エイリアンvsプレデター Level 2   作:ムラムリ

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1話目が10000文字越えで2話目も10000文字越えなので3話目も10000文字越えにしなければいけないと釣り合わないなぁって感じだったけれど9600文字くらいです。


3.

 巣へと戻っていくに連れて、多少ながらも個性を見せていたプレデリアン達の様子が段々と元の無機質な動きへと戻っていく。

 プレデター自身にも多少ながら感じられる、クイーンが発するその抑圧はしかし、そう強くプレデターには影響を及ぼさない。

 ゼノモーフの因子を色濃く受け継いだとは言え、未だその肉体はプレデターのものであった。この体の何割がゼノモーフのものに変質したのだろう?

 三割か、四割か。はっきりとした事は分からないが、これ以上あの液体を飲んだとしたら今度こそ自分はこのプレデリアン達と同じようにクイーンの支配下に置かれてしまうだろう。

 穴が近付いて来る。槍を渡すように言われ、縮めて渡した。

 ……流石に、信用はされないか。

 クイーンはただのゼノモーフより何倍も賢い。唯一の母親であり、そして最強である。また冷徹であり、慎重であり、策士である。

 そしてやはり、クイーンの中で最も強い意志は、自身が唯一プレデターを素とするゼノモーフを有する最強の群れである事だ。

 しかし、そこにプレデターが有する強さへの欲求や誇りと言ったものは微塵も無い。

 何故プレデターを素とするゼノモーフでありながらそのような意志を持つに至ったのかは些か疑念に思う所はあるが、結局子種の域を出ない自分が聞こうとしても返答が返って来るとは思えないし、最悪怒って最期の口移しでもされるか、子種としての務めしか出来ない体にでもされる事だろう。

 だから必要なのは、クイーンにとっては便利である、位の認識で留めさせておく事。

 刃向かう可能性など微塵も見せてはいけない。クイーンに刃を届かせられるような存在とも見做されてはいけない。その首を獲る瞬間までは。

 

 穴の中、巣へと戻る前にふと、後ろを振り返りたくなった。恒星の温かみを感じられる明かりをまた暫く浴びられなくなるのは少し寂しいが、それを浴びていられる時でもない。

 そんな素振りは今、微塵も見せてはいけない。気持ちを抑えて穴の中へと飛び降りた。

 薄暗い、粘液で固められた洞穴。

「……」

 懐かしさを覚えている訳ではない、と思いたい。帰って来たのだと感じている訳ではない、と思いたい。

 ただ、従順な僕として、子種としてここに居た期間はそう感じさせてしまう程に長かった。

 けれど、今は悪態を吐く事すら憚られた。

 

 プレデリアン達は次第に巣の中へとばらけ、自分も巣の中に居るのならばある程度は自由となる。

 完全にばらけて、自分一人だけになった状態になってから、プレデターは立ち止まった。

「……クソ」

 そこでやっと一言を吐いた。

「けれど一歩だ。俺は踏み出した。踏み出せた」

 自分を見失わないように、半ば自分に言い聞かせるように呟く。呼吸をし直した。

 暫く歩き、崖を飛び降りる。崖の下、そこはプレデターの飼育場だ。

 子供のプレデター達が好き勝手に走ったり、プレデリアンが狩ってきた、無造作に投げ捨てられた獲物を手づかみで食べている。自分に気付くと、プレデリアンとは全く違うその姿を興味深く、言葉ではないただの奇声を上げながらじろじろと観察される。

 結局の所、何に対しても運という要素から逃れる事は出来ない。

 プレデターはその子供を生み出しているのが自分だという事を理解しながらも、運が悪かったと済ませながら哀れな目でそれらを眺めた。

 歩き去って、崖を飛び上がる。その崖の周りには虚ろな目をするだけの女性のプレデターが粘液に磔にされている。

 一人、剥がされた痕があった。もう産めないと断じられたのだろう、きっと今は宿主として寄生されて、そしてやっとの最期を迎えようとしている。

 ストレスが溜まっていた。憂さ晴らしをするかのようにプレデターは命じられている日課に励み、それが済んでもう暫く歩けば寝床へと着いた。

 寝床と言っても、ゼノモーフが壁に張り付いて丸まって休むような、ただの壁に作られた窪みだ。近くにもプレデリアンは今も多く丸まって寝ており、中には先程まで共に戦闘に出ていたプレデリアンが返り血をそのままにして寝てもいた。

 周りがプレデリアンだらけの中を歩いて、その自分の寝床に座った。妙に体に吸い付くその生きた柔らかさは、もう落ち着いてしまう程に慣れてしまったものでもあった。

 再び一息吐く。久々の戦闘ではあったが、ゼノモーフの因子を色濃く取り込んだこの肉体はそう疲労していない。ただ、気付けばそれを遥かに超える精神的な疲労が体を巡っていた。

 それはそうだと思い直す。クイーンに伺いを立てた、それだけでもかなりの精神の摩耗が発生していたはずだから。

 ……まだ、先は長い。

 ここから先は全てが綱渡りだ。プレデリアン達にその身に宿るプレデターとしての意欲を目覚めさせなければいけない。そしてそれをクイーンに勘付かれてはならない。

 ただ、そんな初の試みをするのに対して、体を包むのは挑戦への高揚であった。

 少なくとも、クイーンがつまらない安寧を望んでいるのならば、それに従い続けるよりは遥かに生きていると実感させてくれる。

 失敗すれば四肢でも捥がれて子種としてのみ生かされるか、最期の口付けを強要されるか、それでもだ。その命を賭けたスリルを楽しむ事は久しく忘れていたが、日常茶飯事でもあった。

 この寝床は自らが座するべき場所ではもう、無い。

 けれど今はまだ、そういう場所である。

 眠気が襲ってきた。一度、従順なる子種になってからは熟睡してしまう事も増えたが、またそろそろいつものように戻るべきだ。

 ……ただ、今日だけは……。

 また、明日からは子種としての日々が暫く続くだろう。クラッシャーもプレトリアンも大量に屠った。連続で攻めて来るとは考えづらい。

 それにこんな疲労、狩りでは早々覚えないものだ。

 そう言い訳を重ねて、目を閉じた。

 早速眠気が訪れて、しかし耳が何か異音を拾う。

「~~~~!!」

 遠くからの激しい、声にならない悲鳴だった。

 自分が倒したプレデターから、チェストバスターが胸を突き破ったのだろう。

 歴戦の猛者だ、いつも犠牲となる子供とは違って、喉を潰されていても声がここまで届いて来た。

 きっと、他のプレデリアンと比べても強いプレデリアンになる事だろう。

 そう思って再び眠りに就こうとした時、プレデリアンが語り掛けて来た。

 ――女王がお呼びだ。

 一瞬で意識が覚醒した。

 

 何か気に障ったか? そう思いながらも、平静を努めて歩く。

 今、従う以外に出来る事は無い。逃げられもしなければ、反逆する為の槍も実力も無い。必要なのは思い出す事だ。従順な子種だった自分を、そしてそれに徹する事だ。

 それには意外とすぐに慣れる。プレデターがその従順な子種になったその最大の理由である絶対的な強さは変わっていないからだ。しかし、それもある程度までに留まった。

 ……本当に精神性も伴っていれば、従順な子種でも不満ではなかったんだがな。

 そんな思考を振り払う。今は絶対的なその強さだけを敬っていれば良い。しかしそれでも付き纏って来る恐怖までは掻き消せない。

 体が震える。危険因子だと判断されたら最期、自分は死ぬ。何の抵抗も出来ずに。

 考えないようにしても難しかった。命の危険に晒された事は幾度とあろうとも、共にしてきた武器と培ってきた経験を以て切り抜ける道があった。今は何もない。クイーンの機嫌に祈るしかない。

 呼吸を整えようとしても無駄だった。プレデターの自爆対策であろう、曲がりくねった道。前と後ろを歩くプレデリアン、時折すれ違うプレデリアン。

 筋力は自分と同等かそれ以上。体躯を生かす技術は無いに等しいが、何をしようとも滅多な事では怯まず、致命傷を与えても暫くは動き続ける生命力。

 そもそもゼノモーフとの近接戦闘は熟練のプレデターであっても油断できないものだ。インナーマウスによる一撃は勿論、尾の刺突さえもがプレデターの叡智を結集させた硬質な鎧をいとも容易く打ち破る。傷付ければ流れ出すのは、溶かせないものなど無いと言わんばかりの強酸だ。如何に鎧がその酸をも防ぐように作られていようとも、鎧の隙間からでも流れてしまえば体は焼け爛れて致命傷になる。

 素でそれなのに、プレデターという優れた遺伝子を取り込んだ結果がこれだ。

 今なら一、二匹程度ならば素手でもどうにか出来るかもしれないが、この閉鎖空間、そしてこの数に対して逆らう術は自分が如何様になろうとも何一つとして出来ないだろう。

 思考が恐怖に妨げられ、どうしようもないままにクイーンの居る広間までの距離は無慈悲に淡々と縮んでいく。

 歩みを止める事すら出来ない。

 そしてプレデターは広間に着いてしまった。

 エッグチェンバーが数え切れぬ程にある広間。壁には磔にされ、胸を食い破られたプレデターの死体が並んでいる。そしてその中には先程まで生きていた、自分が倒した歴戦のプレデターと、未だ生きている、子を産めなくなり苗床としての末路を迎える女性のプレデターが居た。

 その女性のプレデターがぴくりと動いた。

「あ、あ、ぎぃぃいいいやああああああああああああああっ!!」

 胸からチェストバスターが勢い良く飛び出してくるのと同時にその女性のプレデターは息絶えた。

 ……落ち着け、落ち着け。

 そう思っていると、さっさと歩けと言うように後ろからプレデリアンに叩かれた。転びそうになる。

 目の前には数え切れぬ程のエッグチェンバー。

 ……そうだ、殺すならもう殺されているはずだ。呼ぶ必要などない。

 そう考えたら少しだけ安心出来た。

 エッグチェンバーの間を歩いていく。プレデリアンのクイーン、いつ見ても根源的恐怖を、畏怖を感じさせるその姿。

 クイーンのすぐ近く、エッグチェンバーが置かれていないその周囲。

 そこまで歩いて、跪いた。

 クイーンが冠をずらして頭を上げる。

 ――やはり、貴様は臆病だな。

 自分がここに来るまでの怯えをプレデリアンを介して知られていたのか。

 けれども、何故呼ばれたかも分からない今は怒りを感じる余裕も無かった。

 …………。

 答えずに居ると、クイーンは他に何も聞いて来ない。

 その分からなさがプレデターを混乱させた。そして下を向いていると何も分からない。クイーンは今にも、自らの尾を自分の頭に突き刺して終わらせようとしているのかもしれない。

 鼓動が激しい。何故呼ばれたんだ? 何故、何故?

 その頬に、ひたりと冷たいものが触れた。体がびく、と思わず強く震えた。

 正体はその、想像したばかりのクイーンの尾の先端だった。プレデターが鍛え研いだ刃と同等かそれ以上に鋭く、そして分厚く長い、鏡面のような輝きを見せる尾。

 それはプレデターの顎を持ち上げ、顔を上げさせた。

 クイーンがじっと自分を見つめて来る。剥き出しの歯。

 そこでやっと、ここに来させた理由を理解した。

 これは自分に反逆の意志があるかどうかの確認だ。掃討に同行した理由が本当に、群れに貢献する為だけだったのか。

 その意志があると認識された瞬間、この尾は自らの首を刎ねて飛ばすだろう。

 ――何に怯えている?

 唐突に飛んできた問い。咄嗟に出て来た嘘を、そのままに伝えた。

 ――外の掃討して来たゼノモーフ達とクイーンが天と地程の差があると再認識しまして……。

 嘘ではあるが、事実でもある。ただのクラッシャーやプレトリアンなど、このクイーンにとっては足蹴にするだけで四散するだろう。

 フスーッ、スーッ……。

 クイーンから吐息が漏れる。

 そして尾は、自分の顎から離れて戻って行った。

 ――戻れ。

 そう言うと、クイーンは冠を元に戻した。

 しかし、体が強張って中々動かない。

 必死になって立ち上がる頃には、プレデリアンが先程胸を食い破られた歴戦のプレデターを引き摺って来ていた。

 何だ? と思うも、後ろから再びクイーンの吐息が聞こえてきて急いで歩き始める。

 エッグチェンバーの間を通って戻るその最中、ばりぃ、ぐちゅぅ、と後ろから聞こえて来た。

 クイーンがそのプレデターを食している音だった。

 骨をも砕き、胃袋へと流し込んでいく咀嚼音。自分が広間から去るよりも前に、その音はしなくなっていた。

 ……この怯えは、結果的には幸いだったのだろうか?

 けれど今はそれに結論を付けるよりも、もうとにかく眠りたかった。

 寝床まで戻って体を丸めるとすっかり落ち着いてしまい、それに拒絶を感じる間も無く瞼は閉じられていった。

 

*****

 

 時が経つ。

 プレデターは外に出る度にプレデリアン何体分の戦果を挙げていく。物事が噛み合った時など、きっと十体分以上の屍を築き上げているだろう。

 しかし、それ以上の事は何も出来ていない。想像以上にクイーンは慎重だと実感した。プレデリアンを唆した後に巣に帰ったならば、きっともう、苗床にされて死ねる事が喜びと思える程の結末が待っている。

 そしてそれ以上にクイーンに対して再び植え付けられた恐怖が拭いきれなかった。

 外に出て自分の技量を上げる事は可能となった。このゼノモーフの因子を色濃く受け継ぎ強化された肉体を武器と共に十全に使いこなす事も出来るようになってきた。

 しかし、クイーンに対しては勝てる気がしない。微塵たりとも。

 前に立っただけでこの体は怯えてしまう。殺意を向けられた時点で槍を握っている事すら覚束なくなる。

 腕ごと槍を吹き飛ばされ、何も出来なくなったところで体を握り砕かれる。

 突き刺した槍が引き抜けないその隙に叩き落とされ、踏み潰される。

 不用意に跳んだその瞬間に腹をその尾で貫かれて目の前にまで持って行かれたその末に、頭を丸ごとインナーマウスで食い千切られる。

 そんな凄惨な最期を迎える、確信めいた予感はいつまで経ってもプレデターの中に居座り続けた。

 ……少なくとも、この怯えをどうにかしなくては何をしようとも話にならない。

 また、唐突に逃げてプレデターの船が来るのを待ち、帰るだけならば可能だろうと思えるが。

 これ程の怯えを植え付けられながらも、敗北したままに帰還する事は誇りが許さなかった。

 プラズマキャノンもガントレットも、リストブレイドもレーザーディスクも何もかもが無く、持てる武器がこの槍だけだとしても、この敗北をそのままに帰還するならば死んだ方がマシだった。

 ……だから必要なのは、慣れだ。

 しかし、クイーンの前に立ち続ける事など不愉快に思われて殺されるだけだろうし、それにそうしたところで慣れは訪れてくれないだろう。

 そうなると。

 ただのゼノモーフのクイーンと戦いたい。そうして体を慣らしていきたい。

 そう思い始めた。そして、その機会は訪れるべくして訪れた。

 

 唆す事自体は、プレデターは始めていた。

 対象を群れのプレデリアンにではなく、駆除対象のゼノモーフに変えたのだ。

 混戦の中、プレデリアン達が物量や力に苛まれているその最中に、殺すのではなく敢えて柄で殴りつけて怯ませた、逃げる事が得意なランナーに伝えた。

 巣の中には子種と出来るプレデター達が数多に居る事や、自分が強大なるクイーンに対して反逆を志している事を。

 それと共にほんの僅かに、最も重要な巣の情報を加えて最後に選択させる。

 死んだ振りをしてこの情報を持ち帰れ。もっと情報が欲しいのならば自分の要求に応えろ、と。

 その、プレデターが要求した事はたった一つ。

 貴様らのクイーンと三回戦わせろ。そして敗北したならば情報は全て吐く。そして苗床にでも子種にでも好きにしていい、と。

 三回戦えても、全ての情報を渡そうとも。

 群れの長を自分の糧に捧げろと言う、普通なら絶対に通らない要求であるが、またプレデリアンにそれを告げ返されたら自分は詰んでしまうが、それでも応えるだろうという目測はあった。

 

 まず、強い力を持つ特殊個体の数が一つの群れで賄えない程である事から、複数の群れが結託している事は明らかだ。

 また既に築き上げられた屍の数は一つの群れの総数では足りない程であったし、苗床、食料という資源も、プレデリアンの縄張りを除いたその近辺からはほぼほぼ尽きつつある。

 クラッシャーやプレトリアンを数多に生み出してプレデリアンに善戦出来始めたかと思えば、自分という異物に遮られ、更にクイーンはその自分よりも遥かに強いという事実。

 そして、複数の群れが結託しているとは言え、そこにあるのは友好的な関係ではないだろう。ゼノモーフは複数の群れで仲良しこよしするような存在ではない。あるのは、プレデターという優良な子種を手に入れたい為の打算的なものだろう。

 ライバルを蹴落とす事も出来るこの欲求は、必ずしも悪いものではないはずだ。

 

 そして返って来た、それに対する答えは、信用を見せろとの事だった。プレデリアンを数匹、乱戦の最中に殺した。僅かにでも反逆を悟らせないようにその長い頭を一直線に貫き、捩じりながら即座に引き抜く。そして証拠隠滅の為にもクラッシャーやプレトリアンに踏み潰させる。

 そこまでやると、次にクイーンがやって来た。

 

 都合の良い事に、プレデリアン達は他のゼノモーフ達の猛攻に阻まれ、自分とクイーンが一対一の関係になる。

 自分の糧とする事を全面的に承諾したのか、それとも……。

 また、プレデリアンのクイーンではない、ただのクイーンを見るのは久々で、逆に珍しいような感覚になった。

 後ろから襲い掛かって来たゼノモーフを一薙ぎで屠りながら、そのクイーンの様子をざっくりと眺めた。

 頭の冠は砕けて新しく、その胸から生える小さな腕の一つは千切れている。他にも引っ掻かれたような傷は数多にあり、クイーン同士の戦いにでも敗北したかのような様相だった。

 そして体は巨大であれど、恐怖など微塵も感じない。

 ――先に情報を渡せ、さもなくば貴様の裏切りを告げてやろう。

 プレデターは、プレデリアンの現在の数の概算と地中深くのその巣の大きさを、そのクイーンにではなく、近くで跳び掛かるのを躊躇しているゼノモーフに伝えた。

 その途端に走り去って行くゼノモーフを見届けたところで、クイーンに向き直して聞いてみる。

 ――ここに居るのはもう全て、お前の子であろうともお前の配下では無いだろう? 最弱の女王様?

「ガアアアアアッ!!」

 一気に怒り頂点に達したクイーンは、その巨体を回転させて尾を薙ぎ払ってきた。

 最低限の跳躍で避ける。

 ……触れられてはいけない。きっとプレデリアンのクイーンの攻撃の全ては、掠っただけでも致命的なものになる。

 ただのクイーンと言えど、前に戦った時は鎧を身に着けて、多様な武器を備え、それらを駆使していた。

 しかし、今あるのは一本の槍だけであっても、今のプレデターにとっては大した相手ではなかった。

 動きはどれもが大振りで、目に見えて分かる。同じ体躯のクイーンと戦う時と全く同じであろう戦い方。

 群れを統率する長なのに、頭が圧倒的に足りてない。何故こんな個体がクイーンになってしまったのかと思う程に落胆する。

 多分、強いプレデリアンならば一匹だけでもこのクイーンには勝てるだろう。一撃を躱して首にでも飛び付き、振り解かれる前に強引に首の血管でも引き千切るか、胸に手を突っ込み、心臓を抉り出すか。

 ――弱い。

 落胆する気持ちを隠さずにプレデターは告げた。

 それでもクイーンは全く変わらない。怒りに任せて腕を、尾を振るうだけ。

 残り二体もこんな様子だったら流石に困る。そんな事を思いながら、プレデターは振るわれた手の、指の一本を切り飛ばした。

「ギアッ!?」

 怯み、思わず後ろに下がるその一瞬。前に詰める。反射的に飛んでくる直線的な尾。一歩ずれればそれは隣の空間を突き刺しただけ。後ろから捩じって刺しに来るような素振りも無い。

 尻尾を踏んで軽く跳躍、両手で槍を持ち直して高く振りかぶる。

 膂力と体重を込めて振り下ろされた槍の先端は、今度は胸から生えるもう一本の腕を切り落とした。

 絶叫と共に血しぶきが上がる。流石に数歩下がり、しかし初めて引いたプレデターに対してクイーンは攻めては来なかった。

 度重なる痛手にクイーンが攻撃を躊躇したその瞬間、怒りが痛みで冷めたその瞬間、未だ無傷なプレデターが目に入り直った。

 息切れもしていなければ、緊張すらしていない。その自らを見る目は明らかに自身に失望している、自然体で立つその姿。

 ただ、クイーンには戦って勝つ以外に生きる道ももう無かった。

 プレデターの画策に乗る事にした周りのクイーン達は、特殊個体を数多く産む事も出来なければ、群れ自体の強さもそう大した事もないこのクイーンの群れを、もう既に潰していた。

 今からでもこいつを捕らえられれば、比較出来ない程に強い子を作り出せる。返り咲ける。

 けれども、それでも。このプレデターに勝てるビジョンは何一つとして見えなかった。

 肉体は矮小で、血を浴びてしまえば焼け爛れて死ぬだけのか弱い存在のはずなのに。その手に持つ武器はこの尾よりも遥かに短く、曲がりもしない単純なものなのに。

「ギ……グ……」

 今更そんな実力の差に気付いたクイーンに対して、プレデターは冷めた感情を向けながらこのクイーンを限界まで甚振る事に決めた。

 

 不用意な腕の振りは、その代償として指の一本一本が失われる結果をもたらした。背後に回れば首を貫かれるのではなく背中の管を千切られ、それを突き刺そうとすれば自らの背中を突き刺してしまい、情けない悲鳴を上げた。

 当たる事を願って振り回した尻尾は、その先端が一度目の斬撃で感覚を失わされ、次の斬撃で切り落とされた。

 流される血は次第に体の動きを鈍くし始める程の量となり、両方の腕から指が失せた頃、クイーンはとうとう膝を着いた。

「つまらなかったな」

 そう呟き、プレデターはそのクイーンの前に立ち直す。その瞬間、クイーンはプレデターに向かって跳び掛かった。突然の動き、プレデターが緊張を解いた直後、しかしプレデターはひらりと予期していたかのように身を躱した。

 全ての指が無くなった手は何も抱く事もなく、喰らいつこうと出したそのインナーマウスのその側には、槍を高く掲げたプレデター。

 恐怖は、絶望はもう既に味わい尽くしていたその筈でも、全身が凍る程のそれを覚えた。そして、インナーマウスは槍によって串刺しにされた。

「~~~~!!」

 結局、血を浴びせる事はおろか、その身に触れる事すら叶わなかった。

 クイーンは身も心も完全に折られ、そして最後、プレデターは切り落としたそのクイーンの尾の先端で首を掻っ切った。

 数多に流れて行くその血、クイーンはゼノモーフらしさを失ったかのような程の悲壮に囚われ、そして死んでいった。

 

 槍を引き抜いて振り返れば、プレデリアン達とゼノモーフ達の戦闘も終わりが近付いている。

 今回は特殊個体はそう多くなかったが、戦法を工夫しているようで少なくないプレデリアンが死亡していた。

 結局それは、数多くのゼノモーフを圧倒出来る程の技量を持っていないからに過ぎない。

 今のプレデターならば、首を掻っ切ろうとも、胸を貫かれようとも多少動けるような馬鹿げた生命力も無いならば、そして閉鎖空間でないのならば、プレデリアンの群れが来ようとも圧倒出来るだろう。

 そう出来ないからこそ、プレデターはプレデリアンと戦う事を避けていたのであって、そして罠に嵌った後は何も出来ずに子種とさせられた訳だが。

 そうでないただのゼノモーフには、簡単に圧倒出来る。

 加勢してやるか、と思ったその時。ゼノモーフの数体が一気に吹き飛んだ。そこから姿を現したプレデリアンは、他のゼノモーフの纏まりに飛び込んでいく。

 腕の一振りがゼノモーフの頭を叩くと首ごと捩じ折り、同時に尾が別のゼノモーフを串刺しにしている。そのまま全身を強く回転させ、それをモーニングスターのように他のゼノモーフに叩き付けた。

 骨が砕け、身が弾ける、派手にも程がある威力だ。

 まるで嵐のような戦い方。

 おお、と感心しているとそのプレデリアンが告げて来る。

 ――子種などに頼られるか。

 プレデリアンの自我も、日を追う毎に強くなっている。

 ただ……これは喜ばしい事なのだろうか?

 それがクイーンからの独立の芽となるのか、それとも自分に対する強い障壁となるのか。

 今のプレデターには分からなかった。




(自分が求めている)尊厳を折られるプレデターと(多分読者が求めているであろう)格好良いプレデターを描けたので結構満足。
元々活動報告から書いていたプロットから結構ずれてきましたね!
で、残り2~3話かなぁ、と思います。
後、結末に関しては2種類書こうかな、と。
要するにグッドエンドとバッドエンド。より書きたいのはバッドエンドだけどグッドエンドから書くかな。それ考えると残り3~4話。
のんびりお待ち頂けたら幸いです。

後、この話翻訳して海外のエイリアン好きやらプレデター好きやらに読んで貰ったらどんな評価受けるんだろうなー、という疑問がぼちぼちあったり。

ゲーム的ネタED集:
ED1: プレデリアンと接触せずに試練成功の何も起こらなかったED
ED2: 捕らえられる前に自爆ED
ED3: クイーンに恭順を示さず誇り貫き死亡ED
ED4: 子種としての役目を果たさず、やっぱり誇り貫き死亡ED
ED5: プレデリアンを唆し、クイーンにばれて子種としてのみ生かされるED
ED6: プレデリアンから逃走成功、誇りなんて無かったED(プレデリアン全てとクイーンから追い回されながら船を待ち、最終的にその中を潜り抜けて船へと帰還しなければいけない超絶難易度)

主人公プレデターに関して:
元々はドーピングも無しに戦果を挙げて来た、普通に誇り高いプレデター。
ゼノモーフに支配された星で一定期間生き延びる試練で、プレデリアンのクイーンの策略に嵌り子種に。
体にゼノモーフの因子を植え付けられた事もあるのと、クイーンの絶対的な強さに畏怖して一度は恭順を誓う。
けれど、そのクイーンが安寧を求めていると理解したその瞬間から反逆を志すように。
ゼノモーフの因子を植え付ける液体を再び飲み、より色濃くゼノモーフに近付き、意思疎通が出来るようになった。

で、一度子種になった事もあって、クイーンへの反逆の為なら同族がどうなろうとも知ったこっちゃない結構なクズ。
ただ、プレデターって、自らの狩猟技術の向上の為なら同族でも手を掛けるとかそういう所結構あるし、プレデターの中では意外とそんなに外れていないかもしれない。

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