「『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路さんさろは循環せよ。
閉じよ/みたせ。閉じよ/みたせ。閉じよ/みたせ。閉じよ/みたせ。閉じよ/みたせ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。』」
少女は自分の親が里長をしている里の近くの森の中で旅の商人から買い取った、スクロールに書かれていた呪文を詠唱する。
里にいたら友人にちょっかいを受けそうだったからだ。邪魔がされないようにこの森で魔法を試していた。
地面に描いた、魔法陣が詠唱に反応して光を放ち浮き出た無数の光の玉が回転を始める。
「『――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処ここに。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』」
詠唱を終えた瞬間、魔法陣の光が最高に達し視界を覆うばかりの光量が少女の視界を覆った。
光が収まったのを感じ、目を開くと魔法陣の中心に木刀を肩に担ぎ、背中に盾を背負ったどこか気だるい雰囲気の男性がそこに立っていた。
「人……?」
「子供……?」
喚び出された男は目の前にいる紅い瞳の少女を見て呟いた。
(おかしいな、聖杯からの情報がない。この子供がオレのマスターみたいっすけど)
本来なら"聖杯"により送られる情報がないことに疑問を抱くが、それよりも前にやることがあることを思い出した。
「あ〜、とりあえず名乗っておく。
サーヴァント、ライダー。召喚に応じ参上したっす……しました。
問おう、アンタがオレのマスターか?」
中々のキメ顔で尋ねるサーヴァント、ライダー。しかし、目の前の紅い目の少女は目をパチクリするだけで返答できないでいる。
(え? マスターじゃないの? ヤバい、一世一代の名乗りで失敗したなんてことになったらオレ、自決するしかなくなるんすけど)
堂々とした態度でいるが、内申恐々としていた。
しかし、次の言葉で別の意味で驚いた。
「……すみません、マスターってなんですか?」
「知らないでオレを呼んだんすかっ!?」
「ご、ごめんなさい!」
「いや、別に怒ってるわけじゃないんすけど……!」
驚いて大声を上げてしまったライダーが必死に宥めようとするが、目の前の少女はオロオロしてしまっている。
どう、説明したもんかと悩んでいると草むらがガサガサと音を立てる。
『ガアァァァァァ!!!』
草むらから飛び出してきたのは巨大なクマの魔物、『一撃熊』だった。
「一撃熊っ!? なんで、もっと森の奥にいるはずなのに」
「マスター、下がっててくれっす」
「そんな、木刀じゃ無理です……!」
ライダーは少女を守るように前に立つ。
しかし、少女は彼が持っている武器が木刀であることに気づいて止めさせようとする。
しかし、
「ーーーーッ!!」
ライダーが木刀を振るった瞬間、一撃熊は絶叫を上げる前に胴体から真っ二つにバッサリと切り裂かれた。
(嘘、木刀で一撃熊を斬った……。)
唖然とする少女を余所に、木刀についた血を払い落として少女に向き直った。
「改めて、名乗るっす。サーヴァント、ライダー。真名をマンドリカルド。よろしく頼むっすよ、マスター」