第二十三話
◇ 最終章
「オラオラ死にたくねぇなら退きやがれクソ共ォッ!」
バイクで校門を突破して校庭へと向かうと、魔物の大群にやられそうになっている魔法少女が最初に目に入ってくる。それは隣を走っている両親も気づいていたらしく、親父が運転する車の助手席に乗った母親は窓から身を乗り出し、奴を襲おうとしていた魔物を弓矢で撃ち落としていた。
まずはあいつの周りに蟻のように群がっている魔物たちを散らすため、アクセルを吹かして奴らに近づき、避けない魔物は片手に握った木刀でぶん殴ってやった。
車を運転する親父は、母親が飛んでいる魔物を撃ち落としやすいルートを選択して走っている。どうでもいいが、いつもの安全運転など皆無。レーシングドライバーでも驚くんじゃないかと思うほど、巧みなドライビングテクニックを披露している。
「なんだよ! 今日はえらく運転が荒いじゃねぇかっ」
「前見て走れ息子ォっ! 気を抜いてるとうっかり轢くかも知れんぞ!」
「パパは運転をしてる時にサングラスを掛けるとリミッターが外れるのよっ!」
「何のリミッターだよっ。つーかいま夜だぞっ。サングラス掛ける意味がねぇだろうが!」
「なめるなっ。家族を見つめる時のお父さんの視界は、いつだって輝いている!」
「そのまま魔物に突っ込んで死んどけ!」
車と並走しながらドライバーの親父にツッコミを入れる。
それとほぼ同時に上空から近づいてくる
「危ない魁人っ!」
俺に向かって急降下してきた魔物を、助手席に乗った母親が弓で撃ち落としてくれる。
「助かったっ。つーか、なんでそんなに弓がうめぇんだよ!?」
「お母さんは大学生の時、流鏑馬で日本一になった事があるのよ!」
「マジかっ。聞いた事ねぇよっ!」
「ふふっ、すごいでしょっ? パパと出会ったのも流鏑馬の大会の日だったわ!」
「そうだったねママっ! お父さんは弓が上手くて可愛かったママに一目惚れして、それから運び屋から足を洗ったんだっ!」
「運び屋っ!? あんたの過去に何があったんだっ!?」
「口では言えないようなものを車で運ぶ裏社会の仕事だっ!」
「トランスポー〇ーかっ!」
こんなタイミングで明らかになる両親の過去。グレていた時間が長かったから、こいつらがどんな人生を送って来たのかなんてほとんど知らなかった。
「でもな! ある時ママは別の男と政略結婚させられそうになったんだっ!」
「結婚式が始まって指輪を嵌められそうになった時、パパが車でお母さんを奪いに来たのよっ! 今でも覚えてるわ『これから俺と人生という名のドライブに行こう。君は助手席に乗っていてくれ』って、その時パパは言ってくれたのよ!? きゃーっ、思い出すだけでお母さんドキドキしちゃうーっ!」
「それからお父さんとママは結婚したんだっ! そして生まれたのがお前だ魁人ォ!」
「それ以上何も言うんじゃねぇクソ親共!」
訊いてもいないのにそんな話をべらべらと話す親父と母親。二人には悪いが、両親がどんな恋愛をしてきたかなんて正直一ミリも知りたくなかった。
「もちろん今でも愛してるよママッ!」
「私もよパパッ!」
「マジで黙ってろてめぇらッ!」
こいつらの間から生まれた自分を嫌いになりそうだった。来世はもうちょい賢い両親のもとに生まれたい。
「カイトさんッ!」
「手ェ伸ばせっ!」
ようやく魔物の群れが晴れ、俺はその中心にいた魔法少女まで近づく。
すれ違いざまにその手を握って身体を引き上げ、後部座席に座らせたが、このクソガキは助けた直後から喚き出した。
「何をしに来たんですっ! 私は一人で大丈夫だって言ったでしょう!?」
「この期に及んでまだ文句を垂れんのかよっ。てめぇが嘘を吐いてんのが分かったから助けに来たに決まってんだろっ!?」
「え…………」
「さっきも言ったが、てめぇは嘘吐いてんのがバレバレなんだよ! 俺がどんだけの間、てめぇと一緒にいたと思ってやがるっ!」
急に黙り出す魔法少女。たぶん(というか確実に)それは図星だったんだろう。こいつが親父をディスり始めた時点で、俺はその言葉が全部嘘だっていう事に気づいていた。
「そもそも、てめぇは俺たちとなんも変わんねぇじゃねぇかっ! 急に偉そうな態度を取ったって、それが俺たちを突き放すための嘘だって簡単に見抜けんだよ! 残念だったな! 人間さまをなめんじゃねぇバーカっ!」
バイクを走らせながら俺は後ろにいる魔法少女に向かって叫ぶ。
実際、こいつは俺たちを見くびっていた。だが、なめてもらっちゃ困る。あんな事を言われたくらいでうちのバカ親共がこいつ一人を危険な目に遭わせるわけが無い。
魔物から距離を取るために校庭の端の方へと移動していると、魔法少女は後ろから俺の腹に手を回し、顔を背中に当ててくる。
「…………本当に、おバカな人間たちですね、あなたたちは」
「あ? 喧嘩売ってんなら振り落とすぞ」
「違います。褒めているんです。突き放した私を助けるために、こんな危険な場所に飛び込んで来るだなんて。そんなの、あなたたちのようなおバカな家族にしかできません」
魔法少女は俺の腹に手を回したままそう語り、それから白い光を俺の全身に纏わせた。
「でも、知りませんよ。ここまで来たらあなたたちは私の駒になってもらいます。あの男に勝つには、それしかありません」
「上等だよ。俺が強ぇのは知ってんだろ。どんな奴だろうがボコボコにして来てやる」
「ふふっ、カイトさんはやっぱりカイトさんですね。頼りにしていますよ」
魔法少女がそう言った途端、全身が急に軽くなる。これは、こいつがいつもかけてくれる強化の魔法。この力の使い方も覚えて来た。今なら本当にこいつの力になれるかもしれない。
「では、今から指示を伝えます。カイトさんはその通りに動いてください」
「ああ。なんでも来やがれ」
「まず、おとーさんとおかーさんが乗る車に近づいてください。そこであの二人にも強化の魔法をかけます。それからの方針は後で伝えます」
「了解。しっかり掴まってろ」
魔法少女の指示に従ってアクセル全開で親父が運転する車へと近づき、同じ速度で並走する。
「おとーさんっ、おかーさんっ!」
「ノラちゃんっ! 大丈夫かいっ!?」
「ああ、ノラちゃんだわっ! 会いたかったわよぉ!」
「心配かけてごめんなさい。ですが、今はそんな事を話している暇はありません。皆さんにはあの男に勝つために協力してもらいます。相当危ないですが、どっちにしろ負ければ皆さんは死にます。最後まで足掻きたいのであれば、私に力を貸してください」
両親に向かって魔法少女がそう言うと、二人は間髪置かずに頷いた。
「もちろんっ。ノラちゃんの頼みならなんだって聞くよ!」
「お母さんもパパと同じよっ! ノラちゃんのためならなんだってするわ!」
「お二人ならそう言ってくれると思いました。では、おとーさんはこのまま車を走らせてここにいる魔物たちの注意を惹き続けてください。おかーさんは私がカイトさんのバイクから降りた後、私に近づく魔物をその弓で撃ち落としてください。─
魔法少女は指示を出し、親父が乗る車と母親が持つ弓に魔法をかけた。驚いた二人は同時にこちらを見てくる。
「それは私の魔法です。すごいスピードが出たり、とんでもない威力の弓が打てるようになるので、勢い余らないように気をつけてくださいっ」
「本当だ。ステアリングのレスポンスがいつもより良い。クラッチの繋がりもかなりスムーズだ。…………これなら、もしかしたら」
「まぁ、これが本物の魔法なのねっ。実はお母さん、小さい頃から魔法少女に憧れていたの。まさか本当に魔法をかけられちゃうだなんて」
そんな感想を述べる両親。だが、親父の様子がおかしかったのが少しだけ気になった。
「では頼みますっ」
「あ。ちょっと待って二人ともっ」
魔法少女がそう言った直後、親父に呼び止められた。何かと思っていると、サイドのリアガラスが開き、そこからみかんがひょこっと顔を出してくる。
「みーちゃんも来ていたんですねっ」
「本当は置いていこうと思ったんだけどね、出て行こうとした途端に大声で鳴き出しちゃったの。それで仕方なく連れて来たのよ」
「でもお父さん、みかんちゃんがいると全力で運転ができないんだ。だからノラちゃん、連れて行ってくれないかい?」
「マジかよ。今までのは全力じゃなかったってのか?」
「当たり前じゃないか魁人。あんなの検定中の運転と変わらないよ」
「本気で言ってんならあんたは早めに免許を返納した方がいい」
ステアリングを握ったまま当然のようにそう言ってくる親父。じゃあ本気出したらどうなんだ。デ〇リアンみたいにバックトゥザフューチャーでもすんのか。
「分かりました。では、カイトさん。みーちゃんをお願いします」
「は? なんで俺なんだよ」
「この中ではカイトさんの近くが一番安全なんです。だから、お願いします」
魔法少女がそう言うと、三毛猫は車からバイクへとジャンプしてくる。
その小さな身体を受け止めた魔法少女は早速、俺の頭にみかんを乗せてきた。
「それじゃあ改めてお願いします。あの男を倒した後、またお話ししましょう」
その声を聞いてから親父はギアを入れ替え、俺のバイクから高速で離れていく。確かに、さっきよりも運転のキレが良くなっている。襲いかかってくる魔物たちを完全に翻弄していた。そして、その助手席に乗りながら魔物を一本の弓矢でまとめて串刺しにしてるあの母親も、親父と肩を並べるくらいヤバい人間に成り果てている。
「では、次はカイトさんです」
「ああ、俺は何をすりゃいい」
「…………本来なら私がグラウスを相手にしなければならないのですが、今のままでは私はどう頑張っても彼に勝てません。おそらく四人でかかっても勝ち目はないでしょう」
バイクを走らせながら、校庭の中央で立ち尽くしているあの白い制服の男を見た。
奴は俺たちが現れてから一歩も動いていない。ただこちらを見つめているだけだった。
「なら、どうする」
「正当な方法で勝てないのなら、不正当な方法を使えばいい。そう言うの、カイトさんは得意ですよね」
「うるせぇ。で、そりゃなんだ」
「簡単に言えば、私の魔法で彼の弱点を突きます。そうすれば私でも彼に勝つ事ができる。ですが、この魔法を使うには詠唱を詠む時間が必要なんです」
「…………っつー事は、つまり」
魔法少女がそこまで言った時点で、こいつが俺に何を頼もうとしているのかに気づいた。
「そう。カイトさんにお願いしたいのは、彼の足止めをする事と、彼に一撃を与える事です。私の魔法が完成するまで、彼と戦って出来るだけ時間を稼いでください」
「…………マジか」
「マジです。でも、勝たなくていいんです。死なない程度に彼とやり合うだけです。それと、どんな攻撃でもいいですから、彼に一撃を食らわせてください」
「てめぇ、それがどんだけ危険かは俺に教えねぇのか?」
「言ったらカイトさんは断りますから」
「そう言ってる時点でやべぇって事じゃねぇか」
わりと軽い感じで指示してくる魔法少女。こいつは俺に死ねと言ってるのだろうか。
「大丈夫です。カイトさんには一番強力な強化の魔法をかけてます。最悪、半殺しにされるかもしれませんが、上手くいけば骨が五本くらい折れるだけで済みます」
「精一杯軽く表現しようとしてんのかも知んねぇけど、全然フォローになってねぇよ」
やっぱダメだった。俺が死にかけるのはこいつの中では決定事項らしい。
「お願いします。彼に勝つにはそれしかないんです。結局なにもしなかったら死ぬだけなんですよ? それが嫌だったら全力で足掻いてください」
「あぁもう分かったっつーのっ。やりゃあいいんだろやりゃあっ!」
「それでこそカイトさんです。では、頼みました。みーちゃんも応援をお願いしますっ」
魔法少女はそう言って後部座席から飛び降りていく。文句は腐るほどあるが、あいつの言う通り、今はとにかくやらなくちゃ死ぬだけなんだ。だったらやるしかない。
◇
転回し、中央に立っている白い制服の男の所までバイクを走らせる。ビビらせるために思いっ切りアクセルを吹かしてみたが、奴は微動だにしなかった。むしろ俺が近づいている事にすら興味が無いというような顔をしている。
男から十メートルほど離れた位置にバイクを停め、校庭の地面に足を付ける。
そうして奴と対峙して、なんとなく分かった。
あの男は、俺が今まで出会って来た中で一番強い。
「どうした人間。私に何か用か? それとも、自ら殺されに来たのか?」
「ちげぇよ。その逆だ。てめぇをぶっ飛ばしに来たんだよ」
「? 何を言っているんだ貴様。人間如きが騎士である私に敵うとでも?」
グラウスという男は無表情で首を傾げながらそう言ってくる。あの女と話しているときは敬語だったから雰囲気がまだ柔らかかったが、今の空気はあり得ないほど冷たい。
「ああ、敵うとも。生憎、俺は不良だからな。そこらにいる人間よりは何倍も強ぇんだよ」
「不良? なんだそれは。人間の上位種の名か?」
「はっ、上位種と来たか。社会的に見りゃ、むしろ下位の存在だろうよ」
不良の意味を知らないグラウスにそう言う。すると奴は疑問を含ませた表情を浮かべた。
「ならばますます解せない。そんな人間が何故、私と戦おうとしている」
「知らねぇなら教えてやるよ。人間の世界じゃな、存在価値が高い奴が強ぇとは限らねぇんだ。俺みてぇに、社会から淘汰されそうな人間の方が強ぇ場合もあんだよ」
そう言って、いつもの構えを取る。何百回と喧嘩をして覚えたこのスタイル。これがこいつに通用するかは分からない。だが、やるしかねぇ。
「そうか。では、試しに手合わせしてやろう。私も人間という生き物と戦うのは初めてだ。貴様がその中では強い存在ならば、少しは楽しませてもらえるのだろうな」
「当たりめぇだ。なめてかかって後悔すんじゃねぇぞっ!」
やけくそで叫び、グラウスに向かって走り出した。
◇
しかし、そう上手くいかないのは最初から分かっていた。いくら俺が不良で、一般人よりも喧嘩をしてきた回数が多かったとしても、そもそも人間じゃないこいつに勝てるわけがない。こんなの、鼠と猫を逃げ場の無い箱の中に入れてタイマンさせるみたいなもんだ。
「こんなものか、人間」
「が、────ッ!?」
この戦いが始まってから何度繰り出したか分からない蹴りを躱され、軸足を払われる。必然、バランスを崩したこの身体は地面へと倒れた。その隙をグラウスが見逃すわけもなく、倒れ込んだ瞬間、右の脇腹に蹴りを入れられ俺は数メートル宙を舞う。
魔法がかけられているのにも関わらず感じる痛み。なら、もし魔法が無かったら俺は何回死んでるんだろう。今はそんなもの、想像したくも無い。
「理解に苦しむな。なぜ立ち上がる。私に勝てないのは貴様が一番分かっているだろう」
「るせぇ……俺ァな、自分から負けを認められるほど、できた人間じゃねぇんだよ」
「なるほど。それがお前の信念か。なら」
「────ッ?!」
「身体もろともその信念を叩き折れば、貴様は二度と立ち上がれまい」
その声が聞こえたと思った直後、グラウスは既に目の前にいた。
そのスピードについて行けるはずもなく、ガード無しで鳩尾に正拳突きを食らう。
視界がぼやけ、吐き気が込み上げてくる。身体に力が入らなくなる。それでも。
「…………これでも倒れないか。確かに攻めの力は無くとも、守りの力は思ったよりあるらしい。というより、貴様の場合は精神で倒れないだけか」
その一撃をもらっても、俺は倒れなかった。グラウスは少し驚くような顔でこちらを見てくる。
「貴様を殺す事など虫を踏み潰すほど簡単だがな、それではつまらん。せっかく初めて人間と拳を交えたのだ、殺す前に訊いてやろう。貴様は、何のために私と戦っている。いったい何が貴様の精神を支えている。答えろ、人間」
抑揚の無い口調でグラウスは質問を投げてくる。
たぶんそれは、ただの興味でしかないんだろう。
けど、こいつは訊ねる相手を間違えている。
「あ? 知らねぇよ、んなもん」
不良の俺が、そんな小難しい事をいちいち考えているわけがないってのに。
「なんだと?」
「だから、そんな面倒くせぇもんは最初から一ミリも考えてねぇっつってんだ」
口の中に溜まった血を吐きながらそう答えると、グラウスは目を丸くして俺を見てきた。
「つまり、貴様は理由もなく私と戦っているのか?」
「あぁ、そうかも知んねぇな。っつーより、俺はそういう面倒な事を考えてねぇだけなんだよ。くっせぇ暑苦しい事を心ん中で語りかけながら喧嘩をする? くだらねぇ。たまにそういう寒い奴がいるみてぇだけどよ、なんでそんな分かり切った事をいちいち言い聞かせなきゃなんねぇんだ? そんな大事なもん、考えなくたって
そう言ってみせると、グラウスは一瞬だけ顔に疑問を浮かべてから、すぐに頷いた。
「信念は常に考えるものではない、という事か?」
「そんなもんかもな。
「ならば、やはり貴様にもあるのだろう。私はそれを答えろと言っているんだ」
「面倒くせぇ奴だな。俺はお前みたいな頭の固ぇ奴が一番嫌いなんだよ」
しつこいグラウスにそう言って唾を吐き、頭を掻きながら口を開いた。
「…………俺はな、この世界で起きる出来事や物事、そんなもんに何ひとつ興味が湧かねぇ。何もかもどうでもいいんだよ。こんな腐った世界で生きてる事すらくだらねぇと思う。だから俺は不良をやって、その何もかもを遠ざけた。近づいてくる奴は全員ぶん殴って近寄れなくした。それでようやく、俺でも息が吸える場所ができたんだ」
黙って俺の話を聞いているグラウス。奴の金髪を見つめながら続ける。
「でもな、そんな風に遠ざけても蠅みてぇにしつこく付きまとってくる奴らが何人かいた。何百何千と振り払っても無視をしても、そいつらはバカみてぇに近寄って来た。『優しくすれば優しくされる』、そんな当たり前の法則を何度裏切っても、そいつらは諦めなかった。『優しくされなくても優しくする』、そう言ってあいつらは俺が世界に向かって立てた中指を、拳の中に戻そうとしてきた。ほんと、マジで意味が分かんねぇよ」
数人のバカの顔を思い浮かべながら、俺は語る。
「『くだらねぇ』、『面倒くせぇ』、『どうでもいい』。そう言って全部を遠ざけても、近づいてくるバカな奴ら。世界がどれだけ俺を裏切ろうとも、何故か絶対に俺を裏切らない奴らがいる。それを、あの女は教えてくれた」
腰を下げ、拳を握り締める。
身体は痛むが、まだ動ける。
それからグラウスを睨み、奴が聞きたがったその答えを口にした。
「そろそろ行くぞ、色男。てめぇに家族は一人もやらねぇ。あんな思いをすんのはもう二度とごめんなんだよ。
だから、今度こそ絶対に守ってみせる」
そして、奴に向かって走り出す前に俺は。
「
自分が一番忌み嫌ったはずのその信念を、自分自身に向かって言い聞かせた。
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