死の支配者と光の守護者   作:mev

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原作と同じような展開になる部分は省略しています。



転生直後

 (何が起こった!?)

 

 

 死の支配者(オーバーロード)とオシリスは目を見合わせた。

 目の前で守護者統括アルベドが動き、こちらに問いかけてくる。どうなさいましたか?と。これ以上なく恭しく、心配そうな視線と身振りは、自身の人生経験をおいて、経験したことはないものである。固まっている今もその視線は注がれ続けている。先に動き出したのはモモンガだ。GMコール云々を伝えているが、返答は様子から見て芳しくない。

 オシリスは自身の手のひらを見つめてみた。握って、開く。よく動く。実に馬鹿らしい感想だが、実に滑らかだ。本当に自分の体のようだ。

 次は籠手を外してみる。驚いた。人の手じゃない。

 モモンガを見る。驚いた。骨が角の生えた美女とやり取りしている。滑らかだ。これはおかしい。144fpsがでているとかそんな話ではない。決められたモーションではない。もっと、血の通った動きだ。プログラムではない生き物のもの、これでは特定のモーションの後にどんな攻撃が来るか、といういつもの読みが通じない。いや、待て。別に今すぐドンパチやるわけじゃない。ここはギルドホームで、万全の防備が施された難攻不落の地下要塞。

 少しの安堵で余裕が生まれた。再び自身の手を見る。

 

(これは、俺のアバター。珪素機系生物(シリコンクリーチャー)のものにしか見えない)

 

 テカテカと輝く外装材、プラスチールメッキを施された複層展性チタン合金A01。指を動かせば、僅かな駆動音と共に外装下のリニアアクチュエーターの動作が感じられる。胸に手を当てれば動力源のアークバッテリーの無尽蔵とも思えるエネルギーの泉を感じる。それらはサファイアワイヤーを通じて全身に漲っている。外した籠手を見てみれば、プラスチール成形の装甲をハドロン材で強化してある。手間を惜しまずに作り上げた、vP特化の自慢の防具だ。

 ゆっくりと兜を外す。モモンガと目が合った。骨の顔を手で触ったり、その手をまじまじと見つめて固まっている。

 水晶の玉座に自分が写っているのがわかった。近寄ってのぞき込んでみると、そこにはカメラアイで見返すマシンの顔が写っていた。眼窩やポカンと開けた口からは淡い緑色の光が漏れている。口をパクパク動かせば多重構造の装甲が音もなく動作に追従した。胸にストンと落ちるように受け入れている自分がいた。

 再びモモンガと目が合う。アルベドは心配そうにこちらを伺っている。

 

 「・・・オシリスさん。今私たちは、受け入れがたい状況に置かれているように思えますが・・・どう思いますか?何か確かめる方法を・・・」

 

 モモンガは思案を巡らせ始めた。オシリスは一つの方法を思いついた。古今東西使い古されたお決まりの方法だ。

 

 「モモ、すまん・・・」

 

 

 

 

 

死の支配者(オーバーロード)が玉座の間の宙を舞った。

 

 

 

 

 

 「痛った!!何するんですかあんたは!・・・え!?痛い?」

 

 モモンガは玉座から真横に吹っ飛んだ先でアルベドに受け止められていた。驚愕し、初動こそ遅れたが、ドレスを着ていながら見事な対応である。モモンガはというと口が開きっぱなしである。顎が外れたとかじゃなくて驚いているからだろう。じゃなかったら加減を間違えたかもしれない。

 

 「モモンガ様!ご無事で!?お怪我は!? セバス!!すぐに手当てできる者を呼びなさい!」

 

 アルベドは素早く指示を飛ばし、老執事は素早く礼をとると飛ぶように玉座の間から駆け出した。ここにはアンデッドを回復させられる者がいなかった。戦闘メイドたちは恐れ慄き中腰のような半端な姿勢で固まってしまっていた。

 

 (どれもこれもがユグドラシルでは考えられねえ。どうなっちまったんだ?)

 

 モモンガがアルベドに支えられ、のそりと立ちあがる。

 

 「よい・・・。アルベド、私は大丈夫だ。ほんの僅かなダメージだ。取るに足らないほどのな。」

 

 尚も甲斐甲斐しく支えるアルベドを一旦おいておくことにしたモモンガはオシリスに向き直った。タダならぬ雰囲気を醸し出している。

 

 「フレンドリーファイヤーが解禁されているようだ。それもギルドホームの玉座の間。ギルド攻城戦が仕掛けられていない今、ここはセーフゾーンであるにもかかわらずだ。それにアルベドの指示でセバスが動いた。指示コマンドなしで動くなどあり得るのか?そして・・・やや違和感はあったが痛みを感じたぞ。これは一体どういうことだ・・・。」

 

 視線を漂わせ、一人思案に暮れる骸骨の形相は、その身に纏う漆黒のローブと肩の意匠と相まって実に魔王然としている。アルベドは恐る恐るといった様子でモモンガに訊ねた。

 

 「モモンガ様、恐れながら申し上げます。私の振る舞いや、先ほどのセバスへの指示に何かご不快にさせることがございましたでしょうか?そうであれば、私の命をもって償わせていただきたく・・・」

 

 モモンガは飛び上がるように振り向いてアルベドの肩を抱いて、そうではない、何も怒るようなことはなかったと説き伏せた。

 

 「しかし、現状についてオシリスさんと二人だけで話し合う必要がある。皆、玉座の間から一度出るのだ。」

 

 「しかし!お傍に仕える者がまったくいないなど!」

 

 抗議を上げるアルベドを手で制しつつモモンガは再び玉座へと戻る。よいから行け、と短く伝えるとそのまま玉座へと深く腰掛けた。アルベドと戦闘メイドたちは不安げに何度か振り返ると玉座の間を後にした。扉が閉まりきるまでこちらから目を離さなかった。

 

 「モモ、なんだかギルマスやってるときより決まってたな。まさに魔王って感じだったぜ。しかしあいつら何をそんなにビクついてんだ?」

 

 「茶化さないでくださいね。それよりもサービス終了時刻を過ぎてのこの状況、どう思います?」

 

 オシリスは兜を脱いだマシンの顔でニッの笑って見せた。眼窩と口内の緑の光がやや強くなった。

 

 「まったく訳わからんぜ。ただこのボディのすげえパワーを感じてワクワクしてるってのは確かだぜ。なんだか現実感があるし、妙にしっくりきてんだ。とりあえず体を動かしてみてぇ。どっか広いところでPvPやろうぜ」

 

 「まったくあなたって人は平常運転がそれですか。・・・うむ、言われてみれば不思議な感覚がある。この骨の体は静かだ。それに心も水を打ったように穏やかにいられる。明鏡止水だっけ?こんなに冷静でいられるなんて。」

 

 モモンガは続けて手を掲げ、黄金の蛇の杖を見た。

 

 「凄まじいエネルギーを感じる。魔力なのか?この感覚は。なんだか魔法も使えるような気がしてきた」

 

 面白くなってきた、と言うやオシリスは兜を被った。

 

 「使える気がするのが嘘か本当か、試してみようぜ。広いところといえば第六階層だよな?15分後に集合しようや。試したい武器を取ってくるぜ」

 

 そう言うとローブを翻し、さっさと歩きだした。

 

 (相変わらずサッパリした性格だなぁ。もう少し確かめたいこともあったような気がするけど、そうだ!NPCのあの反応だ!)

 

 「ちょっと待ってください!オシリスさん!その前に話しておくべきことがあります!」

 

 立ち止まって振り向いたオシリスに問いかけた。

 

 「あのNPCたちの反応をどう思いますか?あまりにも生々しいというか、まるで生きているみたいだとは思いませんか?」

 

 オシリスの顔は兜で見えないが何となく予想がつく。今気付きましたって顔で固まっているに違いない。こういう所がある人なのだ。PvPのことばかりで他のことを気にしない。ギルドの女性陣からは呆れられることはしょっちゅうであった。餡ころもっちもちさんの飼っているハムスターが死んで悲しんでいるというときに、PvPで思いっきり暴れて気分を入れ替えようぜ!と言い放ったときは男性陣ですらドン引きであった。

 問いかけたはいいが、モモンガもあまりいい返事は期待していなかった。

 

 「お・・・おう。まぁ、悪い感情は抱かれてないんじゃねぇの?ほら・・・モモを抱きとめてくれたじゃん、アルベド。そういえば、物凄い速さだったな。Lv100戦士職・・・俺もあんな風に動けるのか?」

 

 「オシリスさん、考えがずれてきてますよ。まったく・・・ひとまずアルベドは私たちに好意的ならLv100防御型戦士職が味方にいるとして、他の階層守護者が敵対的だった場合、タンクの役目を任せればなんとかなりそうですね」

 

 「え?そんな事態を想定してんの?ナザリック地下大墳墓のNPCが敵対とかありえるのか?」

 

 「ナザリックのNPCはほとんどカルマ値が悪寄りなんですよ?想定しておいて損はありませんよ」

 

 ぷりぷりしつつ、モモンガもオシリスと並んで扉へと向かう。頭の中でプランを組みつつ扉を押し開けたところで、アルベドと戦闘メイドたちが跪いていた。セバスも合流している。その横にはシャルティアもいた。モモンガはこの状況がなんなのかよくわからなかった。不憫なほど恐縮しきっている。こんな光景は記憶にある中では、会社の取引先でへまをやらかした業者が、先方のお偉方を前に縮こまっているのを見たときくらいのものだ。

 

 「お前たちはこんなところで何をしている?」

 

 ビクッと震えたアルベドたちは恐る恐る顔を上げた。顔面蒼白であった。

 

 「モモンガ様、オシリス様・・・私たちはなにかとんでもない過ちを犯してしまったのでしょうか?」

 

 なにを言っているんだろうか、とモモンガは骨の首を傾げた。

 

 「過ちなど何もなかったではないか。それより今から15分後に第六階層の闘技場に全階層守護者を集めよ。ガルガンチュアとヴィクティムは除いておけ。」

 

 それだけ伝えると二人は揃って歩き始め、オシリスだけ振り返った。

 

 「シズ、お前だけ闘技場まで来てくれ。ガーネットさんの銃器の計測装置一式を適当に持ってきてくれ。試射をするから観測手を務めてくれ」

 

 守護者とメイドたちは揃って礼を取り、支配者たちを見送った。

 

 「行ってしまわれたわ・・・。私たちは本当に礼を失していなかったかしら。なんだかつい今まで統括らしい仕事ができていなかった気がするわ」

 

 アルベドは傍に居並ぶ仲間たちを見た。皆一様に同意しているようだった。

 

 「私も執事としての職務を全うできていなかったような気がいたします・・・。しかし、そうも言っていられない状況ですな。私としたことが支配者お二人を傍仕えの者もなくいかせてしまいました。これは失態です。直ちにお二人のお傍に向かいます。ユリ、ルプスレギナは私と共に来てください。ナーベラルとソリュシャン、エントマはオシリス様に。シズはガーネット様の居室より指示された機材を持ってきてください」

 

 セバス達、仕える職務を持つ者たちは統括に確認をとると即座に行動を開始した。アルベドとシャルティアはそれを見送った。

 

 「アルベド、わらわも身支度を済ませてからすぐに第6階層に向かいんす」

 

 「そうね。決して遅れることがないように。私は他の守護者に連絡をいれたらすぐに向かうわ」

 

 互いにもっと言葉を交わしたいところを堪えてすぐさま移動をはじめた。15分はすぐである。

 

 (不思議だわ。今までこんなに活き活きとした思いを抱いたことがあったかしら。とにかく至高の御方々からのご命令だわ。何が起こるにせよ、私たちの忠誠心をお見せしなくては)

 

 ナザリック地下大墳墓、静謐にして荘厳なこの空間はにわかに活況を呈し始めた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 「ナザリック地下大墳墓、全階層守護者、至高の御方々に絶対の忠誠を誓います」

 

 「「「誓います」」」

 

 

 

 ((うわぁ))

 

 二人のプレイヤー、支配者たちは驚きで固まっていた。一人は骨の顔のため、一人は顔を覆う兜のため、表情を伺い知ることはできなかったため、傍から見ていれば堂々とただ立っているだけであった。二人の前方には平伏した階層守護者、戦闘メイドプレアデスの面々たちである。仕事で部下をもったこともある二人ではあるが、ここまでの上下関係は未経験であった。

 第6階層に移動してすぐ、招集をかけた面々はすぐさま集まり、この”忠誠の儀”なるものが執り行われた。ただ二人はユグドラシルのゲームがサービス終了せず、何やら仕様がおかしいと思い、とりあえず色々試して遊んでみようかとやってきただけであった。

 

 (何かが起きているんだ。先ほどもGMコールやシステムウインドウが開かないなど、ゲームシステムに欠損が起きている。それにNPC達の人格を持ったようなこの振る舞い・・・。)

 

 オシリスを横目で伺えば、腕を組み静かにたたずんでいる。モモンガは状況を整理すべく行動を開始する。

 

 (まずは、自身とNPCたちの動作確認だな)

 

 守護者たちを立ちあがらせ、今日は性能試験をするだけだと伝える。用意させた標的に低位階魔法ファイアーボールを飛ばし、ギルド武器によって炎の精霊を呼び出し、ひとまずアウラとマーレに戦わせる。

 

 (魔法は何の違和感もなく使用できた。NPCもまるでプレイヤーのように連携をしつつ炎の精霊と戦っている。これは最早ゲームの範疇を超えている。常識では考えられない異常事態。昔に流行った異世界転生ものの小説のような事態になっていたりしたら・・・転生?ナザリックの外は?しまった!!外部への注意を怠っている!NPC達には当然ながら外部への干渉なんて考えはない!)

 

 「アルベド、ナザリックの外部環境についてなにか報告は上がってきているか?」

 

 「申し訳ありません。ナザリックの者たちは外部に出ることができませんので、何も情報はあがってきておりません」

 

 (当然のことだ!今までならばな。どうする?何をしたらいいんだ?)

 

 モモンガの頭にうかんだのは、ぷにっと萌えが語ってくれたストラテジーゲームの序盤戦の基本的な心得であった。

 

 (序盤は偵察に資源を割くべし!防御を最低限にしてでも、周辺の地理、資源、敵対勢力の有無の把握に全力を挙げること!作戦はそれからだ!)

 

 「アルベド、デミウルゴス。今後のナザリックの指針を伝える」

 

 モモンガは即座に行動を開始した。死の支配者の周りは大きく動き出した。

 

 

 

 

 オシリスはその様子を遠巻きに眺めていた。モモンガが指示を飛ばし、慌ただしく動き始めるNPC達。こちらに対しては特にアクションはないようだ。こういった状況は往々にしてあったものだ。ギルド、アインズ・ウール・ゴウンは作戦担当の頭脳派部隊と戦闘担当の武闘派部隊にわかれることがままあった。そういう時、武闘派部隊は何も言わずそれぞれの戦闘準備を粛々と進めたものだ。武器の安全装置は、時が来れば作戦担当が外してくれるのである。その時が来たらあとは撃ちまくって斬りまくるのみである。

 

 「シズ、武器の射撃テストを行うぞ。着いてこい」

 

 闘技場場外へと移動を開始した。

 

 

 

 

 

 闘技場場外では射撃テストのために場所の整備が進められていた。アウラ配下の大きな人型トカゲが標的の設置を進めている。シズはオシリスの持ち出した各種ライフルをシートの上に順番に並べている。共に付き従ってきたナーベラル、ソリュシャン、エントマもそれを手伝っている。おもちゃのような大きさのスモールボアからはじまり、シズの背丈を大きく超える大型のボルトアクション式対物ライフル、電磁加速式ライフル、イオン化ポリマーを撃ちだす同時弾道攻撃プラットフォームなど、基本的なものから特殊なものまでズラリと並んでいる。

 オシリスは手にしたリボルバーをしげしげと眺め、立ち尽くしていた。”思い”を名に冠する武器である。射撃を主とするクラスでPvPランク伝説に達した者のみに与えられる象徴的な武器である。この武器を手に入れるために努力を始めた時が、PvPに目覚めたきっかけであった。来る日も来る日もランクマッチに籠り続け、苦節半年でようやく手に入れられた。手に入れてはじめてその武器のもつ”思い”の意味を知った。倒せたライバル、最後まで倒せなかった上位者、飽くことなくランクマッチに集い続ける者たちが共通して持つもの、”勝ちたい”という思い。この武器を手にすることは始まりに過ぎなかった。倒せなかった奴らを追い、新たな旅路が目の前に開けたのである。終わることのないであろう旅も、腰に下げたこいつがあれば進み続けられる。そう思わせてくれる相棒であった。

 ラッチを押し、シリンダーをスイングアウトさせる。弾薬は装填されている。シリンダーを戻せば、カチリとバレルに吸い込まれた。撃鉄を引き起こせば射撃準備が完了する。標的を指で指し示すように腕を上げる。自然と照準が標的と重なった。トリガーを引き絞れば、バキン!という甲高い音をたて弾丸が発射された。標的までの距離は30m。この武器の有効射程範囲のギリギリであったが、標的のど真ん中に着弾していた。

 

 「・・・お見事です、オシリス様」

 

 「ありがとう、シズ。続いて連続射撃だ」

 

 左手を添えて、連射する。計9発の弾丸が発射され、いずれも標的の中心から5㎝ほどの範囲に着弾した。バレル下部のシュラウドと標的補足装置の効果は発揮されているようだ。射撃安定性は合格だ。ベンチレイテッドリブにより射撃後の陽炎による視界不良も起こっていない。スペック通りの性能は出ているようだ。再装填をしてからホルスターに収めつつ場所を移動する。

 

 「こいつのテストは充分だ。次はライフルだな。観測手を頼むぞ」

 

 お次はライフルの山に取り掛かる。近距離でとにかく弾が出てくれればいい単純なリボルバーと違い、個性が強く、使用場所や用途を十分検討しなければ十全に機能を活かせないことが多いのがライフルである。最初はシンプルで射程も短いスモールボアライフルで手順を確認することにした。シズが測量スコープの前に着くと、オシリスも伏射の姿勢をとった。

 

 「・・・標的距離50mからになります。環境はマーレ様に整えてもらい、気温15℃、気圧1013hPa、風速は0mとさせていただきました。ご希望の条件はございますか?」

 

 「最高の環境だな。初めはこのままで始めようか。おいおい変えていこう」

 

 即興で立てたものだが、テストプランに従い、粛々とした射撃テストが開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはアルベドを連れ、闘技場場外に向け移動していた。初め小さく聞こえていた射撃音は、今や体を揺さぶるほどの轟音になっていた。

 

 「モモンガ様、凄まじい音ですね」

 

 「ああ、もはや砲なのではないかと思えてしまうな」

 

 二人がオシリスのもとに到着すると、射撃テストもひと段落したようだった。おう、と手を上げつつ立ちあがると銃をシズに手渡した。シズの背丈を超える大きさではあるがふらつくことなく運んでいく。

 

 「テストは順調ですか?ずいぶん大きな物まで試せたようですが?」

 

 「ああ、通常火器のテストは終了だな。次は特殊なものたちだが、モモにも確認とったほうがいいかなと思ってたやつがあるんだ」

 

 オシリスは無限の背負い袋(インフィニティハバザック)から一つのライフルを取り出した。銃身全体がぼろ布で覆われ、発射機構がありそうな部分には透明な丸い水晶が埋め込まれ、その中には黒い墨のようなものを吐き出しながらのたうち続けるイモムシのような虫が収まっていた。一目で言いたいことがわかってしまった。ヤバそうな武器の性能テストがしたいんだろう、と。

 

「フレーバーテキスト的には、暗黒と繋がった現出した神の一種である虫を閉じ込めて、光で苦しめ続けることで呪いの言葉を引き出して、それを針に込めて対象に打ち込むっていうものなんだけど「却下!!」」

 

 二人は見つめあった。

 

 「次のは現実改変プログラムをもったナノマシンを弾丸型カプセルに込めて対象に「それも却下!!」」

 

 オシリスの手には赤黒いもやを立ち昇らせ、内部の赤い光を脈動させる結晶をハニカム構造体で覆った銃らしい形をした物体があった。しばし見つめあった後、オシリスはそれをしまった。

 

 「一応聞いてからにしようっていう自制心はあったんだから、そこは褒めてくれよ?」

 

 後ろを示せば、そこには火薬火器と思しきライフルが並べられている。オシリスは自慢げだった。

 

 「まぁ、そこは素直に褒めておきましょう。現状がよくわからないところに、さらによくわからないものを放り込むのは得策ではありませんからね。ところで武器の性能をテストしている間にこちらもわかったことがあるので、伝えておきますね」

 

 この間に、いつの間にか現れた一般メイドたちが椅子とテーブルを並べ始めた。闘技場の方からティーセットやお菓子をのせたワゴンを押す者たちが続いている。アルベドがニコリとほほ笑んでいることから、手配してくれたのだろう。気の利くものだ。二人で腰掛けながらも話を進める。

 

 「オシリスさん、ナザリック地下大墳墓はどこかわからない場所に転移しました。周囲はヘルヘイムのグレンデラ沼地ではなく草原になっていました。周辺に強いモンスターや意思疎通できる生物はまだ見つかっておらず、偵察能力に長けた者を偵察にだしています」

 

 オシリスは両手をあげて、どうなってんだ?と困惑の色を示した。

 

 「確証は何もありませんが、異世界に転移してしまったのでは?と考えています。偵察が周囲の町か、地形の情報を持ち帰ったらデータベースからユグドラシルと合致するものがないか検証はしてみます。現状で唯一はっきりしていることは、ナザリックが転移した、ということです」

 

 オシリスは兜を脱いでテーブルに置いた。同時にテーブルに紅茶が運ばれてきた。心が落ち着く芳醇な香りが漂った。

 

 「俺の方でわかったことも伝えておこう。射撃テストからここには地球と同じ重力が働いていることがわかった。弾道落下からな。しかし自転の影響がないんだ。自転の影響があれば、周囲4方向に射撃したときに左右に弾着がずれるはずだ。シズが計算式をもってる。それで自転のスピードから一日の長さまで計算できるはずだった」

 

 オシリスは手を顎に当て聞き入るモモンガに続けた。

 

 「平面世界なのかもしれない。もしくはナザリックが特殊な環境なのかもしれない。」

 

 モモンガはティーカップを手に取り、口に近づけたが、カップがむき出しの歯に当たってしまい手を止めた。紅茶がこぼれてしまいローブにかかってしまったが、水滴はローブの上を滑っていった。アルベドが素早くローブを拭いてくれた。

 

 「香りを感じるんです。とてもいい香りを。こんなことはあり得なかった。このローブも変だ、濡れない」

 

 今度はオシリスが紅茶に口をつけた。マシンの体だが、紅茶はうまく口に入っていった。

 

 「タンニンをはじめとするフェノール類、テアフラビン、テアルジン、カフェイン、ビタミン類、アミノ酸、無機成分・・・。すごいな、構成比率までわかるぞ」

 

 モモンガは苦笑した。

 

 「で、おいしいんですか?俺は飲めないからそれが気になるんですけど」 

 

 「ああ、美味しいぞ。”ちゃんと美味しい”」

 

 一般メイドを労いつつ感想を伝えた。

 

 「なるほど、現在地が不明で、物理的にも謎があり、味や匂いを感じられると、わからないことだらけということがわかったわけですね。確かめないといけないことが山積みですね、これは」

 

 肩を震わせているが、あれはきっと怖いからではないだろう。

 

 「一人だったらどうかしてたかもしれんが、俺には心強いギルドマスターがいるからな。ワクワクしてきたぜ」

 

 アルベドが紅茶に口をつけながら続けた。

 

 「お二方のお話にわからないところもございましたが、ここには私たちシモベがたくさんおります。皆、お役に立ちたいと息巻いておりますわ。私もこれからお役に立てると考えるとワクワクしてしまいます」

 

 モモンガは立ちあがった。

 

 「そうだな。ワクワク、か。一人じゃないものな。皆でこの世界を冒険してみるのも悪くないな」

 

 オシリスも立ちあがる。

 

 「冒険!まだ見ぬ強者を探して!だな!」

 

 アルベドが傍に寄り添う。

 

 「精一杯お供をさせていただきますわ」

 

 明るく晴れた第六階層の草原の中、骨の死の支配者(オーバーロード)とマシンの戦士は拳を合わせた。

 

 

 

 

 

 

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