないようだったが。
*****
時が経つ。
プレデリアンの女王は大岩に凭れて少しばかりの休息をし、体に隠し持っているローヤルゼリーを口に入れる。それは巣を出た時の半分を切っていた。
……つまらない手を打ってくれるじゃないか。
数日、口にそれ以外を入れる事は適っていなかった。
遠方の高い木の上から、一匹のゼノモーフが自分をじっと監視している。
この自らからも時に逃げ切ってみせる程に警戒心を高く保っているそれは、追いかけて喰らったとしても収支としてはマイナスだった。
それには、あの子種が知恵を植え付けたのもあるのだろう。
形振り構わない手で、この自らを屠ろうとしてきている。
きっと、この自らが飢えて歩く事さえも困難な状態になった時に、姿を現して首を狩ろうとでも思っているのだろう。
ならば、どうしたものか……。
住処に戻れば、数多に死んだゼノモーフの死体も今頃は巣そのものに吸収された事だろうから、栄養補給は容易い。だが、それをする気は微塵もない。
他にも守勢に回るような事は頭に思い浮かんでも、何一つとしてする気はなかった。己はこの地において頂点に立っている存在である。それを汚すような行為は無意識の内から避けていた。
久々に出た外。
子供越しに得ていた地理的な情報はある程度持っているとは言え、それも周りにあった雑魚の群れの範囲までだ。そこから先の事はもう知らない。
だが、そこまで行けば食料にありつけるだろう。
そんな思考に陥り、いや、と頭を僅かに振り、歯軋りをする。
……くそが。
食料を得ようとする事、それ自体があの子種の策が上手く行っている事を示す理由ではないか。
腹が立つ、腹が立つ。
この肉体は確かに強靭無比であるが、隠れる事には絶望的な程に向いていない。周りの全てが敵である今、この自らを屠る為に方向性を一致させたならば、一匹一匹がどれだけ雑魚であろうともそれは効果的であると認めざるを得なかった。
群れに残っている子供達ももう、従いはしないだろう。いや、もう群れに居るかどうかも怪しい。元からそういう性質の子供達であったのだ。
少しばかりはただのゼノモーフも作っておくべきだったか。
後悔。
そんな思考をさせる事すら、女王の苛立ちを加速させた。
…………だが。
思い直せば。これこそが自分が求めていたものなのではないのだろうか?
これまで生きてきた中で出会ってきた何もかもが自分の障害となってはくれなかった。この闘争心を滾らせてくれる存在は何一つとして目の前に現れてはくれなかった。
出来れば、自分と真っ向から戦えるような存在を求めていたのだが。
結局……そういう存在はこれからも訪れる事はないのだろう。
それならば、今のこの現状を愉しむとしよう。
女王は開き直れば。
まずは食料の補給をすべく、一直線に走り始めた。
ひたすらに、ひたすらに。全ての障害物を弾き飛ばしながら、未だ避難していないであろう群れ目掛けて食欲を滾らせ始めた。
プレデリアンはゼノモーフとしての群れの形を保てない、という結論。
書いてて自然とそうなってたけど、結構良い考察なんじゃないかなぁ、とか思ったり。
Predator: Hunting Grounds, Aliens: Fireteam
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買った:買うつもり
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買った:買わない
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買ってない:買うつもり
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買ってない:買わない