(3兆980億5437万3212)
あの人。
なんて、言ってたっけ。
――――ヨルシカにも、おそらく。
はは。
――――確かに私は強いよ。フリーデも。かなり無理をすれば、祭祀場のほとんどの相手には勝てる。ヨルシカにも、おそらく。
なんだあの人。
薫さん。
結局、嘘しかついてないじゃないか。
(5兆6454億3156万31466)
ヨルシカに首を寸断される。
(8兆3154億1285万9879)
首に事前に魔術防護を張った。
瞬く間に腹を裂かれた。
(11兆6266億425万1342)
ヨルシカに殺される。
(16兆4255億3214万7685)
ヨルシカに殺される。
(24兆5643億3145万7737)
ヨルシカに殺される。
(33兆8790億425万2314)
こういう時は、先達の例を模倣してみよう。
先生は、彼女も含めた全ての祭祀場の戦士達を相手にして、圧勝した過去がある。彼の真似をすれば、打開できるのではないか。
よくよく考えてみれば、鎧などに意味はない。どうせ何を着ていても両断されるのだから、できる限り身軽になった方がいい。ただ下着だけは最低限着よう。別に自分は、変態になりたいわけではない。
返す刃だけが、一瞬見えた。
それは青白かった。その色で光っていた。
(56兆8976億3324万1221)
光の刃が、彼女の手から伸びている。
気がつけば、斬られている。
(68兆4325億1243万6758)
線は、見えていた。とても熱い線が。
ただし、一本ではない。あらゆる体の部分に刺さっていた。もちろん、ヨルシカは観音様でもない。腕がいっぱいあって、同時に無数の攻撃ができるわけではない。これはつまり、乱されているということだった。殺意の方向を気取られないようにしている。
下田と同じ世界を、見ているということ。彼よりも、さらに上の次元から。
そう、次元が違う。格が違う。実力が、隔絶している。
(82兆1189億4324万7869)
「憎らしい」
「ぶっ殺してやる」
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す」
下田は嘔吐しながら、地面にはいつくばっていた。だが、こんなものでは足りない。体力の限界が来ても、立ち上がろうとした。
「あんな女が、どうして、強いのでしょう」
「くたばれ。あのクズが。何だっていうんだ」
「死ね、死ね、死ね」
これまでの関門にかけた全ての時間。
その何十倍を消費しても、ヨルシカの最初の一撃をしのぐことができていなかった。
ファランの速剣。
彼女が使ってくるのは、近接用の魔術だ。ソウルで剣を作り出し、振るう。武器自体の重さはほとんどゼロになるので、素早い斬撃を繰り出せる。たったそれだけだ。
下田は、無用だと考えていた。意味が感じられなかったからだ。数回試して、もう二度と使わないと決めていた。
まず、武器を自分でわざわざ作り出す労力が無駄だ。もっと質のいいものを最初からインベントリに入れておけばそれでいい。
さらに、形の維持も困難だった。例えばソウルの矢を飛ばすのは簡単だ。軌道が単純で、操作もしやすい。だが、ソウルで作り出した剣を手で握り、相手の筋を読みながら振るうとなると、話は違ってくる。気を抜けば、すぐに形が崩れて、剣としての役割を失ってしまう。
さらに、それを素早く動かすのには、相当の制御をしなければならなかった。重さも全くなくなるというわけではない。今まで散々あらゆる者の攻撃を見てきた下田の認識でさえ、捉えられないほど速い剣となると。
ヨルシカは、完全に術師型の相手だと思っていた。
だが、大きな間違いだ。
彼女にとって、魔術は補助に過ぎない。真の強みは、並外れた身体能力にある。
いや、この表現ですら足りない。
例えばどんな達人が、どれだけ長い時間鍛錬したとしても、手の届かない領域。人である限り、そのふもとすら拝めない、常識外れの存在。
人外だ。ヨルシカは間違いなく、人間の体を持っていては到底倒せない類の相手だ。そこには、大きな理不尽がある。
彼女の体格は、それほど抜けてはいない。もちろん身長は下田よりも高い。百九十センチは超えている。だが、腕の太さであったり、そういう見た目から推測できる筋量には、大差がない。
だがあんな細腕で、有り得ないほどの膂力を持っている。
原因は明らかだった。彼女の中には、竜の血が流れている。見た目にそぐわない力は、そこから来ているのだ。右手だけ竜の力にあやかっている下田からすれば、納得のいく考えだった。
つまり、対抗できるとしたら、右手しかない。
意識が遠のきそうになる。頭に無理やり奇跡を施して、沈みそうになった体を戻した。
まだ、一万を超えた程度だ。自分の体力のなさに、腸が煮えくり返る。
ファランの速剣の連続発動は、三つが今のところ限界だった。それ以上やろうとすれば、意識が断絶する。倒れるまでにはいかないが、集中が一回途切れてしまう。この魔術操作においては、致命的だ。
相手の魔術を理解するには、自分でやってみるのが一番だった。
最近は、ずっとこれしかしていない。ヨルシカが眼前まで迫る。青白い刃を振るってくる。そのイメージしかしていない。
下田はまたえづいた。右腕が引きつって、さらにおかしな方向に曲がっていた。骨が割れるのも、何度目だろう。だが、足りない。あまりにも進歩が遅すぎる。まだまだ鍛錬が少なすぎる。
自分が、泣いていることに気がついた。
別に苦しいわけでも、悲しいわけでもないのに、涙を流している。
認めざるを得なかった。自分は、心を動かされている、感動している。もの凄いことを見せられて、打ち震えている。全身の血が騒いでいる。ヨルシカ自身のことは大嫌いだが、その技は認めるしかなかった。
彼女と自分で違うのは、才能の有無。
そんな、甘ったれたことを考えるのはやめた。どう考えても、経験の差だ。量だけなら、おそらく下田の方がずっとこなしている。何倍も、何十倍も。
質の差だろう。彼女は、自分の恵まれた血と才能に驕ることなく、鍛錬を重ねてきた。
グウィンの言葉にもある。ヨルシカが生きてきた年月は、おおよそ数千年。他の戦士達とは、明らかに違う。何をしてきたのかはわからない。最初からあの技能を持っていたわけではないはずだ。得るために、どれだけ素晴らしい経験をしてきたのだろう。
羨ましい。
妬ましい。
憎たらしい。
その気持ちだけはせめて大事にすることにした。精神と肉体は密接なつながりを持っている。頭の中で、あの女の頭蓋を踏み潰す想像を永遠と繰り返せば、実現させることもできるだろう。その達成感こそが、一番の賞品だった。下田が味わいたくて仕方がないものだった。
(107兆6543億3144万7685)
「自分が何してるか、わかってんの?」
隠れて、ゆっくりと息を吐いた。白い煙が手の隙間から漏れ出していく。
ちとせの雰囲気がさらに剣呑になったのがわかった。やっぱりばれているのだろう。再びやってきた安心感で、思わず笑ってしまいそうだった。
「煙草くらい許してよ」
「その注射器は何?」
ちとせはベッドに転がっている医療器具を指差す。軽い調子で返したのも、火に油を注いでいるようだ。それはそうだろう。下田には、全く悪びれた所がない。注意している相手としても、やるせなさが大きくなってくる。
彼女は睨みつけてきながらも、戸惑いが隠せていなかった。彼に対する失望も示している。
「どうしちゃったの。ほんとに」
「色々あって」
「色々で、薬にも手を出したってわけ? おかしいよ、あんた」
下田としても、ちゃんとした理由がないことはなかった。
一度、精神を崩す必要があったと考えたからだ。酒、煙草、薬。人間を堕落させるものにおぼれてみれば、健常者の時とはまた違った天啓を得られるのではないかと。
あらゆることを試した。粉で鼻から吸引するタイプとか、直接肌に刺して注入するタイプとか。
結論から言えば、期待外れだった。客観的な快楽は、中々なものだと思う。だが、下田はいまいち入り込めなかった。一つの意識がぐちゃぐちゃになったとしても、他がまともなままだ。すぐに効果が切れてしまう。それに彼自身にとっては、浅い気持ちよさとしか考えられなかった。
もっといいものを知っている。もっと夢中になれることがある。
そういう人間には、麻薬も意味がないのではないか。新たな発見をした。中毒から立ち直れない人に、ちゃんと進めてみよう。
何度も殺し合いをすれば、薬の快楽なんてどうでもよくなるって。
手が飛んできた。頬をはたかれて、下田は衝撃に酔う。じんじんとした痺れが頬から下へと広がっていく。
「目を覚ませ」
彼女の声は、震えていた。
「寝ぼけてなんかないよ」
「もう、こんなことはやめて。何か悩みがあるんだったら、相談して。こんなのに逃げたって、どうしようもないでしょ。誰かと共有する方がよっぽど、いいから」
目を閉じて、ちとせの言葉をかみしめていた。
麻薬と言ったら。
彼は幸せな気分になる。
これの方が、ふさわしいかもしれない。
『屈折してるねえ』
「何が?」
『母性を、他人に求めるのかい? はっきり言って醜悪だよ』
「ちとせはいい人だ。彼女に迷惑が掛かっているわけじゃないのに、ちゃんと叱ってくれる。こっちを思いやってくれるんだ。心地良い」
『本来は、親がすることだね』
「……」
『どうかしたかい?』
「最近、声が思い出せないんだ。もちろん、顔はずっと考えてる。母さんの姿を一度たりとも忘れたことはない。でも、どんな声で、どんな言葉を話していたのか、ぼやけてきてる」
『気の遠くなるような、時間が過ぎたからねえ』
「でもそれって、冒涜だよね。忘れるわけにはいかない」
『だから、他人と比較するのかい? ちとせの叱り方と、アナタの母親のそれは違う。その違いで、つなぎとめようと?』
「単純に、はまってるのもあるけど。彼女の怒った声って、凄く、ぞくぞくするんだ。……僕、僕ってさ。Mなのかもしれない」
『何を今更』
(126兆4352億2211万6757)
「だらあん」
突然奇行を始めた下田に、周りの視線が集まった。大半は何をしてるんだという呆れの感情だ。今がふざけられる状況ではないのは明らかだった。
周りには相当量の亡者がいる。ソウル集めの最中で、まとめ狩りを行っていた。この場にいる生徒達では、多少気を付ければ無傷で乗り越えられる。足手まといが、一人もいなければの話だが。
何やら隊列等を気にする声が上がっていたが、彼は無視した。全身を脱力させて、正面から集団へと突っ込んでいった。
脱力。
最近思うのは、例えばスポーツや音楽においても、この戦闘にだって、余計な力を加えないというのが大事だということだ。変に力むから、動作が固くなる。固くなれば、初動が遅くなってしまう。
脱力しろ。
自分の身体を、固体だと思わないことにする。骨? そんなものはない。筋肉? 母親の体に置いてきた。不定形だ。自分は、どろどろになっている。少しでも動けば、今にも中身が全て流れ落ちていきそうだ。
下田は、倒れそうなほど姿勢を低くした。地面に落ちる前に足を出しさえすれば、維持できる。このやり方だと、足に余計な力を入れてなくていい。落下するように、走り出していける。前へと、落ちていく。
下からすくい上げるようにして、速剣を放った。亡者の首が飛ぶ。動作は続く。切れ間がないように連続していく。既に半分ほどを屠った。連続発動は、十五まで可能になっていた。この場にいる亡者は十三。余裕で間に合う。
腐った血や臓物にまみれながら、空を眺めた。今の彼に近づく者は、誰一人としていない。それでも、構わなかった。徐々につかみかけてきたという確かな実感が、彼の精神に彩りを与えていた。
ヨルシカの初撃に対応できないのは、下田の構造が人間だからだ。目で見たり、体で線を感じると、その信号が脳へと行く。そして判断を下して、動かせという命令を手へと向かわせる。話にならないほど、遅かった。神経伝達の経路には、改善すべきところがある。
要は、手を動かす必要はない。作り上げた魔術の剣が、自動的に反応すればいい。剣がこう動けという命令を、疑似的な伝達網によって、手へと直接向かわせる。その時にはとっくに、剣の方は行動を開始している。手へと伝わった命令は、脳に届く。ただの事後報告だ。本質的な主は、魔術剣の方になる。
融合する。魔術もまた、体の一部だと認識させる。神経ニューロンの複製は、かなり繊細な作業になるだろう。これを戦闘中に、即座に成功させるまでには、まだまだ時間がかかりそうだった。新しい詠唱をいくつも考えて、組み合わせなければならない。加えて、そういった神経学の知識も専門家レベルまで身に付ける。
精進の日々だ。
(145兆3245億5647万)
余計な力を消費しないということは、より長く振るい続けられるということ。
「二万!」
叫んでから、下田は、その場に崩れ落ちた。奇跡の光で全身を包みながら、ゆっくりと立ち上がる。胃液を何度も吐いた。頭が何かにかき混ぜられているようで、目を閉じればすぐに意識を失ってしまいそうだ。腕だけではなく他の部分も筋肉が裏返り、しばらくは起き上がれないだろう。
魔術を使える限界は、そうそう変わらない。下田の容量は、既にかつかつのようだ。だが、限られた範囲の中で効率よく使うようにすれば、最初の十倍以上はもつようになる。
効率。何事も、要領の良さが大事だ。
「わあ、今日も派手にやってるね」
痛みで地面を転がり回っていると、修練場に誰かが下りてきた。
リリアーネは屈んで、下田を見物している。
「ちょっと、頼みがあるんですけど」
「治してはあげるよ。ただどうしてそんなに頑張ってるのか、話すのが条件ね」
「いや、そうじゃなくて」
下田は詠唱を仕掛けた。
「うん?」
「僕の、そうですね、顔に短剣を投げてくれませんか。死ぬくらいの勢いで。ちゃんと殺すつもりで」
「休んだ方が良いんじゃない? 君、頭に血が行ってないよ」
「冗談じゃないんですよ。本当に疲れてるので、さっさと、やってくれませんか」
「うーん、そういう言い方されちゃうと、無視したくなるなあ」
声を低くする。
「胸に黒子があると、捻くれた思考になるんですかね」
彼女の手が、ぴくりと動いたのがわかった。
「…私、君に身体見せたことあるっけ」
「自分から、そうしてきたじゃないですか。不安げで、可愛かったですよ。ダークリングを見られて、気持ち悪がられないかどうか、気にしてるところも。意外と女らしい部分もあるんですね。大した問題でもないのに、いちいち心配してる」
「気持ち悪いね、君って」
「貴方みたいな存在が人の皮をかぶって話していることの方が、気持ち悪いと思いますよ。ここで何もしないつもりなら、早くフリーデの胸にでも飛び込んだらどうですか。お姉ちゃあんって、みっともなく甘えたら相手もちゃんと受け入れてくれますよ」
意外と簡単だなと思った。
彼女にとっては不快なゴミを処理する程度の感覚なのだろう。
下田は既に剣を作り上げていた。ソウルで構成された先端部分が、線を感知する。事前に組み立てられていた詠唱が発動し、剣がひとりでに反応した。
「うげ」
相手によって投げられた短剣は、綺麗に下田のこめかみに刺さっていた。
お手本のような失敗だ。
ファランの速剣は攻撃の軌道からわずかにずれた所を通り過ぎている。やはり脳で思考せずに動かそうとすれば、正確さを保つのが難しくなる。制御の難易度は、下田の能力の限界をはるかに超えている。
さらに煮詰めなければ、成功は見込めないだろう。
(178兆5366億2145万8797)
軌道がずれる。
詠唱の最適化ができていない。もっとスムーズに反応できるような音節を考える必要がある。詩的な才能は全くないので、既存の言葉からふさわしいものを参照する。膨大な数になるので、根気のいる作業だ。
(214兆3134億6675万9876)
神経網の形成も、上手くいっていない。もちろん数マイクロミリのずれも許されない繊細な作業であることは確かだ。だがそれを、戦闘中に無意識で行えるようにしなければならない。丁寧に、それでいて最大限に速く。妥協などいらない。
魔術剣と接続し、神経を完全に通す。どの部分に線が当たってもいいように、満遍なく覆う。発動するタイミングは、グンダの上に飛び上がった直後だ。彼を封印すると同時に、ヨルシカの攻撃に対応する。
(267兆5466億1987万5648)
呼吸を止める。
己の中に響くものに、余計なものは要らない。喉に空気が通り抜けていく感覚でさえ、刹那の攻防においては邪魔になる。
(342兆6453億3213万8997)
感覚を絞る。
思うに、人間は恵まれた種だ。五つの感覚を扱えるという時点で、十分すぎるほどに持っている。
だが持ちすぎていても、溢れたものが認識を食いつぶしてしまう。
今回必要なのは、触覚だけだ。
目で認識できる頃には、首を斬られている。
耳で把握できる頃には、死んでいる。
殺意の臭いをかぐ頃には、倒れている。
グンダの血の味を噛みしめる頃には、自分の血も飲むことになる。
神経の痺れを感じられれば、それでいい。それだけに絞って、どこまでも研ぎ澄ませていかなければ、到底、対応できはしない。
絞れ。
(546兆2013億4325万6570)
ただ速剣を発動するだけでは、足りない。
絶望的な膂力の差を埋めるためには、どのような形で振るうかも重要になってくる。
自分の作り出すソウルの剣は、わずかな重さしかない。だが、その重さもこの次元の戦いでは大きな障害となる。
居合。
疑似的な鞘を、ソウルで作ることにした。いわばレールのような役割を果たす。ユリアとの戦いでよくわかっていた。自分の武器の重さを利用し、推力に変えることができれば、その攻撃速度は格段に大きくなるのだと。
鞘から引き抜き、その勢いのままに、振るう。そこまでしてようやく、相手の剣の速度に辛うじて追いつくことができる。
必要な手順が増える以上、詠唱のさらなる複雑化は免れない。三つの意識の連携をさらに強めなければならない。ただ力を合わせるだけでは駄目だ。それぞれが完璧なパフォーマンスをした上で、本来ならば三つが一つになってようやくできる類の事を、個々で成功させなければならない。
(677兆2134億5646万7865)
知覚し、詠唱が自動で反応し、抜剣する。
もはや、その手順を意識する必要はない。
ただ自分は痺れを認識したなと思えばいい。その時は既に結果が決まっている。知るのは始まりと終わりだけでいい。どうせ過程を見ようと思っても、早すぎて無理だから。ただの人間の感覚器官では、何が起こったのかさえ、理解できないから。
(798兆3214億4454万5536)
考えるな。
(987兆2145億7865万4325)
感じるな。
(1278兆6755億8976万1124)
右手で、螺旋剣を。
左手は、既に鞘を形作っている。
グンダの肩へと落ちていく。剣先が装甲に食い込み始めると同時に、目を閉じた。
暗闇は、良い。
一番情報量が多いのは、視覚だ。細かいものも拾える半面、余計な情報に惑わされる確率も高くなる。だから、蓋をすることにした。温度だけを、感じられればいい。
完成した鞘へ、右手が向かう。竜の力が結集されていく。
熱。
脳だけは冷めていた。なぜなら、一連の行動に全く関与していないからだ。全ては手の先と、魔術剣の間だけのやり取り。極限にまで無駄が省かれた、神経の動き。痺れが往復するだけの単純な作業。
殺意の線をなぞる。
自動的に。
反復的に。
無感情に。
無機質的に。
脱力。
憎しみだとか、妬みだとか、戦闘への欲求や快楽も、どうでもよかった。今だけは、その、青白い刃が激突する瞬間だけが、下田の生だった。生きる、目的だった。
無音の刹那が、終わった。
金属音とも違う、空気の震えがぶつかり合ったような音が、耳に入り込んできた。それが最初に認識した、明確な感覚だった。
目を開けると、期待していた通りの光景が、広がっている。
「な……」
ああ、声。
その声が、聞きたかった。
ヨルシカの刃は、下田のそれによって、止められている。ファランの速剣が相殺し合い、二人の動きは完全に固まっていた。
それでも、世界が動き出しているのが、彼にはわかった。時間が進み、この先も、一歩ずつ、進んでいく。相手の、白い肉を抉り出すまで。
殺すつもりの攻撃が、全く同じもので防がれるというのは、かなりの驚きだろう。ヨルシカの動揺は、はっきりとわかった。下田を信じられないと言いたげな顔で、見ている。
下田は首を傾げた。にたにた笑いながら。
遅い。
何を、うかつに声まで漏らしているのだろう。
初撃を止められたから、何だというのだ。
やはり、ろくな女ではない。自負が過剰にあると、ろくなことにはならい。今まで全てを嘘で塗り固めてきたヨルシカには、ふさわしい醜態だ。
ふさわしい、最期でもある。
ソウルの弾丸を作り出す。それら全てを、ヨルシカの急所に向けて放った。かわせる隙間はない。受けて耐えられるほど弱いものでもない。その綺麗な外面をぐちゃぐちゃにされて、苦しみ呻きながら倒れていく様を想像すると、絶頂しそうだった。
望んでいた結末が、もう、手の中にある。
彼女の肌に辿り着く前に、全ての弾が掻き消えた。
代わりに、下田の両手に無数の針が突き刺さっている。
ひと呼吸の間に、ヨルシカは再び速剣を放った。
欠伸でもしそうな表情で。
(1543兆4355億7866万8976)
そんなことだろうと思った。
(2006兆3321億4454万6786)
「あ、ああああ、あああああああああああ」
部屋中を、駆け回る。
壁や天井を何度も殴り、ベッドや椅子を破壊した。
たまにあることだ。
自分の中の全てを吐き出さなければ、いずれ破裂してしまう。このような時間も、大事になってくる。特にこういう、行き詰まりが極まった場面では。
「なんでだよなんでだよなんでだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおざけんなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ糞ゲーかよくそがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねええええええええええええええええ」
下田は大きく伸びをして、ぼろぼろになったベッドに寝転んだ。叫んで酷使をした喉に奇跡を使いながら、天井を眺める。
「考えよう」
「どうするべきか」
「一つ一つ、確認していこうぜ」
「まず、初撃の対応はあれで間違いない。あれ以上の選択肢はない」
「時々、失敗もしますからね。今更別のに変えようとしたら、泥沼にはまる可能性があります」
「今もはまってるけどな。相手の攻撃を受けて、今度はこっちから攻める番になる」
「こういうことは何度もあった。壁に当たったことは。だけど…」
「現状、打てる手は全て出し尽くしましたね。それでも、あの女には届かない」
魔術が、消される。
詠唱を乗せたとしてもだ。一つもヨルシカの体には当たることはなく、分解される。どれだけ複雑な詠唱をしても、どれだけ反詠唱の対策をしても、容易く無効化される。明らかに理不尽な何かが働いていた。
ヨルシカが使ってくる魔術にも、対応に苦労している。彼女の戦闘場面を思い返してみると、ソウルの矢を多用していた。この世界の術師はそういう傾向にある。下田が彼女に辿り着くまでにも、何度もそれで邪魔をしてきていた。
だが、直接相対することになった瞬間、彼女は魔術の形をがらりと変えてきた。矢よりも細かい針に変えている。おそらく、彼女自身が自分で考えた構成だ。おまけに詠唱を乗せていないので、分解のための情報を得ることができない。
そう、無詠唱だ。普通なら簡単に打ち消せるはずなのに、できない。つまり、縛りがついている状態でも、彼女の魔術は強力だということだった。
それらに苦慮して、ぐずぐずしていれば、ファランの速剣が再びやってくる。下田にとっては最も警戒するべき最悪の攻撃だが、彼女にとってはただの選択肢の一つだ。連発もするし、あえてしないというフェイントもかけられる。
「課題は二つ」
「彼女に魔術が通用するようになること」
「いつ挟んでくるかもわからない最速の攻撃を、反詠唱の困難な魔術をどうにかしながら警戒すること」
「あくまでこれらは、生き延びるための最低条件にすぎません。殺す決め手も考えていかなければ」
「あんまり派手なことは連発できないな。はっきり言って、もうくたくたになってる。ヨルシカと戦い始める時には、体力はほぼ限界だ。絶え間ない頭痛とも戦わなくちゃいけねえ」
「一番コンディションが悪い時に、一番強い相手と戦うのか」
「一番憎い相手でもあります。動機というのは大事ですね。どんな困難も、越えていけそうな気はしています」
「うん」
「うーん」
「と、言ったものの…」
「そもそもなんで俺達は、あの竜女を殺したいと思ってるんだ?」
「誓約を破棄するためでしょ」
「それはあくまで過程だろ。あいつの腸を引きずり出すことこそが目的な感じがしてるんだが。その原動力ってなんだ」
「憎いからでは?」
「あっちが嫌ってきてるから」
「そこだな」
「確かに」
「私達は、彼女に何もしてないはずです。虐げられたのはこちらの方。何があったんでしょうか。過去に」
「結局、あいつとも話してみなきゃいけないってことか?」
「うわ、やだなあ。でも、戦闘に集中するには必要だね。動機の明確化か」
「直接媚を売る必要もないでしょう。他人から情報を集めるという手段もありますし」
「気分が乗らない」
「俺もだ」
「私もです」
(2689兆2134億5646万7869)
「ここ、読めないんですけど」
そこの部分だけ、妙だった。何か文字が書かれているのはわかるのだが、認識できない。そこだけが意味の配列から断絶されていて、いくら指でなぞっても出てこない。
オーベックは見もせずに答えてきた。
「無名の長子だな」
「?」
「太陽の長子とも言うが、誰も使わない。捨てられたものだからな。そんなことより、もう一度議論しよう。お前は詠唱の圧縮について、私と違う意見を持っているようだが」
言葉が止まる。
下田は、人差し指を口に当てる。目で笑いながら首を振った。
「僕の疑問を解消してからです。それからなら、いくらでも、話し合いましょう」
オーベックは数度瞬きした後、口を歪めた。下田も思わずきょとんとする。そんな気持ちの悪そうな顔をされたら、誰だって不思議に思うだろう。
「まあいい。だがこの話を誰かれ構わず漏らすな。あまり、広めていいものではない」
「わかりました」
「いいか、長子というのは長男ということだ。太陽の長男。あのグウィン大王の息子。だが、今では彼を話題に挙げる者はいない」
「無名」
「そう、グウィンしかりグウィネヴィアしかり、四騎士しかり。どれだけ経っても神代の者達の名は消えない。かの長子も卓越した能力を持っていた。おびただしい数の竜を狩っていたとも言われている」
それでも、彼の名前は伝わっていない。
「許されざる裏切りを犯したからだとされている。過去の二度の大戦において、敵と通じていた。そのせいで四騎士の全てが死に、グウィンもまた長き眠りにつかざるを得なくなったという。だから、忌まわしき名として捨てられた。長子の名が書かれている文献は未だ一つも見つかっていない」
話している声の調子と、表情の動きを観察した。どう見ても、嘘をついている気配はない。少なくともオーベックは、自分の言っていることを事実だと思っているようだ。
文献なら、見つかっている。今まさに下田が示したものがそうだ。その一文には確かに名前が書かれている。しかし、認識できない。
オーベックにはそれがわからないようだった。存在しているのに、存在していないと思わせる。そんな術が、この名前にはかけられている。いや、名前どころではない。長子の姿も伝わっていない。
無数の者達の認識、記憶を歪めるほどの術。これが意志を持って行われたものとしたら、行使をした者の技量は想像を絶する。その効果自体というより、持続期間が異常だ。数千年以上も効果が保たれるなど、どんな気力の持ち主だ。
だが、それよりも気になる言葉があった。
「オーベックさん、今二度の大戦と言いましたよね。過去に起きた竜との戦争は、一回で終わっているはずです。残党がまだ残っていたんですか」
「よく知っているな」
そこまで淡々と事実を話していた彼の様子が、少しだけ変わった。下田の方を見てきている。表情に対して変化がなくても、これまで接してきた経験でわかった。間違いなく、気を遣われている。
「我々の偉大なる神達は、長く竜と戦っていた。因縁深い敵ともいえるだろう。だが、やがてさらなる敵と戦うことになる」
鈍い頭痛が、顔を出し始めていた。
「常陽の民」
オーベックは珍しく周りを気にする素振りを見せた。
「その存在は執拗に歴史から消されている。私が調べた範囲では、まばゆいばかりの太陽を、浴びるように享受していた、別世界の者達。神達は彼らの」
二十五回。
下田は、相手の喉に短剣を突き刺した。ごぽごぽと血があふれ出している様を見ていると、針のような痛みが和らいでいく。視界が真っ赤に染まり、深呼吸した。
あれだ。
やっぱり、この世界の過去を探るのはやめよう。
嘘ばかりで、嫌になってくる。
(3145兆4324億5677万8678)
ヨルシカの感情もどうでもいい。
理解したから、何だというのだ。
ただの狂った竜女でしかない。
殺せば、いなくなる。
首だけで宙を舞いながら、下田は相手を睨みつける。ヨルシカは既に速剣を消していた。息一つ、乱していない。
さらに、速度が上がった。最初の攻撃は、本気ではなかったということ。下田が対応し始めると、それをすぐに上回ってくる。しかもぎりぎりでだ。おそらく圧倒できる差がまだあるというのに、彼女はあえてそうしてくる。
上等だ。煽っているつもりなのだろう。
お前をいつか、叩き潰す。そんな余裕も、抱けないようにしてやる。
(3897兆1231億6889万9874)
青白い刃を振るう。
壁に細かい傷がついた。
下田は傍に屈んで、地面に印をつける。
ファランの速剣の間合いは完全に把握できている。要はその範囲に入ってしまえば、いつ首を飛ばされてもおかしくないほど追いつめられるわけだ。はっきり言って、初撃の多少手加減されたものを止めるだけで精一杯だった。次からの加速していく速剣に対応するためには、それ以外の攻撃を全て捨てる必要がある。そんなものでは、勝てはしない。
離れて、魔術だけで戦うことも無理だった。今のところ術戦においても上手を行かれている。彼女の驚異的な反詠唱の前では、糸口が見つからない。
だが、下田は疑問に思う。
ヨルシカの口は、確かに下田の詠唱の逆を正確に出している。どんなに構成を変えてもだ。それはまるで、予知のようだった。臨機応変という次元を超えている。いくら彼女が常識から外れていても、可能なのだろうか。
自分の、右手の甲を見る。鱗に覆われてもなお、誓約印は消えていなかった。
暗月の剣という誓約が、何か不都合なつながりと彼女との間に作っている。自分の位置が常に知られていることの他にも、何か、あるのではないか。例えば朧気でも思考を読まれているとしたら、反詠唱の正確さにも納得がいく。
しかし、その説はないだろう。本当に思考が筒抜けになっているのなら、今まさにこの瞬間、ヨルシカが殺しに来てもおかしくないのだ。彼女だって、自分の味方が大勢殺されるのは避けたいはず。それに、考えが読まれていたなら速剣の初撃を止めることもできなかったはずだ。
つまり術だけだ。術の詠唱だけが、事前に漏れてしまっている。
下田は、唇を噛んだ。
誓約が本当に邪魔だ。これを消さないと殺すのが難しい。なのに、殺さないと消すことができない。
彼女への攻撃に、魔術を使うことは控えておこう。自分の補助に、全てのリソースを回せばいい。やはり攻め手となるのは、武器だ。彼女の速剣の間合いよりも外から、攻撃できるものがいい。それでいて、重すぎないもの。
木の幹へ、正確に飛んで行く。その軌跡を、下田は淡々と眺めていた。
やがて彼の視線に気がついたのか、高坂が振り返ってくる。
「よお、なんか用か?」
答えずに、刺さった槍を眺めていた。高坂が三本同時に軽々と扱っているのを見ると、それほど重さはないのだろう。長いリーチという魅力的な点に大きく惹かれて、その可能性を考え続けていた。
「おい」
手が伸びてくる。下田は素直にデコピンを額で受けた。
「黙ってないで、話せよ。ん? 高原の話か」
「違うよ。あのさ、槍のことについて、教えてくれない? 僕も、使ってみたいんだ」
初めは面倒くさがって引き受けてくれなかった。しかし三日ほどずっとそばをついて回って頼み込めば、普通に根負けしてくれた。さすがに部屋にまで侵入されて話しかけられれば、断る方が難しいとわかってくれたのだろう。
槍は、かなり扱うのに技術がいるとわかった。イメージでは突きを中心に立ち回ればいいというのが一般的だが、強みである長さを生かした攻撃方法は、他にある。
「要は、何だ、遠心力ってやつだ」
高坂が息を鋭く吐き出しながら、槍を横に薙ぎ払う。立っていた木の棒が、真っ二つになって倒れた。
持つ手の方から離れるほど、加速度は大きくなる。その力を利用して刃で斬ることもできる。高坂の持っている槍は先端の両側部分に鎌がついていた。それで相手の武器を引き落とすこともできるらしい。
剣と同じく、槍にも様々な種類がある。下田は自分に合ったものが見つかるまで、全部を満遍なく使ってみることにした。
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鎌槍。
槍の穂先の両側に、鎌状の突起がついている。突くこと以外にも、斬ったり、敵の刃を受け止める機能が備わっている。
だが、相手の武器は実体ではない。それに切れ味も驚異的だ。受け止めることが前提の槍では、あっという間に穂先を斬られて機能しなくなってしまう。
パルチザン。
穂先の金属部分に重心が寄っていて、その重さによる斬撃が主な強みだ。
ただ少し重すぎるのが難点でもある。両手を使ったとしても、素早く動かせない。そして斬ることを中心にしてしまうと、どうしてもリーチの長さを生かしきれない。やはり、極めるべきは突きだ。彼女の速剣の範囲外から、迅速に弱点を穿つ。
管槍。
柄の前方に、手管と呼ばれる移動可変型の把管が付く。手をしごくように移動させずとも簡単にスライドさせることができるので、素早く連続で突きを繰り出せる。リーチの変更が容易なため、叩き斬る際にも応用が利く。相手を撹乱しやすくなる。
下田は、しばらく管槍を使っていた。もちろん自作だ。インベントリで得たものでは、相手に危害を加えられない。剣以外のものを作るのは初めてだったので、最初の数回は新鮮な気分で作っていた。
長さは、おおよそ百二十センチほど。気を付けていれば、相手の間合いに入らずに済む。もちろん、素直に相手がその場に留まってくれたらの話だが。
手管を絞る。
亡者の頭に刃が刺さり、すぐに抜けていく。
把管を握るのは、左。柄の後方を持って、突き出す力を加えるのは右手だ。左右の膂力に大きな差があるというのは面倒な反面、役割をきっちりと決められる利点もあった。左手の方は、槍全体に符呪をする役割がある。
相手にやられると嫌なことは、二つある。
まず、穂先を斬り落とされること。最も多い追いつめられ方だ。ファランの速剣にかかれば、木製である柄など簡単に斬れる。一度柄の部分も硬い金属に変えることを考えたが、そうしてしまったら重量が馬鹿にならない。なので、符呪による耐久の増強を代替案とすることにした。
二つ目は、あちらから距離を詰められることだ。槍の長さ故、接近戦を苦手としている。ただでさえ実力に差があるのに、不利な間合いになってしまえばあっという間に負ける。
距離を取ろうとしても、あちらの方が素早い。離れながら戦おうとしても、いつかは必ず捉えられる。
だが。
下田は、ある程度の手ごたえを感じていた。今までには、なかったものだ。
亡者の血を振り払い、残心する。穂先とは反対の方、石突きと呼ばれる部分で、足元でもがいている亡者の頭を潰す。
ほかの武器では、見られなかった光景だ。ヨルシカは明らかに、槍を苦手としているようだった。下田がその武器を持つと、警戒が一気に跳ね上がるのがわかる。動きは変わらないのだが、ある種の畏れを持っている。それは経験から来る感情のようだった。
正しい武器を、選んだことには間違いない。後は工夫をするだけ。常に彼女から離れた位置取りを心がける。詰められないようにする。
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魔術の暴発によって、飛ぶ。
通用しない。
早いことは確かだが、それでもヨルシカの動きが明らかに勝っている。彼女の脚力は、一体どうなっているのだろう。どんなタイミングで下がろうとしても、食らいついてくる。獲物を決して逃さないと言いたげに。これでは、背後を取ることなど夢物語だ。
槍を使って近づけさせないようにするのもいいかもしれない。しかし、この扱いについては他の武器以上に苦労していた。教わるべき相手が、いないからだ。
高坂の技術はとっくに吸収しつくしていた。他に槍使いは、祭祀場にいない。残りは、自分で編み出していく他なかった。それがどれだけ難しいことか、痛感していた。
先人たちの教えにならい、それを応用するのは、道をたどること。自分で最善を考え何度も試行錯誤していくことは、道を作り出すということ。ただ積み上げていくことしか知らない下田には、途方もなく時間がかかる。腕力の限界もあるので、技量に関しては頭打ちになり始めていた。そして、ヨルシカの接近を牽制できるほどの開花は望めないとわかった。
突き詰めるべきは、戦術だ。
下田は、新しい移動方法の必要性を感じていた。それも尋常ではない性能のものだ。一瞬で位置取りを変えられるほどのものでなければ、光明は見えない。
瞬間移動が、欲しい。
ともすれば現実から目を晒した、逃避の様な選択肢だと言えるかもしれない。だが、自分では合理的な考えのつもりだった。なぜなら、既に見たことがあるからだ。ある二人が、そういった術を使っているのを見たことがある。
クリムエルヒルトと、ロスリック。
奇跡に分類されているその術を、身に付けよう。