Muv-Luv Alternative shattered skies   作:vitman

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1983年柴犬の時代のテオドール君は18歳という若さでして、TEが開始する2000年では35になりますね
だからって何もないんですが、思ったより若いですよね


Mission 3-1 欧州戦線へ

 誰も言わないでいるだけで、誰もが分かっている。彼が異常だってことが。

 

 大体、整備士が衛士になるという話自体がおかしいものだし、そんな奴がいきなりテストパイロット部隊相手に圧倒的な技術の差を見せつけるということも意味不明だ。

 現実は小説より奇なりという言葉はあるが、これについては少々奇がすぎると思う。

 

 そして更に驚いたのは、彼の指揮能力の高さについてだ。

 指揮能力というのは、いきなり才能があるからといって発揮できるものではない。熟練の腕に加えて、長年戦場にいることによる判断力と勘の育成がなされるからできるものなのだ。米軍において後者を満たしている者は少数派だが、それでも長年培ってきた知恵と知識などによって指揮官としての任務を全うしている者が殆どだ。

 ともすれば着任からたった一月で実験部隊の指揮官になった彼は、軍内でも極めて希少な例であると言える。

 もちろん、そういった例が前線国家で多いのは知っているが、それはBETAとの戦いで年長者が次々死んでいるからであり、米軍内でそういった事例に陥った過去は殆どないと言っていい。

 

 彼の指揮はまだ模擬戦とシミュレーション訓練でしか行われていないが、それでも過去に自分が受けてきたどの指揮官の指示よりも的確で、状況に沿っていて、どんな局面でも対処できる力を持っていた。

 彼の指揮を受けた光線吶喊の際、彼自身が対BETAプログラムを行うのが初めてだと言っていたにも関わらず、米軍の作成したプログラムの中でも難易度が高いものをF-4四機のみ、しかも損害なしで遂行したと考えれば、その能力の高さが如何ほどかは考えるまでもないだろう。

 

 もう一つ、彼の“特技”を挙げるとすれば、発想力が高いことによる発明家としての才能もあるだろう。元々整備士だった(本当にそうだったのかは怪しいが)ということから、戦術機の構造などには詳しいようで、既存戦術機の改装案や新武装の提案なども積極的に行っている。

 元々勤勉なのだろう。毎日の鍛錬も欠かすことはなく、まさに努力する天才という表現が正しい彼は、しかし革新的すぎる部分もあって、既に軍上層部の中には目の上のたん瘤にしている者もいるという噂だ。

 彼の実験部隊は、それはもう凄まじいとしか言いようがないスピードでF-4の改修案と新型兵器の開発案を提出し、すぐさま議会で承認された。

 

 だが、それとこれとは別で、軍上層部と政府関係者の中には彼を問題視・危険視する者も少なからず存在する。

 

 

 

 

≪≫

 

 

 

 

 アメリカ合衆国の東海岸の某所にて、その会議は行われていた。

 陸海空軍上層部と政府関係者が一堂に会し、今後の対BETA政策や前線国家の状況などを共有し、行動を円滑にするためのものである。

 しかし、今回の会議はいつものそれとは少々毛色が異なる。

 

「奴について有力な情報はないのか?」

 

「調べましたが、一切」

 

「むぅ……今のところ、奴自体は何ら害のないただの人間だが、情報が洩れれば横浜の女狐が調子付きそうなものだ」

 

 そう、正体不明の人物であるメビウスについてである。

 彼自身は非常に高スペックな人物であり、『このままでいてくれるなら』アメリカに非常に大きなアドバンテージをもたらしてくれる有益な人物だ。

 ただし、それは他の勢力が彼に接触してこないというのが第一条件である。

 彼が2014年の世界──しかもBETAが存在しない平行世界から来たというのは、今この場にいる人々にとっては周知の事実であるが、その情報こそが最もこの場にいる人々にとって危険なものであり、漏れてはいけないものなのだ。

 

 オルタネイティブ4計画。これに大きく関与する、国連軍横浜基地副指令は必ずメビウスの情報を欲しがる。

 横浜の女狐と評される彼女は、計画に必要な情報としてのサンプルとして、確実に『この世界以外の人間』を欲しがっているはずだからだ。

 彼女に『この世界以外の可能性』を見られるのは困るのだ。

 オルタネイティブ5計画を始動するためにも。

 

「でしたら、こういうのはどうでしょう?」

 

 切り出したのは陸軍の大将だ。

 オルタネイティブ5急進派として名高い彼は、大きく口元を歪ませる。

 

「現在、メビウスは陸軍の管轄内で試験部隊の指揮を行わせているのはご存知でしょう。そこで、彼らの試験機を用いた実地テストを行わせるのです」

 

「実地テスト?」

 

「そうですね……欧州戦線などどうでしょうか。最近できたばかりのドーバー基地はBETAの間引きで忙しいらしいですよ」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

 BETA戦の最前線に目障りな人物を送り出し、自らは手を汚すことなく死んでもらう。これは、地上にてBETA戦が行われるようになってからはよくある暗殺方法であり、特に80年代の東ドイツでは常套手段であったが、彼らはそれを真似ようというのである。

 ソ連や大東亜、そしてアフリカ戦線のような激戦区ではなくなったとはいえ、欧州戦線は多くのハイヴが近辺に存在する人類の最前線の一つである。

 ブリテン島に立てこもる形で防衛をしている都合上、他の地域のような反抗作戦は行いづらいが、海上で半ば一方的な砲撃ができるので、定期的な『間引き』に失敗さえしなければ突破されることも少ない。

 しかしそれもあくまで理想の形であって、1985年のグレート・ブリテン防衛戦の例もある通り、人類の予想を遥かに超える規模のBETA集団が押し寄せた場合、一気に劣勢に立たされるのは他の前線国家達とそう変わらない。

 

 そんな場所に改修したとはいえ試験機、しかも第一世代のF-4で送り込む。

 前線国家では第一世代をまだまだ現役で使う国も多いとはいえ、ソ連や欧州連合ではそういった部隊は非常に少ない。かなり目を引くだろう。自殺志願者として。

 

「BETA戦で不幸な死が発生するのは珍しくありません。ましてや、BETA戦を経験したことのない者なら」

 

「しかし、奴は対BETA戦プログラムで優秀な結果を出したと聞くぞ?」

 

 心配そうに、もしくは煽るようにそう投げかけた海軍将校は目は笑っていなかったものの、その口は嘲笑の形をとっていた。

 こんな不可解な人物一人によって計画がおじゃんになろうとしているというのに、この将校はその意味が分かっていないのかと陸軍大将は僅かに憤ったが、努めて冷静な思考を保つようにし、頭を冷やしつつ返す。

 

「いくらヴォールク・データや過去のBETA戦データが優秀と言っても、実戦と訓練は異なります。現実は小説より奇なりという通り、実際の戦闘は不可思議な出来事の連続ということをまさか知らないとでも言うつもりじゃないですよね? 海軍将校殿」

 

「ここは議会だ。醜い言い争いは、廊下でやってもらってもよろしいかな? ……よろしい。第103特別試験小隊の欧州遠征を認める。時期などは欧州戦線に打診した上で決めることにしよう」

 

 危うく無駄な話が長引きそうになっていた議会は、政府側の人間によってなんとか引き止められた。

 かくしてメビウス率いる第103特別試験小隊の欧州戦線行きが決定した。本人達に何の承諾の権利もないままに。

 

 

 

 

 

≪≫

 

 

 

 

 

「欧州への遠征?」

 

「ああ、そうらしい」

 

 裏でどんな会話があったのかも知らない小隊に舞い込んできたのは、突然の遠征任務であった。

 今朝方何の脈絡もなく基地司令に呼び出されたメビウスを待っていたのは、陸軍大将直々のサインが書かれた命令書であった。

 書かれていたのは、欧州戦線の最前線であるドーバー要塞へ遠征しろという命令と、完成したF-4EJ試験機4機と予備機2機の合計6機の配備許可、そして欧州戦線において定期的に実施されるBETA掃討作戦に参加し、F-4EJの実戦での有用性を証明しろというお達しだ。

 同時に欧州戦線でもある程度の幅が利かせられるようにということで、大尉への昇格もさせられたが、結局メビウスと小隊に拒否権がないのは変わりなさそうであった。

 

「なんだって急に」

 

「知らん」

 

 ユウヤが中尉から大尉に階級章が変わっているメビウスを見ながら疑問を口にしたが、それが分かっていればメビウスも苦労はしない。

 だが、何か政治的な要因がかかわっているのは確かだし、それが自分が原因なのは明らかな上、そういったものにはアクションを起こさない方がいいというのは、彼が『元の世界』にいる間に得た教訓である。

 

「だが、F-4EJの性能試験はいずれやらなくちゃいけなかったのは事実だ。それに、こいつはお前らが相手していたF-22とは違って対BETA戦に特化した戦術機。実戦で試してみないといけないのも仕方がないってもんだ」

 

「ちなみに隊長、出立はいつでしょうか」

 

「それなんだがなあ、一週間後らしい」

 

 企業とも既に連携しているらしく、日程は向こうに決められているという極めっぷりである。

 どんな陰謀が渦巻いているのか、それはメビウスにも分からない。だが、そういったことはそれが得意な連中が勝手にやっていればいいというのが彼の持論である。

 かつて何度も軍を抜けては呼び出されてを繰り返した彼は、そういったことに対して諦めを抱いていた。

 

 

 

 

 

 欧州へ向かうとなれば、忙しくなるのは道理であった。

 まずは整備士を含む小隊付きの人員全てにその旨を伝え、準備を急がせ、続いて懇意にさせてもらってるハイネマン教授にも連絡した。忙しいだろうに、教授はわざわざ欧州までついて来てくれるそうだ。

 

『うちの企業は中々苦しい状況だからね。忙しい忙しくないの話で言えば忙しくないし、君がいる場所に行けば私個人は楽しいし、会社は儲かりそうだからね』

 

 気になってメビウスが電話してみれば、教授はこう返してくるあたり、中々今の関係をよく思っているらしい。

 ハイネマンは新発想を試せるし、更に彼が携わったYF-23の技術を応用した新型戦術機の構想にも繋げられるかもしれない。メビウスとしても優秀なエンジニアが増えるのはうれしいことこの上ないのだからwin-winの関係というものだろう。

 外はそういうことだが内部はどうか。

 メビウス個人が考えた中で、最も反発しそうだったのはユウヤ・ブリッジス少尉であったが、意外にも彼は文句一つ言わなかった。寧ろ不満を漏らしていたのがレオン・クゼ少尉の方であったのは、メビウスを大いに驚かせた。

 とはいえ、レオンが漏らしていた不満というのは司令部が発した『急な』指令についてであって、前もって知らせてくれればそれもなかったはずである。

 シャロン・エイム少尉はといえば、ノーコメントを貫いたがためにメビウスが彼女の考えを知ることはなかった。が、それ以降そわそわしているのを見れば、少しというには足りない不安を抱えているのは明らかだ。

 

 誰も彼もの気持ちが浮足立っていた。

 無理もない。この部隊の中で実戦を経験したことがあるのはメビウスのみ。そして彼もまた、対BETAの実戦は向こうに行ってからが初めてだ。

 誰も彼もがここアメリカでは優秀な人材で、戦術機の操縦においての技量に問題点は見当たらない。シミュレーションでの成績も申し分ない。新人衛士と比べものにならない程の下地がある。

 だが、BETA相手の実戦は異常事態(イレギュラー)が付き物であるし、シミュレーションと違って目的を達したらそれで「はいおしまい」とはならない。

 地中進行、予想以上の規模の軍団、光線級の数、整備不良、給弾不良(ジャム)、その他様々な異常事態を相手に自分が運がいいことを祈る。それがBETA相手の実戦の恐ろしいところだ。

 

 アメリカ陸軍内で欧州戦線に赴いた部隊がどれだけいることか。

 幾つもの戦場を渡り歩いている部隊で有名なのは、海軍のジョリーロジャースなどであろうか。あの部隊は欧州戦線をはじめとして様々な地域で戦闘を行う精鋭だというのは広く知られている。

 

 だが、それ以外でとなると話は変わってくる。

 アメリカ軍は自国の兵士を中々外に出さないのだ。国連に貸し出すことはあっても、自国の軍として出すのはよっぽどのことでなければ出さない。

「よっぽど」というのは、つまりはハイヴ攻略戦などが相当する。

 そして今回、自分達はその「よっぽど」とは言えないような任務で欧州へと派遣される。

 これまでの米軍の動きとは明らかに異なるパターンだが、もしかしたらこれが世界や歴史を動かすものになるかもしれないともなれば、誰だって緊張するものだろう。

 

 向こうでは、この安全なアメリカ本土のようなものはないだろう。なんといっても向こうは戦地である。後方でのんびりしているこちらとは異なり、毎日が生きるか死ぬかの状態だ。

 そういった面では、メビウスは心のどこかで期待している節があった。

 彼は数あるBETAとの戦闘記録の中でも、特に欧州戦線を高く評価していたのだ。

 開戦当初、光線級を生み出す結果を作って以降戦線を下げてばかりの中華戦線よりも、独裁体制を利用した戦場維持を続けるソ連よりも、どこよりも『まとも』にBETAと戦い戦線の維持を続けてきた欧州戦線をだ。

 

 メビウスがこの世界に望むのはただ一つ、空を自由に飛べるようになることだ。

 それを成し遂げるのに必要な対光線級戦術は、特に旧東ドイツ軍で大きく発展してきた歴史がある。

 彼はそれを狙っているのだ。

 

 

 

 

 

≪≫

 

 

 

 

 

 1983年、東ドイツ革命によって、長らく分断されていた東西ドイツの架け橋が作られたあの年の出来事は多くの人間の記憶に残っている。

 だがその革命と同時期にBETAの大規模な西進が開始されたということも、また多くの軍人にとっては記憶に新しい出来事だった。

 

 1984年には、欧州中の戦線が崩壊するほどの進撃を受け、1985年にはグレートブリテン島にまでBETAの攻勢を許しており、その後数カ月に及ぶ英国本土防衛戦を決死の思いで成功させ、なんとか欧州における人類絶滅の危機は避けられたのである。

 その後、英国本土防衛の成功の祝いと、そして欧州奪還を誓うものとして、このドーバー基地は建設された。

 BETAの進軍によって更地となった土地を修復するのは大変難しく、1996年にやっと完成したばかりのこの基地は、80年代後半に一足先に基地として確立されていたモンサンミッシェル要塞と共に、既に欧州戦線の最前線として扱われていた。

 

 そんな基地に、今日も数隻の大型輸送船が到着した。

 米国製の輸送船は特に珍しくもなかったが、そのうちの一隻に戦術機があるとなれば話は別である。

 話を聞きつけた欧州連合の衛士や整備士達を始めとする兵士たちが港に集まり、それを見にやってきていた。

 

「アメリカ様が直々に部隊を送り込んでくるのは珍しいな」

 

「自国の部隊には徹底的に戦闘をさせたくないお国柄だからな」

 

「そう悪く言うな。ジョリーロジャースに世話になった連中も多いんだ」

 

「だからってなあ……あの機体で来るこたねぇだろ」

 

 ざわめきの多くは、輸送船から運び出される機体が原因だった。

 かつて、東ドイツが欧州防衛の最前線だった時代、アメリカから送り込まれてきたジョリーロジャース隊が使用していたのは、当時の最新鋭戦術機にして最初の第二世代機であるF-14(トムキャット)だった。

 フェニックスミサイルと呼ばれる打撃力に優れた装備を持つこの機体を持った同部隊は、欧州戦線を支えるのに一役買っており、東西問わずドイツ出身の衛士の中にはこの機体に助けられたという者も多い。

 だが、今回アメリカから送り込まれてきたのは、まさかの旧世代戦術機であるF-4(ファントム)であった。

 F-4は米軍内では既に退役している兵器というのは周知の事実であり、人によっては馬鹿にされていると捉えかねない機体を見た彼らは、口々に文句を言ったりしているわけである。

 中にはそれがただのF-4ではないと気付く、目敏い整備士や衛士もいたが、そういった人物は多くは語らずに基地内へと帰っていくのであった。

 

 

 

 一方その頃、ドーバー基地内の士官部屋にいるヴィルフリート・アイヒベルガー少佐もまた、このドーバー基地では珍しいタイプの騒ぎに関心を持っていた。

 彼は隣にいる副官のジークリンデに尋ねた。

 

「今朝方から騒がしいが、今日は催し物でもあったか?」

 

「いえ、そういったものは聞いていませんが……そういえば、『例』の実験部隊の到着が今日でしたね。それではないでしょうか」

 

「アメリカの実験部隊……というと、『例』のか」

 

「ええ『例』のです」

 

 アイヒベルガーは席を立ち、窓際まで移動するとブラインドをずらして外を見た。

 港を一望できる好立地な部屋からは、アメリカ国旗がはためく輸送船が数隻停泊しているのが確認できた。もちろん、その一隻から4機のF-4が運び出されるのも。




1997年の欧州連合にはEF-2000タイフーンもラファールもないのでF-16が主力なんですかね
流石にF-5の改良機だけではないはずですし
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