………よし、やるか(いつもの病気)
大陸最大版図を誇るグラーゼル帝国領東部にひっそりと捨て置かれた、国境にすらなっていない辺境の荒野。
朽ちた色の甲虫が水気を持たぬ枯草を食み、軋みを上げながらゴーレムが不自由そうな動きで徘徊する、モンスターですら適応に難儀しているような僻地である。
農地に適さず資源も採れない不毛の土地に、その祠はひっそりと建てられていた。
決して大きくはなく、豪奢でもない、しかし石造りのしっかりした社―――場所柄を考えれば建立した者達の熱意と労力は察することができるだろう。
中を覗けば祭壇には磨かれた祭具と一輪の白い花が添えられており、旅人が迷い込むことも無いだろうこの果ての地に祈りを捧げる者が絶えていないことを示していた。
本来であれば捨て置かれるであろう片隅の物語。
だが、それこそ地の果てまでも飛散した種にその出会いは導かれた。
「む……、主。どうにもいつもと趣が違うようですね」
「はい。毎度毎度、冥王さまの祠は取り壊されてましたから。無事に建っているのを見るの、初めてじゃありません?」
冷涼な気候で蜃気楼が立つものでもあるまいに、いつの間にやらといった体で四人組の男女が祠の前に佇んでいる。
唐突さもだが、それにも況して奇妙だったのは彼女たちの出で立ちだった。
怜悧な美貌を訝し気にして辺りを観察する、紫髪の女騎士の白銀に輝く鎧。
嬉しそうに笑み崩れながらその後ろについて行く、尖ったエルフ耳の少女が纏う服にあしらわれた花や若草の瑞々しさ。
そして彼女達を暖かく見守る黒髪の青年の、気品ある貴族風の衣装。
どれもがこの灰色の砂が立ち上る荒野を抜けて来たとは思えない、まるで直前まで室内に居たかのような清潔具合。
しかし彼女達にとっては何の不思議なこともないのだろう、初めて見る“無事”な冥界の王を祀る祠を検めつつ、和やかに話が続く。
エルフ耳の少女―――世界樹の精霊ユーは、供えられた花を手に取り舞うようにステップを踏んで今の感情を表していた。
「なんだか無性に嬉しくなっちゃいましたよー!思い返すも会う人会う人、冥王さまの名前を出した途端に怒り出したり冷たくなったりするんですから。
でもやっぱり冥王さまのこと信じてくれてる人もいるっていうのが判って、安心しました!」
「ふふ、転んだら危ないから、はしゃぐのもほどほどにするんだぞ、ユー。
……ところで主としては、その辺りいかがお考えでしょうか?」
話を振られたこの女騎士の主なのだろう青年は、素直に嬉しい、と微笑んで返した。
毒気のない笑顔に一瞬頬を赤らめた騎士の少女は、慌てて逸らした視線に少ししょげた同僚の姿を映す。
「はぅ……。ごめんなさい冥王様」
「あ……」
その理由に心当たりがあった女騎士は、掛ける言葉に一瞬戸惑う。
友人に慰めの言葉を発することに否やはないが、彼女の消沈の根本的な原因―――世界各地の冥王の祠はほぼ全てが破壊されてしまっているという事実とその経緯に対し、忸怩たるものを抱えていることは確かだったから。
常に己を律するべく意志と理性を強く磨いている騎士の心の揺らぎを見計らったような、そんな瞬間だった。
「――――動くな」
「っ、子供?」
荒野を吹き抜ける砂混じりの風に乗って姿を現したのは、四人組にもいっそ勝るほどの場違いな異装の幼女だった。
「す、すごい恰好ですねあの子…」
黒衣に銀―――色調のみを語ればそうなるが、いささか傾奇に過ぎる。
身に纏うあらゆる布が黒く染められている。十にも満たぬ幼さ相応の体躯を覆うのは簡素気味なゴシックドレスだが、特有の飾り布や裂けた十字模様に至るまで全て黒。
さらに外から覆い被さるように黒の外套が幼女の右半身を覆い隠していた。
一方で左肩から先は完全に露出して白い柔肌を覗かせる。
そのコントラストを飾るように銀の装飾具がちゃらちゃらと間断なく音を立てている。
ネックレス、チョーカー、ブローチ、ブレスレット、リング、ベルト、アンクル、ブーツ―――過多としか言い様のない銀の氾濫。例外は肩口まで伸びた銀色の髪には流石にそぐわないと判断したのか、左側のみサイドで括っている黒いリボンくらいだった。代わりにもっとと言わんばかりに右腕にシルバーチェーンが巻き付いている。
あどけないながらもどこか妖しい色気を感じさせる柔らかな容貌、その瞳は左が鮮血を一滴垂らしたような紅玉、そして右が褪せて乾いた不完全な虹色。
銀髪オッドアイの幼女は、主張の激しい奇矯な風体ながら不思議と魅力的にすら思わせる存在感で四人を睥睨していた。
そして何よりその特異さを際立てる―――刃渡りだけで彼女の身の丈を超える大刀が二振り。光を集積して仄かに輝く水晶のような刀身の一振りを左の逆手で腰元に構え、右の暗黒の靄を放つ漆黒の刀身の切っ先を、青年の後ろに控えていた女性に真っ直ぐに向けている。
虹の右眼に一瞬狂気的な光を瞬かせ、蒼の“聖樹教会の神官服を着用した”女に決然と言い放った。
「我に気取られずここまで侵入(はい)り込んだ手管だけには賞賛をくれてやってもいい―――が、何度手駒を磨り潰せば気が済むのやら。
つくづく懲りるということを知らぬと見える」
「一体何を…?」
切っ先と共に向けられたのは、その幼さにそぐわぬ濃密な殺意。
戸惑う女性に構うことなく幼女は深く体幹を沈めて臨戦態勢に入る。
そして―――。
「クリスさんッ!?」
「―――っ!!」
相応の重量を誇る巨大武器を二振りも構えた幼女が、まるでそれを感じさせぬ猛烈な速度で襲い来る。
ユーの悲鳴と獲物の息を呑む声、それに続いたのは肉も骨も構わず断ち斬られる不吉な音……ではなく、高速かつ重い鋼同士の衝突する刃鳴りの金声。
「問答無用か…!」
「問答が必要か?そこな破滅の光の使徒がいる以上は貴様らの目的など知れたもの。
いつも通りだ、貴様らが届ける破壊を我が撃滅する――それだけの話よ」
漆黒の大刀を弾き水晶の刀身を騎士剣で受けながら、幼女の襲撃の途上に割り込んだ女騎士はその碧眼を幼女の異色双眸に向かい合わせる。通いし視線から交わすは戦意。
「我は冥戒十三騎士が終の一騎、『黒き剣巫』ジェニファー=ドゥーエ。
汝ら輪廻断たれし惨めな魂となり果て、この現世を永劫彷徨うがいい―――!!」
「やられる訳にも、やらせる訳にはいかない。
―――『白銀の疾風』アシュリー=アルヴァスティ、主の騎士として、いざ尋常に………受けて立つッ!!!」
共に騎士を称する二人の名乗りの流儀。
それは全力を懸けた果し合いの開始の合図を意味していた。
少し下がろう、危ない!
「あわわっ!?地上に出てすぐの急展開!?」
九閃と五度の戟音。黒髪の青年がユーの背中を引っ張って退避し始めるまでに幼女の双刀とアシュリーの剣が弧を描き、時にぶつかり合った回数だ。
水晶と漆黒と白銀が、その一つ一つが一端の戦士が渾身を込めて振るう重量の刃が、冗談のような速度で空中に幾多の残像を表す剣撃の嵐。
ほんの童女であるジェニファーに対し、女騎士アシュリーも少女と言って差し支えない年の頃だ。それが特有の俊敏さを持って互いの一閃を掻い潜りつつも、時に豪傑さながらに武器を叩きつけ合って眩い火花を荒野に散らす。
あれよあれよと言う間もなく剣閃は十重二十重と連なり、軽く百を数え、ようやく交差した双刀と騎士剣が競り合う形で一瞬の膠着を見せた。
「アシュリーさん気を付けて!その子、《種子》(たね)を持ってます」
「でしょうね、くぅっ!?」
ユーの遅すぎる警告―――アシュリーの受けている超常の恩恵を銀髪オッドアイの幼女も有しているというのは初めに剣を交わした時点で理解していた。
何せ完全にとは行かずとも競り合いで圧されている、腕力で後れを取るという久しく無かった感覚を覚えているのだから。
否。
「……タネ?あいにくこの体は女子(おなご)のものだ、棹も玉も無いぞ?」
「下品っ!!?」
右手の漆黒の刀身から黒い靄が噴き上がると同時に、余裕で猥褻な冗句を挟みながら幼女が鎧を着た騎士を弾き飛ばす。
咄嗟にバックステップで勢いに乗って後退するアシュリー、そこを追撃するジェニファー。
だが着地ざまに鋭く放った二閃が牽制となり、勢いを削がれた黒銀の巫女はいささか遠めに間合いを取り直した。
(信じられないくらいの馬鹿力……だが、今のは)
何かを確信したアシュリーが剣の柄を握り直す一方で、一足の間合いを計ってじりじりと詰めるジェニファー。膠着はさほどの時を待たずに打ち破られる。
交錯―――アシュリーの肩の装甲が吹き飛び、深く切り刻まれた黒の外套が宙を舞った。
刹那も構うことなく、二人の剣士は斬閃の嵐に飛び込み合う……!
「クリスさん、援護はできそうですか!?」
「だめ……あの斬り合いの中に下手に魔法を撃てば、却ってアシュリーさんの邪魔になりかねません!」
振り回される三つの刃は激しくも虚しく空気だけを切り裂くものも多い、つまり回避の為に入れ替わり立ち代わり移動を繰り返す二人に、アシュリーの仲間達は手を出しあぐねていた。
もどかしく焦る少女二人の横で、信じて見守るしかないと結論付けた青年がふと呟く。
少し状況を整理したい、と。
「あの、どういうことですか?」
金の刺繍が施された蒼の神官服――白いインナーが覗いているしへそが丸見えのやや露出が多い衣装だが――を着た女、先だって一番に銀髪オッドアイ幼女の標的にされた神官クリスが訝し気にその意図を問う。
「そう言えばあの子、『冥界十三騎士』?とか言ってましたねー」
それは、いや……まさかそんな筈は…!
「ご存じなんですか?」
欠片も聞き覚えは無いけども。
「ずこー!?」
わざわざ効果音を口に出してずっこけるオーバーリアクションの世界樹の精霊を放置して、ボケを投げっぱなしにした青年は手短に得た情報をまとめる。
たぶん、ここの冥王の祠を守って、祈りを捧げてくれていたのはあの子じゃないかな。
「え?」
そして、神官服を着たクリスを“破滅の光の使徒”と呼んで、真っ先に斬りかかった。
二年前、この世界を支え人々から深く信仰されている世界樹が炎上したのは冥王のせいだ―――クリスが出奔した古巣である最大主教・聖樹教会は、そんな誣告を発している。
宗教というものが救済を謳いながら暴力に結び付くことなど、珍しくもなんともない。
世界各地の冥王の祠が破壊されているのは、都合のいい怒りのはけ口を示された民衆の手によるものも多いだろうが、誣告を真実として動いた教会の私有兵によって直接為されたものもあるだろう。そして口ぶりからして、ジェニファーはそんな教会の戦力と交戦しこれを『撃滅』した経験もあるようだ。
と、そこまで聴いたユーが引きつった顔でおそるおそる結論を口に出す。
「も、もしかして……あの子はクリスさんが教会の服を着てるのを見て、私たちを冥王様の祠を破壊しに来た悪い奴らだと思い込んで襲って来たってことですか?」
「はぅあ!!?」
ざくっ、と胸を刺されたかのように仰け反るクリス。
出奔したとは言え未だ敬虔な信徒である彼女には、教会=悪の手先という図式は堪えるらしい。あるいは、自分が原因で現在アシュリーが死闘を演じていることへの罪悪感か。
ぴょこんと飛び出た短めのツインテールを心なししおれさせながらも、頑張ってすぐに持ち直したクリスは青年に訴えかける。
「あの、そのご推測が事実なら、彼女の《種子》を一方的に力づくで奪い取る、というのは……」
大丈夫。アシュリーなら上手くやってくれる。
青年の即答は、己の騎士たるアシュリーへの全幅の信頼の顕れだった。
―――そして、それを受ける女騎士は、直接剣を交わすことで幼女について仲間達よりももっと多くのことを理解していた。
幼女……つまり体格もあまりに小さく腕も短い。
まず前提として戦場に立つのを想定すること自体がナンセンスな童女の体躯は、しかし大刀を二振りも操る超人的な身体能力を加味すれば相応に厄介な話になってくる。
低い上に的が小さい、軽さ故に挙動が速い、腕の短さ故に剣の振り戻しが途轍もなく早い。
そして振るう動きに迷いがない―――やるせないことに、明らかに一人二人では済まない数の人間を斬った経験のある者の剣技だ。
それがアシュリーを上回る腕力でもって攻め立ててくる。はっきり言って悪夢そのものである。だが。
「悪いが、獲らせてもらう!」
「何をッ!?」
「――――勝利を、主に!!」
「……ちぃっ!」
経験という意味でならば、仮にも『白銀の疾風』の二つ名で周辺諸国に名を馳せているアシュリーがこんな子供に負けているなどあり得ない。
野卑な盗賊も侵掠の尖兵も人語解さぬ魔物も、ジェニファーのそれとは斬り合った数も殺してきた数も違う。
暴風のような剣技は確かに脅威だが、技巧に遥かに勝るアシュリーにとって隙を見出せない程のものではなかった。
しかも、この幼女の守らなければならない一線に既に気づいているとあれば。
「悪いが、剣を下ろしてくれないか。私たちは誓ってこの祠を破壊しに来た者ではない」
「…………」
言葉から推理するまでもなく、幼女の左眼の紅は何かを必死で護るために瞳に闘志を燃やす者のそれであったし、斬り合いの最中も祠から近づき過ぎず離れ過ぎずの位置を堅持しようとする立ち回りを見抜けば彼女が如何なる存在かは容易に知れる。
主の為ならば万難を排しても一切の敵を切り捨てる覚悟だが、よりにもよって冥王の祠を護るために命を懸ける子どもを斬りたいとは欠片も思わない。
真摯な意志を瞳に込めてアシュリーが頼むと、黒銀の幼女は力なく笑った。
「信じよう、―――だが、すまない」
「?どういう意味……、ッ!?」
「“我が半身(ジェーン・ドゥ)”が、止まらない」
次の瞬間、暗黒の靄がジェニファー=ドゥーエの右半身を呑み込むように噴き荒れた。
アシュリーが彼女を追い詰めたときに斬り裂かれた右腕の鎖が、まるで封印が解けることを暗示するかのように垂れ墜ちる。
「ジェーン・ドゥ…?一体、何が!?」
「我が闇、我が半身、『この体』の本来の繰り手。心が壊れ本当の名すら判らぬ、“どこにでもいる悲劇のヒロイン”。
―――冥王を崇めていたが故に異端審問に惨殺された一族の生き残りだ。普段は呼び掛けても何も答えてくれぬ癖に、聖樹教会が相手と見るやこの通り元気に暴れ出す復讐心の塊よ」
「な……!?」
自嘲するような笑みのジェニファーの、虹の右眼が濁りを増して色彩を闇に染める。
水晶の一振りは既に手放していたが、代わりと言わんばかりに漆黒の刀身は靄を吸収して鋭く禍々しく変化する。
柄は幼女の右腕とぐずぐずに溶け合いながら一体化し、巫女の悲憤と憎悪が狂気によって凝縮して一個の生物と化したような、見るに堪えないおぞましい有様となっていた。
「ぐ……ぅっ、醜いだろう?見るからに異形、ならばいずれ汝のような英雄に討たれる定めであろう。だが経緯からして唯の悪妖として屠られるには忍びないし、一時(いっとき)体を借りた義理と縁がある。
故に墓守の真似事をしてきたが―――まあ、ここらが潮時か」
言動と裏腹に、靄に包まれた右手だけが勝手に動き、漆黒の凶剣を持ち上げる。
その矛先は先ほどまで戦っていたアシュリーではなく―――その背後、ジェニファーの言葉に衝撃を受けて固まっている、“教会の神官服を纏った”クリス。
もはや右目は虹とは呼べぬ。全ての色の絵具をぶちまけた結果のような濁った黒眼が、ぎょろりと視線をクリスに固定し悪意を駄々洩れにする。
他人に向いている、ただ脇を通り過ぎただけの殺気。なのにアシュリーの全身が総毛立ち、嫌な汗が頬をだくだくと流れ落ちた。
本能に従って反射的に後退ろうとした足を―――気合で押し止める。
(退くな……ここでだけは絶対に退くなよ、アシュリー=アルヴァスティ…!!)
このままクリスを殺させるわけにもいかない、というのはある。
だがそれ以上に彼女達を救わなければならないと思った。
ジェニファーは墓守と言った。
彼女が本当に守りたかったのは冥王の祠そのものではなく、きっと冥王信仰という『ジェーン』の僅かな残滓……最後の拠り所なのだ。
“どこにでもある悲劇”、故にここまで育ってしまってはただ拒絶され討ち果たされるのを待つだけの憎悪(ジェーン)。それにたった一人だけでも寄り添ってあげようと思ってしまった優しい魂。
問答無用で襲い掛かってきたジェニファーは、この世界の片隅で戦って散る時をただ待っていたのかもしれなかった。
たとえ心が壊れていても、二人で死ぬなら寂しくないだろう、なんて。
「ふざけるな…!“どこにでもある悲劇”なんて、そんなものあるものか。
このまま終わらせてたまるか。こんな寂しい荒野で、たったふたりぼっちで消えるだけなんて許せるか。
――――私が剣を執るのは、子どもを化け物扱いして斬り殺すためなんかじゃ断じてない……ッ!!」
剣を携えて吼える女騎士を、歪な表情の左半分で眩しそうにして幼女は笑う。
「本物の騎士は……ああ、やっぱりカッコいいな……」
「あなたも騎士を名乗ったのだろう、ジェニファー!
なら諦めるな。救われていいんだ、あなた達は!!」
「………ぁ、づっ、~~~ッッ!!悪いが、そろそろ……限界だ。
お仲間が大事なら……。問答無用で“我ら”を殺せェッ!!」
少なくとも右の半身は憎悪(ジェーン)に浸蝕されたのか、痛々しく腫れ上がった神経のようなどす黒い脈線を肌に走らせ、禍つ刀を振りかざしてぎこちなく前進してくるジェニファー。
彼女とてあれだけジェーンの気持ちに寄り添っている以上聖樹教会が憎くない訳がないのに、それでも教会の神官であるクリスの心配をする姿に、アシュリーの覚悟は完全に固まった。
「主よ、私にどうか力をお貸しください」
後ろを振り返る余裕はない、だが愛しい主君が騎士の意を汲んで頷いてくれたことを確信している。
同時に暖かな生命力のようなものが流れ込むのを感じ、それを正面に構えた騎士剣の中で押し固めるようなイメージで集中する。
「世界樹の導きよ、暗雲を祓い我が剣に光明を示せ」
滲み出るようにアシュリーの剣から仄かな光が輝く。
見た目の光量と裏腹に、剣の中で生命を支える力が幾重にも凝縮され解放をじっと待っていた。
憎悪に荒れ狂うあの闇の奔流のみを断ち切るその時を。
「萌技―――」
「あ、ああアアァaaaAAが牙ァ嗚呼アアアアアアアアア=====~~~~~~~~ッッッ!!!!」
「―――『シルバーダンデライオン』ッッッ!!!!」