荒ぶる神々に救いを   作:マスターBT

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この作品のラケルと原作ラケルの違いが出るかな。出てるといいな(願望)


第6話

「あ〜〜〜つっかれた」  

 

 ラケルより命じられた長期遠征任務を終わらせ、エノクは我儘言ってフライヤ内に用意して貰った広々とした風呂で汚れを落としていた。極東にある温泉に一度入ってからハマり、長期任務後には入るのが日課になっていた。広々とした湯船に足を伸ばし、まったりとするエノク。本場の極東に比べれば景色なんて無いようなものだが人工的に生えている草木を眺めるのは悪くない。

 

「あー……気持ち良いな」

 

 そんな温泉を満喫しているエノクの元に嵐がやってくる。温泉の入り口をコンコンっというノックする音が響く。完全にリラックスしているエノクにはその音が聞こえていない。やがて、ゆっくりと扉が開き防水加工のされた車椅子で入ってくる女性が一人。

 

「エノク。手伝って貰っても良いかしら?」

 

「ん?ラケルか……え?ラケル!?」

 

 バシャアっと水柱を立てて、沈むエノク。混乱を落ち着かせる事なく浮上した視線の先には、一糸纏わない姿のラケルが微笑みと共にエノクを見つめていた。恥じらいというものがないのだろうか。

 

「外から声はかけたのだけど……返事がなかったので入ってきました。お姉様が居ないので申し訳ないのですが、世話をしていただけますかエノク?」

 

「……分かった。ちょっと後ろを向いて待っててくれ」

 

 ラケルが自分で車椅子を操作して後ろを向く。ため息を吐いてから、近くにあったタオルを腰に巻き、解けない様にしっかりと固定する。そのまま、ラケルの車椅子を操作し一度、風呂場を出る。防水加工をされているとは言え、車椅子をずっと湿気のある場所に置いておくわけにはいかない。しかし、そうなるとラケルは動けなくなる。

 

「ラケル、触れるぞ」

 

「はい。どうぞ」

 

 一糸纏わない姿のラケルを、抱き上げるエノク。努めて彼女の裸体を見ない様にしてシャワーまで運ぼうとするのだが、悪戯かラケルが自分により密着しようとしてくるのでどんどん顔が赤くなっていく。それを何処となく楽しげに見ているラケル。シャワーの所にどうにか運び、用意されている腰掛けにラケルを座らせその近くに自分も座る。所定の場所に運べばエノクに仕事はない。湯冷めしない様にシャワーを浴びながらラケルが終わるのを待つ。会話は特にない。エノクが理性を全力で総動員させ、自身を落ち着かせている為会話する余力がないのだ。暫くすれば、ラケルが自分の身体を洗い終わり、エノクの方へ手を伸ばす。

 

「お風呂までお願いします」

 

「はいよ」

 

 再び彼女を抱き上げ、自分が入っていた場所に連れていく。ゆっくりと彼女を湯船に入れ、エノクもまた風呂に入る。隣にラケルがいるがそっちは見ないで風呂を満喫する算段をエノクは考えるが、ラケルが話し出した事でその思考は止められる。

 

「ナナが血の力に目覚めました。周囲のアラガミを自分へと惹きつける誘引というものでしょう」

 

「そうか。つまり、始めるのか?」

 

「えぇ。これで準備は整いました。あとは、ロミオの犠牲で始められます。能力だけなら、貴方も適任なのですが……エノクでは王を突き動かすには足りませんからね」

 

「悪かったな。しかし、彼奴がある意味一番重要なところを担うとはな」

 

「ロミオは良い子ですからね」

 

 日常の一コマの様に。まるで、ご飯は何が良いか。休日に何をするか。そんな気楽さを持って会話をする二人。ロミオという身近な人間が犠牲になるというのにその事実に悲しみを抱いている様子はない。当然だ、ラケルには既にそういう人らしい情緒など壊れており、内に宿る荒ぶる神の声に従っているだけなのだから。そしてエノクも、ラケルとは違うが壊れた人間だ。全ての行動はラケルのために。彼女の目的が叶うのなら、例えそれが愛した女性が心の底から望んでいるのか分からなくても。会話すら碌にした事のない有象無象に痛める心は捨て去った。

 

「タイミングは此方で伺います。連絡をしたら始めましょう。エノクにはアラガミの誘導をお願いしますね」

 

「分かった。いつもの様に指令を出してくれるんだろ?」

 

「えぇ、もちろん。表向きの理由を用意しますよ」

 

「……しかし、人類への試練。ラケル、お前はどっちなんだ?人類に滅んで欲しいのか?それとも踏破して欲しいのか?」

 

 もし、ラケルの考えを理解できるほどの頭があれば。もし、内から聞こえる声に素直に応じていれば。彼女を完全に理解出来たのだろうかとエノクは考える。冷酷なまでに計画を進めるラケルだが、その果てに起きるものを試練と称する。そこに何かを感じずにはいられない為にこんな質問が飛び出した。

 

「ふふっ。エノク、私は何に見えますか?」

 

 突拍子な質問。思わず、エノクはラケルを見る。そこにはいつものと変わらない見慣れたラケルがいた。

 

「人だ。俺はずっとラケルを人として見ている」

 

「外見だけそう取り繕っているのかもしれませんよ?」

 

「だったら、俺はもう死んでるだろうな。で、その質問が何になるんだ?」

 

「……もし、人が私の試練を乗り越えるのなら、その時やっと星は諦めるでしょう。ですが、それを荒ぶる神は望んでいません。人類は特異点を奪い去るほど成長し過ぎました。私は天秤を人と荒ぶる神どちらかに傾ける舞台装置なのですよ。あぁ、先の質問の理由を教えていませんでしたね。確かにエノクが答えた通り、私は人かもしれません。ですが、荒ぶる神でもあるのですよ。審判を下す者が偏ってはいけないでしょう?」

 

 そう言って感情の色が伺えない瞳でエノクを見つめるラケル。エノクはラケルへと手を伸ばす。心地よいと感じていた風呂の湯が、この時だけは酷く重たく感じられた。その重さを振り払い、ラケルの頬を触れる。人としての温もりを感じてエノクは安心した。やはり、少なくとも自分には目の前の女性が荒ぶる神には感じられない。それなら、エノクの答えは決まっている。

 

「そうか。なら、俺はお前が人としての我儘を言えるようになるまで、ずっと側にいる。ただのラケルになった時に、誰もお前の側にいませんでした。なんて、寂しがりやなラケルには辛いからな」

 

 指を動かし、ラケルの頬を撫でる。その手にゆっくりとラケルの手が添えられる。もしかし、嫌だっただろうか?そんな考えが脳裏を過ぎるが、振り払う素振りをラケルは見せない。

 

「新しい秩序の中に、そんな寂しさなんて無いと思いますが……私が我儘を言えるのならエノク。貴方だけに出来るのでしょうね」

 

 僅かな微笑みを浮かべ、愛おしげにエノクの手を撫でるラケル。この行為は残された人間性か、それともエノクという自分の意思通りに動く人形を維持する為の空虚なものか。それは、ラケル本人にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂場でのやり取りから数日後。漸く極東に戻ってきたエノクは、サテライト拠点外周部を歩いていた。極東支部に素直に向かうことをしないのは、ブラッドの面々との会話を面倒だと思っているからだ。直前まで降っていた赤い雨も今は上がり、安全な暇潰しになるはずだった。目の前の光景を見るまでは。

 

「じいちゃん達は逃げて!アラガミだ」

 

「彼奴は……神機も持たずに何してんだ?」

 

 ロミオが一般人を避難誘導している。しかし、その手に握られているはずの神機はない。助ける義理はないが、ロミオはラケルの計画の引き金になる存在。こんな所で死なれては困る。そう判断したエノクは今にも襲いかかりそうなヴァジュラテイルを、背後から斬り裂く。

 

「あんた、なんで此処に!?」

 

「お前こそ何やっている?神機も持たないゴッドイーターなどなんの役にも立たないぞ」

 

「そ、それは……」

 

 言い淀むロミオにため息を溢しながら、向かってくるアラガミの群れを見る。先頭をゆっくりと歩くガルムとその後ろに群れをなす小型アラガミ達。ガルムは感応種ではない為、あの群れをどうやって率いているのか気になるが、それはエノクの役割ではない。

 

『聞こえますかエノクさん!此方、極東支部のオペレーターヒバリです。今、そちらにロミオさんはいるでしょうか?』

 

 急に入ってきた通信に顔を顰めながら応答する。

 

「いるぞ。神機も持たない無能がな」

 

『もうすぐブラッドの面々が到着します。その時にロミオさんの神機も渡すので、暫く耐えててください』

 

「はぁ……面倒だなおい」 

 

 ブラッドの到着を待つ必要性ははっきり言ってない。しかし、わざわざロミオの為に戦ってあげる理由がエノクにはない。だが、此方を伺う前に指示を出してきたヒバリによって、今ロミオを見捨てる行為は違反行為になってしまう。そうすれば、さらに面倒なことになるだろう。それが理解出来るからこそ、最低限の働きはしようと渋々決めるエノク。神機をヴァリアントサイズから、アサルトへと切り替えガルムより先にやってくる小型アラガミ達を適当に足止めする。

 

「あー……早く来いや。ブラッド」

 

 適当に連射弾を放ち、アラガミの足を止めること数十分。ついにブラッドの面々が駆けつける。

 

「ロミオー!って、アレェ!?エノクさん!?」

 

「わわっ、もしかしてエノク先輩もロミオ先輩を探してくれてたんですかぁ?」

 

「な訳あるか。こいつの神機持ってきたんだろ?早く渡せ、そんで俺に帰らせろ」

 

「え、ジュリウス隊長からエノクさんと共闘しろって言われてたんですけど」

 

 ヒロの言葉に固まるエノク。その表情は誰がどう見ても酷く引き攣っている。ただでさえ、ストレスが溜まる行為をさせられていたというのに追加でストレスがやってくる命令。これを受け止め切る堪忍袋は残念だが、エノクには備わっていない。せめて、ラケルからの指示であれば良かったのに。

 

「ジュリウスゥゥゥ!!!!!あーー、クソが!こんな事になるなら、素直に極東支部に向かえば良かった……おい!ロなんたら」

 

「ロミオです!」

 

 怒髪天を衝く怒鳴り声で呼ばれたロミオは、背筋を伸ばしてエノクを見る。思わず敬礼するほどびびっている。

 

「お ぼ え て ろ よ」

 

「え?ちょ?俺、何されるの!?死なないよね!え、副隊長!ナナ!ギル!助けて!!」

 

 ロミオの言葉にはその場の全員が目を背ける。流石に巻き込まれたくないようだ。こうして、なんだかとても緩い空気のままアラガミの群れとブラッドの戦いが始まる事になった。




恥じらい。そんなものは捨て去っているラケル先生と、愛してる人の裸は直視できないエノクくん。やっぱり、ラケルには勝てないな。

原作ラケルより人間味があるのは、ずっとエノクが側にいてくれた分ですね。もちろん、原作同様終末捕食を起こすのを目論んでいますが。原作でも、僅かに人間味は残っていたしこういうのもありかなーって思ってます。しかし、あまりに人間らしくするとそれはそれでラケル先生の魅力を消してしまうので加減が難しい所さん。

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