Muv-Luv Alternative shattered skies 作:vitman
最近、このグルームレイク基地に目立つ奴がやってきた……いや、やってきたというのは正確に言えば間違いだ。とある一人が目立ってきた。というのが正しかった。
第65戦闘教導団通称インフィニティーズ。アグレッサー部隊(演習における仮想敵部隊)の教導を行う部隊という異質なソレが、発足からおよそ半年間、小隊という扱いでありながらたった二人だけの部隊であるというのは、米軍衛士の間ではかなり有名な話だった。
前線国の光線吶喊に従事している戦術機部隊でもあるまいし、不足した人数で任務を続けるというのに疑問を持つ者も多かったが、つい最近になってその件のインフィニティーズと実践形式の模擬戦を行ったゴースト中隊の一人。ユウヤ・ブリッジス少尉はその理由を掴んでいた。
彼らは強い。最新鋭機である
12機の
そんな彼らに、待望の新入りが入ったという発表がなされたのは記憶に新しい。なにせ、そのインフィニティーズの隊長のポケットマネーで基地の衛士全員を巻き込んだ歓迎パーティーが行われたほどだったからだ。
普段はそういった催し物に参加しないユウヤですら、それに参加した。周りに蔑んだ目を向けられるデメリットを押してでも、インフィニティーズに配属された凄腕の衛士がどんな人物なのか見たかったのだ。
だが、一言で言えば期待外れとでも言うべきものだった。
「メビウス、それっぽっちしか食わなくて大丈夫か? この俺のような筋肉を得るのにはそれじゃあ足りないぜ」
「悪いなガイロス。俺は筋肉ダルマになるために衛士になったんじゃないんだ。だが、その好意は頂こう。悪いねおばちゃん、飯を大盛りにしてくれ」
「なんだって? ああ、おばちゃん。俺にはコイツより大盛りを頼む」
ここ二週間で毎回の恒例と化しているこのやり取り。発生源は件のインフィニティーズの衛士二人だ。最も、隊長の男はこのやり取りに参加していない。騒いでいるのは、元からいた衛士と新入りだ。
若い筋肉の鎧を着た大男と、灰色の髪が特徴的な衛士というよりもヘリなんかのパイロットによく見られる体格の男。年齢的には前者の方が若いが、新入りなのは後者の男だった。
この新入り。ユウヤが数少ない知り合いに頼んで調べて貰えば、なんとも異色の経歴の持ち主で、元々インフィニティーズの専属整備士で、部隊内のレクリエーションで偶然戦術機適性が明らかになり、そのままインフィニティーズに配属されたとか。
(おかしな話だ)
彼もアメリカ軍人なら、誰もが軍に入る際に戦術機適性検査を受ける。本人の意思に関係なくだ。
戦術機適性は先天性のものが大きく、戦術機の整備をしてたから適性が伸びましたなんて話はあり得ないものだ。それなら整備兵の殆どが衛士になっている。
何よりおかしいのはその訓練の速度だ。聞けば二週間でシミュレータ訓練まで始めたらしい。どう考えてもあり得ない話だった。
物思いに耽るユウヤの両隣に、昼食を乗せたトレーが置かれる。その音に思わず顔を上げると同僚のシャロンと友人のヴィンセントがいた。
「どうしたユウヤ? 噂の新人衛士が気になるってか?」
「別に」
「もう、素直じゃないのね。自分がインフィニティーズに選ばれないのが気に入らないって顔してたわよ」
図星であった。バツの悪い顔をなんとか隠すため、ユウヤは下を向いて昼食をかき込む。今では合衆国のみで食べることができるという天然肉のハンバーグは、いつも通り一級品の味だったが、心がそれで満足する事はない。
シャロンの指摘通り、そのメビウスという名の衛士の事がユウヤは気に入らなかった。
整備兵上がりで衛士としては新米。そんなのがどうしてエリート中のエリートのみが入れる部隊にいるのか。理解し難い。
あんなのよりも、自分の方がよっぽど戦術機を上手く扱える自信がユウヤにはあった。
「そうそう、この噂は聞いたかユウヤ」
「なんだよヴィンセント」
「ほら、この間お前らがインフィニティーズと模擬戦した日だよ。ジェット戦闘機に乗った大馬鹿者が基地に連行されたって話、あったろ?」
「ああ、お前がバカ騒ぎしてた日か。覚えてるぜ。それがどうかしたのか」
ここのところ大ニュースが続く日々だが、その日は特別印象深い日であった。
インフィニティーズにボロボロに負け、かと思えば演習後にこのご時世に珍しいでは済まないジェット戦闘機が発見され、インフィニティーズがその確保をしたとか。そしてその後、更衣室までわざわざやってきたあの部隊の隊長に、腕前を絶賛された。ユウヤの記憶に残るには十分すぎる一日だ。
「それがなぁ。ここんところ、インフィニティーズが実機を使った模擬戦をしてないのは知ってるだろ? あれが例のジェット戦闘機との交戦で損傷を受けたからって噂が整備士仲間の間で広がっててな」
「ジェット戦闘機との交戦で損傷? あのインフィニティーズがか?」
「それ本当? 整備兵の噂は信用してるけど、それは信じ難いわよ」
ジェット戦闘機と言えば、戦術機が戦場に出るまで、
そんな旧世代の兵器が、現代の最新技術の結晶である戦術機を。それも米軍内でもトップクラスの腕前の衛士が操る最新鋭機を損傷させる? 笑い話にすらなりゃしない。
シャロンの言う通りヴィンセントが持ってくる整備兵間の噂話は質が高いし、何より衛士の自分らよりも基地の非戦闘員と関わる機会が多いから、その噂も意外に真実に迫るものが多い。鵜呑みにするとまでは言わないが、ある程度信用できる情報ではあった。
確かに、あんなにジェット戦闘機の登場に息巻いていたヴィンセントの持ってきた話だ。インフィニティーズのF-22EMDを扱う整備兵から直接聞いたのかもしれない。
「ま、あくまでも噂だ。だがな、この話には続きがあってだなあ」
意気揚々とその噂話の続きをヴィンセントが語ろうとしたところで、ユウヤとシャロンの端末が鳴った。
飯時になんだなんだと、若干苛立ちながらも素早く確認すれば、昼食後すぐにブリーフィングルームに集合するようにとの招集命令だった。
確認した二人は話を打ち切って昼食を大急ぎで胃の中にしまい込むと、紙ナプキンで口を吹き、水を飲んで立ち上がる。
「おいおい、お前ら大急ぎでどうしたよ」
「悪いなヴィンセント。お呼びだそうだ」
「話の続きは帰ってから聞かせてもらうわ」
そう言って立ち去った二人の席には、トレーが置かれたままで、片付けを押し付けられたと知ったヴィンセントは一人大きなため息を吐きながら食事を続けることにした。
《》
ガイロスと大食い勝負染みた昼食をとった後、メビウス1はすぐキース中尉に呼び出された。
何かやらかしたのかと思えば、そうではないようで、何やらニヤニヤする我らが隊長を見て、どうもメビウス1は胸騒ぎしていた。悪い予感という訳ではなく、どうも自分に大いに関わりのある大事があるぞというものだ。虫の知らせとでも言ったところか。
発表内容は、それはもう予感的中というものだ。
「そろそろシミュレータマシンでの訓練にも慣れてきた頃合いだろ。そろそろ実機に乗って練習してみようじゃないか。そんでもって、実機での動きに問題がないようならそのまま模擬戦にも参加してもらう」
「正気ですかい隊長殿?」
流石にドン引きだった。
実機での訓練は分かる。メビウス1自身、そろそろシミュレーション訓練で毎日3回はガイロスと模擬戦をするのに正直辟易していたのだ。だが、実機での訓練初日に普通模擬戦をするだろうか? 普通に考えればする筈がない。
模擬戦といえど実機で行うタイプのものだ。シミュレーションの中でやるのとは大違いだ。勿論、人工的に生み出されたGとは違い、生きたGが襲い掛かるだろうし、実機を使っているからこそ起きる事故もある。
演習とはいえ、それはある程度の腕がたつものがやるからこそ安全かつ経験になる。素人がやればただの危険行為だ。
「大真面目だ。私からすれば、君の実力的にはもっと早めた方が良かったかもしれんとすら思ってるよ」
キースが自分の事を高く評価しているのを知っているメビウス1でも、この判断にはかなりビビッた。が、撤回するつもりが一切ないキースは、半ば無理矢理引っ張って、隣のブリーフィングルームまでメビウス1を連れて行ってしまう。
先に向かっていたガイロスが奥の椅子で座っているのが見えたが、それを遮るように手前にはBDU姿の米軍人が総勢12人、ずらりと椅子に座っていた。彼らの胸に付いているバッジは彼らが衛士だという事を意味している。彼らが例の模擬戦の相手だというのは、ここまで条件がそろっていれば赤子でも分かる。
その中でも、一際メビウス1の目を引いたのは、オーシア空軍のエース部隊、ラーズグリーズ隊の二番機のパイロットと同じ黒髪黒目、白よりはちょっと色のついた肌の色。このアメリカという国では珍しい人種の衛士だった。
自分の事をジッと睨むように見つめる彼を見て、何か因縁でもあったものかと思考を巡らすがやはりそんな覚えはない。なにせつるむ仲間と言えばガイロスやインフィニティーズの整備兵ばかりだ。
「ゴースト中隊諸君、彼がつい先日紹介した我がインフィニティーズの新メンバー、メビウス少尉だ」
そんな紹介に伴って、その場全員の視線がメビウス1を釘付けにする。品定めされているようにも感じたメビウス1は、なんとも複雑な気分だった。
キースが口に出した“メビウス少尉”という名前は、こっちの世界で名乗る事になったメビウス1の名前であった。
生きる世界が変わるともなると、今までの経歴などは全く役に立たなくなるもので、書類などを軍の上層部が作る際に国籍などをいわばでっちあげる必要があった。
その際、一度米軍の戦術機と戦闘を行った罪人という形で拘束されていた、元々のメビウス1の個人情報を用いるのは、後々厄介なことがあった時に面倒なことになりかねないとして、身分を一から作ることになった。
結局、呼ばれ慣れている名前と言えば、本名の他にはコールサインの“メビウス”以外にはなかったので、こちらの
「今回改めて紹介したのは、彼が3時間後に行う模擬戦に参加するからだ。一応、君達と顔合わせをしておいた方がいいと思ってね」
「ちょっと待ってくれないか」
立ち上がったのは、中尉の階級章を付けた男。恐らくはこの部隊の隊長格だろう彼の顔は、明らかに不満に満ちていた。いや、不満気な顔なのは彼だけじゃない。この中隊の殆どの衛士が、程度の差こそあれ自分に対して不満を持っているのが分かる。中には怒りを持った人物もいるだろう。
当たり前だろうとメビウスは感じた。なにせ自分は書類上での経歴も、そして真の経歴も異色で、尚且つ本来一年は軽くかかる衛士としての訓練課程の殆どをすっ飛ばしてこの場にいる。
ついこの間の“歓迎パーティー”とやらでも、メビウスに対して疑いの目を持って接する者は多かった。
彼らはテストパイロットで、アグレッサー部隊の一員だ。誰もかれもが凄腕の衛士で、経験豊富。そして自信もプライドもたっぷりだ。
「その『メビウス少尉』は実機での訓練はまだだと聞いたが、
もっともな意見だった。
だが、メビウス側の隊長、キースは自身の意見を曲げる気など毛頭ないと言わんばかり。
「ほう、ゴースト中隊の隊長殿は新入りに負けるのが怖いのか。なら致し方ないな」
「チッ!」
こうして少しばかり挑発をしてしまえば、相手もそれに対して否定することができなかった。
プライドが高いのが裏目に出ているパターンだ。挑発にどんな回答をしても、負け犬のようにしかならない状態を作り上げられ、その本来の策略にまんまと乗ってしまう。一番マズいタイプだ。
ガイロスはこの流れが事前に予測できていたんだろう。ずっとニヤリと薄笑いを顔に浮かべたままだ。
「他の者で何か意見、文句などある者は? ……いないようだな。まだメビウス少尉はインフィニティーズの予備機として用意されているF-15Eに搭乗する。コールサインはメビウス1。先に我々が演習場に待機しているので、予定時間になったところでゴースト中隊が到着、遭遇戦という形で演習を実施する。質問は……ないようだな。ではこちらからは以上だ」
後ろで待機していたガイロスも前の壇上まで上がり、三人で敬礼をして部屋から退出する。
あの黒髪の衛士は、結局最初から最後までメビウスの事を凝視したままだった。
《》
戦術機というものは、知っての通り四肢がある。これがメビウス1が思った中でも戦闘機との最大の相違点と言える。
この四肢はメリットとデメリットの双方を生み出すのだが、そのデメリットの中でも一際メビウス1が大きなものに感じたのは、歩行時の揺れだった。
戦闘機と違ってただの移動だけで大きな揺れが機内を襲うのは、中々な欠点なんじゃないかと彼は思ったのだ。なにせ、常時コックピット内はシェイカーで振られているようにも感じるし、食事後に乗ろうものなら胃の中でカクテルができあがってしまう。
「どうだメビウス1。本物のF-15Eに乗った気分は」
「シミュレータよりも揺れがリアルだな」
「はっはっは!! そりゃそうだ!」
無駄に大きなガイロスの笑い声が無線越しに響く中、メビウス1は跳躍ユニットを使った高速移動に試験を切り替える。
リアルな青空の中で機体を動かすのは気持ちよい気分だった。それがたとえ、今までのキャノピーから見える空ではなく、戦術機のカメラアイ越しの空であっても。
機体をミリ単位で動かす要因となる風の調子を確認し、それによる機体バランスの変化を兵装担架に載せた長刀や手に持った突撃砲の位置、頭部の細かな動作で調整する。戦闘機と比べて空気抵抗の事をまるで考えていない大きさだからこそ、こういった小さな部分から変えていく必要があるからだ。
「
「
「メビウス1了解……インフィニット2、前回は本気じゃなかったんだな」
「そういう意味ではない」
「静かにできんのかお前ら。ほら、ご到着だ」
レーダーに反応が出た。全部で12機キッチリ確認できることから、間違いなく彼らゴースト中隊が到着したということが分かる。カメラのズーム機能でF-15Eの編隊が視認できる。なるほど。ブリーフィングルームでは決して仲の良いチームには見えなかったが、その統制の取れ方から見て腕は確からしい。
今回の演習は、このネバダの豊富な自然をそのまま使った大自然の中での模擬戦。遭遇戦という想定だけあって、市街地での戦闘ではないのが特徴だった。
実のところメビウス1は、この自然を味わうのは楽しみにしていた面がある。なにせこの世界に来てからというもの、外に出るのは休憩の際の息抜きもしくは星空を眺める時だけだ。
その天体観測でさえ、キースに発見された時は「ここで見える星の殆どはBETAがうじゃうじゃいるんだろうな」などと茶化されたものだ。座学でBETAの資料を見せられてからは、どうもメビウス1はBETAに対して何とも言えない苦手意識があった。
だが、今回の相手は同じ人間。慣れたものだ。
この世界の人間から見て、大々的な対人戦というのは既に半世紀近くやっていないらしいが、メビウス1はそういった面で見れば寧ろその道のプロだ。
「悪い、インフィニット1。先に行く」
ペダルを思いっきり踏みつけ、フルスロットルで加速する。
F-15Eの加速性能はF-22EMDには劣るが、しかし瞬間加速だけ見れば戦闘機パイロットからしても見事なものだ。ジェットエンジンとロケットエンジンの複合エンジンだからこそ成せるものらしい。
ガイロスとのシミュレーション訓練の時にはしなかった匍匐飛行で距離を詰め、距離5000を切った時点で軽く上昇する。12機程度とすれ違うなど日常茶飯事だった。同じ常識が通用すると考えるのは危険なことだが、しかしこれは演習であって実戦ではない。そう思えば気が楽だった。
逆を言えば、この場であれば実戦で試そうとするには躊躇われることを実践して確かめられるということなのだから、ありがたいことこの上ない。
『
「生憎口で数えるのは苦手でね!」
そんなことを報告するくらいなら最初からそっちで数えてくれと言外に告げ、そのまま加速を続ける。
距離4000。まだ遠い。120mmを使って先制射撃を加えても良かったが、メビウス1にとってのそれは戦闘機のミサイルのようなものだ。弾数が限られている以上、当たるかどうか分からない状態で撃つ必要はない。
3000。撃ってもいいが、二、三機を持っていくなら早い。すれ違う間が勝負だ。
2000。そろそろ我慢弱いやつが撃ってくる頃だ。加速を保ったまま、機体をロールさせて軸移動を行って回避行動に入る準備を万全にしておく。
1500……今だ!
『メビウス1──
メビウス1が最初に噛みついたのは敵の右翼だった。
わざと120mm滑空砲の最初のマガジンに選んでおいたキャニスター弾を左右の二機に発砲し、回避行動をわざと取らせる。取らなかったら相手が撃破判定を貰うだけだ。
正面の一機には36mmの雨を直接降らせてやる。相手も勿論撃ってくるのを見越した上で、こちらは腕部ではなく兵装担架からの射撃だった。機体をわざと急降下しながら射撃する事で、相手のロックオンを外しつつ、こちらは上面と背面に攻撃できる兵装担架で一方的に攻撃できるのだ。これは戦闘機での背面を取るための
120mmは右側の一機は避けたようだが、左側のは避けきれずに半身をペイント弾の特徴的なピンク色に染めていた。F-15Eの装甲厚的に本当にそれで撃墜できるのかは怪しいが、それでも演習では撃破判定である。
ヘッドオンした機体も難なく墜としたことにより、早くも10対3に早変わりだ。
『ゴースト11、ゴースト9大破、撃墜と判定。残り10機』
「最初の挨拶にしちゃ派手だなメビウス1……手伝った方がいいか?」
「いや、そっちはそっちで降りかかる火の粉だけ払ってくれ。どれだけやれるか試したい」
いつの間にかにやけていた口元を正しながら、メビウス1は垂直加速をして高度を取り戻す。
追ってきているのは、さっきのご挨拶で倒し損ねた一機と、右翼を構成していたもう一機の合計二機。思ったよりも少ない。プライドだけで生きているかと思えば、そうでもないらしい。
いや、違った。周りの奴らは観戦気分だ。誰も彼もが「期待の新人」とやらに夢中だったのだ。
本来であればF-22EMD二機に中隊が丸ごとやられていたのに、今回はその中にわざわざF-15Eで参加する馬鹿者がいるときた。
舐められていると思われたか? メビウス1は先行していったのを僅かに後悔した。
思えば、こうなることをあの二人は想定していたのだろう。結局、メビウス1は全ての人にその技術を試されていたのだ。
「だったら最初からそう言えばいいのにな」
最初のはある意味奇襲の域を出ないものだ。試されているだなんて知っていたら、もっとマトモにケツの取り合いをしていたなどとメビウス1は独り言ちる。
向かってくるは二機。戦術機は跳躍ユニットの可動性の広さから、良くも悪くもトリッキーな動きが可能で読みづらいが、結局狙いが背面であることに変わりはない。
相手はコンピューターじゃない。人間だ。だからこそ読みやすい。
いくら命中しても問題ないと分かっていても、攻撃は避けたいと思うのが人間の心理。
当たりそうで当たらないギリギリの場所を狙って射撃し、一機は常に視界内に、もう一機は背面を取られない程度の位置に固定させる。
食いついたら、相手の動きをよく見る。動きといっても大きな動きではなく、機体の小さな動きをだ。
跳躍ユニットの向き、肩部スラスターの動き、足の位置の微妙なズレ……細部までしっかりと見る。それが全て相手の未来位置予測へと変わり、次に相手が動く場所というのがハッキリ分かる材料となる。戦闘機であれば、見るべきポイントが尾翼などの動きに変わるだけだ。
とはいえだ。先も述べた通り、戦術機は背面射撃が容易だ。だからこそ、可動範囲外にしっかり居座ることが重要になってくる。具体的には相手の頭上よりも少し後方が特等席だ。
「3機目」
両手の突撃砲でそれぞれ左右の跳躍ユニットへ射撃をして撃破判定を喰らわせる。
恐らく次からは連戦になるだろうことを見越し、早めに36mm弾と120mm弾のマガジン交換をしながらもう一機の相手をすべく高度を上げる。今回の演習は高度制限がないのがありがたい。
こちらが高度を上げようとするやいなや、相手はその優位な高度にいるうちに降下射撃を仕掛けてくるらしい。
アメリカ軍人は直接的な機動が多い。これは単なる感想だが、そういった敵は大抵の場合、いなしやすく、撃破しやすい傾向にある。
「4機目」
少しでも迷いがあるから、36mm弾を少し肩に当てたぐらいで速度を落とす。離脱しようと判断するからだ。
だが、そんな者に次のチャンスは訪れない。上昇してくる敵機に向けての降下ヘッドオンから離脱しようとして急旋回するということは、その時はまだ有利だった速度と高度を殺す行為そのものだ。現に今、ゴースト10はそのせいで高度を上げたメビウス1に
戦闘機とは一味違う運動性能は、何故こんなもので空を駆けなければいけないと思っていたメビウス1の心を動かすに足るものだった。今や彼は、この空という舞踏会でダンスすることが楽しくてしかたがない。
ジェットエンジンの爆音を鳴らして取った背中に向けて120mm弾を発砲、クリーンヒットさせる。戦車の主砲と同火力のそれは、まさに一撃必殺の決め弾だ。
最初の襲撃からたったの40秒。それがゴースト中隊の右翼を構成していた戦術機4機がメビウス1相手に空を飛べた時間だ。
短い。あまりにも短い。
数は違うとはいえ、F-22EMD二機に十二機でかかった時よりも圧倒的に短い時間だ。キルペースでも圧倒的な差があるだろう。
ゴースト中隊のメンバーは、いや、この空域にいる全ての衛士がこのF-15Eに対する認識を変えることとなる。
彼は≪本物≫なのだと
日間ランキングに載ったり、赤評価バーを頂いたりで感謝感激です
高評価をくださった皆さんありがとうございます
低評価も見て、改善の余地があると実感できます。ありがとうございます
ヒロイン(仮)は出ましたが、この人ヒロインで大丈夫なのか不安です
TE主人公とクゼ少尉に怒られないでしょうかね