「歓迎会?ラケルは行くのか?」
極東支部でブラッドの歓迎会を開催する準備が出来た為、ラケルの子飼いとは言えブラッドの一人であるエノクにも参加の誘いが来ていた。極東支部の人達や、ブラッドの面々からの誘いであれば断っていたのだが、目の前にいるラケルからの誘い。珍しい事があるものだと思いながら疑問を口に出した。
「私は行けませんよ。まだやる事が残っていますから」
「なら行かねぇ。なんで任務でもないのにラケルの側を離れなきゃならんねぇんだ」
確かにブラッドは極東支部の指揮下に入る。しかし、今更そんな命令エノクが聞くわけがない。そもそも、ゴッドイーターとして余りにも自分勝手だというのにエノクが査問会に呼ばれたのは過去に一度だけ。理由は簡単だ。フェンリルの中でも唯一無二と言って良いほどの知識を持っているラケルのお気に入りという事実と普通のゴッドイーターとは比べ物にもならない戦闘能力と特殊能力で本部の人間達を黙らせたのだ。
「血の力は意思の力。そして、副隊長である彼の力は貴方と真逆と言える性質を持っています。そんな、二つの力が交わる所を私は見たいのですよエノク」
「その為の交流をしろと?……待て。もしかして以前、あいつと任務を一緒にさせられたのは」
「はい。私がそうする様にジュリウスに頼みました」
「あのなぁ……」
大きく溜息を吐く事はあってもラケルに怒りをぶつけるという事はなかった。寧ろ、ラケルが仕組んだと言うのなら許せてきた。歓迎会ぐらいで距離が縮まるほど人は簡単ではないと思いながらもエノクは諦めた様に頷く。
「分かった分かった。行くよ。だけど、期待すんなよ?猫被ってまで仲良しこよしなんてしたくない」
「勿論です。背を預けられるぐらいには仲良くなってくださいね」
「はっ、それはねぇな。弱過ぎる。あいつらに預けるぐらいなら、その辺の壁の方がまだマシだ。そもそも、俺の血の力は連携する場合においては死ぬほど相性が悪い。だから、俺一人が一番理に適ってる事ぐらいラケルなら分かってるだろう」
「それをどうにかする可能性が彼にはあるのですよ」
変わらないラケルの態度に諦めるエノク。手をひらひらとさせながら、ラケルの部屋を出ていく。フライアを歩きながら目指すのはほとんど利用されていない自室だ。今来ている私服から、ブラッドの制服に着替える。ブラッドの歓迎会なのだから、私服で行くより制服で行くべきだと判断したのだ。まぁ、彼の考えは極東支部のラウンジに入って簡単に打ち砕かれる。
「……ジュリウスと副隊長の奴以外私服じゃねぇか。礼儀をしらねぇのか」
まぁ良いと結論を出し、食事が並んでいる場所へ一目散に向かっていく。遠巻きに彼を見る者達はいるが話しかけてくる者達はいない。一番話しかけそうなジュリウスやヒロは現在真反対の場所にいる為、まだエノクには気が付いていない。手近にある皿を手に取り、主に肉が使われている料理を取っていく。
「……ほぅ。中々に美味いな」
舌はそれなりに肥えているエノクでも美味しいと思える料理だった。食感や見た目からして、決して高級な食材が使われている訳ではない。寧ろ、品質としては劣ると言える品でここまでの料理を作った料理人に僅かに興味惹かれるエノク。目の前にいる子供に話しかけようとしたエノクに声をかける者が現れる。
「お久しぶりです、デスティーノ先生」
「あん?」
振り返った彼の視線の先にいたのは、銀髪の女性。ブラッド所属シエル・アランソンだ。
「……あぁ、マグノリア=コンパスにいたガキか」
「はい。主に先生からは格闘術と殺人術を教わりました。警護も兼ねていたのでラケル博士同伴で緊張したのを覚えています。
その、今度は同じブラッドとして共に戦場に出るかもしれませんので挨拶をと思い至った次第です」
緊張したの面持ちのシエル。マグノリア=コンパスで教鞭を取っていたエノクはめちゃくちゃにスパルタだったのだ。何か一つでも出来なければ出来るまで叩き込む。出来る様になっても褒める事はしないという徹底した鞭のみの教育。それには意味があった。
「……随分と感情を表に出すようになったな。まぁ、戦士としてはそれが正しいか」
「はい。まだ不慣れですが、副隊長の力も借りて少しずつ学んでいる所です」
どことなく嬉しそうに話すシエルとは対照的に不機嫌な様子のエノク。当然だ、こうならない様にシエルの感情を殺したのだから。いざと言う時に躊躇わない様に、反逆なんて起こさない様に、そう言う余分な感情と思考を奪う為の教育だったのだが、もう意味はない。
「副隊長ねぇ……おい、俺が居ない間のアイツはどうだった?お前の観点からで良い教えろ」
「え?……そうですね、先ずは」
急な話題に驚きながらも自分が見てきたヒロの事を話すシエル。配属直後は迷惑をかけたと。ブラッドは自分の想定を大きく超えていた事。そして、赤い雨の中、事前のチェックもなく神機兵に搭乗し自分を救ってくれた事。全てを話した。
「と、こんな感じです。詳しくは本人から聞いた方がよろしいかと」
話し終えたシエルの目の前に立つエノクは何かを堪える様に震えていた。首を傾げ、再び話しかけようとした時、決壊した。
「くっ、はははははははは!神機兵に無断搭乗?それも事前チェックもなしに、一歩間違えれば死ぬ赤い雨の中助けたと!ははははっ!傑作だな、とんだ馬鹿野郎がいたもんだ!」
決して広くないラウンジに響き渡る声量で笑うエノク。当然、反対側とは言えヒロにも届く。そして、内容が内容なだけに全力で向かってくる。
「ちょ、ちょっとエノクさん?」
「よう、馬鹿野郎」
「馬鹿野郎は酷くないですか!?」
「馬鹿野郎だろう。なんだ、お前のその脳味噌は飾りか?アラガミの方がもうちょっと考えるぞ。あぁ、つまり単細胞以下かお前は」
「よくまぁそんなに罵倒がつらつらと思いつきますね!しょうがないですか、他に方法も思いつきませんでしたし、何よりシエルをあのまま死なせるなんて嫌でしたから」
真っ直ぐエノクを見て告げるヒロ。そして彼は気づく、自分を見ているエノクが何処となく羨ましそうに見てきている事に。
『あー、あー、てす、てす。うっし、オッケー!はいっ!皆さんご注目〜!!』
疑問を口に出そうとした直後、コウタが司会を開始する。思わずヒロの意識がそっちに持ってかれ、慌てて向き直るが既にエノクは普段通りの顔に戻っており肉料理を食べていた。司会も始まってしまったし、また聞けば良いかとヒロはコウタの方を向く。
コウタの挨拶から、ジュリウスの挨拶と続き、コウタは肉料理を食べているエノクを見る。
『では、次に折角なので極東に到着後、ヴァジュラ五体と同時戦闘して無傷で勝利した彼にも挨拶を!どんな人か気になってる人達も多いんじゃないの〜?はいっ!という訳でどうぞ』
「……はぁぁ、せめて事前に言え事前に。ラケルからの頼みじゃなきゃ二度とやらねぇからな」
文句を言いながらコウタの元へ行くエノク。数回、喉を整えた後真面目な顔をしてマイクの方に顔を向ける。
『極致化技術開発局所属のエノク・ディスティーノだ。基本、同部署所属のラケル博士の身辺警護、研究素材の回収を行なっている。ブラッド所属ではありますが、御用がありましたらラケル博士の方へご連絡を。アラガミとの最前線である極東の方々に誇る事などありませんが、もし任務を共にする事がありましたら、皆様の足を引っ張らぬよう全力を出す次第です。また、盗める所がありましたら技術を盗んでいく所存ですので皆さまが私を次の段階へと導いて下さると信じております。先ほどのジュリウス隊長と重ねる事にはなりますが、ご指導ご鞭撻のほど……何卒よろしくお願いします』
これで良いな?って視線をコウタに向け食事に戻るエノク。
「あいつ、あんな挨拶とか出来るのか……」
「ロミオ……あいつの挨拶の内容と極東支部の神機使い達にどう見られてるか思い出して、もう一度考えてみろ」
極東支部の面々から見たエノクというのは、正しく規格外の化け物だ。勿論、極東支部でも腕がある者達は規格外をよく知ってる為そこまで驚いていないが、それでも多くのゴッドイーター達からは化け物扱いだ。そんな状況であの発言だ。そう、簡単に言ってしまえば。
「……挨拶って銘打って煽りやがったのかあいつ!」
エノクは元々来る気がない歓迎会に来ているのに事前連絡もなしに挨拶させられたのだ。その機嫌は死ぬほど悪いものになっていた。全て分かった上での煽り。言葉をそのまま受け取っている例えば、挨拶を聞いて先ほどから歓喜に震えているエミールの様な人達には効果がないが、理解した者達の顔は苦虫噛み潰した様な表情になっていた。
「……流石にどうかと思うよ?」
「けっ、知るか」
最後に歌姫、葦原ユノが歌を歌いブラッド歓迎会は終わりを迎えた。解散となり、ヒロが先ほどの疑問を聞こうとエノクを探したが既にラウンジには居らず、質問する機会を失ったのだった。しかし、幸運だっただろう。もし、質問し過ぎればヒロは物言わぬ死体に成り果てただろうから。まだ、エノクが抱える闇を聞き出すには好感度が絶望的に足りていないのだった。
守りたいものを守れなかった男からしたら、それは余りにも眩しくそして、心の底から羨ましかった。
最後にも書きましたが、未だエノクを攻略するには足りません。大笑いはしましたが、それだけです。それとシエルの教育云々はこういう意図があったんじゃないかなってエノクを含めた独自解釈です。
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