死の支配者と光の守護者   作:mev

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準備万端

 ナザリック地下大墳墓のNPC達はかつてないほど慌ただしく過ごしていた。発端はナザリックの置かれた状況の変化であった。かつてあったグレンデラ沼地ではなく、未知の場所に転移してしまったというのだ。この未曾有の事態において、支配者達の下した決断は「撃って(・・・)出る!」であった。それも今まではこの地より一歩も出ることが許されなかったNPC達も含めてである。第6階層闘技場には各階層からLv30以下の僕、その中でも自動popモンスターが招集されていた。各々が招集された意味を理解していた。わざわざ低Lvの自分たちが呼び集められた意味を。皆一様に殺気立っていた。自身の存在価値を示すまたとない機会、先陣を務めるのは自分であると、それぞれが思いを胸に秘め、粛々と準備を行っていた。今この時も、支配者であるモモンガは各階層守護者を集め、地上へ派遣する部隊編成と作戦を検討中である。そしてもう一人の支配者であるオシリスは、ここ第6階層闘技場にて準備の指揮を執っていた。といっても低Lvモンスター達に道具や装備は支給されない。わざわざ証拠を持たせる必要はないためである。今は現場に赴くにあたっての心構えの伝授の段階だ。

 

「外にでるお前たちに大事なことを一つだけ教える。よく見ておけ。セバス、来い」

 

「はっ!」

 

 セバスが進み出る。階層守護者で唯一、セバスのみがここ第6階層闘技場に呼ばれていた。モモンガのたてた計画の大筋は、低Lvモンスターを先頭に立たせ現地の何かしらの集団、および個に対してぶつけて実力を計るというもの。軽く一蹴されたのなら、モンスターのLvを徐々に引き上げるため、実力のあるものに監視要員をしてもらうのだが、セバスなら不本意な遭遇戦でも単身で離脱できるであろうこと、いざ交渉の必要が迫った時、対人対異形どちらでも対応できるとの思惑により、ここに呼ばれたのだ。そして後方では、今回は参加しないが今後の現場指揮官となり得るであろう高Lvの者たちも控えている。対外交渉も視野に入れたプレアデス、戦闘指揮を見込んで各階層守護者の側近、特殊環境下に生息する現地生物に偽装できそうな領域守護者たちである。ナザリックの外に出て、碌な訓練なしでいきなり指揮を任されるかもしれず、それではあんまりだと、オシリスが希望して今回の講習が成立するに至った。

 

「今から二回、素手での格闘戦を行う。違いをよく見ておいてくれ。こういうのは言葉でうまく伝えられる自信がないからな・・・。ライフが3割、いや余裕を見て4割をきったら戦闘終了だ。よし、来い!」

 

 ザッとスタンスを開き、拳を顔の前に掲げてファイティングポーズをとる。

 

「お待ち下さい!オシリス様!いきなり戦闘などと!至高の御方に手を上げることなどできません!」

 

 えぇ・・・と周りを見回したところ、皆の表情が優れない、と思う。顔色がわかりやすいのは人型であるプレアデス達だが、いい色ではない。

 

「そういう遠慮はいらないんだよ。お前たちはまともな1v1したことあんのか?外出る前に経験しとけ。俺がいいっていうんだからいいんだよ。話は終わりだ。さあ、ちゃんと殴れよ?」

 

 今にも飛び掛からんと重心が沈む。有無を言わせるつもりは微塵もない。覚悟を決めるより他はない。

 

「お待ちください・・・。かしこまりました。手合わせをさせていただきます。貴重な経験を積まさせていただくことは大変嬉しゅうございます。しかし、その前に一度確認をさせていただきたいのです。オシリス様の戦闘スタイルについてです。」

 

 俺の?と言いながら姿勢が起きる。即戦闘開始は避けられた。

 

「オシリス様は銃を使っての戦闘が得意とされると聞き及んでおります。しかし今回は素手でしょうか?それにオシリス様の職業(クラス)はLv95が上限とも・・・」

 

(この大事にされまくる感じは慣れねぇな。Lv差からくる、クリティカルの一撃死を気にしてんのかな?まぁせっかくの気遣いを無碍にするのも可哀想だしな)

 

「その通り、本来は銃ありきの戦闘スタイルだが、今回は素手で戦闘するぞ。そしてLvについてもその通り。Lv5差があるままやる」

 

 ざわり、と周りがたじろいだ。格闘戦主体のセバスにあまりに有利すぎるし、どうしてもまさか・・・という事態への懸念が拭い切れない。いくら御方の許可を得たとして、万一があった際に到底責任を負えるものではない。セバスの額は汗が止めどなく流れていた。

 

(なんとか説得しねぇと先に進まねぇな。ヤリあっちまえばわかってくれると思ったが、くそ、言葉は苦手なんだがな)

 

 オシリスとしては、今まで対戦相手として見ていなかったNPCが生き生きと動き出したことに、なにより歓喜していた。ギルドメンバーが骨を折って作り上げた自慢のビルドである。戦いたくてウズウズしていたのにお預けである。対戦相手は選り取り見取りなのに、こんなことがいちいち起こっていたのではたまったものではない。オシリスはさっさと一発ヤリたいのである。なんとか口説き落とさねば、泣き落とすか?土下座?ムリヤリ?お願いお願いちょっとだけだから!作戦か・・・。

 

「・・・。いいか、これも含めて今回の講習なんだよ。情報の齟齬があったとか、俺が操られたとかで敵対することになったから、半殺しにして連れ帰えらなきゃ・・・。そういうシチュエーションだと思え。まともな精神状態じゃなくても戦わないといけないときもあるだろう。な?」

 

 なにが、な?だと内心思いつつ、苦しい言い訳を捲し立てた。精一杯のどうにかこれでお願いします、であった。

 

「そのような事態には決してさせはしないと、誓わせていただきますが、そうですね、そういう最悪の場合も想定せねばいけませんか」

 

(おおっ!意外といけた!?頑固だけど頼み込めば意外と折れてくれるチョロいところがたっちさんっぽいな!)

 

 依然ぐぬぬ顔ではあるが前向きな検討段階になったようだ。

 

「なら5割。5割切ったら終了ならいいだろ?」

 

「ぐぬぬ・・・、わかりました。それではライフが5割を切ったら即終了とさせていただきます」

 

 ぐぬぬって声出ちゃったよ、と思いつつガッツポーズである。心の中で。

 

「よぅし、それじゃあ始めよう。お前らもしっかり見とけよ見とけよー」

 

 いにしえの注目を誘う言葉と共に再びファイティングポーズをとる。今度はセバスもだ。周りではまさに固唾を飲むの表情で見つめる僕たち。近距離格闘をこなせるユリやソリュシャン、コキュートスやデミウルゴス配下の高位の僕たちはより前のめりであった。

 ジャリ、と地面を踏みしめ、視線で互いの準備を確認すると、ようやく戦える喜びと共にオシリスは地を蹴り、一気に踏み込んだ。

 弾丸の如く飛び出すオシリスに対し、セバスは動かず迎撃体勢をとった。Lv5の能力差を見極めるべく、防御を固め堅実に削る作戦だ。

 低い姿勢のまま、オシリスが突っ込むとセバスの左脚が一瞬消えた。

 

(蹴り!?)

 

 オシリスの右膝が光を放ちながらひしゃげた。外装が歪み、内骨格(フレーム)が軋む。

 

(見えたが、対応できない!回避できないステップのタイミングを狙われた!?ライフが1割も吹っ飛んだ!)

 

 硬直した姿勢のところに掌打の嵐が叩き込まれる。超至近距離で変幻自在に繰り出される掌底は、軌道が絶えず変化し凄まじい回転数でオシリスを襲う。一撃一撃は早くともズシリと内骨格(フレーム)に響く。手足全てを使ってなんとかブロッキングして喰らい付く。外装下の耐衝撃ジェル層が、運動エネルギーを熱エネルギーに変換し続け、加熱されたジェルは循環系によって冷却機関に送り込まれ即座に冷却処理が行われるが、4秒もしないうちに処理限界(レッドゾーン)手前まで追い込まれた。

 

(見えはするが、反撃できねぇ!どう捌いていいかがわかんねぇ!完全に死地だ!)

 

 ライフが7割を切ったころに脚技も追加され始めた。最早セバスは黒い暴風となりオシリスの全身を襲っていた。

 

(初手の牽制のローキックから、オシリス様の対応能力はおおよそ予想がつきました。あとはスキルで絶えず加速し、怯ませ、一切の反撃を許さず、全てをこちらの支配(コントロール)下において押し切る!)

 

 回転の早い削りの攻撃で、安全に、確実に、完璧にライフ5割切りを目指す。高威力の攻撃はクリティカルによって思いがけずライフを奪いすぎる恐れがあるための策であった。

 

 そして試合開始から10秒。セバスの攻撃の手はピタリと止まった。

 

「オシリス様、戦闘終了でよろしいですね?」

 

「ああ・・・、終了だ」

 

 オシリスのライフはまさに5割を切ったところであった。まったく危なげなさを感じさせない精密な結果が示された。セバスの性格を表すような試合運びであった。固唾を飲んで見守っていた僕たちからも安堵の息が漏れる。

 

「さぁオシリス様、まずは回復を」

 

 セバスが手を挙げて呼び寄せる間もなく、すぐさまルプスレギナが駆け付けた。オシリスの全身の外装は大きく歪み、背部の冷却機関は轟々と唸りを上げ緊急排熱を行っていたし、ジェル層は崩壊し、いたるところから緑色のドロリとしたものが噴き出していた。

 

「少し待て。俺の体の機能も確認しておきたい。5秒くらいだ。」

 

「しかしオシリス様!」

 

 ルプスレギナは禍々しい錫杖を掲げて、今にも回復魔法を発動しそうであった。

 

 約5秒後、オシリスの肩の上に光が瞬いた。おお、来た来た。と言えば、淡い霧のような白く発光する粒子が全身をゆっくりと包み、粒子に覆われた箇所から徐々に損傷が消えていく。周囲の者たちは皆一様に驚く。

 

「ルプスレギナ、回復魔法を使っているのですか?」

 

「いえ!私はまだ何も・・・!」

 

 みるみるうちに何もなかったようにダメージが消えていく。消しゴムで損傷箇所だけ消していっているかのようだ。最後に全身を、薄っすら輝く膜がブゥーンと低く唸る音を立てながら覆っていく。

 

「いったい何が・・・」

 

 セバス以下、僕たちは何が起きたかわからず、言葉をなくし立ち尽くした。オシリスはあまりナザリック内をうろつかず、NPC達が滅多に目にすることがない、謎多き支配者の一人であった。

 

「よしよし、問題ないな」

 

 全身をくまなくチェックするオシリスにセバスが進み出た。

 

「オシリス様、お仕えする御方の仔細を把握できていないことは、私共僕の不測の致すところであり、大変申し訳なく思います。しかし、今後の忠義のためにも、是非教えていただけませんか?いったい何が起きたのでしょうか?」

 

 オシリスとしては、そんなに畏まって聞かなくても、という所だったが、皆一様に俯き、自分たちを責めているような面持ちになんともいえず心を痛め、もう少し互いを知り合わないといけないなと心に刻んだ。

 

「そんなにしょげないでくれ。説明しなかった俺が悪いんだからな」

 

 至高の御方が悪いなどとは!という言葉を手で押しとめながら、自身の説明を続けた。

 

「俺の職業(クラス)はちょっと変わっててな。Lv95制限の代わりに自動回復(オートリジェネーション)が戦闘中にも発動するし、その効果が非常に高いんだ。ダメージを受けずに5秒経てば自動回復(オートリジェネーション)が始まるし、瀕死の状態からも5秒で全回復する。しかも、エネルギーシールド付きでな。そんなに固いシールドじゃないけどな。」

 

 おお、と僕たちがざわついた。今まさに目の前でその効果が確認されたのだ。凄まじい回復力を持っていることになる。では、最初のセバス様の一撃の時、光ったのはシールドが破られたのか、御身が凶刃に見舞われたときは、とにかく5秒、時を稼ぐのが護衛の一つの仕事か、などと各々が役割について確認を始めた。あと、もう一つ大事なことがある、とオシリスが言葉を発すると、すっと静まった。指を一本立て、注目が集まるのを確認して続けた。

 

「もし死んでも、10秒待てば復活できる。全快でな」

 

 は?という空気が流れた。

 

「オシリス様!それは何かのアイテムを消費してですか!?それともスキルを使用してでしょうか!?」

 

 代表してセバスが問いかける。これは生死に関わる問題だ。認識を僅かでも誤ることはできないと前のめりに詰め寄る。

 

「いや、俺の就いている職業(クラス)光の旅人(トラベラー)の持っている特性だな。しかも、何度でも蘇れるぞ。」

 

 再び、は?という空気が流れる。

 

「その回復と復活の特性があるために、オシリス様はLv95の制限をうけていらっしゃる、ということでしょうか?また、死亡時のLvダウンはどうなっているのでしょうか?」

 

 セバスは顎に手を当て、真剣な表情で再び問いかける。ナザリックの全ての僕に共有させねばという使命感を抱いた。

 

「Lv制限についてはその通り。Lvダウンはしない。Lv100プレイヤー達からは割とさっくり倒されるが、ちょっと目を離せば全快になって何度でも襲ってくる厄介なゾンビ。それが俺の職業(クラス)の一般的な認識だな。しかも、この職業(クラス)のプレイヤーは通常、何人かでチームを組んで動くことが前提だ。相手からしたら厄介この上ないだろう?」

 

 はっはっは、と笑いながらふんぞり返っている様子を見て、僕達は互いに安堵の表情を浮かべていた。至高の御方が傷付くような事態にはもちろんさせないつもりであるが、先ほどの回復力、そして復活の力があれば、まさに不滅の存在として君臨していただけるということだ。これはナザリックの全ての僕に共有させるべき喜ばしい情報である。

 

「さてさて、試合は2回行うと言っておいたからな。もう一戦を始めようか」

 

 僕一同は姿勢を正した。そうだ、オシリスは2回の戦闘から大事なことを1つ教えると言ってこの戦闘を行っているのだ。朗報を聞いて少し緩んでしまった意識を表情と一緒に引き締めた。

 セバスも戦闘態勢をとる。先ほどの戦闘で得たオシリスの能力も把握しており、表情から緊張感は少し薄まっている。しかし、わざわざ2回に分けて戦闘を行い、何かを教えようというのだから警戒は緩めることはしない。類稀な回復力という情報は得たが、まだまだ謎多き支配者の1人であるということは変わらなかった。

 

「さっきはこっちから仕掛けたからな。今度はセバスから仕掛けるといい。お前のタイミングでかかってこいよ」

 

 先ほどと同じくスタンスを広く取り、姿勢を低く、拳を顔の前に掲げファイティングポーズをとった。

 

「かしこまりました。ではお言葉に甘えてこち」

 

 言い終わる前にオシリスは砂塵を巻き上げ、爆発するように後方に跳んだ。セバスの位置からはオシリスの立っていた場所は砂煙で覆われ姿がわからない。間を置かず砂塵の向こうから、ガヒュンと甲高い爆音がしたかと思えば、セバスの右肩を強烈な衝撃が襲った。

 

(攻撃?!素手での格闘戦のはずでは?!いや!それより戦闘は始まってしまった!)

 

 砂塵の向こうから間髪入れずに爆音が響くと、今度は腹部に衝撃が走る。

 

(2発でライフが2割削られた。なんと強力な攻撃だ。とにかく砂塵が邪魔です)

 

 すぐさまセバスは低く横っ飛びした。一瞬前にいた位置に再び弾丸が飛来したようで、自身のすぐそばを衝撃波が通過していく。砂塵越しにもこちらがしっかり見えているようだ。とにかく姿を捉えるために、砂塵を回り込むように走る。すぐさまその身が確認できた。地に片膝を着き、長銃身のライフルを構えてこちらを狙っていた。やはり素手での戦闘は放棄されたようだ。

 セバスは戦闘条件を反故にされたことに驚きながらも、銃身の向きから照準を予測し、全速でオシリスに向け駆けた。

 

(指が動く!ここです!)

 

 指が動く瞬間を狙って、射撃線から最小限ずれると、弾丸はセバスの足をギリギリ掠めていった。続けて2発、3発と回避に成功する。セバスのLv100戦士の超人的な動体視力と反応速度のなせる業であった。残すところオシリスまでは15mほどとなった。

 

(まじかよ?!避けんのかよ!しかし次の弾は避けられねぇぞ!)

 

 オシリスが銃を手放すと光って消え、代わりの銃が光と共に手の中に現れる。そのまま狙いもそこそこに、ズドンズドンと無遠慮に連射する。

 セバスはダメージ覚悟で接近を試みる。腕をクロスさせて上体への被弾を最小限にするべく、低く鋭く突進した。衝撃はすぐさまやってきた。腕全体にわたる広範囲のダメージ。近距離において抜群の破壊力を誇る速射型ショットガンであった。12ゲージのベアリング弾の雨がセバスの両腕をズタズタに引き裂いた。

 

(ライフは6割まで削られましたか!ですが、超至近距離に持ち込めば反撃はさせません!)

 

 セバスは構わず突っ込んでいく。オシリスの腕からショットガンが消えると、また別の武器が現れる。今度は銃というにはひどく不格好な潰れたような見た目をしていた。

 セバスは自身の間合い、超至近距離まで到達した。すぐさまオシリスの武器を蹴り落としにかかるが、寸での差で武器の射撃の方が早かった。

 ズウォンという歪んだ音と共に体が後方に吹っ飛ぶ。ダメージはほとんどないが、ノックバックが凄まじい。縮めた距離か一気に開けられてしまった。

 再びオシリスの武器が光って消えるとまた違う武器が現れる。今度は抱えるほど大きい銃であった。

 空中に投げ出されたセバスに嵐のような弾丸の雨が吐き出された。毎分900発を吐き出す徹甲弾の嵐である。セバスはスキルにより空中を蹴って、真横に回避を試みるが、いつまでも弾薬が尽きない。ついには着地の瞬間を狙い撃ちされ、スキルで防御を強化しても残りのライフを削られ、あえなく5割を切ってしまう。

 

「セバス、戦闘終了でよろしいかな?」

 

「はい・・・。私の負けでございます」

 

 セバス以下、僕達は困惑の表情を浮かべていた。戦闘開始の合図を任せたと見せかけての奇襲による先制攻撃、格闘戦の条件を無視した銃器の使用。至高の御方がなぜこのような姑息な戦法を、という困惑であった。

 

「ルプスレギナ、まずはセバスの回復をしてやってくれ」

 

 かしこまりました、とすぐさま駆け寄るルプスレギナは何か納得したような顔をしている。見渡せば、ソリュシャンとデミウルゴス配下の魔将たちもそのような表情を見せていた。ルプスレギナの回復魔法を見ながらオシリスが聞いた。

 

「今の2回の戦闘から、俺が伝えたかったことが分かった者はいるか?誰か話してみないか?」

 

 ソリュシャンが手を上げ、オシリスに促された。

 

「オシリス様が伝えたかったことは、戦いには条件を示し合わせた決闘もあれば、奇襲を用いるような野戦戦闘、二つがあるということだと思いました。これからナザリック地下大墳墓の外に赴くものに向けて、決して油断はしないようにと伝えたかったのでは、と」

 

「その通り。ソリュシャンは察しがいいな。そして試合相手にセバスを選んだのはなんとなくその辺の察しが悪いんじゃないかと思ったからだ」

 

(なんせたっちさんに作られたからな)

 

 ぐっ、とセバスは思わず言葉に詰まってしまった。

 

「しかし、戦闘条件が反故にされたとみるや、すぐさまそれに対応できたのは評価するぞ。いざことに臨んでは柔軟になれることがわかった。相手が腹黒いもんだと疑ってかかれるようになれば、後手に回ってヒィヒィ言わんで済むだろうな」

 

 居並ぶ配下一同は皆、表情を引き締めてその教えを心に刻んだ。

 

 

 

 

 

「初回講習は済んだみたいですね。オシリスさん」

 

 その場にいたオシリス以外の者はすぐさま跪いた。絶対支配者(オーバーロード)がアルベド、デミウルゴスを伴って登場したのである。

 

「素直な生徒ばっかりで肩透かしを食らっちまったよ。方向性の違いから本気の殴り合いまでハッテンすると面白かったんだがな」

 

「あんまり苛めないでやれ。さぁ、それより面白いことを始めようじゃないか。方向性とやらが定まったぞ」

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