晴哉は泊まる部屋もなく、広場のベンチでぐぅぐぅといびきをかきながら爆睡していた。
「何をしてるんですか?」
進化前ミロクが不思議そうに晴哉の寝顔を見下ろした。
だんだんと、自分が座ろうとしていたベンチで爆睡している晴哉にイライラし始め、剣の柄で晴哉の顔を軽くつついた。
「んあ?…うっ…うわぁ!!み、ミロク…」
晴哉は頬を軽く膨らませたミロクに驚いて飛び起きた。
「主人様、ここは皆の公共の場所です。」
「ごめん…」
晴哉は謝った。ミロクはため息をついた。
公共の場所で爆睡するのは確かに駄目だ、でも晴哉はとてつもなく疲れている…なんて理由で許されてたら今こうやって注意されてない。
「…はぁ…泊まる場所が無いなら言ってくだされば良いのに…」
「え?いいのか?」
「当然ではないですか。」
晴哉は心から感謝した。もう頭のおかしな奴の所に泊まる必要が無いのが嬉しかったのだ。
「付いてきてください。」
晴哉はミロクに言われるがまま付いていった。
ミロクの部屋らしき前に付いたが、異様な空気を漂わせている。
赤いオーラというか、気というか、そんな赤い帯状の物がドアから漏れていたのだから。
「な、なぁミロク…これ中でなにやってんだ?」
「?別に何も。」
ミロクはそう言いながらドアを開けた。
ドアの先には想像を超える異様な空間が広がっていた。
壁も天井も床も全て黒混じりの赤で塗りつぶされている部屋だ。
はたまたベッドやキッチンでさえも、黒混じりの赤色だ。
「どっか適当に座ってください。椅子という物が無い物で。」
晴哉は仕方なく、おどおどと床に座った。
やばいのは見た目だけで、床は痛くも熱くも無かった。
しかし、じっ〜と床や天井を見ていると吸い込まれそうな気がした。まるで宇宙空間のような感じだった。
「どうかしました?」
「いや…なんでもないよ。」
目眩がしかけたが、晴哉はぐっと堪えた。
「さて…お茶でもどうぞ。大して美味しくはないでしょうが。」
「ありがとう…」
晴哉は差し出された麦茶を受け取ると、ぐびっと一息で飲み干した。
「……主人様…あなた、これからの“覚悟”はありますか?」
「へ…覚悟…?」
「覚悟。あなたはこれから強者の界の最終三クエストに向かいます。」
最終三クエスト。残り三つしかクエストが無いということだ。
「は…もう三クエストしか無いのかよ?!」
「はい。だからあなたに聞いてるのです。」
「以前、ラグナロクを倒した際、あなたは仲間達と精一杯喜んでいましたよね?」
「あれ程絆を深めた仲間達と、別れる“覚悟”があるかを、私は聞いています。」
晴哉はそのミロクの問いに、黙り込んでしまった。
残り三クエストしかない強者の界。
早く現実に帰りたいが、ここで作った新たな仲間との別れを考えていると…だんだんと悲しくなっていた。
「…では質問を変えましょう。あなたは何を欲しますか?」
「……え?」
そのミロクの質問に、さらに晴哉は声が出せなくなっていた。
「元の世界に帰ることを欲するか、この仲間達と共にいることを欲するのか。簡単な二択です。」
ミロクは二本の指を晴哉の顔の前に押し出し、そう言った。
晴哉は考えに考えた。
これから自分がどうするのか、何をするべきなのか。
──そんなことは簡単だった。
「俺が欲するのは、元の世界に帰ることだ。ずっとそれを目標としてやってきた。もう後戻りなんてしない。」
晴哉のその言葉を聞き、ミロクはにっこりと微笑んだ。
「その方が、私達も安心です。」
────
ミロクの部屋のベッドで寝ていた晴哉は、まだ心残りがあった。
自分が帰った後、時間が戻されると言ったが、それは現実世界だけ。
このモンスターストライクの世界の時間は戻されない。
晴哉と戦った記憶も、晴哉と話した記憶も、モンスター達はしっかりと刻み込まれている。
自然と、涙が溢れそうになった。
たったと数日程しか過ごしてない筈なのに、なんでこんなにも悲しいのか、晴哉は分からなかった。
共に戦っただけで、モンスター達との絆はありえない程に深まったのだ。
しかし、もう決めた事だ。この世界に来たときから、元の世界に戻るため、強者の界をクリアし続けてきた。
後戻りなんてできない──
晴哉は暗闇の中、ベッドの上で静かに目を閉じた。
──朝になった。光すら入ってこないミロクの部屋で、自然と目を覚ました晴哉。
(ミロクはまだ寝てるのか。)
ベッドの上で横になり、ススーと綺麗な寝息を立てながらミロクは寝ていた。
晴哉はミロクを起こさないよう、そっとドアを開け、そそくさと部屋を出た。
(覚悟…もうこの戦いも終わるんだよな。)
晴哉は廊下を歩きながら、ミロクの言ったことをよく思い出していた。
(さ、行こう。“最後の戦い”に。)
──最終界まで残り 3 界
最終界まで残り 3 界