Muv-Luv Alternative shattered skies 作:vitman
人型の大型兵器。目の前で空を飛ぶそれを見て、人型である必要性をメビウス1は理解できなかった。
戦闘機というのは、ある意味空を飛ぶのに鳥以上に特化していると言っていい。速度を自在に操り、高い
だがそれはある意味、人が飛ぶわけではないからこその美しさだ。
翼を持たない人が空を飛びたいからこそ造った戦闘機。それに乗って空を駆ける事がメビウス1の喜びであり、わざわざ人型になって空でダンスする必要性は全くない。飛びたいのなら飛ぶのに適した形でいいのだ。
総じて言えば、彼にとってこの人型の兵器は『邪魔者』であり『邪道』であった。
F-22のスロットルを最大にして速度を上昇、まずは追随する事ができるのかを見極める。
速度を時速1000キロまで上げたが、彼らは追いつきそうにもない。追う事はせずに二手に分かれた。恐らくは片方で見失わないようにだけして、もう片方で狙撃なりなんなりするのだろう。
乗ってやる必要性は全くない。そう感じたメビウス1は、追いかけてくる方は無視したピッチアップによって180度ターンを行い、ロールを行う事で機体を水平に戻しながら狙撃に映った機体の方に向かう。
レーダーが使えなくても、あれだけ巨大な機体を見失う彼ではない。ましてや雲に彼らは潜ろうとすらしていない。見失う方が難しいとすら言えた。
高速で真っ直ぐ向かってくるF-22に今更気づいたところで遅い。ちょうど
18mはある巨体に吸い込まれるように飛んで行った20㎜弾は、意外にも彼らにとって脅威だったようで、両手を使って機体の胴体部を守りながらロールする事で致命傷を免れていた。
「撃てば墜とせるが、無理に撃破する必要はないだろうな」
機体に傷を付けられるなら、その手に持っている巨大な銃を破壊することも出来るだろう。ここがどこか別の宇宙の惑星ならともかく、相手が人間なら武器を失った段階で降伏するなりなんなりしてくれるだろう。唯一心配なのは、そんな常識ある相手なのかどうかということだが。
ハイGターンを華麗に行い急旋回、その後相手に対して余りある高度から降下する事で失った速度を再び獲得し接近していく。
巨大な的だ。外すことはない。
そんなメビウス1の思惑とは異なり、20㎜弾は雲の中に消えていった。命中せず、というわけだ。
人型である利点の一つをメビウス1は理解した。銃を狙ったと悟られたためか、自分が照準を合わせた人型はその腕だけを動かして回避していたのだった。機体自体に武器が内蔵されている戦闘機にはない長所ではあった。
再び攻撃を仕掛ける事は不可能だった。もう一機が真下から猛スピードで上昇してきている。自分の弾は当てても相手が一撃で吹き飛ぶようなものではないらしいが、それも人型である恩恵だろう。こちらはそうはいかない。
相手を狙いを狂わせるため、操縦桿を倒して機体をロールさせる。目の前の景色がぐるぐると回るが、目を回す事はない。本来ミサイルを避けるための機動だが、相手の機銃を避けるのにも一定の効果がある戦闘機動の一種であるこれは、メビウス1の得意技の一つだった。
同時に失速をさせ、上昇したきた敵機に合わせて直上を向いた状態でポストストールマニューバを実行。コブラを用いることでその場で一回転し、減速しきれない敵機の背後に陣取る。そして、指を動かしてトリガーを引く。
秒で2桁の数が吐き出される20㎜は、人型の右腕にクリーンヒットし、その装甲を粉々に砕いた。離れ離れになった銃を持ったままの腕は、遥か下の地上へと吸い込まれていったようだ。
「意外と脆かったな……ん? なんだ……モールス信号か?」
ヒットを確認し、武器が落ちていったのを目視したメビウス1は、今度は左腕を撃ち落とすべくヨ-旋回によって微妙に機体を動かして照準を合わせた。彼が人差し指を動かせば、再び20㎜弾が高速で発射され、左腕が粉砕される。
しかし、そうはならなかった。なぜなら、もう一機が両者の間に割って入ったからだった。その機体は、割り込んだかと思うと機体正面をメビウス1に向けたのだ。
メビウス1と右腕を失った状態の機体の間に割って入ったもう一機は、その頭部と思われる部分の眼らしきものから赤色の光を一定間隔で放っていた。再び引こうとしていたトリガーから指を離し、決してもう一機から目を離さないように気を付けながら、そのライトの放ち方を見る。
それは、確かにメビウス1も知るモールス信号だった。
「ワレラ二コウセンノイシナシ。タダチニセントウコウドウヲシュウリョウサレタシ。だと?」
読み終わると同時にモールス信号を打っていた機体は、自分からその両手の銃と、背中に懸架していた銃──それも使えるものだとはメビウス1は知らなかった──を投棄した。それから間もなく、右腕を失った方もそれに倣って武器を捨てたため、メビウス1も速度を落とし、相手のモールス信号に返答した。
コチラモテキタイコウドウヲスルツモリハナイ。キカンラノキチマデアンナイヲタノム
事実上の停戦をした2機に続いてメビウス1は機体を動かしていた。
《》
「で? 貴官の所属国は? 基地は? 階級は幾つ? IDは?」
「IUN国際停戦監視軍所属、第118戦術飛行隊一番機でコールサインはメビウス1。基地は……さっきも言ったが転々としたり一度退役したりであまり定住してなくてね。階級は一応佐官ではあるんだが、そんなに偉い地位になった気分はないね。この状態じゃ」
ジェット戦闘機などという時代遅れも甚だしい代物に乗っていたのは、意外というかなんというか。尋問を担当している若い少尉からすればオッサンと呼べるほどの年齢なのは間違いなかった。
老けているとまでではないが、明らかに戦闘機なんてものに乗るのに適した年齢ではないのだけは分かる。髪は灰色──地毛がその色かもしれない──で、無精ひげを生やし、渋い声で何度目かもわからない質問に飽き飽きとした態度で挑むその姿は、とても若いとは思えない。だいたい30後半ほどだろうか。
「なあ、そろそろ俺からも質問しちゃいかんかね?」
両手に付けられた手錠をおどけたようにジャラジャラと鳴らし、これまた薄ら笑いをしながら話してくる男、メビウス1に中尉は再び首を振って答えた。メビウス1は飽きているようだった。
だが、本当に頭を抱えたくなっていたのは尋問をしている少尉の方だった。
誰が言えるだろうか。最新鋭の対人戦特化型戦術機
泣きそうになりながら彼の言った事をそのまま書いたメモ用紙は、もう何度も修正ペンで塗りつぶされた場所があって、大層読みにくくなっていた。
「邪魔するぞ」
「中尉!」
突然、尋問室のドアが開いた。そこに立っていたのは、この手錠に繋がれた男と一戦交えた件のインフィニティーズの小隊長のキース・ブレイザー中尉だった。
椅子から跳び上がるように立ちあがった少尉は、室内式の敬礼をしてその入室に応えてから、申し訳なさそうに、しかし規律を守るために恐れずに実に軍人らしく言い放った。
「失礼ですが、いくら中尉であっても彼と話しをさせる事はできませんよ」
「だから失礼すると言ったんだよ。ほれ」
キースはその手に持った一枚の紙をひらひらと見せびらかすように少尉に見せた。その紙には、この人物への面会許可が基地司令のサイン付きで書いてあった。どんな裏技を使ったんだと少尉は飽きれつつ、基地司令のお墨付きがあるとなると何も言う事はできず、「30分だけです。それ以上は許可できませんよ」と言って尋問室を後にした。
「分かっているよ」とだけ言って見送ったキースは、腰にぶら下げていたポーチから袋を出すと、そこからサンドイッチを二つ取り出し、その片方をメビウス1の側に置いた。
「食うといい。尋問開始からかれこれ3時間経ったと聞いたんだ。腹、減ったろ」
「ならこいつも外してほしいんだがねぇ。食いにくいったらありゃしない」
差し出されたサンドイッチをまじまじと見たメビウス1は、サンドイッチの袋を破くのに20秒ほどかけ、それから食べながらそう言った。
だが、帰ってきたはそれを解決する鍵ではなく、サンドイッチにピッタリのコーヒーだった。
「そりゃ無理だ。そいつを外そうもんなら俺もそれを付けられちまう。申し訳ないが、このコーヒーで我慢してくれ」
紙コップに入ったコーヒーは、舌が火傷しそうなほど熱かったが、軍に置いてあるインスタントのものにしては中々美味いもので、ハムとレタスが挟んであるサンドイッチも空腹の状態ではかなりの一品に感じられるものだった。
なるほどこれなら士気は高いだろうな。などとメビウス1が感じているうちに、手元には空の紙コップしか残っていなかった。
完食したメビウス1を見たキースは、少尉から受け取った資料をまじまじと見ながら興味深そうに話始める。
「俺はあんたとさっき交戦した戦術機の衛士だ」
「……衛士ってのはパイロットという認識でいいのか」
「おおむねそれで構わない。んで、俺はあんたをどうこうしようなんて思っちゃいない。あの戦闘は俺の監督不行き届きが原因ってのもあるしな。俺があんたと話したいのは、ただの知的好奇心と興味がわいたからってのがでかい」
キースが聞きたがったのは、メビウス1の乗っていた機体の事だった。整備士の連中が見たところ、技術的にはBETA大戦最初期に米軍で開発途中だった試作品のものに近いものが使われているらしく、データの抜き出しには苦労しなかったそうだ。
だが、ピッタリ一致する機体はデータ上に存在せず、更に言えばその機体を構成するパーツは、この世界のどこの部品メーカーでも取り扱っていないということだ。つまるところ、この機体は様々な企業のパーツをを集めて作っているわけでもなければ、どこかの国の企業が極秘裏に作っていたわけでもないということで、この機体が本来この世界にあるはずがないということを意味してもいた。
おまけに、ブラックボックスを解析したところ、この地球のどこの地形にも当てはまらない地図情報がわんさか出てきたことや、戦闘記録を漁ってみれば、2014年のものが最新のものだときた。
「2014年だぞ。2014年!」
「それがどうかしたのか? ……まさか、今は2100年だなんて言わないだろうな」
自分をこの基地まで先導した巨大な人型兵器を思い出しながらメビウス1は呟いた。子供向けロボットアニメでもなければ出てこないような兵器が青い空でダンスしているなんて、今でもパッとしない感じだったのだ。ともなれば、彼の常識的に考えれば、ここは未来で間違いないだろう。地殻変動なんかで地形が変わったり、国なんかが一新されていたとすれば、この流れは分かりやすいものだった。
メビウス1の期待した言葉はやって来なかった。答えの代わりに投げ渡された新聞には、日付が書いてあった。
「残念ながら、ここは未来じゃない。過去だ」
「1997年……だと?」
1997年。それは、メビウス1が戦闘機パイロットとして訓練を始めた年だ。ベルカ戦争の2年後、そしてユリシーズ到来の2年前。だが勿論、当時戦闘機は主力の兵器だったし、あんな人型兵器──戦術歩行戦闘機──なんてものは実用化はおろか、研究すらされていなかった。
単純な未来や過去へのタイムスリップですらない。馬鹿馬鹿しい。別世界への転移だとでも言うのか。
回答としては最も馬鹿らしいと蹴れるそれが、今一番現実的に考えて正しいと考える自分の脳をメビウス1は恨んだ。
一縷の望みを懸けて、メビウス1はキースに問いかける。
「なあ、この世界で小惑星が落下してきたとか、落下コースがこの星だとか、そういうニュースはないのか?」
「小惑星? 隕石ならまだしも、小惑星なんてのは落ちてくるかよ。第一、そんなもん落っこちてきたらおしまいだぜ」
深く考えることなく答えたキースのその言葉を聞いて、メビウス1小さく笑った。そりゃそうかと。戦争という国家間の喧嘩の絶えないあの世界でさえ、なんとか協力してストーンヘンジという超巨大レールガンを幾つも作ってやっと対処したんだ。
ユリシーズ到来2年前の1997年は、ユリシーズが発見されて地球に落ちてくると発見された年だったから、もしユリシーズの事をキースが知っていれば、メビウス1にとっては知っている世界として頭を落ち着かせる事ができた。
だが、ユリシーズという存在の有無だけが、この世界がメビウス1の知る世界かどうかを決定づけるものではないのだと彼は知る。
「ただでさえ、BETAがこの地球にうじゃうじゃといるってのにな」
「べー……なんだって?」
「予想はなんとなくしていたが、やっぱり知らなかったか」
キースはメモ用紙とペンを使いながら話しはじめた。
『|Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race《人類に敵対的な地球外起源種》』略してBETA。それらが火星で発見され、月で人類と接触して以降かれこれ何十年もの間戦争状態にあるということ。
月でも人類は探査基地を幾つか作ってはいたが、もう抵抗すらできない状態で、1973年──24年前──から地球での戦いにシフトしているということ。
BETAには約10種類いて、そのうちの2種類が現在の対BETA戦の主力である「戦術歩行戦闘機」を生み出す原因になったこと。
「その戦術機ってのはさっきあんたらが乗ってた人型兵器の事だよな」
「その通り。その顔は分かるぜ。なんだってあんなので飛ばなきゃいけないって顔だな」
真顔で頷いたメビウス1を見てキースは笑いそうになるのを堪え、コーヒーをもう一杯飲んでから説明を再開した。
その2種類というのは地球で初めて観測された種類のBETAで、俗に
最初期こそ航空戦力を持たないBETAに対し、爆撃機を用いた絨毯爆撃で優位性を確保していた人類だったが、その光線属種の登場によって航空戦力が無力化され、一気にその生息圏を狭めていった。
簡単な世界地図を描いたキースは、メビウス1に色の違うペンを見せながら問う。
「この内、どれだけの地域が人間の住める地域だと思う? ああ、ちなみに最初にBETAと戦闘したのは、ユーラシア大陸の中国って国のここらへんだ」
「そこに落ちたんだったら……こんなもんじゃないか」
メビウス1は、渡された赤ペンでBETAの支配地域をエリア化した。ユーラシア大陸の殆どが赤く塗りつぶされているが、それでもBETAの支配地域の広さには及ばない。
「残念だが、もうちょっと狭い。ああ、ここはアメリカで、この基地はここら辺にあるんだが……ここ、カナダなんかは核兵器の大量投入で人が住める環境じゃないしな」
更に塗りつぶされた世界地図は、しかし意外だという印象をメビウス1に持たせた。
既に20数年は戦っていて、航空戦力がないというのに、どうやってここまで戦線を維持していられるのか、と。普通に考えれば、地続きの場所はすぐに戦線が崩壊してもおかしくないはずなのだ。
「そこで、戦術機よ。いいか、あれはな……」
キースが更に話を続けようとしたところで、タイマーの音が鳴り、同時に彼の上官と先ほどの少尉がセットで尋問室の扉を開いてきた。
「これから良いとこなのによ」と小さく舌打ちをし、キースは硬いパイプ椅子から立ち上がる。
「時間だ。中尉」
「はい、分かっております少佐。自分の仕事に戻ります」
挨拶をしたキースは、5歩歩いたところで振り返り、未だ手錠で繋がれたままのメビウス1に向かって叫んだ。
「いいか、お前をそんなとこにいつまでも置いたままにはしないからな!」
メビウス1は、それに対して困惑したような顔で答え、少佐は怒りを露わにしてキースを追いかけてその場を後にしてしまった。
尋問室に残ったのは、やはりメビウス1と少尉だけだった。
高評価をしていただいたZERO零さん、KARASAWAさんありがとうございます!
この場を借りてそなたに感謝を
言語に関してはオーシア標準語と英語が一致しているということでお願いします
訛りはあるが通じる……みたいな感じで