今回は恰好良いプレデターだけです。
ゼノモーフの女王が出来る過程は二つある。
一つは、女王となるゼノモーフを寄生させるロイヤルフェイスハガーから生誕したチェストバスターがそのまま女王となる場合。
そしてもう一つは、不慮の事態によって女王が死亡した場合に、その群れで最も優秀な個体が女王となる場合。
前者は勿論、最上の胚から生誕したゼノモーフであるからこそ、女王としても強者である事が定められている。しかし、その最上であるというのは、そのフェイスハガーを生み出す前回の女王、もしくは死体からフェイスハガーを作り出すゼノモーフの素質に左右される。
後者は、前者に比べれば個体の質としては低くなりがちだ。だがしかし、それを補って余る知識、経験、狡猾さと言ったものを獲得している。
どちらが手強いかと問われればそれは勿論、後者だ。時にその女王を単騎で打ち倒してしまう程に技術に長けたプレデターに対抗するのに必要なものは、女王自身の膂力や群れの数と言ったものではない。自らの群れを使って如何にプレデターを消耗させ尽くすか、その思考だ。
しかし。
プレデリアンの女王に反逆を志すそのプレデターは、そんな女王からしてももう、既に逸脱した存在となっていた。
二番目に来た女王は、プレデターから見ても並よりは遥かに強いと直感出来る程であった。その兜は強く欠け、全身には傷が見受けられる。
だがそれは全て古傷だった。最初に贄とされた女王のような惨めな傷ではない。群れ同士で争い、それに勝利して来た証であった。
そして向かって来るその足取りにも惨めさは感じられない。自らの意志でこの自分を苗床にしようとやって来ている。
自分を倒せる程の策を案じて来たのだろう。
数で囲まれたプレデリアン達に対して、プレデターはその外で欠け兜の女王と対峙している。また、敏捷性に長けるランナーや遠距離から酸を吐き出せるスピッターと言ったゼノモーフ達が周りを取り囲んでいた。
数はざっと見ただけでも百を超えている。
――臆病な事で。
そう挑発しても、欠け兜の女王は何も反応を返さなかった。自分の強さを理解されていると思うと嬉しくもあったが、流石に余裕も少ない。
ここを訪れたばかりの自分ならば、自爆を迷う程に死を覚悟していただろうが。
槍を構える。修行の時間だ。
そして唐突にプレデターは欠け兜の女王へと駆けた。その瞬間、スピッター達がプレデターに向かって、そしてクイーンの直前に向かって酸を吐く。
どうやら、この行動は想定されていたらしい。
ゼノモーフの因子を色濃く取り込んだその血はもう既に酸性を示し始めている。身に受けても一気に体が焼け爛れ、崩れ落ちていくまでの致命傷にはならないだろう。
だが、無傷でも居られない。体を捩じり、槍を振って直撃を避ける。僅かな飛沫が体に降りかかる。
じわりと音を立てるが、表皮が黒ずみ、剥がれ落ちるに留まった。筋肉までには届いていない。血溜まりを踏んではいけない事は変わらないが、多少は気が楽だ。
ランナーが四方八方から駆けてくる。跳び掛かっては来ず、距離を取ってギリギリ届く位置から尾を突いて来る。スピッターが更に酸を吐いて来る。そして欠け兜の女王は一歩離れた位置に居るが、隙あらば致命の一撃を叩き込もうと窺っている。
成程、出来るだけ損害を抑えつつ自分を摩耗させようと企んでいる。
だが。プレデターは突いてきた一匹の尾を掴み、力づくで振り回した。
「ギィッ?!」
片腕で易々と振り回せる膂力も既に備えている、それは飛んでくる酸を打ち消した。掻い潜って跳び掛かったランナーの数匹は、しかしそんな最中のプレデターにも傷一つ付けられずに槍で首を切り裂かれる。
そのまま投げ飛ばされたランナーは別のランナーにぶつかり、ごろごろと転がる。そしてその二匹は駆け始めたプレデターによって起き上がる事も叶わなかった。
そうして狭い包囲を掻い潜れば、ランナーの尾を根本から切って手に取る。その身長程の長さを誇るゼノモーフの尾は、ゼノモーフにとっての主力武器であり、そのままでも鞭としてプレデターも活用する程だ。
「久々に使うが」
そう呟いてビチィッ! と一度振えば、その先端はまた包囲をしようとしていた一匹のランナーの頭を反応も許さず弾き飛ばしていた。
「……」
ただ、敏捷性を第一に誕生させられたランナーの尾は細い。自分の膂力で振るっていてはそんな長持ちはしなさそうだった。
まるで手が付けられない。未だプレデターに触れた子は居らず、子供は着々と数を減らされている。
そして、欠け兜の女王はそんな相手に対して新たな手立てを思いつけていなかった。
この欠け兜の女王はプレデターが想像した通りに、女王となる事を定められた女王ではなく、女王を喪った群れの、最も優秀なゼノモーフとして新たに成った女王であった。
女王と成る前は幾多の戦闘を経験して勝利、生き延びて来た。そうする内に自らの主導で一つの群れを潰した事もあった。
自らが女王と成った後には、子を数多に産みながらも他の群れを幾つか潰して我が物とした。襲撃に対して全て防衛を成功させてきた。
そんな歴戦且つ、経験豊富な策略家である欠け兜の女王は、このプレデターもまた我が物と出来る自信があった。
最初の無能とは違って、自ら我が物とする為に前に出た。油断せずに確実に仕留められるように策も練った、はずだった。
侮った訳ではない、はずだ。そう思いながらも、我が子は次々と屠られている事実は変わりない。傷と言えば、その身に僅かに付着した酸だけ。
しかし、欠け兜の女王には一つ、それもプレデターを相手取る上で重大な要因に対して認識出来ていない事があった。
プレデターと言う種族は、狩りを本能レベルで好いている事。狩りの為ならば、その腕前の向上の為ならば、自らの命を死地に差し出す事は勿論、宇宙に飛び出して他の知的生命体に文明を与える事さえも厭わない。
そうして引き継がれていく技術は、個々に培われていく経験は、知的生命体の中でも遥かに高度であり、プレデリアンの女王ですら罠に嵌めて抗いようのない数で圧し潰す事を選んでいる程だ。
そして今、その技術と経験は、ゼノモーフの因子を身に取り込んだ事によって更に底上げされている。
身体能力の向上、酸への耐性に始まり、そしてゼノモーフとしての精神性――時に命を投げ打つ事さえも厭わない程の忠誠、女王の為ならば砕ける事のない意志の強さ。
その長所のみをもう既にこのプレデターは十全に使いこなしていた。プレデリアンの女王への忠誠は……未だ怖気づいているが一応仮初めである。
プレデリアンとしか対峙した事のない欠け兜の女王は、それを認識出来ない。しかしながらも、新たに策を打って出る。
自らの子の死体を蔑ろにする事は、少なくとも好める事ではない。だが、このプレデターを倒す為に必要ならば行うべき事であった。今も尚、子は殺され続けているのだから。
そうして、欠け兜の女王は子の死体を叩き潰した。酸が弾け飛ぶ。また骨が砕け、肉が千切れたそれをプレデターに向けて投げつける。
寸前に気付いたプレデターは、強く横に跳躍した。回転しながら飛んで行くそれは酸を激しく撒き散らしながら、他のゼノモーフにぶつかるだけに留まった。
しかし、後の事を考える時間まではなかった。跳んだ先にはゼノモーフがなるべく少ない場所を選んだが、既にそこにはスピッターが酸を吐いている。
槍を突き立て、着地をずらす。転がって構え直したその目の先では、欠け兜の女王がそんな新たな武器を量産しており、ゼノモーフ達も死体を引き千切っているその様子。
これからは叩き潰された死体の他に腕や足も数多に飛んでくる。
「嫌らしい事しやがる……」
敵陣の中に突っ込んだ挙句にその身を爆発させるゼノモーフの種類も居ると聞いた時には、ゼノモーフと言う種族が追い詰められたらそこまでの変異をするのかと驚きもしたが。
やっている事は大体同じだ。
そんな変異をさせる女王は、子の死体を活用する事も想像出来ない馬鹿なのだろう。
ゼノモーフの手足や内臓が飛んでくる。穂先で切るにせよ柄で弾くにせよ、血が飛び散る。避けるのが最善だが、そうしていれば足場が無くなり追い詰められる。
早急に数を減らさなければいけない。だが、その為には武器を得たゼノモーフ達の懐に飛び込まなければいけない。
「……」
こうして一匹一匹を着実に倒していくよりも遥かに危険だ。だが、その程度出来なければプレデリアンの女王には勝てやしないだろう。
欠け兜の女王がまた死体を投げつけて来る。回転しながら撒き散らされる血は広範囲に広がるが、良く見れば回転の向きに従ってしか酸は散って行かない。
ゼノモーフ達がプレデターの跳躍を妨害するように位置取るが、プレデターは前に向かって走った。
予期していなかった動きにゼノモーフ達が一瞬硬直する。
しかし全てがそうではなく、優秀であろう個体が前へと出た。突き出された槍を頬を、肩を抉られながらも辛うじて避けながら、突き出された腕を掴んだ。
初めての接触、だがプレデターは腕を振るだけでそれを解く。そして首を掴まれ、抵抗する間もなく指の力だけで折られた。
けれどもその瞬間、今までどうしようとも止まらなかったプレデターが、止まった。その僅かな硬直は、初めての接触は、ゼノモーフ達が好機と取るのには十分過ぎた。
欠け兜の女王が、尾を叩き下ろす。プレデターが後ろに跳び退けば、事切れたばかりのゼノモーフは四散する。僅かに血が体にまで飛んで来る。
そして数多のゼノモーフが死体を投げつけ、酸を吐き、そして襲い掛かって来る。
その中で跳び掛かって来たゼノモーフを串刺しにして盾にしながらプレデターは前へと進んだ。両脇から爪が切り裂こうと、尾が貫こうとしてくる。
生け捕りにしようとしていた最初の余裕はもう既に微塵もないその殺意。
槍から一瞬手を離す。身を翻して攻撃を避けながらも、一蹴りでゼノモーフの首を折る。槍を掴み直し、更に突き進む。奥に控えていたスピッター達の懐へと踏み込んだ。しかしそこにはもう既に酸が溜まりとなっている。
そこでプレデターは槍を地面へと突き刺し、串刺しになっていたゼノモーフを踏みつけ足場とした。槍を引き抜く。その動作の内に背後からランナー達が迫る。スピッター達が飛び退きながら酸を吐き、死体を投げつける。
プレデターは更に前へと跳んだ。死体を弾く。酸を身に受けたが僅かに済ませる。スピッターの背後にまで着地した時には槍が振るわれており、スピッター達は血を噴き出しながら崩れ落ちる。
「これが欲しかったんだ」
奥から酸を吐き出してくるだけのスピッターは中々に屠れなかったが、やっとこうして、背後にまで立つ事が出来た。
プレデターは尾を切り、手に取った。
武器として使う為に血を溜め込む性質のスピッターは、プレトリアンやクラッシャー等の種を覗けば、ゼノモーフの中では大きい部類に入る。
その尾は、ランナーのそれよりも太く頑丈だ。また穂先は二股に分かれており、複雑な傷を与えられる形状をしている。
プレデリアンの尾よりは頑丈ではないが、少なくともこの戦闘では十分間に合いそうである。
そしてその時であった。
唐突にやって来たプレデリアンがランナーを叩き潰した。
異変に気付いた欠け兜の女王が振り返れば、プレデリアンを囲んでいたクラッシャーやプレトリアンと言ったゼノモーフ達がもう既に半分以上が倒れている。
それも、欠け兜の女王にとっては想定外だった。もう少しの時間は耐えられると踏んでいた。
しかし。プレデターに本能レベルで刻まれている狩猟本能は、狩りへの誇りはプレデリアンにも少なからず受け継がれている。子種であるプレデターに女王への貢献度を凌駕されるその屈辱は、プレデリアンの実力を持ち上げるに至っていた。
新たに策略などを考えている時間はもう無かった。女王としての自らの命すらも賭けて、このプレデターを早急に倒さなければ、あるのは破滅だけだった。
そんな覚悟を傍目に、プレデターは適当なゼノモーフに二つ目の情報を伝えた。それは、プレデリアンの女王が擁する子種としてのプレデターの数。育てている最中の雄と、そして子種として不可欠な雌がどれだけ居るのかの情報。
プレデターにとっては、まだ反逆をばれたくないが為の早めの行動であったが、欠け兜の女王にとってはプレデターがもう自身に対して勝利を確信していると取れる行動だった。
怒り心頭となった欠け兜の女王は、やって来ていたプレデリアンの一匹に尾を叩き付けた。鋭いその先端によって真っ二つにされたプレデリアンを更に踏みにじりながら、プレデターに向き戻る。
プレデターは片手に槍を、そしてもう片方にスピッターの尾を持ちながら、仕切り直すようにゆっくりと歩いて来る。
――さっさと終わらせようか。プレデリアン達が来る前にな。
その動きには未だ、疲労も怪我も影響している様子が微塵も見えなかった。
尾を持つ腕が振るわれる。ランナーの頭が弾ける。
槍を持つ腕が横薙ぎに払われる。数匹のスピッターの首から同時に血が噴き出す。
全く違う二種の武器を容易く使いこなすプレデターにゼノモーフ達は近付けない。死体を投げつけても酸を飛ばしても、それらに容易く弾かれる。背後から狙おうとしても、まるで背後にも目が付いているかのような動きで的確に仕留められていく。
そこに、とうとう欠け兜の女王が積極的に仕掛けた。もう好機を悠長に探っている時間は無い。
巨躯を支えながらも強く駆ける事も出来るその脚で一気に近付き、蹴り飛ばそうとする。
当然そんな大振りはプレデターに当たる訳ではないが、その背後にはゼノモーフ達が続いて来ている。また欠け兜の女王の背や頭の上にも数匹のゼノモーフが乗っており、虎視眈々とプレデターが隙を見せる時を窺っている。
プレデターは最低限の動きで蹴りを躱す。背後から続くゼノモーフ達が跳び掛かり、同時にスピッター達がそこに酸を吐く。
跳び掛かるゼノモーフ達を屠る事は可能だ。だが、欠け兜の女王の尾が高く掲げられている。ゼノモーフ三、四体分の長さを持つそれは女王としての優れた肉体もあって、ただのゼノモーフよりも遥かに素早く複雑に動く。
距離を取る事を優先したプレデターに、振り向いたクイーンが尾を飛ばす。それはプレデターの跳躍にも追いつき、しかし辛うじてプレデターは身を捩って躱した。
腕の肉が僅かに抉れる。頬から皮一枚、プツ、と血が漏れ出す。背中から倒れる。
初めて体勢を崩したプレデター。ゼノモーフ達が殺到する、それより前に欠け兜の女王が尾を持ち上げ串刺しにしようとする。プレデターはしかし、その尾を避けようとはしなかった。体を跳ね起こし、欠け兜の女王の尾が突き刺そうとしたその瞬間、持っていたスピッターの尾の穂先を掴み直して、逆に欠け兜の女王の尾へと突き刺した。
「ギイッ!」
唐突な反撃、思わず尾を引き戻す。突き刺したプレデターも勢い良く引っ張られ、そして手を離す。慣性に従ってプレデターは欠け兜の女王の背へと飛んで行く。
背に乗っていたゼノモーフは辛うじて尾を振って攻撃しようとした。今度、プレデターはそれを掴み直す。ゼノモーフは思わず落とされまいと欠け兜の女王にしがみついた。
――それが、致命的だった。
その行動によって、プレデターは欠け兜の女王の背に足を着く事が出来た。しがみついていたゼノモーフを蹴り殺し、女王特有の巨大な背中の突起に手を掛け、槍を持ち直す。
周りのゼノモーフ達が焦って欠け兜の女王へと群がろうとする。頭に乗っていたゼノモーフが跳び掛かる。欠け兜の女王がプレデターを振り落とそうとする。
どの行動も実を結ばれるよりも早く、プレデターは槍を首の骨に向かって突き刺した。
バキャッ。
「ガッ……」
プレデターの叡智を以て作られたその槍は、プレデターの膂力もあって深々と突き刺さる。
がくんと膝を折り、欠け兜の女王は崩れ落ちた。
「キィィィアアアアアァァァァッ!!」
同時にゼノモーフ達が一斉に悲鳴を上げ、のたうち回る。
女王に与えたその致命の一撃が、子にも一斉に伝播したのだ。群れとして一丸となってプレデターを屠ろうとした、その団結力が逆に仇となった。
「……さて」
槍を引き抜けば、女王はもうぴくりとも動かない。それと同様に脅威を失ったゼノモーフ達を仕留めていく間に、プレデリアン達もやって来た。
何を伝えられなくとも、目が無くとも、悔しそうにしているその様子は明らかであった。
中々に快感であったが、しかしまだ、それに浸る時ではない。
――戻ろうか。
淡々と、プレデターはそう提案した。
今回で3体目のクイーンとの戦闘終了まで書くつもりだったけれど、戦闘シーンが想像以上に長引いたので、一旦ここまで。要するに1話増えます。
次はそんなに間を開けずに投稿します。
戦闘シーンって、起きている事柄を淡々と書き連ねてもスピード感が欠けて盛り上がらないし、擬音とかそういうものを多用しても安っぽくなるし。
視覚的に見せるなら改行とか増やして意図的にスクロールさせるのもアリなんだろうけど、それは正直やりたくなかったり。
そんなので難しいけど、華だから楽しい。
投票は薄々分かってたけど、皆プレデターの方が好きなんですね。
自分もプレデターは好きですよ、エイリアンの格好のやられ役としてのみですけど。
元々これ、そういう意図で書いた短編だったし。
プレデターの好きな装備
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プラズマキャノン
-
リストブレイド
-
スピア
-
ウィップ
-
レイザーディスク
-
ガントレット
-
ヘルメット
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ネットランチャー
-
他