エイリアンvsプレデター Level 2   作:ムラムリ

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ぼちぼち評価やら付いてたので、続きも書きました。


2.

 プレデターを宿主として生まれるゼノモーフの事を、プレデター達、特に位が上の者達は忌まわしき者と呼ぶ程に嫌悪、忌避している。

 理由をこのプレデターは知らない。その存在に対して思考をする事すら許されていない程の禁忌であったからだ。

 しかし、だ。ゼノモーフそのものは成人の為の儀式に不可欠な物として扱っているのにも関わらず、プレデターから生まれるゼノモーフの事だけをそれだけ嫌っているのには何か理由があるはずだった。

 ただ……考えてしまえば理由は容易に想像出来た。

 宇宙に点在する知的生命体の中でも優れた技術と突出した肉体を併せ持つこの自分達、至る所で捕食者、狩人という名称で呼ばれるプレデターと言う種族は、その名の通りに同時に極めて好戦的であった。本能にも刻み込まれる程の狩猟意欲は、プレデターを宿主としたゼノモーフ、プレデリアンにも容姿と共に引き継がれている。繁殖を何よりの目的として活動するはずが、もう既に他のどの群れよりも突出した力とそれによる安寧を保持しているのにも関わらず、他の群れを蹂躙しに行き、そしてクイーンの頭を千切って持ち帰って来る程に。

 また、このプレデターの中にも初めて戦った時の印象は強く残っている。掃除屋の真似事として、成人の儀式に失敗してしまったプレデターの後始末として戦ったのだが、あの時は久々に死が眼前まで訪れていた。それと同時に高揚は激しく、屠った時には思わず遺跡全体に響く程の勝鬨を吼えた。

 その後から時折ふっと湧き出る、プレデリアンと再戦したいと言う欲望。脳裏に浮かぶ、同族を寄生させてしまえば良いと言う禁忌の手段。

 きっと、実際にそれを行った者が居たのだろう。

 長年鍛えて来た自分でさえ、一対一がやっとである程の強さだ。繁殖を許してしまえば、もう爆発させるしかない。

 そしてもし……そこで一匹でも生き残ってしまったならばプレデリアンは絶対に学習し、対応する。何せこの宇宙の中でも優れた文明を持つ種族を素に誕生するのだから、戦闘能力と同等に学習能力も高いに違いない。

 もしかしたら、母星の一つでも乗っ取られていても全くおかしくないと思える。

 しかし……ここに居るプレデリアン達は、()()()()()のだ。

 

 全身を粘液によって肉体と直接繋げられた、とっくの昔に感情も失っている女性のプレデター達。彼女等はプレデリアン達によって肉体をも弄られているのだろう、明らかに性交から出産までのペースも早かった。

 数も多く、クイーンに忠誠を誓ったプレデターが今日も性交を終えるとある程度の自由を許される。

 この環境にもすっかりと馴染み切っていた。同族を贄に差し出せば、もう監視にプレデリアンが付いてくる事も無く。子種としての扱いは変わらずとも、信頼度は高くなっていた。

 それだけの時間を過ごせば、もうプレデリアン達がどのように一日を過ごしているのかも大体理解出来てくる。

 食糧を調達に外に出る。巣を広げる為に手足を、時に酸を使って地下を掘っていく。程々に成長したプレデター達を見定め、フェイスハガーに寄生させる。時に邪魔になった群れを一掃しに出ていく。

 主に行動としてはその位だ。

 外に出て他の群れを潰しに行く時はクイーンの首を引き千切って持って帰って来るが、やるべき事をやったら後はエネルギーの消費を極力抑えるかの如くじっとしているだけ。

 自分というプレデターの中でも優れた個体の遺伝子を引き継いだ子を素にしたプレデリアンでもそうだ。

 加えて言うのならば、この群れには通常個体しか居ない。例えばランナー、スピッター、プレトリアン、クラッシャー、キャリアー……そんな派生個体が一匹たりとも居ない。

 ある程度繁栄に成功した群れならば、もしくは群れの拡大に手こずっているのならば、その群れには一つの事柄に特化した個体が湧き出してくるものなのだが。

 ただ、そんな個体を生み出さなくとも安寧は手に入れられる程の力を持っているのは確かではある。

 要するに、ここのプレデリアン達には、狩りへの欲望、高みへの渇望と言った、本能レベルでプレデターが抱き、そして色濃く引き継がれているはずの習性が無い。

 もう少し細かく言うのならば、意図的に抑えつけられているように感じる。

 誰に?

 クイーンしか居ない。

 何故?

 安寧。地位への固執。何であろうと、クイーンは少なからずもう上を目指していないのだ。今居る位置に満足している。

 そしてそれは、プレデターに反逆へと向かわせる契機になるのには十分過ぎる理由であった。

 

 プレデリアンのクイーン。それが一体どのように誕生したのかは分からない。分かるのは、数多の戦場を思うがままにしてきた自分でさえも恐怖で塗り尽くされる程の強さを持っていた事。

 それに屈服し、そして魅入られたからこそ、自分は抵抗を止めてゼノモーフの群れに貢献する事を選んだ。

 しかし、それは今日までだ。

 クイーンは安寧を求めている。今の地位を維持する為に、子供達の成長を止めている。それが分かった瞬間、クイーンは服従する対象ではなく、超えるべき対象となった。

 ただ、それは今ではない。

 やるべき事は色々とある。まずそもそも、クイーンに挑もうとしても直接は戦ってくれないだろう。プレデリアン達が殺到してきて数の暴力で滅殺される。

 また、そのクイーンとの力量差は、ゼノモーフの因子を植え付けられて肉体が改造、強化された今の状態で槍を持たされたとしても、百回挑んで一回勝てるかと言う程だ。

 加えて言うならば、ゼノモーフの因子が入ったこの肉体をまだ完全に慣れ切っている訳でもなく、しかし自分を鍛える場所も無い。

 必要なのは……。

 プレデターはエッグチェンバーより一回り大きく分厚い、生きた水瓶の方を見た。中にはここに来て最初に飲まされた、ゼノモーフの因子を体に植え付ける液体が入っている。

 思いついた展望より良いものが考えられなかったら、自分はこれを再び飲まなければいけないだろう。

 

*****

 

 季節が一回巡る頃、また新たな挑戦者がこの付近へと迷い込んできたのを、プレデターは知った。

 プレデターはクイーンの前に跪き、言った。

 ――要望が御座います。

 玉座に座るクイーン。頭を保護する冠をずらし、顔を向けて来た。

 ……ここが一番の勝負所だ。

 

 クイーンを越えると決意してから数日後の事。

 ゼノモーフが声以外の方法によって意思疎通をする事は知られている事だ。超音波か電磁波か、それともフェロモンか、プレデターの科学力を以てしても未だ未解明な部分はあるが、プレデターはその意思疎通が出来るようにならなければいけなかった。

 その液体を再び摂取しようとする事に対してプレデリアンが止めに来る事は無く、しかしやはり躊躇いは強い。飲んだ挙句に意思疎通が出来るようにならなかったら意味など無いのだが、数日考えても最初に思い浮かんだ展望よりも良いものは無かった。飲む事でしか先には進めない。

 プレデリアンに口付けをされて流し込まれた感触を思い出して吐き気も催すが、それも堪えて手にその液体を掬う。

 まるで液体そのものが生きているかのように生温く、うぞうぞと動いているような感触がする。

「……最後にしたいもんだ」

 そう呟いて口に含み、一気に飲み込んだ。

 しかし、その意思疎通が出来るようになるまで三度も飲む必要があった。最終的にヤケになって、その生きた水瓶に顔を突っ込んで飲んだ。

 そうすると今度は胸が火傷する程に熱くなり、のたうち回る。目が覚めれば、本格的に自分の体が書き換わったような感覚と共に、その能力を手に入れていた。

 

 ――種如きが要望だと?

 早速向けられたのは怒りの感情だ。しかし、プレデターは冷静を努めて言った。

 ――種として、私はより貢献したいのです。種である私がより強くなれば、この群れもより強くなりましょう。

 幸い、追い風な出来事もあった。プレデリアンは今でも時々周囲の群れを掃討する為に外へと出ていくのだが、時が経つに連れて損耗は増えていた。

 周りの群れもこの群れの事を警戒し、策を練るようになり始めている。単純なスペックの暴力だけでは簡単に事が進まなくなりつつあった。

 クイーンは多少の思考を挟み、言った。

 ――……言ってみろ。

 ――私を他の群れの掃討に同行させて下さい。

 クイーンはそんな発言をしたプレデターを、じっと目の無い顔で眺めた。跪いて頭を下げたままのプレデターには分からないが、暫く返答がない事に不安になる。

 ――……この時にそんな提案をしてくるなど、貴様は随分と臆病なようだ。

 確かに、クイーンへの伺いをこの時に立てたのは、子種としての保険を作れる時だからという理由があっての事だ。

 しかし、その返答には怒りが湧いた。思わず殴り出したくなる程の怒りは、多分ゼノモーフの因子をより多く自分に取り込んだからか。それとも元来の狩人としての誇りを傷つけられたからか。

 必死に抑え込んでいると、クイーンは続けた。

 ――だが、良いだろう。但し、今回の侵入者には貴様の獲物は渡さん。それで仕留められなければそのまま死ね。

 ――……ありがとうございます。

 そうしてクイーンは冠を戻して、顔を正面に戻した。

 立ち上がると、プレデリアンが後ろで待っている。

 ――付いて来い。

 その意志は、相変わらず無機質だった。

 

 意思疎通が出来るようになってプレデリアンに話しかける事も何度かしたが、基本的には無視されるか怒りの感情を向けられるか、それだけだった。

 しかしそれは、種如きが群れの一員に会話を持ちかけるなどというような矜持などではなく、単純に自身の責務では無いから、と言ったような無機質なものだった。

 クイーンの支配は強力で、少なくともこの巣の中ではプレデリアンは何の変わりようも無い。

 しかし、他の群れを掃討しに行く時、クイーンから遠く離れる時ならばチャンスはあると踏んだ。味方に出来ればベストだが、ゼノモーフをそのまま味方に出来るなどとは思っていなかった。最終的に、この種の目的は脅威の排除、群れの繁殖、その二つだけに集中するのだから。

 最低限は、クイーンの支配を崩し、向上心を焚きつける事だ。クイーンから離れて独立しようとする動き、それだけでも自分には有利に働く。

 ――ここからは貴様だけで歩け。

 そう言われて、プレデターは歩き始める。

 程なくして巣の中に入って来た、もう既に詰んでいるとは知らない挑戦者と会った。

「なんだお前……その姿は……?」

 自分の今の顔は分からない。ただ、プレデリアンと似通ったような形に変質しているのだろうとは思った。

 飲んだ液体の合計は、胃の中を満杯以上にする程だろうから。

 無言で歩み寄っていくと「近付くな!」と叫び、槍を構えてプラズマキャノンの照準を定めた。

 足を止める。

「おま」

 再び口を開いた瞬間に斜めに跳んだ。プラズマが居た位置に着弾する。虚を突いても挑戦者は冷静に自分を見ている。

 着地。引きつけられている。しかし、それならば一撃を掻い潜れば勝ちだ。膂力はこちらの方が圧倒的に上だ。

 ただ、動体視力や反射神経までは強化されていない。しかしこの挑戦者に素手で勝てないようでは、クイーンに立ち向かう事など出来やしない!

 プラズマキャノンの二発目が飛ぶ前に、挑戦者に向かって柔らかな地面を蹴った。

 突いて来る? 薙いで来る? 足の捩じりが見えた。薙ぎだ!

 首に向けて的確に槍の穂先が向かって来る。けれどその軌道が読めていれば対応出来る。柄を掴んだ。

「うっ!?」

 着地、槍を引き抜けば手を離されて、既にリストブレイドを伸ばしている。

 プラズマキャノンも同時にチャージが終わり、今にも放たれようとしている。しかしその脇腹を蹴るのが先に届いた。

 メギィッ、と肋骨が折れた、それ以上の感触。

「がああっ!?」

 プラズマはあらぬ方向へと飛んで行き、挑戦者は立ち上がる事も出来ない。

 かひゅー、こひゅー、と呼吸もおかしい。

 想像以上に自分の肉体は強化されていたようで、内臓まで駄目にしてしまったらしい。

 そう思っていると、遠くで待機していたプレデリアン達がやって来た。

「がひゅっ!? ぐぶぅっ!?」

 驚きながらも早速自爆しようとしていたので、その腕を踏みつける。

 ――内臓を潰してしまったが、子種としての保険には出来る。

 治療器具も持っている筈だから。

 ――素手の貴様に負けるようならば、貴様の子の方が適している。

 そう伝えながら、プレデリアンは防具やらを全て破壊していく。内臓の損傷すらも一瞬で治すそのクソ痛い治療器具も。

「なるほど」

 そう初めて声を出すと、マスクを剥がされた挑戦者が血塗れの顔で、自分の方を見て来た。

「な、なんだっ、お前は!? ごぶっ、げひゅぅっ、どうしてこいつらなんかとぼぉっ!!」

 叫んでいると、プレデリアンに喉を踏まれて潰される。

「俺は子種として生かされているだけだ。俺より優秀な子種になれなかった時点でお前は苗床だよ」

 尻尾で巻きつけられ、絶望に染まった目で連れて行かれる。

「びゃあ、ばんぶぇっ」

 それでも叫ぶ挑戦者は、頭を踏みつけられて気絶させられた。

 踏みつけたプレデリアンは暫くの間、鬱陶し気にぐりぐりと挑戦者を踏みにじっていた。

 起きる頃にはきっと、腹の中でチェストバスターが蠢いているだろう。

 最後に潰された言葉で聞こうとした言葉はきっと。

 じゃあ、何で自爆装置を壊した?

「それは、俺が超える為さ」

 呟いた言葉にプレデリアンは誰も反応しない。意思疎通が出来るようになっていても、言葉を理解されている訳ではない。

 そして奪った槍を渡そうとすると、プレデリアンが言ってきた。

 ――群れの掃討に向かう。

 早速か、と思いながらも頷く。

 ――しかし。貴様が途中で逃げ出すような事があれば、私達は何よりも優先して貴様を追い掛け、捕らえる。そして雌達と同様に四肢を捥いで我々の群れの礎にさせる。

 ――逃げるつもりなどない。

 逃げる事は可能かもしれないが、敗北したまま逃走する事など、プライドが許さなかった。

 プレデリアンはそれに返答はしなかった。

 数多のプレデリアンに連れられて、プレデターは巣の外へと向かう。もう、跳躍は地上へと届いた。

 プレデリアンと同等の膂力を手に入れた事。ゼノモーフと意思疎通が出来るようになった事。

 もう、自分は外見しかプレデターという種族ではないのでは?

 内側はゼノモーフに染まり切っているのではないか?

 そんな疑問が浮かぶ。しかし、片手に持つこの槍だけは、プレデターとゼノモーフをはっきりと分かつものだった。

 ゼノモーフは学習はしても、何かを生み出す事はしない。経験によって個が強くなる事はあろうと、それが引き継がれ、研鑽されていく事も無い。

 そう区切りも付けられた所で。

 しかし数年振りとも思える外の清々しさを味わう余裕もなく、さっさと歩けと言うように尻尾で尻を叩かれる。

 多少よろけながら、プレデターも歩き出す。

「……さて」

 そしてプレデターは久々に高揚を覚え始めていた。

 久々の狩りだ。

 ただの力づくでは届かない領域があると言う事を、この抑圧されたプレデリアン達に知らしめてやろう。

 

*****

 

 歩いていくに連れて、プレデリアン達の動きが機械じみた程の統率からずれていく。クイーンの命令が緩んできている。

 クイーンに忠実な個体は自分を監視しながらもひたすらに歩く。プレデターの本能を色濃く引き継いだような個体は血に飢えたように、時に尻尾をゆらゆらと動かしながら、手を握りしめたり、はたまたインナーマウスを出したりしながら、若干落ち着きの無いように歩く。

 ……誑かすならば、後者だな。

 しかし、仕掛けるのはまだ先だ。自分が何も成果を上げていない時点でプレデリアンと意思疎通をしてもそれには何の意味も持たない。何であれそれは子種の戯言でしかない。

 成果を上げてこそ自分の言葉は重みを持つ。

 

 幾許かの時間を歩いていると、プレデリアンの死体やゼノモーフ達の死体が散見された。数多の血はもう既にその強烈な酸性を失わせているようだが、地面をも溶かすその血は、木々を枯らすには十分過ぎる。そんな場所に動物達も近寄る訳もなく、命の気配が完全に失せた土地となっていた。

 その死体の割合としては、勿論だがプレデリアンより他のゼノモーフの方が多い。

 強固な守りをも打ち破る、二足を捨てた巨体のゼノモーフ、クラッシャーの死体。そのクイーン並みに巨大な頭はプレデリアンの怪力によってかボロボロになっていた。岩と挟まれ、潰れたプレデリアンの死体が幾つかあった。

 クイーンを傍らで守る、小型のクイーンと言うような形のゼノモーフ、プレトリアンの死体。首をへし折られており、そして木に突き刺さった尻尾にはプレデリアンの頭が貫かれていた。

 そんな様子を見ていると、プレデリアンは真正面から戦ってばかりのように見えた。

 しかしそれに対して、周りの群れの幾つかは結託しつつあるように見える。クラッシャーやプレトリアンが多いこの戦闘の痕は、プレデリアン達に対してどのように立ち向かえばより痛手を与えられるのかを試行錯誤しているようにも見える。そして、そのクラッシャーやプレトリアンを生み出すのは勿論、単なるゼノモーフを生み出すよりもコストが掛かる。時間的、食料的、そしてクイーンの疲労も。

 ここに転がっているクラッシャーやプレトリアンの数は、一つの群れが生み出せる数を既に越えていた。

 プレデターという宿主はどこもが喉から手が出る程欲しいものである事は疑いようがない。

 それを独占しているこの群れは、普通結託などしないクイーン同士が結託する程に鬱陶しいのだろう。

 

 もう暫く歩みを続けていると、ゼノモーフの足跡が目の先に見えた。まだそう時間の経っていない足跡。

 繁殖、脅威の殲滅に対して最優先に動くゼノモーフという種は、外敵に対して極めて敏感だ。プレデリアン達もそれに気付き、辺りを見回す。

 しかし、先に気付いたのは長らくゼノモーフを狩って来た経験のあるプレデターの方だった。

 ランナーが一匹、木の陰に潜んでいる。

 ――目の前。二番目に高い木に隠れている。

 返って来たのは子種如きに、と言うような屈辱の感情だった。しかし、その感情を隠さないままにプレデリアンの一匹、クイーンの命令に忠実な個体が自分に命じて来た。

 ――その槍を投げて殺せ。

 ……こいつが一番厄介だな。

 そう思いながらも返した。

 ――この距離からでは躱される。

 舌があったら舌打ちをしていそうな不満を隠さない素振りで、プレデリアンは伝えた。

 ――このまま進む。届く距離になったら即座に殺せ。

 ――分かった。

 その時だった。

「キィイイイッ!!」

 そのランナーが叫び、逃げていく。

 それを見た血気逸るプレデリアン達が追い掛けて行き、視界の遠くで仕留める頃、地響きが聞こえて来た。

 木々をへし折る音が至る所から。

 これは……既に囲まれている。

 プレデリアン達は戦闘態勢に入った。プレデターは槍を伸ばし、次いでに体も伸ばした。

 どうしてだろうか、子種となる前でもこの状況に陥ったら焦らずには居られないだろうに、今は酷く落ち着いていた。

 武器は槍の一本だけ。裸で防具はなく、治療器具もなく。

 そうか。それでも思い出してみれば、洞穴の中で前後から数え切れないプレデリアンに囲まれるよりかは全く楽な状況だった。

 四方八方からクラッシャーが木々をへし折りながら突進して来る。

 プレデリアン達も学習しているのか、まともにそのクラッシャーの突進を受ける気は無さそうだ。そして、ランナーを屠りに行ったプレデリアン達が先にクラッシャーと相対する。クラッシャーの突進に跳躍して回避。しかしそこに合わせてクラッシャーの背に乗っていた、クラッシャーの巨大な頭に隠れて見えなかったランナーが跳躍した。それにしがみつかれたプレデリアンはそれを振り解く前に、後続のクラッシャーにランナーごと踏み潰された。

 それだけで死ぬほどヤワな肉体はしていないだろうが、後からはプレトリアンも来ている。踏み潰されたであろうプレデリアンに尾を突き刺す姿が見えた。

「成程」

 短く呟いて、プレデターはクラッシャーと相対する。

 クラッシャーの弱点は、正面以外の全てだ。その重量と速さ、頑丈さまでを併せ持つ突進は確かに脅威だが、逆に言えばその突進以外は脅威ではない。小回りは効かず、背中に乗られたら何も出来ない。それを補う為にランナーが乗り、後続にはまたクラッシャーが、そしてプレトリアンが続いていた。

 プレデターはプレデリアンと同様に跳躍し、しかしそこに向かってきたランナーを串刺しにしながらクラッシャーの背中に着地、そのままクラッシャーの首に槍を貫いた。

「ガッ」

 ランナーを踏みつけ、槍を引き抜くと同時に倒れたクラッシャー。その後に続くクラッシャーが跳び掛かり、自分を叩き潰そうとしてくる。

 身を限界まで低くし、屠ったゼノモーフの背を蹴る。ゼノモーフの因子を色濃く身に取り込み、強化された肉体がその刹那、跳躍したクラッシャーの下を潜り抜ける事を可能にした。

 最後に居るプレトリアン。その二足で駆ける巨躯はしかし、いきなりクラッシャーの下から現れたプレデターに反応出来ないままに首を裂かれて崩れ落ちる。

 振り向けば、消えたプレデターを探すクラッシャーと、やっと気付いた背に乗るランナー。

 それを屠るのに苦労などするはずも無かった。

 

 プレデリアン達は少なくない数がその初撃で殺されていた。クラッシャー同士の衝突に潰され、跳躍をランナーに引きずり降ろされ、潰され、貫かれ。残るプレデリアン達もクラッシャーやプレトリアンの致死的な攻撃とランナーの素早い連撃に屠られ続けている。

 しかし、そこに混じる異物。何故かプレデリアンの味方をしているプレデターは、槍の一振りで簡単にゼノモーフ達の命を刈り取っていく。クラッシャーだろうとプレトリアンだろうと、急所を貫かれ、切り裂かれ、その身に傷は一つも付いていない。

 精鋭達がその異物に簡単に殺されていくのに、ゼノモーフ達は何故プレデターが? という疑念よりもその脅威に漸く対処し始める。

 捕らえられれば強力なプレデリアンと出来る、がプレトリアンも簡単に屠られていくその様に捕獲などと言った手段を選ぶ事も出来ず、逆に殺されるまでの時間を延ばすのが精一杯。

 そしてプレデターに注意が行けば、プレデリアン達がクラッシャーやプレトリアン達を力づくで壊していくのに余裕が出来る。

 そうして、襲い掛かって来たゼノモーフの半数以上が地に伏したところで、ゼノモーフ達は撤退して行った。

 

 呼吸を荒げているプレデリアン達に対し、プレデターは多少息を上げているだけだった。そしてプレデターはプレデリアン達よりも遥かに戦果を上げていた。

 無傷のプレデリアンは少なく、また死んだ、もしくは致命傷を負ったプレデリアンの割合はざっと見積もっても三割以上だ。

 しかしプレデターは問いかけた。

 ――戻るのか?

 その挑発に対してプレデリアンは怒るがしかし、手までは出して来ない。それが自分に手を出す事が群れの不利益に繋がるからか、容姿の一部と共に引き継がれたプレデターの狩猟本能、誇りから来るものなのかは分からない。

 ただ、それは綻びだ。クイーンの抑圧から解放する手立ては確実にある事を示している。

 そして、一番クイーンに忠実そうな個体が問いかけて来た。

 ――これ以上の損耗を女王は望んでいない。貴様は、これ以上に犠牲を出さずに女王の首を奪えると言うのか?

 ……意外と、こいつを寝返らせるのが一番簡単かもしれないな。

 賢いが故に、自分達のクイーンが大した事をしていないのに気付くだろう。

 ――無理だな。

 プレデターがそう返すと、その個体は皆に帰還を命じた。プレデリアン達がもう助からない個体に冷徹に止めを刺していくのを眺めながら、プレデターは血を払い、槍を縮める。

「上々だな」

 クラッシャーの下で埋もれた、まだ生きているランナーが見えた。

 一匹だけ取り残されて、事が終わるまで隠れようとしているようだった。

 気付かれて、捨て身で飛び出してきたその首と掴みかかって来た腕を掴み、背骨を膝でへし折る。

「ギ……ィ……」

 まだ辛うじて生きていた。首を踏んで折ると何も言わなくなる。

 ――行くぞ。

 プレデリアンが命じて来るのに従う。戦闘前とは僅かながらも、プレデリアンから向けられる感情は異なっていた。




Q. エイリアンはゼノモーフ呼びなのにプレデターはヤウチャ呼びじゃないんだ。
A. ヤウチャって何か日本語だと格好悪くない?

Q. 主人公プレデターの名前は?
A. 元々短編だったから名前決めてない。多分このままだと基本的に必要無いから名無しのまま。

Q. 続きいつ書くの?
A. さぁ……。評価とか入ると書く時が早くなるかも。

ゼノモーフに屈服するプレデター書きたかった1話目と比べて、まあ、考えたプロットがそうだったのが悪いんだけど、プレデターが段々格好良くなってきている。
書きたいの真逆なのに。

小ネタ:
プレデリアンの事を忌まわしき者と呼ぶ:
AVP3のプレデターパートのラスボスがプレデリアンで、Abominationと呼称されている。
プレデリアンに乗っ取られたプレデターの母星:
あんまり納得いかなくて今は非公開にしている過去に書いたヤツ。
最後のランナーの殺し方:
AVP3のプレデターのエイリアンに対するfinish moveの一つ。

どっちが好き?

  • エイリアン
  • プレデター

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