死の支配者と光の守護者   作:mev

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偵察準備

カルネ村が襲撃される1週間前

ナザリック地下大墳墓第6階層

 

 オシリスは用意された簡素な椅子に大きく背を預け、モモンガから何かしらの指令を受けている僕達を眺めていた。眺めつつ心ここにあらずであり、関心事はといえば先ほどのセバスとの模擬戦のことばかりであった。

 

(銃器を使ってセバスのライフは削ることができた。だが、あれはじゃれ合いくらいのもんだ。セバスの本気は竜人化してからだし、ライフが少なくなって発動するタイプのスキルもいくつかあったはず)

 

 接待試合といっても過言ではないと断じて、己の戦闘を振り返る。

 

(銃器の取り回しもイメージしているより遥かに苦労した。リロードでもたつくことはなかったが、狙いが難しい。ユグドラシルやその他のゲームでも弾の射出方向は常に目線のど真ん中だったから、銃口を自由に向けられるのに慣れねぇ。試射したくらいじゃわからなかったな。それに肉弾戦だ。多少現実(リアル)で齧ったくらいじゃ話にならねぇ。何をどうしたらいいかさっぱりだ。それに、何もできずに負けるなんていつ以来だ?どうにも腹の虫が治まらねぇ、クソッ!)

 

 沸々と沸き上がる熱を紛らわそうとHC(ハンドキャノン)をくるくると手の中で弄びつつ、つらつらと考えて。

 

(わかんねぇのはしょうがねぇな。とにかくやりながら覚えなおすとするか)

 

 サッと立ちあがると森の方へ移動を開始した。じっとしていたら熱がこもって爆発しそうだった。

 

 

 

 

 

 

「さてと、こんなもんで・・・」

 

 地面にザリザリと線を引いてスタートラインとする。今決めた森の中の適当なコースを障害物レース場とし、何週も走りこんで体の動かし方を学ぼうというわけだ。とにかくなんでもいいから何かしなければ。とりあえず困ったら基礎から始める。小さな自信を積み上げることからだ。

 

「オシリス様。何か私どもにお手伝いできることはございますか?」

 

 そう言いながら現れたのは戦闘メイドのソリュシャン、シズ、エントマだった。ソリュシャンが姉貴分らしく前にでて礼をとっている。

 

「ふん。お前らも走るか。比較対象がいたほうが捗りそうだ」

 

「畏まりました。お供させて頂きます」

「・・・頑張る」

「いいところをお見せしますぅ!」

 

 やる気溢れる3人を連れて、まずは試走のために軽く1周。木立を抜けて岩場地帯、湿地帯の僅かな足場の上を跳躍し、太い枝が伸びる大木区間は、枝の上を飛んだりぶら下がって飛び移ったりと自由に駆け抜ける。3人は流石に余裕をもってついてきた。

 

「それじゃあ、各自全力で走れ。行くぞ」

 

 言葉少なに早々にスタート。メイド3人は僅かに遅れてスタートをきった。それ故にオシリスを後ろから観察することができたが、それは少しの間だけだった。

 

(動きが妙にぎこちない?)

(なんだか苦労されているみたいですぅ)

(・・・)

 

 1周目はソリュシャンが一番、その後を僅かにリードしてエントマ、シズがゴールラインを超えた。オシリスは10秒ほども遅れてのゴールである。これはレベル差を考えても遅すぎるスピードだった。ソリュシャンは、先のセバスとの模擬戦で何か異変が体に起きてしまったのではと心配したが。

 

「次」

 

 軽く足踏みをしてすぐさま再スタートをしたオシリスによって問いかけの機会は失われた。状況は先の1周と変わらずの順位に終わった。むしろ先ほどよりオシリスは時間が掛かっているようだった。やはりおかしいと思うも。

 

「次」

 

 再スタートである。3周目ともなり、慣れ始めたソリュシャンはオシリスの観察を始めた。人型なのはあくまで外見だけであり、種族はスライム。その視界は全方位といってよかったため、苦も無く観察ができる。オシリスを視界に納めると、同じく視野の広いエントマも観察をしている様子だった。そして気づく。オシリスもまた自分たちを注意深く観察していることに。全力で走れ、そう命令を受けている。

 

(これは私たちをお試しになられている、そう考えていいのかもしれないわ)

 

 先の周より僅かでもタイムアップをするべく、工夫し全速で森を駆けた。

 

「次」

 

「次」

 

「次」

 

 何周も周回を重ね、観察を続けるうちにわかったことがある。メイド3人のラップタイムは着実に縮めることができていること。オシリスがそれ以上の短縮をしており、今ではシズのすぐ後ろに迫っていること。そして、ほぼ決まったルートを使いその中でタイムアップを狙っている3人と違い、毎回まったく違うルートを通りながら、タイムを出すオシリス。

ソリュシャンの頭に先のセバスとの模擬戦の様子がよぎる。まずは形式に則るように、その次はそれらを吹き飛ばしてなりふり構わず、である。ソリュシャンはその時が迫っているのではと思い、二人の妹たちに視線を送った。姉妹達と目配せをすると二人も察したように頷いた。持てる能力を全て使ってくるオシリスは確実に姉妹達を大きく引き離すスピードで駆けていくであろう。

 

(その時は、私も持てる全てを賭して喰らい付いてみせますわ)

 

 そしてその時は訪れる。オシリスはゴールすると一呼吸置き、すぐさま再スタートすることを繰り返していたが、今回は立ち止まった。体が一瞬光に包まれると装備が一新されていた。鈍い黒のローブと鎧姿から、ペロロンチーノを思わせる金色の甲冑姿に早変わりした。発散されるオーラも凄まじく、明らかに一段階ギアを上げてくることが伺えた。

 

「次」

 

 スタートの合図は全く変わらなかったが、出だしの一足から速度が違う。何かスキルが発動したのだろう、助走なしにいきなりトップスピードで走り始めると、姉妹たちを引き離す。

 ソリュシャンは遅れると見るや、すぐさま形態を変化させ、自身の持つ最大速度で疾走した。その後をクモの足をだしたエントマと、ジェットパックによって飛行するシズが追う。

 

(それぞれ全力を出しているようね。それでいいわ。この周からはセバス様の二戦目のようになりふり構わないものになるはず。レベル差からいっても離されてしまう。それでも何とか喰らいついて、私たちの実力を示すのよ!)

 

 姉妹たちのスピードはレベルの観点からみても、ソリュシャンが総合的には一番速かったが、枝の多い樹木が林立する区間ではクモの足を巧みに使うエントマが速く、地上以外には障害物がない沼地では一直線にジェットで飛行するシズが最も速かった。それぞれが互いの得意分野ではオシリスの背後に迫り、その走る姿を視界に納めた。

 無駄の削ぎ落された巧みな体捌きであった。障害物が存在するため、直線に走れることは稀で細かく方向を修正しながら進むことになるわけで、その動線はジグザグとしたラインを描くことになるが、その角度を最小限にするべく障害物をギリギリで掠めるように躱していく。足運びもまた正確そのものであった。少しでも推進力を得るべく窪みや段差に的確につま先をねじ込んで走り跳ぶのであった。ほんの僅かずつ距離が離されていく。姉妹たちはオシリスを視界に納めつつ、自分たちもまた、無駄を削ぎ落すべく奮闘した。

 オシリスに遅れること数秒というレースが何周も続いた。オシリスはその度に装備が替わり、ある装備では炎を纏いながら空中を蹴り、またある装備では障害物をすり抜けるように短距離をワープした。多彩な装備に身を包み、次々と異なった走りを見せるその背中を追い、姉妹たちはその多様さに驚愕した。

 その後も何周も障害物走をこなすと、オシリスは満足そうに頷くと姉妹たちを見渡した。

 

「これくらいで十分だ。俺は他のことも試してくる」

 

 それだけ言うとさっさと闘技場に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

~第6階層闘技場~

 

 

 モモンガはアルベドとデミウルゴスを従え、目の前に並ぶアウラの配下を眺めていた。正直こんなモンスターがいたのかと思ってしまうような、森で自動POPする低Lvモンスターたちである。Lv10ほどの虫やら小動物やらで、なるべく禍々しくなく、かつ生態系の一端を担っていそうな出で立ちである。

 

「モモンガ様、本当にこんなに弱いモンスターでいいんでしょうか?もっと強い者たちがたくさんいますよ?」

 

 

 残念そうな瞳で見上げてくるのはこの階層の守護者のアウラである。となりに一緒にいるこことの多いマーレは、地上部を隠すための土木作業に出かけており、今はいない。

 

「これでいいんだアウラよ。まずは損失の少ない弱い偵察から試していくのだ。言葉を話す者がいたら、そやつらより少し強いモンスターをぶつけて被害を与えて適当に追い立てる。そうすると何が起こると思うかな?」

 

 ピンときた様子で元気良い返事が返ってきた。

 

「はい!武装して反撃してきます!」

 

「うむ、概ね正解だ。相手の反撃がどの程度まで強くなるのか見てみたいのだ。このモンスターたちは容易く撃退されるだろうがそれでいい。これらが環境生物くらいに思われたなら、その認識こそが私が得たかった情報だ。Lv差が10開けば簡単に殺されるだろう。徐々にLvを上げていき、末端の戦力を測ることから始めるのだ。」

 

「そんなに警戒するべきなのですか?」

 

「するべきだ。死亡時の蘇生コストやリスポーンに関する実験も併せて行いたい。まずはコストを抑えてだ」

 

 モモンガは一番レベルの低い虫型モンスターを指名すると、ナザリックを中心に徐々に遠ざかるように指示した。虫たちは順調にナザリックを遠ざかり、やがて森へと到達した。数に物を言わせてローラー作戦で森を渡らせていると早速獲物が飛び込んできた。

 見たことのあるような、しかし奇妙な生き物であった。ジャンガリアンハムスターに蛇のような鱗のついた尻尾。何匹かレベルを上げつつモンスターを嗾けてみたところ、おおよそLv30ほどであると分かった。

 さて、他はどうであろうか?と近くに発見した人間の村に、ハムスターと戦わせてボロボロになった虫型を一匹置いてみると、なんとまぁ驚き慌てふためくものだった。これらの情報に基づいて、モモンガは付近に強者なし、と結論付け、しばらくは弱いものから徐々に探っていく慎重作戦で調査を行うとした。

 

(でないと戦闘狂のあの人が処かまわず首を突っ込んでメチャクチャにしそうだからなー。ギルド時代みたいに作戦を立てれば、まずはそれに従ってくれると思っておこう。)

 

 何だかんだで社会人であり、指示には素直に反応してくれるというギルドでは割と珍しいタイプだったので、それを見込んでおく。これらのことを2日ほどかけてじっくりと情報収集と作戦を立てていた。第6階層に詰めっぱなしで、いつの間にかモモンガの周りには多数のテーブルセットが配置され、配下が忙しなく書類をもって出入りしたせいもあって、さながら野戦指揮所のようになりつつあった。

 そこへオシリスがセバスやユリ、ソリュシャン引き連れてやってきた。ドカッと手近な椅子に座ると、今後の方針説明を要求された。デミウルゴスとアルベドが纏まった内容をスラスラと説明すると、すぐに了承が返ってきた。

 

「お疲れさん。こっちも2日ほどかけて戦闘に関わることを調べまわっていたんだが、分かったことがある。それを伝えようと思うが、言うよりも動いたほうがわかりやすい。モモ用にトレーニングメニューを作ったから、早速今から取り掛かってもらおう」

 

「トレーニングですか?」

 

 オシリスがこっちだ、と手招きしながら闘技場に向かい始めた。モモンガは何だろう?とアルベドとデミウルゴスに視線を飛ばしながら、皆で闘技場へと移動した。

 

 

 

 

 

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