捨て魔法少女とリーゼント   作:雨魂

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第九話

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ごちそうさまでした。どう? 今日のは美味しかったでしょ?」

 

 

 それからあかり特製のカレーが完成し、俺たちは食卓で向かい合いながらそれを食った。

 

 俺にしか見えてないこの自称・魔法少女が『私も食べたいです』とか超面倒くさい事を言い出すんじゃないかと不安だったが、その辺はこいつも弁えているらしい。奴は黙ってソファに座りながらこっちをガン見。

 

 ときおり、『カイトさん。もっと積極的なアプローチをお願いします』などという意味不明な指示を出してきたが、あかりの前で反応できるわけがなく、俺はただ無心でカレーを食い尽し、このイレギュラーな夕食は終わった。

 

 

「別に。いつも通りだろ」

 

「まーたそんな可愛くないこと言う。せっかく誰かさんの好きなものを作ってあげたんだから、ちょっとくらい感謝しなさいよね」

 

 

 バラエティ番組を眺めながら、あかりの質問に答える。たぶん、こいつは冗談でもいいから褒めてほしかったんだと思う。褒めればすぐ調子に乗るその性質をよく分かっているので、俺は今日も嘘を吐かない。

 

 

「……いつも通り、美味かったっつってんだよ」

 

「ぁ…………も、もう。なんであんたはそういう天邪鬼な言い方しかできないかなぁ」

 

 

 思っている事を口にしたのにも関わらず、向かい側からは文句が飛んできた。そもそも、はみ出し者に普通を求めている時点で間違ってる。

 

 

「飯食ったんなら早く帰れ。また変な奴に絡まれんぞ」

 

「何その早くあたしを追い出したい、みたいな言い方」

 

「その通りだ。お前が遅くなると俺が雅さんに怒られんだよ」

 

「余計なお世話。あたしだってもう大人なんだから、心配されなくても大丈夫だし」

 

「ほぉ? んな事をほざいといて帰りに西高の奴らにナンパされた挙句、助けに行った俺のバイクをお釈迦にしたのはどこのどいつだ?」

 

「それは…………あたしだけど」

 

 

 数日前の出来事を思い出しながら言うと、あかりはバツの悪そうな顔をして答えた。

 

 

「分かってんなら言う通りにしろ。お前はただでさえ変な輩を引き寄せんだから」

 

「そんな事、無いし」

 

「どの口が言うんだ? 知らねぇ男どもにナンパされてるところを何度も助けてもらった事を、今さら忘れたとは言わねぇよな」

 

 

 そう言うとあかりは頬を膨らませる。その表情からして、少なからず自覚はあるらしい。

 

 

「そんなに言うなら、家まで送ってよ」

 

「嫌に決まってんだろ、めんどくせぇ」

 

 

 ふてくされるような顔で言われるが、俺は即座に却下。すると特大のため息が吐かれた。

 

 

「なんで分かんないかなぁ……ほんと、そういうところも変わんない」

 

「? なんか言ったか?」

 

 

 何かを呟いていたが、俺の耳には届かなかった。あかりはこちらを見てまた口を開く。

 

 

「なんでもないし。とにかく、今日はもう少しいるんだからね。ちゃんと最後までお世話させなさい。じゃないと、おばさんになに言われるか分かんない」

 

「俺は一人じゃ何もできねぇガキか」

 

「だから、おばさんはあたしにお願いしてるんでしょ?」

 

「どういう意味だコラ」

 

「ふふ、自分で考えなさい」

 

 

 あかりは笑いながら、食卓に並んだ空の皿を集めて立ち上がる。それから逃げるように台所に向かった。俺はその姿を見つめ、それからまたテレビの方へと視線を戻す。

 

 

 

「そんなに心配なら、カイトさんが家まで護衛してあげればいいじゃないですか。あかりさんはそれを望んでいたんじゃないんですか?」

 

 

「しばらく黙ってたと思ったら急に出てきやがったなてめぇ。いいから失せろ……って」

 

 

 目線とテレビの延長線上に立っていた自称・魔法少女が話しかけてきて、ほぼ無意識に反応してしまった。咄嗟に台所の方を向くと、あかりは首を傾げながらこちらを見てくる。

 

 

「魁人、いま誰かと喋ってなかった?」

 

 

 ぎくり、と漫画のような効果音がどこかから聞こえた気がした。あかりと話していた所為で完全にこのクソガキの存在が頭から消えかかっていた。やべぇ。

 

 

「何やってるんですかカイトさんっ。早く誤魔化してくださいっ」

 

 

 てめぇが急に話しかけてくるからだろうが、とも口に出して言えないのがもどかしい。事の発端はこの金髪女の所為かもしれないが、今のは完全に気を抜いていた俺のミス。

 

 

「い、いや今のはあれだ。テレビに向かってツッコんだだけだ」

 

 

 頭をフル回転させて何とか口にしたその言い訳。自分でも相当下手だと思った。

 

 

「ふーん。ていうかさ、魁人」

 

 

 俺の言い訳を流すあかり。マズい、これは完全に疑われてるパターンのやつだ。なら次はどんな風に誤魔化せばいい? ダメだ。こんな時に限っていいアイデアが全然浮かんでこねぇ。くそ、どうすりゃいい。

 

 そして、新しい言い訳を吐く前にあかりは再び口を開いた。

 

 

「大きい平皿ってどこにある? お母さんが林檎を持っていけってうるさかったから、いっぱい持ってきちゃった。もったいないからたくさん食べてね」

 

 

 その言葉を聞いてから肺から二酸化炭素がすべて抜け切るんじゃないか、と思うほどデカい息を吐く。

 

 

「平皿? 上の棚に入ってんじゃねぇのか」

 

「ん、分かった。よいしょっ、と」

 

 

 自称・魔法少女とともに安堵しながら、適当にそう答えるとあかりは何を気にするわけでもなく、頭上にある棚を開けて平皿を探し始めた。

 

 

「今のは危なかったですね。カイトさんはもう少し、私が何たるかを理解するべきです」

 

 

 ため息とともにぶつけられる、そんな悪態。ここで言い返せばまたさっきと同じ流れになってしまうため、声帯の一ミリ手前まで来た言葉をグッと飲み込んだ。

 

 

「うー、ん……あったけど取れなーい。ねぇ魁人、ちょっとこれ取ってー?」

 

 

 台所からそんな声が聞こえてくる。どうやら棚の位置が高くて皿が取れないらしい。

 

 

「はっ、いつになってもチビのままだなお前」

 

「うわ、なんでそんな失礼な事を平然と言えるかなぁ。もういいし。一人で取るから」

 

 

 バカにするようにそう言うと、あかりはムキになってさらに手を伸ばす。あいつは女子の中では平均だが、俺からすればやっぱり小さい。胸も魚が捌けそうなくらい平らだし。これを言ったら果物ナイフが高速で飛んで来そうな気がするので黙っておく。

 

 仕方なく椅子から立ち上がり、台所に向かう。これ以上あかりを不機嫌にさせたら面倒くさい事態になるのは目に見えている。そうなる前に、たまには素直に言う事を聞いてやるのも悪くはない。そう思い、俺は背伸びをしているあかりに近づいた。

 

 

「あ────っ」

 

 

 ああ、そうだとも。猿に烏帽子なんて諺があるように、身の丈に合わない真似をするとロクな事が起きないのも、ちゃんと分かってる。

 

 

「あかりっ!」

 

 

 台所に足を踏み入れた瞬間、棚から数枚の皿が降り落ちてきた。当然、その下には皿を取ろうとしていたあかりがいる。いくら落差が無いと言っても、そこから落ちてきているのは硬いガラス皿。それが頭に当たればどうなるかは、誰だって想像できる。

 

 咄嗟に前に向かって倒れ込み、棚の真下にいたあかりの身体を押し倒した。

 

 

「…………」

 

 

 突然の事だったから、これ以外の方法を思いつけなかった。だから仕方ない。そう自分に言い聞かせながらあかりの上に覆いかぶさり、床に落ちた数枚の皿が割れる音を聞いた。

 

 

「だから気を付けろっつったろ、ばか」

 

 

 超至近距離にいる幼馴染に向かって、俺は言う。しかし、これは体勢が悪すぎる。咄嗟の判断だったとはいえ、こんな押し倒したような姿勢のままではさすがに心が乱れる。

 

 

「ご、ごめん。大丈夫?」

 

「なんとかな。皿は犠牲になったみてぇだが」

 

 

 謝ってくるあかりに、少しだけ緊張しながらそう答えた。この状態が悪いのなら、すぐに離れればいい。なのに、こんな時に限って俺の身体はここから動く事を拒んでくる。

 

 目の前にある幼馴染の顔。見慣れているはずなのに、今はそこから目が離せなくなった。

 

 近くだからこそ感じる、甘い果物のような匂い。それが実際の果実ではなく、あかりのものだと認識した時、無意識に心臓が高鳴った。何やってんだ俺。らしくもねぇ。こいつを女として見た事なんて、今まで一度も無かったってのに。なんでこんな時に。

 

 それから数十秒間、むず痒い空気が台所に漂う。俺も動けずにいたが、あかりも仰向けになった状態のまま、頬を仄かに赤く染めてこちらを見つめてきた。

 

 いつまでもこのままじゃ色々とマズい。そう思い、金縛りにあったかのような状態の身体を無理やり動かそうとした時、ひとつの声が静寂をそっと破った。

 

 

「…………魁人」

 

 

 あかりは俺の顔を見つめて名前を呼んでくる。それがあまりにも切なげな声音だったため、こいつはもしかしたらこれから泣くんじゃないだろうか、と少しだけ心配になった。

 

 そうして数秒の間を空けて、あかりは再び口を開く。

 

 

「魁人はどうして、不良になっちゃったの?」

 

 

 耳を通り抜けたのは、そんな突飛な質問。俺は答えないまま言葉の続きを待った。

 

 

「見た目を変えたって、何も変わってないよ。誰にも分からなくても、あたしは分かるもん」

 

「あ? …………んなわけ、ねぇだろ」

 

 

 その言葉を否定すると、あかりは首を横に振る。

 

 

「そんなわけある。こんな髪型にしても、他の高校の人たちと喧嘩ばっかりしてても、学校で一人だけ浮いてても、魁人は魁人のまんまだよ」

 

 

 そして幼馴染は言い切った。俺以上に俺を知っている、とでも言いたげな表情を浮かべて。

 

 

「だから教えてよ。何が魁人を一人にさせてるの? 何がそんなに気に食わないの?」

 

 

 それでも。

 

 

「誰にも言えないなら、あたしにだけ言ってよ。もっとちゃんと話をしてよ。魁人がいつも一人で居るの、見てるあたしだって悲しいんだよ?」

 

 

 あかりは目尻に薄い涙を浮かべながら語りかけてくる。それを見て、本心でそう言ってくれているのは痛いほど理解できた。これでもか、というほどに強く。

 

 それでも。

 

 

「魁人が頼ってくれたら、あたしは何でもするよ? 後戻りできないっていうなら、あたしがちゃんと手伝うから」

 

 

 それでも、俺は。

 

 

「…………言いてぇ事は、それだけか」

 

 

 こいつが欲しいと望んでいるものを、簡単に手渡すわけにはいかなかった。

 

 あかりの声に被せるようにして、俺は言った。こいつはたぶん、黙っていたらその心情をいつまでも語り続ける。そんなもん、今は一言たりとも聞きたくない。

 

 

「余計なお世話だ。てめぇにんなこと言われなくても、全部分かってんだよ」

 

「なら」

 

「だからこそ、俺に介入してくんじゃねぇ。突き放してんのが分かってんなら、わざわざ近寄ってくんじゃねぇよ馬鹿が」

 

 

 そう言った瞬間、あかりは目を大きく開き、それから唇を噛む。その目尻から透明な粒が落ちたのを、俺は見逃さなかった。

 

 

「…………どう、して」

 

「てめぇには関係ねぇだろ」

 

「関係あるよ。なんで、そんな悲しいこと言うの。おかしいよ」

 

 

 涙声が耳を通り抜けた途端、思考は一気に冷たくなっていく。それを自覚して、少しだけ安心した。ああ。これでいつも通りだ。

 

 いつも通り──最低の自分だ。

 

 

「てめぇが俺をどう見ようが興味もねぇけどよ、俺が変わってねぇわけがねぇだろうが」

 

 

 あとはもう、機械的に喋ればいい。優しい幼馴染を傷つける言葉だけを選んで、ただそれを口にし続ければいい。それだけで、俺はいつも通りでいられる。

 

 

「俺が一人で居るのを見ると悲しい? 笑わせんじゃねぇよ。てめぇに哀れまれたって、こちとら悔しくもなんともねぇんだよ」

 

 

 誰が紡いでいるのか分からないこの言葉。だがそれは確かに、俺の口から零れていた。

 

 

「何がそんなに気に食わねぇのかって? んなもん決まってんだろ。俺の身の回りにあるもん全部だよ。学校も、この家も、何もかもくだらねぇから、こっちから離れてやってんだ」

 

 

 言葉を吐く度に、透明な雫が流れていく。それを見ても心が痛まないのは、俺が普通の人間を辞めてしまったからなんだろう。

 

 

「なんで、そんな」

 

「改めて見損なったか? ならさっさと出てけ。もうこれ以上、俺に付きまとうんじゃねぇ」

 

 

 それが最後。そう言って、立ち上がった。

 

 

「…………そっか」

 

 

 そんな囁きが聞こえてくる。どこか諦観のようなものが含まれたような、その声音。

 

 

「ごめんね。あたし、そんなに魁人が苦しんでるなんて、知らなかった。もっと軽い悩みなんだと思ってた。けど、ちがったんだね」

 

「…………」

 

「分かった。魁人があたしに近寄ってほしくないなら、そうする。またいつもみたいに遠くから見てるだけにするよ。……でもね」

 

 

 あかりは立ち上がり、着ていたエプロンを脱ぎながらこちらを見つめてきた。その目はまだ、ここに立つ最低の男をしっかりと捉えていた。

 

 

「これだけは分かってて。あたしは、いつだって魁人の味方だよ。何回突き放されてもそれだけは変わらないから。だって、あたしは」

 

 

 あかりはそこまで言って言葉を止め、ふっと微笑みを浮かべる。あんな最低な事を言われてどうして笑えるのか。その神経が、腐った俺にはどう頑張っても理解できない。

 

 

「なんでもない。じゃあ、帰るね。お邪魔しました」

 

 

 そう言ってから、あかりは脱いだエプロンを学生鞄に入れ、足早に家を出て行く。

 

 台所に立ち尽くしたまま、玄関の扉が閉まる音に耳を澄ませていた。

 

 やがて、家の中に静けさが戻ってくる。聞こえてくるのは点けっぱなしになっているテレビの音声だけ。ときおり聞こえてくる笑い声に、何が楽しいのか、と苛立った。

 

 

 

「どうして、あんな事を言ったんですか」

 

「…………」

 

「何も分からない私でも分かりました。今のは、どう考えてもカイトさんが悪いです」

 

 

 いつの間にか傍に立っていた自称・魔法少女は、立ち尽くす俺にそう問いかけてくる。

 

 

「あんなひどい事を言われたら誰だって悲しみます。あかりさんはカイトさんを思ってああ言ったのに、なんでそれを突き放したんですか」

 

 

 だいたい予想していた通りの言葉をかけられ、心の中で笑う。

 

 

「てめぇには関係ねぇだろ」

 

「またそれですか。カイトさんも子どもですね。とりあえずそう言っておけば誰もあなたに近寄ってこないとでも、本気で思っているんですか?」

 

「なんだと?」

 

 

 今度は予想しないベクトルの悪態を吐かれ、思わず反応してしまう。

 

 自称・魔法少女は嘲笑うような笑いを浮かべ、俺の顔を見上げてきた。

 

 

「だってそうでしょう。本当はそんな事を思ってもいないのに、軽い一言だけで誰かを突き放せると勘違いしてる。そんな人を子どもと形容せず、なんと言えばいいんですか?」

 

「────っ」

 

「ああ、やっと手を出してきましたね。いいでしょう。それでこそやんきーさんです。喧嘩は口でするよりも、身体でする方が好きなんでしょうから」

 

 

 分かったような口をきくクソガキの胸ぐらを掴むと、奴は動揺など微塵も見せずにそう言ってくる。緋色の両眼に心を見透かされているような気がして、またさらに腹が立った。

 

 

「てめぇに俺の何が分かる」

 

「分かりません。だから教えてください。あかりさんが諦めたのなら今度は私が訊く番です。カイトさんは、どうしてそんなに捻くれているんですか? なぜ、そこまでして一人になろうとするんですか? それが分かれば、私はあなたを擁護できるかもしれません」

 

「だから、てめぇには関係ねぇんだよッ!」

 

 

 淡々とした口調で語る自称・魔法少女に向かって拳を振り上げる。俺は、本気でこいつを殴るつもりだった。脅しでも何でもなく、殴ってやるつもりだった。なのに。

 

 

「? どうしたんです、カイトさん。私を殴りたいんじゃないんですか? なら、早く殴ってください。今回は魔法を使わないでいてあげますから。ほら、どうぞ」

 

 

 なのに、()()の記憶が俺の邪魔をする。

 

 

「……解せません。あなたは結局、何がしたいんですか? 一人になんてなりたくないのに近づいてくる相手を突き放して、自分を虚仮にした相手を殴る事さえできないだなんて」

 

 

 振り下ろすはずの腕は、どこに当たる事もなく宙に浮いている。

 

 その拳のすぐ近くにある幼い顔は、目の前に立つ奇妙な男をただジッと見つめていた。

 

 

「私にはとうてい理解できません。あなたが何を考えているのかも、何を求めているのかも」

 

 

 その声を聞いても、止まった拳は動かない。どれだけ力を入れてもビクともしなかった。それはまるで、悪い魔女に石になる魔法でもかけられたみたいに。

 

 

「なるほど。またあなたの事が少し分かりました。その歪な生き方こそ、カイトさんをカイトさん足らしめているのですね」

 

「うるせぇ……」

 

「だったらいっそ全部教えてください。さっきあかりさんに言った言葉が、カイトさんにとっては正しかったという事を。私を殴ろうとしても殴れない、その理由を」

 

「黙れつってんだろッ!」

 

 

 動かない腕を下げ、言葉だけで自称・魔法少女を威嚇する。当然、そんなものではこの女は動じない。それが分かっているのに、こいつの思い通りになるまいと喚き散らす。

 

 それがどれだけ醜い姿に映るのかも、知っているのに。

 

 

「仕方ないですね。カイトさんが教えてくれないのなら、おとーさんとおかーさんに教えてもらう事にします。あなたを生んだあの二人なら、その理由を知っているでしょうから」

 

「…………勝手にしろ」

 

「はい、勝手にします。でも、ひとつだけ知っていてください」

 

 

 自称・魔法少女は微笑み、こちらを見つめてくる。それはどこか、数分前にあかりが浮かべた表情に似ているような気がした。

 

 

「私の主は、カイトさんです。あなたがどんなに歪な人間だとしても、その事実だけは変わりません。この世界にいる限り、私もあなたの味方であり続けます」

 

 

 その言葉に何も言い返す事はせず、俺はリビングを出てそのまま玄関へと向かった。

 

 自称・魔法少女が後ろをついてくる気配はない。おそらく、あいつは両親の帰りを待って俺が不良になった経緯をあの二人から聞こうとしているんだろう。

 

 

「……くそが」

 

 

 だけど、今はそんなのどうだっていい。

 

 


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