荒ぶる神々に救いを   作:マスターBT

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会話オンリー回。
ラケルとエノクの関係性に焦点を当てました。


第3話

エノクとヒロによる共同任務が終わってから数日が経過した。

ブラッドの面々とエノクの仲がこれといって進展することもなく、交互に任務を引き受けてはフライアに戻るという毎日だった。

時々、エノクが何日か戻らない日はあるが、ラケル直々の指令な為フライア職員には慣れたものだ。

そんなある日、エノクはラケルに差し入れをしに来たところから物語は始まる。

 

「ケーキっていう中々食えないものを貰ったんだが、食うか?」

 

「あらエノク。嬉しい提案だけど今は」

 

振り返ったラケルの顔を見てエノクは手に持ったケーキを、近くの机に置きほぼゼロ距離と言わんばかりに顔を近づける。

それに僅かに驚いた様な素振りを見せるラケル。とはいえ、側から見るとその変化はだいぶ乏しい。

 

「ラケル、お前また寝てないな?

神機兵やアラガミの研究は良いが、しっかり休めと俺は言ったぞ。俺との約束を忘れた訳じゃないよな?」

 

ラケルが眠っていない事など日常茶飯事。

だからこそ、自分がいる間はちゃんと寝かせるとラケルの顔色は絶えず確認しているエノク。

 

「えぇ。もちろんです。貴方は死なない、私は無理をしない。

ですが、エノクもよく知っている通り私達は無茶を通せる身体なのです。今、こうして話している間にも人々は苦しむのですから」

 

ラケルの慈愛に満ちた表情と言葉。

表面的に彼女を知る者、恩義がある者、世界を知る者なら頷き彼女の言葉に従っただろう。しかし、エノクは違った。

ラケルの言葉に首を振る。

 

「ゴッドイーターとしての俺ならその言葉に従うべきなんだろう。

だが、此処には俺とお前しかいない。なら、俺はただの幼馴染として、お前に寝ろと言う」

 

礼儀のない雑な言葉使いが多いエノクだが、決して馬鹿なわけじゃない。

むしろ頭は良い部類だ。自分に適合したオラクル細胞、そして過去の出来事から強い自分という仮面を身に付けているに過ぎない。

ゴッドイーターになる前はラケルと幼馴染になれるほどの家系の生まれであり、ゴッドイーターになってからはラケルと共に会食に出席したりなど社交的な面もある。無論、ラケルから事前に言われていた場合にのみ限るが。

そんな男が簡単に言い負けるわけもなく。

 

「…困りましたね。どう言っても諦めてはくれませんか」

 

「あぁ。大人しく寝ろ。確かに俺たちの身体は無茶が効くが……隈出来てるぞ。化粧で誤魔化そうとしてもこの距離なら気付く」

 

「分かりました。では、お願いしますね」

 

顔だけではなく全身をエノクの方へ向け手を伸ばすラケル。

いつもよりかなり短い時間で諦めたなと思いつつ慣れた手つきでそのラケルを抱きかかえ、持ち上げるエノク。両者ともに恥じらいはない。

何度も繰り返し行ってきた行為に恥じる必要などないのだろう。

 

「ふふっ、相変わらず心音が凄いのですね」

 

「ほっとけ」

 

ラケルを抱きかかえたままベッドへと運び、寝かせる。

軽く布団をかけ、エノクは端に座る。

 

「一緒に寝ますか?」

 

「今日はやめておく。まだ、神機の整備が残ってるからな」

 

「整備をしてきても良いのですよ?」

 

普通は整備士が神機を整備するのだが、エノクの神機は神機の中でも荒々しく下手に持ち主以外が触れようものなら、安くて腕の一本、最悪命を落とす事になる。故に適合者であるエノクが整備をしている。しかし、専門ではないので雑そのもの。

フライアの整備士達からはよくあれで神機が動いていると言われるレベル。しかし、殺されたくないので誰も触れず言わない。

 

「お前が寝たらな」

 

ポン、ポンと一定のテンポでラケルの頭を撫でるエノク。

寝ようとして自意識が薄くなってくると内側が煩くなるのを、よく理解している彼は少しでも気が楽になる様にラケルの頭を撫でる。

嫌がる素振りを見せないから、少なくとも嫌では無いのだろうと思っているが、実際のところは分からない。

そもそもラケル自身から好きとか嫌いとかを聞いた記憶がほとんどないのだから。

 

「…俺は死なない。何があろうともラケルの元に戻ってくる。

だから、俺の帰るべき場所であるお前が無茶をしないでくれ、頼む。もう二度とあんな思いはしたくない」

 

「…分かっていますよ。ちょっと、研究に熱を入れすぎましたね。

今度からは気をつけます。…では、おやすみ。私の可愛いエノク」

 

「あぁ。おやすみ、俺の愛するラケル」

 

そこから会話はなく、程なくしてラケルのゆっくりとした息遣いだけが聞こえだす。

しばらく眠りについたラケルを見つめ、エノクは立ち上がる。

 

「……俺はお前を守る。今度こそ、誰にも傷付けられないように。だから、安心して眠っててくれ」

 

誓う様に言葉を出した後、エノクは部屋を出て行く。

 

「…流石に寝かされてしまってはどうしようもありませんね」

 

スッと目を開けたラケルが独り言を零す。

こうしてエノクに心配されるのは、今日が初めてというわけではない。心配される度に煙にまいてきたのだが、今日は寝かされてしまった。

反論しようと思えば幾らでも出来た。強く抵抗の意を示せばエノクが引き下がる事も分かっていた。

だが、ラケルはそれをしなかった。

反論するのが面倒だったのか、はたまたただの気まぐれか。

精神に宿るアラガミは、今も煩い。終末捕食という目的から遠い行動をすればするほど煩くなる。

 

「眠いのは事実ですし…今日はこのまま寝てしまいましょう」

 

ラケルは内なる声を無視する。

下半身不随である彼女が此処から端末に移動する術はない。車椅子は遠く、姉を呼ぶボタンは何故か押す気にならない。

仕方ないから彼女は眠る事にした。そう、例え気まぐれでも何一つとして動かない彼女の心が揺れた事に嘘はないのだから。

鏡もなければ、今彼女の表情を見る人もいない為気づく事はなかったが、ラケルの口元は僅かに笑みを浮かべていた。

 

 

 

その日、久しぶりにラケルは夢を見た。

夢というのは記憶の整理とも言われる現象だ。体験した出来事がランダムで抽出される為に突飛な出来事になっていたりするのだ。

だからだろう。夢で見た光景は懐かしくそして、優しいものだった。

 

「ラケル、見て見て綺麗な花だ。これで冠を作ればきっと似合うと思う」

 

白い花を見つめながら微笑む子。

 

「うわぁ…ラケルはこんな難しい事も分かるんだ。すごいなぁ…」

 

父から渡されていた宿題を解いていた時に、横から見て純粋に私を褒める子。

 

「ね、ねぇラケル。これ、受け取ってくれないかな。いつか、本物を君にあげるから」

 

顔を赤くしながら子供でも買える簡素な指輪をくれる子。

無口で実の姉からも何を考えてるか分からないと言われた自分にずっと構ってくれた子。

どれだけ小さな事でも、ラケルと共有した。一体、何が楽しかったのかラケル自身にも分からない。

ほぼ一方的に話すだけの行為に一体、どれほどの意味があったのだろう。

 

「ラケル!…しっかりして……ラケル!」

 

あぁ…でも、姉に突き落とされた私を見て、大粒の涙を流しながら私を抱きかかえる彼は、とても綺麗だと思った。

混ざり物になった後でも変わらず私に接して、むしろ過保護になった気がする。

 

「どうしてここまでするのかって?……負い目もあるが俺はお前の味方であり続けるって決めたからな」

 

マグノリア・コンパスでの人体実験すら行う様になった碌でなしに味方すると言った彼には思わず笑ってしまった。

それと同時にこの人の覚悟を見定めてみたくなった。

だってそうでしょう?私がしようとしている事は気持ちだけではどうにも出来ないのだから。

 

「そうですね…どうせなら私オリジナルのものを作りましょう。彼なら大丈夫」

 

採血をして、偏食因子を培養。ブラッドたる因子と掛け合わせ、産まれたオラクル細胞。

利便状私は、P12偏食因子と呼んでいる。理由?ふふっ、ヒントは私の名前とだけ。

結果、彼は見事に適合し血の力にも覚醒。感応種のコアを届けてくれる。

 

「ラケル、これで良いか?」

 

感応種のコアを届ける彼。

 

「ラケル…食事は抜くなとあれほど…とりあえず、作ってきたからこれ食え」

 

呆れた顔で食事を用意する彼。

 

「まだ持っててくれたのか。ありがとう」

 

私が首からかけている指輪を見て嬉しそうに微笑む彼。

容姿が変わろうと、内側に荒ぶる神を宿しても彼は変わらず私に寄り添ってくれている。彼はジュリウスとはまた違う。

絶対に私を裏切ることのない人。そういう意味では姉も含まれるかもしれないけど、罪悪感と愛情のどちらを信じるかという話だ。

 

「愛しい愛しい私のエノク。ふふっ、どうかこれからも私だけを見て寄り添ってくださいね。

貴方がくれる愛の分だけ私は目的に近づけますから…」

 

眠りから覚めたラケルは妖艶な笑みを浮かべて呟いた。

どろりとした今のラケルが彼に向けることの出来る感情。果たして、それは愛なのか。

 

「さてと……そろそろ極東に向かうのも悪くないかもしれませんね。どう思います?エノク」

 

「ラケルに任せるさ。ラケルが良いと思うなら、俺はそれに従うとも」

 

扉の前で待機している彼に声をかければ、予想できていた言葉を返してくる。

フライアが極東へと移動を開始したのはこの数時間後であった。

 

「おい、局長。ラケルの前でそれ、吸うなって言ったよな?」

 

「ぐおっ…は、離したまえ…!」

 

ラケルの前で葉巻を吸っていたグレム局長が素手で葉巻の火を消したエノクにより、締め上げられる事件が起きたがレア博士の尽力により有耶無耶になった。が、しばらくグレム局長とエノクがくだらないいざこざを起こすのであった。

 




エノクからラケルへの特大感情だけではなかったのだ!
しれっと、自分の血から取り出した偏食因子を使ってるラケルさん。これは、重い。

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